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1.キサラギの すごい 新兵器

俺はその日、ナービスのMT部隊の殲滅という、まぁ今の時期ならよくある依頼を受けていた。
敵の数は多かったが、幸いながら戦地は岩が点在する渓谷内であり、強風による砂埃によって視界が最悪であるため、
物陰に隠れながら攻撃する機会をうかがい、チャンスとあらば愛用のスナイパーライフルを撃ち込み、また物陰に隠れるという
そんな少々セコくとも堅実な戦い方で、ゆっくりではあったが着実に敵の数を減らしていった。
これなら垂直発射型ミサイルでも持ってくりゃよかったな、なんてことを呑気に思っていたところに
頭部CPUの音声が響いてきた。

「南西の方向より敵の増援を確認。重武装を施したMT3機」
その言葉は俺を焦らせるには十分だった。
目の前で相手にしている敵のMTは北東にいる、つまりは挟み撃ちにされるということを示していた。

ミラージュ「レイヴン、この後すぐに我々の部隊がそこにたどり着きます」
助かった、そう思った途端に冷や水を浴びせかけられた。
ミラージュ「すぐにそこにいるMT部隊を排除してください」
期待した俺が馬鹿だった。限界まで戦ってもいないというのに助けてくれるほど企業は甘くはない。
要するにさっさと露払いをしろということだ。
通信が終わると、こちらと同様に岩に隠れていた前方のMTが向かってくる。
左右の二手に分かれ、隠れている岩を迂回するように迫ってくるMTに対して俺は確信した。
ああ、畜生、完全に挟み撃ちにするつもりだ。

少々のダメージを覚悟の上で前方の敵を排除することを決め、OBを噴かし、岩とすぐそばまで来ていた敵を飛び越え左前方へと飛び出す。
岩に隠れていたことは敵を飛び越えたあと、十分な距離を引き離す効果もあったようだ。
俺が攻撃を回避した結果の同士討ちを恐れてか、右手側より先行していた左手側のMT3機の後方に着地。
移動しながら旋回、スナイパーライフルで撃ち抜く。
もちろん敵も大人しくはしていない。すぐさまこちらに向かい、射撃を加えてくる。
距離こそあるが半ば集中砲火に近い形、やはり被弾は避けられなかった。
こりゃ修理費かさむな、オイと思いながら攻撃する敵を一体一体に絞り、着実に敵の数を減らしていった。

なんとか敵を片付けたころ、例の報告の重武装型のMTだろう、レーダーに新たな機影が3機映った。
いまだにスナイパーライフルの射程にはないため、攻撃を控え、OBとブーストによって消費したエネルギーを回復させようと
一旦後退をし始めた俺にまた新たな報告がはいった
「南西の方角より新たな機体1。高速で接近中」
最悪だ。高機動型のACかMTか知らんがそいつに近接攻撃させ、後方から重武装のMTが攻撃するって寸法だ。

だがその新たな機体がレーダーに映った瞬間、レーダーからあっという間に1つの光点が消えた。
続いて一つ、また一つ、とその機体以外のMTは撃破されていった。
味方か、もしくは第三の勢力かと思ったがMTが破壊されたすぐ後にこちらに通信もなく、謎の機体は
戦場から姿を消した。

ミラージュ「ご苦労様でした、レイヴン」
「さっきのはあんたたちの差し金か?」
その可能性は低いとは思いつつも依頼主に尋ねてみた。
ミラージュ「増援のMTを排除したのはこちらでも詳細は捉えていません。少なくとも当社とは無関係です」
まぁ余計な戦闘をせずに済んだと思っておけばいいか、と俺は楽観的に考えることにした。

依頼を終えた翌日、リポートとコンタクトメールが送られてきた。
『ナービスの防衛拠点撃破』
『キサラギ製販売パーツ追加のお知らせ(送信者:キサラギ)』
リポートのほうは俺が処理した依頼の件だろう。
もしかしたら謎の機体について何らかの情報があるかもしれない、そう思った俺はまずリポートのほうから読むことにした。
「渓谷に防衛拠点を置いたナービス社の防衛戦力が敵対するミラージュ社が雇ったレイヴンによって
壊滅させられた。ナービス社はこの防衛拠点を失ったことで戦線の後退を余儀なくされることとなった。
また、所属不明の機体が紛れ込み、ナービス社のMTを破壊していった模様。
MTの残骸からレーザーブレードと射突型ブレードを装備した機体であることが推測される。
レイヴンズアークにはそのような装備の登録機体はなく、謎は深まるばかりだ」
リポートはそこで終わっていた。
もしリポートのとおりならずいぶんとピーキーなアセンブリだ。高機動で接近戦闘しか行えないブレードを両手に、
しかも片方は射突型ときたもんだ。

