とあるレイヴンのACガレージに、俺は居た。
目の前に座って俺の手渡した情報に目を通す女性がここの持ち主でありレイヴンだ。
名はヴァネッサ。若いというか俺と同い年。なんせ幼なじみと呼ぶべき間柄だからな。



「思ってた以上に…ヤバイのね」
読み終えたのか、彼女が資料をデスクの上に乱雑に放り投げながら言う。
ロールがかった長い黒髪が静かに揺れ、なにかいいげに俺の方を見る。
「莫大な報酬の仕事をよこせ、と言ってきたのはお前だ」
「現にこうして手渡ししなければならない程の情報だしな」
俺の言葉を聞いてヴァネッサが口を開く。
「こんなのを単機で遂行できたら私はとっくにトップランカーね」
いたく不満らしい。俺が折角入手した企業の機密情報が、だ。
「要望は叶えたぞ、みたこともないような額が貰えるが」
「報酬を受け取る前にあの世行きね。人手が欲しいわ。できるだけの」



その言葉に俺は驚いた。第一、こいつの願いを叶えてやるつもりはなかった。
だからこうして絶対無理な依頼をもってきてやったのに手を付ける気でいやがる。
更にこの後、俺の後を勝手についてきた王猫天がこの依頼に興味を示す。
あろうことかこの話をチーム桃白々に持ちかけると、何故か了承するという事態に。



依頼の内容はこうだ。依頼主はキサラギ。
秘密裏に開発した新型AIACを破壊して欲しい、とのこと。
かなりの戦闘能力を持つ為、企業が手を追えなくなりレイヴンを雇う事に。
実験段階といえど他企業にその存在を知られるわけにもいかない。よって極秘の依頼。
露呈された損害を比べれば安いもんだ、といわんばかりの莫大な報酬。
その代わり、確実に破壊。普通、トップランカーとかに依頼するものだ。
キサラギに貢献する依頼を多く斡旋してきた俺だからこそ、頼まれたモノだ。



冗談半分でヴァネッサにふっかけてみたのが間違いだった。本気にしてやがる。
しかしまぁ、彼女の実力を考えれば難しいものでもない、という事も解る。
所詮はAIでしかないのだから、腕利きレイヴンには見劣りするだろう。
そして彼女は立派にランカーである。そのへんのレイヴンに比べれば大分腕利きだ。
単純に考えて全レイヴントップ50の実力といえるのだから。
その上チーム桃白々と王兄妹まで付いてくる。悪くない。俺はそう判断した。



キサラギは以外にもあっけなく了解してくれた。時間が惜しいのだろう。
全8人ものレイヴンが参加するとなればどんな依頼だってこなせるのも事実だ。
8人で山分けしても十分な報酬は得られる。確実な路線を通ると考えるべきか。
ヴァネッサをリーダーに王兄妹。そしてチーム桃白々の2小隊で任務を行うことに。



翌日早朝、2小隊に情報を伝えるためのオペレーティングルームに俺は居た。
依頼の斡旋主ということもあってどうにも黙ってはいられなかったんだ。
「まもなく、作戦領域に到達します」ルミエが皆に伝える。
キサラギの建造した巨大なドーム状の建物、この地下に目標が隔離されている。
「周辺に外敵排除用のガードメカが多数居ます、気をつけて」
「良し、姐さん。ACは頼みます。周りは俺たちが食い止めます」一号が言う。
「了解、任せたわ。くれぐれも注意してね」姐さん…はヴァネッサ。
「数は多くてもガードメカだから大丈夫でしょ」Ⅳ号が気楽に答える。



ガードメカの数は予想以上に多かった、それほどキサラギは隠しておきたいのか。
「じゃ、私たちは目標を撃破しにいくわ。進路の確保をお願い」
『了解』チーム桃白々が一斉に答える。
「本当に多いですね…」レーザーライフルで攻撃しつつFIVE号。
「骨が折れるな、一人じゃこの銃弾の雨の中は……無理だな」一号が悲しげに言う。
「行ってきまーす…ワイズさん」王猫天達が地下へ続く扉を通って行った。



「キサラギから情報が来た、第二演習場にACを隔離しているらしい」
「了解、ほとんど一方通行ね」ヴァネッサが答える。
「妹よ、思ったより簡単に済みそうだぞ」「みたいだねぇ」



