このtxtを読むレイヴンに言っておくッ!
おれは今、俺自身の頭のクソさ加減をほんのちょっぴりだが実感した
い…いや…実感したというよりはもう殆ど絶望の域だったのだが……
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれは荒猫SSに挑戦していると
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ 思ったらいつのまにか電波を受信していた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ ナニカサレタとか文才がないとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「うんだりるらんかぎがぐんぐぐぐ!」という豚の断末魔のような声で目が覚めた。
薄く目を開けば、燃え上がるカーテンの隙間から七百二十六の眼球が真っ黒い瞳で俺を見つめている。
朝が来たのであって、それは朝であり、それはつまり起床ということだから、朝だと経験からそう判断する。
枕元ではいまだに「ぎぐるれまうんぎんぐだに!」と目覚まし時計が唸っていた。頭から突き出た肉の突起を叩いてやると、「ぶぎゅ」と声を上げて静まった。
果実のような香りのフーゼル油と生ぬるい血でヌラヌラと光る右の手で焼け爛れた感触の顔を拭い理解不能な象形文字がびっしりと書き込まれた布団を撥ね除ける。
洗面所に行って、捻った蛇口から吐き出された紫色をした腐敗臭漂う粘液で顔を洗い、罅とも黴ともつかない何かがうねうね表面を這う鏡を見ると、俺の背後には顔を削り取られた異様に首の長い女が立っていた。
――頭が痛い。俺はいったい何をしているんだ?
鉄板と木版、それに生物の腸と思しきもので内側から滅多打ちにされて塞がれたドアの前には、パンであるらしい名状しがたい肉の塊と、粘度の高そうな緑色をした、生臭い匂いを放つミルクが置いてあった。
食欲が出ないので無視した。一緒に数錠の薬もあったが、やはり飲む気にならない。
今朝ぐらい飲まなくたって大丈夫だろう。
逆様の人間が張り付けられたクローゼットを開き、肉片に塗れたパイロットスーツを取り出し、フーゼル油でべたつく寝間着から着替える。スーツの肉片はにわかに蠢いていた。
肉塊を固めたベッドに座って待機していると、血錆だらけの携帯電話が少女娼婦の毒々しい嬌声で「私は私な私を私で私が私に私の私」と喧しく怒鳴り立てた。
慌てて出て見ると、艶やかな女の声で囁かれた。
『月面に鴉がおりまして、これは連結しています。それゆえに唯一自我的女王認知論を不可避とし、倫理発言禁圧女王認知論。ですからあるまじき非業肯定女王認知論。また、連鎖航空痙攣王女論。因美が漏洩したので夕暮れ、落ちます。だから展開構造的女王閉鎖論なので、結露方式女王認知論が導き出されます。羊を食べた男の右手を剥がすと、そこには真っ赤な紋白蝶が止まっていました』
「はい」
電話は切れた。
やがて裏表が逆転した内臓男が部屋に入ってきた。
――この男はいったい誰だっただろうか? どうにも、思い出せない……。
「であるから、私は三回歯を磨いたのですな。どうしてか分かりますかな?」
「いいえ」
「嘘を吐くなああああああああ!」
要するに、ミッションだった。彼はこれからミッションが開始すると言っていたのだ。
俺は内臓男の後ろに付いて部屋から出た。
コックピットは緑色のネバつく蒸気で満たされていた。
シートは得体の知れない虫の卵や繭で埋め尽くされていた。その内の幾つかは孵化していた。
もたれかかるとぐちゅぐちゅと何かが潰れる音が聞こえて、コンクリートの腐ったような臭いがもわっとコックピットに立ち込めた。
何かの皮で覆われ、じっとりと湿っている操縦桿を握り締める。
小骨のレバーを弾くと、罅割れが動き回りモニタに光が灯った。
ぐちゃぐちゃのシートからケーブルを引っ張り出す。後頭部のデバイスへ接続する。
――わからない。なにもわからない。
自分が拡張されたような気がするが、それだけだ。
モニタに映し出された比率の狂った寸法のドアが開かれる。
出撃。
――もはや何も理解できない。
眼前で蠢く、この蛙と蜥蜴と人間を混ぜ合わせたような容貌の木の棒を持った巨大な生物は、もしかするとMTなのだろうか?