なんにせよ、これ以上の情報は現時点では調べても出てこないだろう、そう判断した俺はキサラギからのメールに目を通した。
「日ごろからわが社の依頼に対し、十分な結果を残しているレイヴンにのみ、このメールは送信されています。
わが社より、対象レイヴンに限り、新たなACパーツの販売を行います。
頭部パーツ      追加 1
椀部パーツ      追加 1
脚部パーツ      追加 1
FCS         追加 1
インサイド      追加 1
エクステンション   追加 1
肩部装備       追加 1
右手装備       追加 1
左手装備       追加 1
以上9種の追加です。
ショップにてご確認ください」

思えば俺はキサラギの依頼を他の企業より優先的に受けてはいる。キサラギの依頼は新型の兵器などの実験が多く、
その依頼は弾薬費や機体修理費が向こう持ちのためだ。
キサラギのパーツはとにかく個性的だ。使うかどうかはともかく、興味本位で俺はショップへと新しいパーツの確認に向かった。
……そのラインナップに俺の戦闘スタイルは大きく影響されることになるとは、その時にはまったく想像できなかった。


脚部パーツを見た俺は唖然とした。
そのパーツの外観はミラージュのDINGO2にそっくりであったためだ。
違う点といえば股間部分から大きく斜め下に張り出した、妙に太い棒状の部分。
その部分によって冷却性能が向上し、またバランサーとしての機能があるために各安定性能が向上しているとのことだ。
その名も『TINCO2』。ミラージュのように長い型番ではなく、ほかのキサラギのパーツと同様にそれだけの名前であった。
名前と外観、二重の意味でそのまますぎるパーツはしかし、驚くべき機能が搭載されていたのだった。

俺はとりあえずその脚部パーツを購入し、機体テストを行った。
そして知ることになる。あの渓谷での謎の機体の正体と所属する勢力、その目的を。
「そうか、そういうことか……」
すべてを知った俺はこみ上げてくる笑いを抑えることができなかった。


2.燃え上がる すごい アグラーヤ

キサラギから一部のレイヴンに対して発売されたACパーツのうちの一つを装備し、依頼をこなしていた俺は
その効果をようやく十二分に発揮できる敵と巡り逢えた。
「所属不明の機体急速接近中」
ミラージュから依頼を受け、実行に移していた敵施設の破壊が半ばに差し掛かったころ、無機質なCPUの音声が敵の出現を告げた。
その機体はすぐにレーダーに映り、それ以降もすさまじい勢いで接近し、肉眼でその姿をはっきりと見ることができる位置にまで近づき、動きを止めた。
外観は黒いボディカラーにところどころ赤い点が見られる。そんな色であるためか、機動にふさわしく、スリムな印象を受ける。
?「配備してあったMTをほとんど無傷で全滅するとはな……久々に骨のある相手と戦えそうだ」
通信の声は女、しかもまだ若い。

通信を終えるやいなや、その機体はすぐに攻撃に移ってきた。
その戦闘スタイルは敵に張り付いて絶え間なく攻撃を続けてくるものだ。
相手の名前も添えて、その判断と同じ内容をCPUは伝えてきた。
「パイロットネーム、アグラーヤ。ACネームはジオハーツです。
『赤い星』の異名を持ち、接近戦を仕掛け、苛烈な攻撃を行うのを得意とします。
距離をとり、遠距離攻撃で戦うことを推奨します」
ただ、そんな助言は俺の耳には届かなかった。
あの機能を存分に使ってやる、その思いしか俺の胸中にはなかった。

アグラーヤ「な、何!?」
すさまじい勢いで各種武装をパージし始めた俺の機体を見てアグラーヤは驚愕の声をあげた。
アグラーヤ「……ははっそうか、装備を捨てて軽量になれば逃げられるとでも……私がその程度の腕とでも思ったか!」
誰もがそう判断するだろう。椀部と肩部の武装をすべてパージした相手に戦意など残っているはずはない。
武装が他にないならば。そして外観上まったく武装しているなどと思えないならば、それはなおさらだ。

