えーどうも、レイヴンです。
誰だといわれてもそうとしか名乗れません、レイヴンです。
現在自分はいわゆる飲み会に来ております。報酬も入って懐は温かいので存分に酒が飲めるとわくわくしながら会場にやってきました。
久々に会う同業者もいるだろう、積もる話を語って日ごろの鬱憤を晴らそうじゃないか。
そう思って来たのに。
「……やっと来たか」
店員に案内された席に着席しているメンバーを見て固まる僕を、ジナイーダが目ざとく見つける。
「はい来ました。 ……ところでジナイーダ、これは一体どういうことかな?」
じろ、と冷たい目で自分を見つめるジナイーダに愛想笑いを振り向けながらなるべく穏便に質問します。
けれど彼女はついと視線をあさっての方向に逸らすと一気にグラスの酒をあおり、
「見てのとおり、飲み会だ。 メールでもそう言っただろう」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そういうことじゃないよ、と肩を落とした僕のことなど気にかける様子もなく、彼女は追撃の言葉を口にする。
「この程度の状況判断もできんとは……よく生き残ってこれたものだ」
「……いや、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて……」
軽く眩暈を覚えながらも、ジナイーダから少しでもしっかりした説明を引き出そうとした、そのとき。
「――あら? あなた、来てたのね」
「おお、遅かったじゃないか! ほら、さっさと座った座った!」
あああもうこっちにお気づきですかプリンシバルにムーム。せめてもう少しの間だけふたりで胸は大きさと形のどちらが重要か熱く語っててほしかったです。
「うるさいわね、そんなことはどうでもいいのよ。 それより座りなさいな、ほら」
「そうだよ。 素面の奴がいたらせっかくの酔いが醒めちまうだろ?」
いやそんな手招きされても。正直もう帰りたい気持ちで一杯なんですが。
「ほう、君が噂に聞いていた……よく来たな、そんなところで突っ立ってないで座るといい」
いえそんな恐縮ですイツァム・ナー。仮にも『養成所』のトップランカーが僕ごときのために席を開けてくださらなくて結構ですすぐ帰りますんで。
「あらあら、お話に聞くほどの活躍をなさった方にしては随分優しい顔の方ですね」
それ半分褒めてませんよねミズマリー。旦那さんは今日はどうなさったんですか。
「あの人、今日は出張なんですよ。 なので今日はナーと一緒に遊びに来たんです」
「……マリー、その呼び方はやめてくれ」
ころころと笑うミズマリーと、眉間にしわを寄せるイツァム・ナー。
……この人達本当にレイヴンか? いやそれを言ったら他の三人もそうだけど、傭兵家業なんて仕事が似合わないにも程がある。
ここにいる五人が五人とも、傭兵なんて仕事には似つかわしくない美貌の持ち主ばかりなのだ。
どちらかといえばむしろアイドルだの女優だのといった仕事についているといわれたほうが納得できそうなくらい。
というかぶっちゃけここにいる五人でユニットでも組めば普通に芸能界席巻できるんじゃなかろうか。
……駄目だ、約二名ほど『アイドル』というくくりに入れるには苦しい方々が・・・げほげほ。
とにかく、さっさとこの場から退散しなくては。
結構魅力的な状況だけれども、明らかに僕の技量でなんとかできるレベルの状況ではない。
というかランカーふたり(しかも片方はトップランカー)とわずか半年で一流とまで呼ばれるほどに名を挙げた独立系レイヴン、それにアライアンスの主力に独立武装勢力の長を相手に堂々と酒が飲める人がいたら教えて欲しい。
つまり何が言いたいかというときれーなおねーさんと女の子に囲まれて落ち着いて酒を飲めるほど僕は世慣れていないということ、レイヴンです(´・ω・`)ノシ
愛想笑いを顔に貼り付けたまましきりに僕を席に着かせようとする酔っ払い女性連合略してD.W.U.の勧誘をいなし続ける。
ちなみにD.W.U.とはDrunk Women Unionの略だ。 ……我ながら安直過ぎる。
しかしこういうときに限っていい言い訳が浮かんでこない。