しかし、続けざまに入った情報は簡単に済みそうな現状を完璧に打ち壊した。
「ヴァネッサ!AIを開発した連中がレイヴンを雇ったとの情報が入った!」
「…そんなんじゃないかと思ってたのよね、大丈夫?にゃんにゃん」
「3人居ますし、大丈夫じゃないですか?……にゃんにゃん?」
「ワイズ、雇われたレイヴンの人数は?」王虎天が冷静に聞いた。
「最低で二人だ、もしかするともっと多いかもしれん」
数も正体も不明、との事。これ以上伝えられる事はなかった。



「まさか、こっちに来るんですか?」不安げな声で2号から通信が入った。
「いや、おそらくは中だろう。相手が後手に回ったとは思えない」
「加勢しに行った方が良いのかな?」戦闘で疲労した声で3号からの通信。
「更なる増援の為にその場にいてくれ、ヴァネッサもいるし。大丈夫だろう」



思っていた以上に簡単そうな任務だったが、そうもいかないようね。
「熱源反応を確認、居ました。ACです。2機!」オペレータから通信が入った。
第二演習場に行くまでの通過点、第一演習場に2機のACが静かに立っていた。
「3機か…やれる?スティンガー」赤いACが相方に尋ねる。
「面倒だな。アジ、何度も言うが俺は…」「面倒が嫌いだ。でしょ」
スティンガーにアジ・ダハーカ、想像以上のレイヴンが出て来た。
「悠長に話して良いのかしら?」言ってはみたものの、正直数の有利は無い。
「さぁ、やるとしますか。」「手早くな」



ACザッハークとヴィクセンが向かってくる。もの凄いスピードで。
「にゃんにゃん!あんたは先に行って目標を撃破して来て。依頼だけは遂行するわよ」
向かってくるスティンガーに向かってバズーカを打ち込みながら私は叫んだ。
「わ、わかりました。すいません、先行きます!」
「通すわけないでしょ?」ショットガンを構えたアジ・ダハーカの声が聞こえる。
「邪魔させるわけないだろ、可愛い妹が頑張るってんだからなぁ!」
叫びながら王虎天がレーザーキャノンを撃ち込む。当たりはしないが、動きは止めた。



にゃんにゃんは無事に先へ進んだようだ。後はこの二人を食い止めるだけ。
でも…この二人が相手じゃ良くて時間稼ぎくらいしかできないわね。負けは必死かな。
「覚悟は出来てる?王虎天、行くわよ!」「良しッ!」一斉に叫ぶ。
正直、報酬だけで依頼を選ぶもんじゃないと後悔してる。
でも私も皆もレイヴン、受けたからには遂行させるのが筋ってもんでしょう。
「…武運を祈る…」ワイズからの通信が入った。彼も解っているみたいだけど。



私たち二人の劣勢は目に見えていた、しかも私の相手はあのスティンガー。
にゃんにゃんを追うために私たちを早々に始末して追いかけようと、全力で来る。
「これ以上の面倒はごめんだ、消えろ」
レーザーライフルを撃ち込みながら、接近してくるスティンガー。狙いはブレードか。
距離をとりつつレールガンを放つが易々と避けてみせる。
「かわせるものなのね、レールガン…」自分でも驚く程冷静に馬鹿げた事を言う私。
言ってるそばからスティンガーが目前までせまってきている、これは…ヤバイかも。
独特の音と共に出現したブレードが切り裂いたのは、王虎天のAC kskだった。



「あんた…馬鹿。身代わりなんて…」言いかけたが、王虎天が叫んだ声で遮られた。
「うわッ!くそ、やっちまった」しかし、すぐにザッハークと銃撃戦を再開。
私を助けたんじゃなくて、単純に割り来んで斬られてしまったらしい。
アジ・ダハーカの狙いだったのか、ただのミスなのか少し考えていた。その時
「居ません!ACは居ないです。外です、外に出たみたいです!」
にゃんにゃんが完全に取り乱していた。外ですって?そんな、どうやって。



この事実を知った相手側の二人も困惑しているようだった。
今やこの第二演習場にいるACはどれも阿呆みたいに立ってるだけだった。
そんな中、スティンガーが言い放った「作戦失敗だな、帰還するぞ。アジ」
「失敗?まだ破壊されたわけじゃ…」「逃げられては守る事もできんだろう、帰還だ」
「仕方ない…か」アジが言い終えると二人とも颯爽とその場を去った。
とにかく助かった、本当死ぬかと思った。でも外にいるとなると…
嫌な考えにたどりついた、同時にそれを証明するかのような2号の叫び声が聞こえた。



「な…なんだあれは」一号が突如現れたACと攻撃された2号を見て叫んだ。
「2号!大丈夫?」4号とFIVE号が同時に呼びかける。2号は無事のようだ。
「どうなってるんだ、ワイズさん」3号が俺に問いかける。
両方の状況を見ていた俺は桃白々のメンバーに現状を伝えた。ヤバイ事になった、と。