そう、唯一キサラギが開発している「射突型ブレード」。
TINCO2の"2"というのは二番目の改修型のパーツという意味ではなく、二段構造であることを示していたのだ。
そして、このパーツの実験を行ったのが先日の渓谷での事件、もちろんその機体はキサラギによるもの。
この機能を活かすために用意された高機動の機体、破壊されたMTの様子、
キサラギは新型ACのテストを度々行っていること、そしてそのACは高機動のものであったことから考えても間違いないだろう。
もし、俺が新型ACのテスト依頼を受けていなかったら、こんな風に貫かれていたのは俺だったのかもしれない。
当然、どのレイヴンがそのACテストを行ったかは開発者は分かっているはずだ。そして優れた研究データを残していることも。
そんな相手を撃破したとしても実験データの提供主がいなくなり、失敗したとしても面識がある以上、こちらの機嫌を損ない、
結果としては同じことになる。
実験対象をMTのみにしたのは、おそらくそういう判断の下だ。

俺の行動に怒りを覚えたアグラーヤは一層攻撃の手を激しくした。とても回避しきれないほどの距離、そして射線の角度を確保していた。
アグラーヤ「どうした!?逃げないのか!?」
CPUから機体ダメージが50%を超えたという警告、機体温度の上昇。
だが俺は逃げるどころかアグラーヤに逆に突撃を行った。
アグラーヤ「自殺でもする気か……このレイヴン……!」
動揺したアグラーヤ、それによって機動の動きが鈍ったのを俺は見逃さなかった。

「さぁ、その真価を発揮しろ!TINCO2!」
その叫びと同時にTINCO2の股間から伸びた棒状の部分が光輝き、斜め下へと垂れ下がっていたのが急激に真上に伸び上がる。
アグラーヤ「え、ちょ、ちょっと待っ」
そう言いきる前にレーザーブレードと化したその棒状のモノにアグラーヤの機体、ジオハーツは切り裂かれた。
しかし……TINCO2はこれで終わりではなかった。

「まだだ、これからが"本番"だ!」
武装をパージし、自由となった腕でもってジオハーツを抱きしめる。
アグラーヤ「し、しまった!」
おそらくはこのまま切り刻まれる一方だと思ったのだろう、機体をメチャクチャに暴れまわさせていた。
このパーツの開発者が他の企業だったなら、レーザーブレードまでだっただろう。
だがキサラギは、キサラギだけはさらに機能を追加することが可能だったのだ。
「さぁ、味あわせてやる、コレがTINCO2の"2"の意味だ!」
スティックの中心から穴が開き、鉄杭が打ち出される。何度も、何度も。

アグラーヤ「だ、だめっ!機体温度がとんでもない数値に……!」
レーザーブレードを浴び、射突型ブレードで連続して突かれ続ければさもありなん。
装備していた武器を何とか機体の間にねじり込ませ、こちらを引き離すとすべての武装をパージ、
背を向けて一目散に逃げ出した。
アグラーヤ「覚えていろっ……!この屈辱は必ず……!」
赤い星の異名どおり、機体の一部は赤熱し、そしておそらくは搭乗している本人の顔も真っ赤になっていることを想像して
俺は愉快でならなかった。もちろん、愛機と同様に俺の股間もそそり立っていた。

その日の夜、トップランカーであるジノーヴィーからコンタクトメールが送られてきた。
文面はこんな感じだった。
「私でさえまだだというのに……貴様は必ず私の手で消す」
あら、もしかしてカップルだったの?
ついでに上位ランカーのジャック・Oからもメールがあったが同様の内容だろう。
これは後にして、俺は他のパーツを有効に使うためのアセンブリと状況のシミュレーションを頭の中で練っていた。