薄く青いはずの空の色は濃緑色ののっぺりとした質感でゆっくりと落ちてくるし、太陽は明らかにギンギグンググガの形をしていた。
――しかしギンギグンググガとはなんなんだ?
それは断然、ギンギグンググガだ。
ギンギグンググガ?
しかしギンギグンググガとは、なんのことなんだ?
あれがMTだとすれば、するとそこら中に散らばる内臓とも肉とも排泄物とも付かない小山は、建物か。
腐肉の大地をそろそろと移動する、『うるいるあか(これもなんのことだかわからない)』を数珠繋ぎにしたタイヤは、戦車かもしれない。
――俺はいったいどうしたんだ?
無線機からは、朗らかな声で女が『貴方に心臓を捧げた結果、世界が受精しました。切断機械は順調に回転し、貴方の血肉を確実に咀嚼しています』と延々わけの分からないことを語り続ける。
――俺はレイヴンだった。確かにそうだったはずなのだ。
――俺はいったい、どうしてしまったというんだ?
怪異の輩をひたすらに破壊……破壊なのか? 殺害ではなく?
――こんな、何も、分からないのは、何故だ。
耳元でけたたましく老婆が笑っている。
――確か、俺は、手術を受けて……。
――うあああああああああああああああああああああああああああ
――頭が痛い。
――俺はもう正常じゃなないのか。
――すると、もう人間ではないのだ。
――世界がこんな風に見える人間は、人間ではないからである?
――だが、どうしてこんなことに……。
――昔はこんなじゃなかった気がするというのに。
――どうしてこんなことに?
――確か、俺は、手術を受けて……。
――うあああああああああああああああああああああああああああ
――頭が痛い。
ACの右手に握らせたライフル砲で飛び掛ってきた巨大な裸婦(単眼で、口からは乱杭歯が突き出し、股間からは槍が生えている)を射殺。
ブースターでバックして左右から砲撃を加えてきた鳥の脚を持った牛と人間の戯画からの攻撃を回避、ブレードで切り殺す。飛び散った茶色い体液がいくらかモニタに付着した。
そいつらの残骸に念入りにライフルを打ち込んだ後、少し先で逃げようとしている全身を炙られてどろどろの巨人の背中を一文字に引き裂く。
悲鳴が轟いた。
構わず切り刻む。
切り刻む切り刻む。
気付いたときにはそこら中がどろどろだった。
――なんだここは?
――なんだこれは?
――ああ、俺は頭がおかしいのだある。
――人間の目には世界はこんな風に映らないからぬである。
――こんな風に見えるから、俺はつまり人間でじゃあない。
――だうしてくんな風になってしまったか?
――確か、俺は、手術を受けて……。
――うああああああああああああああああああああ。
――頭が痛い。
部屋に帰ると、俺は『助けて! 私はこんなことしてないの! お願い信じて! だからやめて! 私がしたことを認めないということを断言するために私は何でもしようと宣言する可能性を持った人物を探してくる未来もあるという事実の証明のためならば私はどんなことでもするわ! お願いだから!』と泣き喚くパソコンを起動し、メールを打った。
もはや俺には何もわからない。この異常な世界の何がおかしいのか理解できない。
――もうたくさんだ。もうたくさんだ!
頭痛が酷かった。
生臭い白い粘液の詰まった頭痛薬を飲んでどうにか持ちこたえているが、もう倒れてしまいたいぐらいにつらい。
――俺は何かをされている。
激しい吐き気の中で俺はそれだけは理解できていた。
――頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。
――思い出せるぞ、俺は、確か、手術を受けて!
――うあああああああああああああああああ頭が。だが俺は思い出せるぞ、そうだ、俺は、連中に、手術を受けた。頭が! 頭が痛いしかし俺は思い出しているああああああああああああああ。
――そうだ俺は手術を受け続けている最初の数回の手術ではこんな風にはならなかった。
――全てが正常清浄だったはずだそれが手術を受けるたびに妙になっていったのだ。
――俺はどんどん作りかえられているそして人間ではない何かに入れ替えられていっている!