任務に失敗して帰還するときや無駄弾を撃ちすぎたときならいくらでも言い訳が浮かぶんだけども。
そろそろのらりくらり誘いをいなすのも限界なんだけどな、と自分のボキャブラリーの少なさを心底後悔し始めたころ、いきなり腕に強い力が加えられ、僕は図らずもテーブルに手を突かざるを得なくされてしまった。
「ちょっ……いきなり何するのさジナイーダ?!」
なんとか体勢を立て直そうともがきつつ、僕の腕をつかんで引き倒した相手に抗議する。
しかし彼女は僕とは目を合わせようとせず、それでいて僕の服の袖を離そうとはしないまま、
「いいから座れ。 私はそういうへらへらした顔が嫌いなんだ」
苛立ちたっぷりの声で抗議を一刀両断した。
いやそんなこと言うなら最初から呼ばないでくださいよお願いだから・・・とでも言いたいところだがまずい。それはまずい。
感情をそう表に出さない彼女が傍目から見ても明らかに機嫌を損ねているということは普通の人間がマジギレ寸前なのと同じだ。
ここでフォローしておかなければまたメールでねちねちと責められたり依頼をこなす最中にいきなり乱入して襲い掛かって来られかねない。
この間なんて任務達成直前・弾薬一割のときにいきなり飛び込んできて領域外まで追い回されたし。
完遂して当然の任務で受け取るべき報酬とここでの心労を天秤にかけ、僕はため息を吐いて覚悟を決める。
「……わかった、わかったよジナイーダ。 座るから離して」
僕がそう降参宣言をした瞬間、他の四人がなぜか一斉に歓声をあげ拍手したのはなぜだろうか。
「これで目的の半分は達成だな」
「ええ、面白くなってきましたねぇ」
「よーっし飲め飲め! 幸先がいいぞ!」
「ふふっ……わざわざ出かけてきた甲斐があったわね」
えーっと皆さん一体何を仰っているのでしょう。とりあえず産業で詳しく。
とでも言いたいところだけれど、ジナイーダの視線がもろに背中に突き刺さってくる。さながら800マシを至近距離で叩きつけられてるように。
その視線の鋭さがマシンガンからハンドレールガンに変わらないうちにさっさと席に着くのが身のため、と僕の経験が告げる。
うんそうだね、そのうちレールガンから98LXに変わりそうな殺気がガンガン伝わってくるもんね。
まさに蛇に睨まれた蛙の心境でゆっくりとテーブルを見回し――尋ねなければならないことに気づく。
「……えーっと、僕はどこに座れば?」
たはは、とまたジナイーダが『嫌い』とへそを曲げそうな笑みを取り繕わざるを得ない。
テーブルを囲う形で置かれたベンチのような椅子は先着の5人ですでに満席状態、僕が入る余裕はあまり見出せない。
ていうか人に席を勧めるならまず席を開けて置いてください。さっきイツァム・ナーが開けてくれてたスペースはどこにいったんですか。
そんな僕の非難もどこ吹く風、彼女たちはまったく席を詰める様子もなく僕に着席を促してくる。
……なんか段々腹が立ってきたんですが。オンドゥルオチョクットルンディスカ?
軽くこめかみに青筋が浮かびかけるより一瞬早く、不意に椅子にスペースが出来た。
とりあえず余計なストレスを回避させてくれたことに感謝しつつ、そのスペースに座ろうとして――思わず後ずさる。
僕のためにスペースを開けてくれたであろう相手は、怪訝そうな目で僕を見つめている。
「どうした? 座らないのか?」
席を開けた彼女――ジナイーダは、ぽんぽんと自分の隣にあいた空間を手のひらで軽く叩く。
そのしぐさは普段の彼女からはちょっと想像できないくらい幼くて可愛らしいものだったけれど、さすがにさっきまでガンガン殺気を飛ばされてた相手の隣に座るのは勇気がいる。
さていかにすべきか……と僕が躊躇していると、みるみるうちにジナイーダの表情が険しくなっていく。
横目でそれを視認した瞬間、脳内を緊急警報が鳴り響く。
まずい、これは危険だ。あの飛行型パルヴァライザーよりも危険な匂いがプンプンするぜ。
そう判断した僕は、それ以上ジナイーダの眉間に深い溝ができるよりも早く、彼女の隣に滑り込んだ。
「まったく……最初から素直にそうしていればいいんだ」
「…失礼しました」
主に原因は君の殺気なんだけどね!言わないし言えないけど!