第2話『懐かしの すごい 投擲武器』

アグラーヤをTINCO2の隠された機能を使うことによって撃退した俺は
あのときに追加された他のACパーツのテストを行っていた。
その結果得たのはどれもこれも特定の状況下では極めて有効ではあるものの、その反面使える状況が
通常のものにくらべると著しく限定されている点だ。
先の戦いで大きな戦果を残したTINCO2も、相対距離がほぼ0でなければ使うことができず、距離をとろうとする敵には
こちらから積極的に近寄らなければならない。神業ともいえるほどの操縦術があれば別なのだろうが
あいにく俺はそういったものは持ち合わせていない。もともと高価なパーツであるDINGO2を元にしているために
値段も160000cと高く、修理費も相当なものになる。被弾をある程度覚悟しなければならない攻撃スタイルであるのだから
金が大事なレイヴンにとって、これは相当な痛手を覚悟する必要がある。
何よりあまり男に対して使う気にはならない、というのもある。また相手の脚部がタンクやフロートだとあまり雰囲気がでない。
まぁこの二つは俺の好みの問題なんだろうが。

そういった使いにくいキサラギの新製品の中で、汎用性をそれなりに持ったものを俺は見つけた。
左手装備である「ARAHABAKI」アラハバキ、と読むのだろう。知り合いのレイヴンに聞いたところ、キサラギのパーツ名は
神話やそれに関するものからつけられているそうだが、そういう関係に疎い俺はこの名前から、どんな特徴を持つのか
想像できなかった。
だがそれは問題にはならなかった。使い始めればその名前がどうしてつけられたか俺にはわかったからだ。
おそらく本来の語源のものとはあまり関係がないのだろうが。
俺はこの武器を愛用することにした。通常の射撃武器と違い、弾道が緩やかな放物線を描く。
そういった特性のため、角度のつけ方次第ではかなり遠くに飛ばすことができる。
同種のパーツは他にないことから、比較はできないのだが、相手に熱量を与えるという点では
バズーカにも引けをとらない性能があった。
それに分散型であるために命中率も悪くない。
そんなわけで通常のミッションにも携行していけるのがこのパーツの強みだった。
だがやはり、それだけでは済まないのが新開発のパーツ郡だ。俺はしばらくしてから射撃タイプが変更できることを知り、
そしてまた女性レイヴンの登場を待ち受けていた。

コイロス湖、キサラギ湖上施設の中心部分に俺は陣取っていた。。
キサラギは、何者かが湖上施設を破壊しようとしているとの情報を得たらしい。
情報が誤りである可能性はあるが、たとえそうでも報酬は支払われるとのことだ。
その点も含めて、俺は懇意にしているキサラギからの救援ともいえる依頼にすぐさま応じた。
湖上ではあるが足場は十分に確保されており、ましてこちらは防衛側、気をつけていれば落ちることなどまずない。

装備はフロート脚にスナイパーライフル、肩部に5発同時発射型ミサイルと高機能レーダー、左手にはあのARAHABAKIを装備していた。
湖上の施設を攻撃するとなれば相手はおそらく、艦艇か航空機、そしてACであるならばまずフロートタイプであることが予想される。
どのタイプの相手にも対応できるように装備を整えてある。俺はある程度の余裕をもってレーダーをのぞいていた。
そうすること30分、襲来の想定時間より10分を過ぎたころ、レーダーに赤い光点が2方向から同時現われた。

高い位置にあるこの施設の上にいる俺の機体と同高度ということは敵は少なくとも航空戦力は投入しているようだ。
レーダーに映っているということはスナイパーライフルの射程内であることも意味している。
俺はスナイパーライフルを片方の光点の方向に向け、サイトを移動させながらFCSが敵を捉えるのを待つ。
ロック完了の赤い枠に切り替わったところで射撃を行う。まっすぐにこちらに向かっている敵と弾速の速い
スナイパーライフルの特性もあり、弾丸は外れることなく命中、まず1機撃墜することに成功した。
敵は3機編成であるため、まだ二機残っており、後方には同じように3機編成の航空機が向かっているだろうことが分かる。
相変わらず俺は挟み撃ちにされやすい男だ、と考えている間にも敵は向かってくる。

片方の編隊を片付けおわったころには、すでに後ろからミサイルが容赦なく襲い掛かってくるほどの距離だった。
それと同時にこちらより下の高度であることを表す黄色の光点が複数表れる。
速度からしておそらくは艦艇、ついでに言うなら攻撃側の本命はこっちだろう。強力な垂直型ミサイルを施設に降り注がれてはたまったものではない。
手早く航空機を落とさなければ。
まとわりつく航空機に翻弄され、艦艇の集中攻撃を受けるなんてそら恐ろしい話だ。