最初こそ2号に攻撃をしかけたものの、今はただ静かに立っているだけのAC。
全身が真っ白で特徴的な形をしている。そう、パルヴァライザーに似ている。
ただ、色とともに違った点が一つ。脚が3本だということ。先端にはローラー。
「3本…四脚じゃないのか?第一…これは」俺は思わず言葉を漏らす。
「それが目標だ、とにかく破壊してくれ!」
キサラギ研究員の通信と同時に三輪ACが動き出した。



もはやガードメカこそ居ないものの5人ともその圧倒的な数のおかげで装甲は削れ。
また残弾も多くは残っていない状況だ。しかも相手の能力は未知数。
特に2号は損傷が激しい、三輪ACのレーザーをもろにくらってしまったせいだ。
5人のチームらしさ全快の連携攻撃を易々とかわしつつ、反撃する三輪AC。
「強い…本当にAIなのか」一号が漏らした言葉を受け、他の4人も答える。強い、と。
一号がメンバーに通信する「皆、フォーメーションCだ…やるぞ」
皆、一瞬驚いたような呻きともとれない小さな声を出したが、答えは「了解」だった。



こいつには、これしかない。皆には酷だが、他に方法が思いつかないんだ。
2号から通信が入った「リーダー、俺は囮にまわる。これだけやられちゃ無理だ」
確かに、2号は損傷が激しい。もう一撃まともにくらえばおしまいだろう。
「解った、だけど無茶するんじゃないぞ」「なんとか、やってみせます」
ワイズから通信が来た「作戦を放棄して離脱することもできるぞ、大丈夫なのか?」
「俺たちはレイヴンだ、請け負った依頼をこなす傭兵。それが…レイヴンだ」
皆も口々に同じような事を言う。気持ちは皆一緒だった。
苦笑しているのか、声の調子が違う「お前達レイヴンって奴は…。死ぬんじゃないぞ」



2号が奴の囮になっている今のうちに陣形を整える。
俺の前に壁のごとく背を向けて立つ3号Ⅳ号FIVE号、これがフォーメーションC。
しかし、目の前で2号が危険な状態だ。距離をつめられ、既にACは目前だ。
焦るな。自分に言い聞かせる。2号は大丈夫だ。陣形が…整った。
「行くぞ、みんな!」口々に気合いを入れるメンバー達。
しかし突然ACがこちらを向き、レーザーを発射する。ここで当たると…マズイ!



レーザーはそのまま真っすぐ飛んで行き、回り込んだ2号に直撃した。
「2号!」皆が叫ぶ。盾になった2号の機体の色んな部分が吹き飛ぶ。反応は、無い。
俺たちは陣形を崩さずACに突撃した、まっすぐ一直線に。
レーザーを撃ってくるAC、3号が盾になる。次にⅣ号、最後にFIVE号。
FIVE号の機体が煙を吹き上げ崩れ落ちる頃にはもうACは目の前に居た。行ける!
目の前にいるACに向かって俺は叫ぶ。「食らえッ!どどんぱ!!」



あれから数時間、私たちはとある店に居た。依頼達成の祝いの酒を飲みに。
正確には私と残りの人達で、だけど。
奇跡的に一人も欠く事なく依頼は達成できた。2号もなんとか無事だった。
皆は離れたボックス席に座ってる。勝利の喜びだろうか、一号の勇姿の話か。
当の私…桃白々Ⅳ号は一人カウンター席に居る。
皆に追いやられたのだ、またとないチャンスだから!なんて言われて。
どうして彼らは知ってるんだろう、私がその…彼の事を好きだって。



肝心の彼はまだ来ない。不安げに彼らの方を見ると、ガッツポーズを返された。
ため息をつきながら店の入り口をみると——彼が来た。
「あれ?皆まだ来てないのかな、一人?」彼が私の隣に座って聞いた。
「あっ、うん。まだ…来てないみたい」私は嘘をつく。そう言えと言われた。
折角皆が用意してくれたんだ、何故知ってるのかはなんだか府におちないけど。
彼が私の嘘に、皆が居ることに気づくのも時間の問題だろう。



チャンスなのに。これを逃すと…もう。でも言えない。言葉が出てこない。



あのACに立ち向かったときよりも勇気がいる。嗚呼、今一度私に勇気を。
たった一言で良い。彼にしてみれば突然かもしれないけど、それでも。
私は生唾を飲んで、心の中で気合いを入れる。「あのッ———!」
fin





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