思わず心の中で叫んだ僕の耳に、不意に忍び笑いの声が流れ込んできた。
「何がおかしいんですか、そこの金髪縦ロール」
僕がそう言った瞬間、プリンシバルの顔がみるみるゆがみ、勢いよくテーブルを叩いて立ち上がるに至った。
「誰が縦ロールですって?! 誰がッ!?」
「いや、お前だろ」
テーブルに身を乗り出して怒鳴るプリンシバルをムームが横から抱き止める。
一体何が気に障ったのだろう、僕はただ場を盛り上げようと彼女の髪型を指摘しただけなのだが。
……性根が悪い? 傭兵稼業はそれくらいじゃないとやっていけんのです。
とかなんとか自分の性悪さを再認識しつつ、名前のとおりぷりぷりと(親父臭いな……)怒るプリンシバルの罵声を聞き流す。
すると、プリンシバルを後ろから抱えて抑えるムームが、なにやらよからぬことを思いついた悪ガキのような笑みを浮かべる。
僕が『あ、何かやらかすな』と思うよりも早く、なんとムームはぎゃいぎゃいと僕にがなり立てるプリンシバルの胸を思いっきりわし掴んでしまった。
プリンシバルの身体がびくんと跳ね、彼女が信じられないといった表情でゆっくりと無残に歪められた胸元に視線を落とした、次の瞬間。
「――ひっ、ひゃあああああああああああ!?」
まさに『耳をつんざく』という表現がぴったりな絶叫が、割と狭い店内に響き渡った。
進藤の乱入により打ち切り
誰だといわれてもそうとしか名乗れません、レイヴンです。
現在自分はいわゆる飲み会に来ております。報酬も入って懐は温かいので存分に酒が飲めるとわくわくしながら会場にやってきました。
久々に会う同業者もいるだろう、積もる話を語って日ごろの鬱憤を晴らそうじゃないか。
そう思って来たのに。
「……やっと来たか」
店員に案内された席に着席しているメンバーを見て固まる僕を、ジナイーダが目ざとく見つける。
「はい来ました。 ……ところでジナイーダ、これは一体どういうことかな?」
じろ、と冷たい目で自分を見つめるジナイーダに愛想笑いを振り向けながらなるべく穏便に質問します。
けれど彼女はついと視線をあさっての方向に逸らすと一気にグラスの酒をあおり、
「見てのとおり、飲み会だ。 メールでもそう言っただろう」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そういうことじゃないよ、と肩を落とした僕のことなど気にかける様子もなく、彼女は追撃の言葉を口にする。
「この程度の状況判断もできんとは……よく生き残ってこれたものだ」
「……いや、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて……」
軽く眩暈を覚えながらも、ジナイーダから少しでもしっかりした説明を引き出そうとした、そのとき。
「――あら? あなた、来てたのね」
「おお、遅かったじゃないか! ほら、さっさと座った座った!」
あああもうこっちにお気づきですかプリンシバルにムーム。せめてもう少しの間だけふたりで胸は大きさと形のどちらが重要か熱く語っててほしかったです。
「うるさいわね、そんなことはどうでもいいのよ。 それより座りなさいな、ほら」
「そうだよ。 素面の奴がいたらせっかくの酔いが醒めちまうだろ?」
いやそんな手招きされても。正直もう帰りたい気持ちで一杯なんですが。
「ほう、君が噂に聞いていた……よく来たな、そんなところで突っ立ってないで座るといい」
いえそんな恐縮ですイツァム・ナー。仮にも『養成所』のトップランカーが僕ごときのために席を開けてくださらなくて結構ですすぐ帰りますんで。
「あらあら、お話に聞くほどの活躍をなさった方にしては随分優しい顔の方ですね」
それ半分褒めてませんよねミズマリー。旦那さんは今日はどうなさったんですか。
「あの人、今日は出張なんですよ。 なので今日はナーと一緒に遊びに来たんです」
「……マリー、その呼び方はやめてくれ」
ころころと笑うミズマリーと、眉間にしわを寄せるイツァム・ナー。
……この人達本当にレイヴンか? いやそれを言ったら他の三人もそうだけど、傭兵家業なんて仕事が似合わないにも程がある。
ここにいる五人が五人とも、傭兵なんて仕事には似つかわしくない美貌の持ち主ばかりなのだ。