航空機、と言えば高機動なことが売りとおもうがどちらかというと地形に関係なく行動できる移動砲台といったほうが
正しいだろう。攻撃はどこにそれほどの武装を積んでいるのかと思うほど際限なく行ってくるが
攻撃の回避は苦手な部類に入る。ましてや高機動型のACに比べるべくもない。
コアのミサイル迎撃装置もあいまって、俺が受けたミサイルは二発のみ、他には機銃による若干のダメージだった。

おそらくはACなどいないとタカをくくっていたのだろう。一度に攻めてくればいいものを、戦力の逐次投入などをしたおかげで
敵は自分たちが攻撃する前にこちら側に潰されるというパターンを繰り返していた。
まぁどれも無人機だ、失敗したとしても大して痛みは無いだろう。施設を破壊できれば儲けもの程度に
考えていたに違いない。
そんな俺の考えはやはり間違っていた。何でこう世の中は楽に進ませてくれないのかね。
だが俺のそんな愚痴はその機影を確認して一瞬で吹き飛んだ。

CPU「敵AC出現、機体名『サンダイルフェザー』パイロットネーム『プリンシパル』。
遠距離武装を中心に、バランスよく構成されたフロート機体。
ミサイル攻撃により相手を……」

そんなことは聞かずとも分かっている。あのレイヴンこそがこのARAHABAKIの隠された機能を最大限に活かす存在であり、
俺が誰よりも敵として捜し求めていたレイヴンだからだ。
相手の戦い方は遠距離攻撃中心で組み立てられ、近距離ではライフル程度しか攻撃手段を持たない。
そう、ARAHABAKIにとっては都合の良い相手だった。それはただアセンブリの相性だけでは決して無い。

LOCKEDの警告と同時に敵ACからミサイルが飛んできた。垂直型が二発、エクステンションのミサイルが正面から襲いかかる。
こちらはOBを噴かし、相手の側面に回るように接近、ミサイルを同時に回避した。
相手もこちらの動きは読んでいるようで、すぐさまライフルでの攻撃に切り替え、射撃を行う。
こればかりはフロートであるがゆえの慣性によって、機体の切り替えしができないために
幾分か被弾せざるを得なかった。
だが、すでに奴は俺の……ARAHABAKIの射程圏内に入り込んでいる。
俺はARAHABAKIのモードを弾丸型からジェル型へと変化させた。

後退するより、すれ違うことで距離をとろうと考えた相手はこちらの左側をすり抜けるように通りすぎていこうとした。
その行為がさらに自分を追い詰めることになるともしらず。
俺としては相手に照準を合わせる必要もなく、そのまま発射するだけで済んだのだから。
トリガーを引いた瞬間、すさまじい勢いで拡散し、相手の機体に降りかかる白濁のジェル。
実際は打ち出された瞬間、中空で弾丸がはじけているようだが肉眼ではまったく見えない。
その粘性はそれほど高くないため、相手の機体をゆっくりと垂れ落ちる。
弾丸で打ち込むわけではないので直接的なダメージは少ない。だが与える熱量は通常よりも
さらに大きく、そして与えるのは何も物理的なダメージだけでは……

プリンシバル「い、いや……何よ何よこれぇ!?」
機体の熱が一気に上昇してオーバーヒートになっていることに驚愕を覚えているのだろう。
酷く困惑した声が戦場に響く。
「何に騒いでいる!見たことのない弾道だからか!?機体熱の上昇具合か!?ははは、何だ言ってみろ!!」
ああ、最高だ。少し俺のほうも出始めてる。
「そうだ、今度はその縦ロールにかけてみるか!?なかなか落ちないだろうなぁ!」
プリンシバル「う……気持ち悪い……!変態!!変態!!変態!!変態!!」
「プリンちゃん……」
まぁ変態を四度言われたらそう返すべきだろう。攻撃の手は緩めないが。

次々と白濁液を浴びせられ、機体全体から熱い反応を見せている。
『貴方の熱いのをかけられて体が火照っちゃう』そんな感じで。
周りをランダムに動き回る俺を捉えきれずに何とか距離をとろうとしているものの、
もうエネルギーも尽きたのだろう、ブーストを使うこともできず、ただひたすらぶっ掛けられるしかない様は
嗜虐的な欲求を満たすのに十分だった。
プリンシバル「いや、もういやぁ……」
そろそろ潮時だろう、機体各所から火花が散るより先に俺は攻撃の手を止めた。
「まだ……試したいのがあるんだ……今は持ってきてないからまた後で……」
プリンシバル「お、覚えてなさい……絶対に許さないわ!この変態!!」
最高の賛辞に俺は身を震わせた。もちろん銃口はそらさず、相手に「去れ」という合図を送る。
相手が領域外に離脱したのを確認した後、少し息を荒くしながら俺は湖上施設へと戻った。