どちらかといえばむしろアイドルだの女優だのといった仕事についているといわれたほうが納得できそうなくらい。
というかぶっちゃけここにいる五人でユニットでも組めば普通に芸能界席巻できるんじゃなかろうか。
……駄目だ、約二名ほど『アイドル』というくくりに入れるには苦しい方々が・・・げほげほ。
とにかく、さっさとこの場から退散しなくては。
結構魅力的な状況だけれども、明らかに僕の技量でなんとかできるレベルの状況ではない。
というかランカーふたり(しかも片方はトップランカー)とわずか半年で一流とまで呼ばれるほどに名を挙げた独立系レイヴン、それにアライアンスの主力に独立武装勢力の長を相手に堂々と酒が飲める人がいたら教えて欲しい。
つまり何が言いたいかというときれーなおねーさんと女の子に囲まれて落ち着いて酒を飲めるほど僕は世慣れていないということ、レイヴンです(´・ω・`)ノシ
愛想笑いを顔に貼り付けたまましきりに僕を席に着かせようとする酔っ払い女性連合略してD.W.U.の勧誘をいなし続ける。
ちなみにD.W.U.とはDrunk Women Unionの略だ。 ……我ながら安直過ぎる。
しかしこういうときに限っていい言い訳が浮かんでこない。
任務に失敗して帰還するときや無駄弾を撃ちすぎたときならいくらでも言い訳が浮かぶんだけども。
そろそろのらりくらり誘いをいなすのも限界なんだけどな、と自分のボキャブラリーの少なさを心底後悔し始めたころ、いきなり腕に強い力が加えられ、僕は図らずもテーブルに手を突かざるを得なくされてしまった。
「ちょっ……いきなり何するのさジナイーダ?!」
なんとか体勢を立て直そうともがきつつ、僕の腕をつかんで引き倒した相手に抗議する。
しかし彼女は僕とは目を合わせようとせず、それでいて僕の服の袖を離そうとはしないまま、
「いいから座れ。 私はそういうへらへらした顔が嫌いなんだ」
苛立ちたっぷりの声で抗議を一刀両断した。
いやそんなこと言うなら最初から呼ばないでくださいよお願いだから・・・とでも言いたいところだがまずい。それはまずい。
感情をそう表に出さない彼女が傍目から見ても明らかに機嫌を損ねているということは普通の人間がマジギレ寸前なのと同じだ。
ここでフォローしておかなければまたメールでねちねちと責められたり依頼をこなす最中にいきなり乱入して襲い掛かって来られかねない。
この間なんて任務達成直前・弾薬一割のときにいきなり飛び込んできて領域外まで追い回されたし。
完遂して当然の任務で受け取るべき報酬とここでの心労を天秤にかけ、僕はため息を吐いて覚悟を決める。
「……わかった、わかったよジナイーダ。 座るから離して」
僕がそう降参宣言をした瞬間、他の四人がなぜか一斉に歓声をあげ拍手したのはなぜだろうか。
「これで目的の半分は達成だな」
「ええ、面白くなってきましたねぇ」
「よーっし飲め飲め! 幸先がいいぞ!」
「ふふっ……わざわざ出かけてきた甲斐があったわね」
えーっと皆さん一体何を仰っているのでしょう。とりあえず産業で詳しく。
とでも言いたいところだけれど、ジナイーダの視線がもろに背中に突き刺さってくる。さながら800マシを至近距離で叩きつけられてるように。
その視線の鋭さがマシンガンからハンドレールガンに変わらないうちにさっさと席に着くのが身のため、と僕の経験が告げる。
うんそうだね、そのうちレールガンから98LXに変わりそうな殺気がガンガン伝わってくるもんね。
まさに蛇に睨まれた蛙の心境でゆっくりとテーブルを見回し――尋ねなければならないことに気づく。
「……えーっと、僕はどこに座れば?」
たはは、とまたジナイーダが『嫌い』とへそを曲げそうな笑みを取り繕わざるを得ない。
テーブルを囲う形で置かれたベンチのような椅子は先着の5人ですでに満席状態、僕が入る余裕はあまり見出せない。
ていうか人に席を勧めるならまず席を開けて置いてください。さっきイツァム・ナーが開けてくれてたスペースはどこにいったんですか。
そんな僕の非難もどこ吹く風、彼女たちはまったく席を詰める様子もなく僕に着席を促してくる。
……なんか段々腹が立ってきたんですが。オンドゥルオチョクットルンディスカ?
軽くこめかみに青筋が浮かびかけるより一瞬早く、不意に椅子にスペースが出来た。
とりあえず余計なストレスを回避させてくれたことに感謝しつつ、そのスペースに座ろうとして――思わず後ずさる。
僕のためにスペースを開けてくれたであろう相手は、怪訝そうな目で僕を見つめている。
「どうした? 座らないのか?」
席を開けた彼女――ジナイーダは、ぽんぽんと自分の隣にあいた空間を手のひらで軽く叩く。
そのしぐさは普段の彼女からはちょっと想像できないくらい幼くて可愛らしいものだったけれど、さすがにさっきまでガンガン殺気を飛ばされてた相手の隣に座るのは勇気がいる。
さていかにすべきか……と僕が躊躇していると、みるみるうちにジナイーダの表情が険しくなっていく。
横目でそれを視認した瞬間、脳内を緊急警報が鳴り響く。
まずい、これは危険だ。あの飛行型パルヴァライザーよりも危険な匂いがプンプンするぜ。
そう判断した僕は、それ以上ジナイーダの眉間に深い溝ができるよりも早く、彼女の隣に滑り込んだ。
「まったく……最初から素直にそうしていればいいんだ」
「…失礼しました」
主に原因は君の殺気なんだけどね!言わないし言えないけど!
思わず心の中で叫んだ僕の耳に、不意に忍び笑いの声が流れ込んできた。
「何がおかしいんですか、そこの金髪縦ロール」
僕がそう言った瞬間、プリンシバルの顔がみるみるゆがみ、勢いよくテーブルを叩いて立ち上がるに至った。
「誰が縦ロールですって?! 誰がッ!?」
「いや、お前だろ」
テーブルに身を乗り出して怒鳴るプリンシバルをムームが横から抱き止める。
一体何が気に障ったのだろう、僕はただ場を盛り上げようと彼女の髪型を指摘しただけなのだが。
……性根が悪い? 傭兵稼業はそれくらいじゃないとやっていけんのです。
とかなんとか自分の性悪さを再認識しつつ、名前のとおりぷりぷりと(親父臭いな……)怒るプリンシバルの罵声を聞き流す。
すると、プリンシバルを後ろから抱えて抑えるムームが、なにやらよからぬことを思いついた悪ガキのような笑みを浮かべる。
僕が『あ、何かやらかすな』と思うよりも早く、なんとムームはぎゃいぎゃいと僕にがなり立てるプリンシバルの胸を思いっきりわし掴んでしまった。
プリンシバルの身体がびくんと跳ね、彼女が信じられないといった表情でゆっくりと無残に歪められた胸元に視線を落とした、次の瞬間。
「――ひっ、ひゃあああああああああああ!?」
まさに『耳をつんざく』という表現がぴったりな絶叫が、割と狭い店内に響き渡った。
進藤の乱入により打ち切り