後で聞いたことだがARAHABAKIは荒覇吐、荒吐などと書くらしい。確かに荒々しく吐き出している様をみて、
なるほど、良いネーミングセンスだと俺は感心しきりだった。
「愛用させてもらおう……左手はお前の指定席だ……」
戦闘の高揚から幾分冷静になったためか、そんなことを思わず口にしてしまうほど、俺はARAHABAKIのことが気に入ってしまった。

CPU「通常モードに移行します」
それ以上の敵の増援はないことを確認し、戦闘モードを解く。
今日もいい仕事をし、俺は上気分だった。まぁ少々の失敗を犯したが次に持ち込まなければそれでいい。
戦場から得た教訓を明日に活かすことがレイヴンとして生き残るのには欠かせないことだ。
今度から替えのパンツを持ってこないと。


第3話「初めての すごい アリーナデビュー」

その日、俺はメイから連絡を受けて依頼の手伝いを行っていた。
メイというのは知り合いの女性レイヴンだ。
性格は天衣無縫。おおよそレイヴンにはなかなか見られない性格だ。
まだ駆け出しでランカーレイヴンというわけでもないし
経験が浅いゆえに判断が甘いところがあったり、ACのアセンブリにまだ確固とした思想はない。
もちろんあったとしても彼女の資金からは実現するのは困難だろう。
そんなために装備は速射性に優れたライフルと多段ロック式ミサイル、ブレードにレーダーという、いわゆる初期装備に
毛が生えた程度のものでしかない。
馴れ初めは彼女がキサラギの依頼を受け、施設の異常を調査、解決を図っていたところだった。
結果から言うとその依頼は失敗、他の依頼を受けていた俺が帰りに後詰のような形で参加し、何とか
始末をつけたというものだ。それ以来、何かしらにつけて馴れついてくるようになってしまった。

メイに助けを求められて向かった先は広大な砂漠。そこに駐屯する部隊の殲滅が仕事だった。
報酬は折半、弾薬費用や修理費は個々で処理というので若干旨みはないものの、本来1人で行う依頼を
2人で行うため、難易度はずっと低くなっていた。もちろん、使う弾薬も被弾回数も1人の場合よりもぐっと減る。
企業側もアークも問題を解決するだけならレイヴンがどんな手段を取ろうとも不問に付す。
たとえ1人のレイヴンに紹介された依頼でも複数の人数でもって取り掛かるのはルール違反ではないのだ。
安全を買えるというならレイヴンは金を惜しまない。それは駆け出しであるメイにも良く分かっていた。
ただ、それでも信頼できるほどの関係を持ったレイヴンの知り合いなど、この時代にはそうそういない。
俺のような知り合いは他にもいるらしい。俺だったらそんな知り合いは作れないだろうし、作りたいとも思えない。
関係を維持する自信もないからだ。
そんな知り合いを作ることができ、関係を維持できるのも、一種の才能だ。
メイはそんな天与の才能を持っている、稀有な人物だ。本人は気づいていないのだろうが。


だからといって隙だらけというわけでもないのが油断ならないところだ。
そういった才能と同じ程度に慎重でもある。
彼女はレイブンとなるためのテストの最中に一緒にテストを受けた者が命を落としたという経験を持つ。
それ以上に彼女を驚かせたのは、死人が出たというのに何の動揺も見せず、試験番号と死亡を伝えるのみという
試験官のあまりに冷静な受け取り方だった。自分の命の扱われようもそれと同等なのだと分からないほど
彼女は子供ではない。天衣無縫なわりに慎重であるという一見相容れない特徴はこうして作られたのだろう。
もちろん、これは俺の推測以上のものではないが。

依頼も無事に片付け、ともに輸送機のハンガーに吊り下げられて帰る途中
メイ「もしもし、聞こえるー?」
彼女から無線で連絡が来た。
2人の機体の専用回線であるために他の人間には一切伝わらない。つまり、これから私的な話をするということだ。
「なんだい、話ならACに降りてからでもいいだろう」
俺はあまり無線で話すのが好きじゃない。音声もノイズが混じるし、仕事であるという気分が抜けず、リラックスできないからだ。
仕事場の制服を仕事が終わった後も着続けるのを嫌がるのと同じ感覚だと思ってもらって構わない。
「回線を遮断するという逃げ道がないから嫌」
何かしただろうか、と俺が思案を巡らせると本人から直接伝えてきた。
「女の子相手に、普通あんな武勇伝語る?」
ああ、そうか、俺は彼女と以前うどん屋にいって色々と話し合ったのだが
件のキサラギ製ACパーツの戦果を得意げに話したのだ。元々そんなつもりはなかったのだが
妙なテンションの一団が……いや、きしめんで何故か盛り上がっている1人の男がいたために
つられて話をしてしまった。もちろん、メイはその間中ジト目で下を向いたまま、
「はぁ……そうなんだ……」と生返事をするだけだった。今思うとセクハラ紛いだった。
「ごめん、謝る。反省はしないが」
変態、と小さく呟いた声を俺は聞き逃さなかった。まぁ俺にとっては褒め言葉だ。

「とりあえず聞くだけ聞いてやる。でも手短にな。仕事終わりで疲れてるんだ」
そういわれてどう話を進めるか考え込んでいたのだろう、「ん~」と少々間延びした思案の声があってから、彼女は話を切り出した。
「結論からいうと、今度のアリーナで勝てるように戦術やアセンブリのアドヴァイスをしてほしいんだ」
「自分のスタイルを磨き上げればいいんじゃな……」
そういいかけた俺に同一人物とは思えないほどドスの聞いた声が届く。
「それだけの資金があるとお思いですか?ねぇ?」
「……まぁそうだわな」
といっても、それなりに見返りがなければ教えるのも損だ。知識や経験に基づく分析は
レイヴンにとっても一財産であり、無償で提供するわけにはいかない。
「タダってわけにはいかないな、何かしら報酬がないと」
「え、ええっと……その、一応決めてはおいたんだけど……」
恥ずかしがるような戸惑い方に少し惹かれた俺は急かすことなく、本人が言うのを待つことにした。
「私とその模擬戦闘を好きにできるっていうのはどう……?」
それは夢のある話だ。
「……どこで?」
「訓練施設で」

アドヴァイスといっても何もどんな状況でも同じことが言えるわけではない。
対戦相手や対戦する場所、本人の得意とする戦術によってそれはいくらでも変化するものだからだ。
俺たちは機体から降り、手短な喫茶店で席をとった。チェーン店なのであまりそれっぽい
雰囲気もなく、2人の関係にはちょうどいい。
「まずは対戦相手から聞こう」
「アモーだよ」
分かりやすい奴と当たったな、おい。

「基本的にはロケットが当たる近距離での戦闘を好むレイヴンだな。それ以上の距離をとれば、ロケットは
そうそう当たらん。てかあいつそんなに強くないぞ、多分お前の機体構成と腕でも楽に勝てる」
俺も以前、実際奴とやりあったが一発も被弾はなかった。
「……なんかやたら強そうな紹介文なんだけど、それはなぜなのかな」
メイは携帯型のコンピュータの端末を見て眉をひそめた。
俺が見たときは腕前はまだまだといった感じの評価だったのだが、それとは全く違った文章に仕上がっていた。
いつの間に腕を上げたのだろうか。俺と戦ってからそんなに日は経っていない。少なくともこの文章のとおりの
腕前になっているというのなら驚異的な成長スピードだ。
「んー……奴はロケットのみの機体構成なわけだな、未だに」
「そうだね……でもそっちのほうがかえって不気味だよ」
ロケットはロックオンができない代わりに連射性、威力、熱量、重量とどれも優れた武器だ。使いこなせるというなら
これほど強力な武器もそうはないだろう。
「わかった、ちょっと俺に考えがある。勝ちたい、その気持ちは変わらないな?」
もちろん、といった顔でメイは頷く。
それを確認した俺はガレージへとメイを連れて行った。たとえロケットであってもすべての武器に共通して言えるある弱点までは
補えない。俺がメイに貸し与えようというのはその点を突いたキサラギの新製品だった。




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