――もう何も分からないんだ。俺の名前は何だ? ショゴス3号だだがそれはなんだ? どういう意味なんだ? なんなんだそれは? 親の名前は? それは断然『シュブニグラス』。そうだだが分からない意味するところが分からない。
――大切なものがあったような気がする。大切な人があった気がする。それはなんだったかといえば、フベントロンティ、ブラゾ、タブラソル。ダボツ・メムプロトだ。だから、それはなんなんだ! なんななだそれは! どういうことなんだ! なんなんだよそれはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
駄目だ何一つ分からない俺は何かに浸食されている。
全てを書き換えられている人間でなくなっている。
手術はこれからも続くそして俺は人間を人間が人間で人間がもう沢山だ!
これ以上分からなくなってたまるか!
そう俺は人間だが人間ではなくなってしまってもう嫌だ。
俺は俺を誰かに始末してもらうつもりだ。ついでに連中の輸送列車も破壊してやるこれで連中に一矢酬いることが出来る。
だが連中とは誰のことだろう?
――あああああああああああああああああああああ。分からない。
ぶよぶよとした緑色のキーボードを叩いていると、はたと気付いた。
自分の書いている文章が理解できない。全く理解できない。
これでは正確な依頼内容を送信できないかもしれない。
仕方無しに、俺は音声データを添付してのメール送信を行うことにした。
魚面人の手から音声入力マイクを受け取り、発音のひとつひとつを明瞭にして言葉を吹き込んでいく。
「レイヴン、協力して欲しい。私は――」
――俺は何をされたのだろう。
――手術だ。手術とはなんだ?
――どういうものなんだ??
「何か、されたようだ。人間でなくなってしまった。ムラクモを」
――そうだ、連中は確かムラクモとかいった!
――だが連中とは誰だろう? それにムラクモとはなんのことだ?
どちらもわからなかった。
――はて、俺はいったい何を喋ろうとしていたのだろう。
――そうだ、列車だ。
「列車を襲撃したい。これ以上、手術を」
――そう、手術だ。手術をさせるわけにはいけない。
――手術が何のことかは知らないが、とにかくだめだ。
――だめだ。だめだ。
はて、俺はいったい何を喋ろうとしていたのだろう?
「解放されたい」
――解放。何から? 分からない。分からない。分からない。
――ただ、解放されたい。
「協力してくれ」
録音し終えた俺は、それを適当なレイヴンに送信する。
この依頼を誰かが受け取ってくれるかどうかすら怪しい。
だが、どうか、受諾してくれることを願う。
――うああああああああああああああ頭が痛い。
だが、それももうすぐ終わる。
終わらせるためには、まずここから脱出しなければなるまい。
連中が俺を閉じ込めるこの施設から脱出せねばなるまい。
――そうだ、もうすぐ内臓男がやってくる。
脱出を狙うならその隙だ。
俺は洗面台の鏡を叩き割って、手頃な大きさの一片を手に取った。
ぎゅっと握り締める。
裂けた掌から真っ青な血が滴ってきた。
――これは俺の幻覚だろうか?
――それとも現実だろうか?
おそらくはそのどちらもだ。
頭がこれなのに、体が無事なはずがない。
――俺は人間ではなくなってしまった。
――手術されたせいだ。
だがこれも、もうすぐ終わる。
もうすぐ解放されるのだ。
肉のドアがジグジグとノックされる。
――来た!
――さぁ行くぞ!
尖った鏡の破片を握り締め、俺は踏み出す。
背後で少女左右上下の反転した世界にいる少女が俺に向けて手を振っていた。
砕かれた鏡の向こうに億万劫の過去があった。
俺は息を深く吸い込み、駆け出した。
内臓男が現れる。振り上げる鏡の破片。
世界が明滅する――。
補足:施設からACを奪って逃走したこの被験体は、他のレイヴンの助力を受け、ムラクモ・ミレニアム所有の輸送装甲列車を襲撃、これを完全に破壊。その後、協力者であるレイヴンに襲い掛かったが、反撃を受けて敢え無く撃破された。破壊された機体から回収された被験体は損壊が激しく、蘇生は不可能だった。我々はかろうじて原型を留めていた大脳から補助記憶装置を摘出し、情報を再生することに成功した。それによって得られたのが上記のような非常に断片的で要領を得ない文字の羅列である。
なお、殆ど資料的価値はないが、この情報と披験体の脳髄の破片は、研究所の標本倉庫の棚の一角に今でも陳列されている。
|興<ウホッ
. ̄ ̄| (゚д゚ )
 ̄ ̄| へヽノ |
.  ̄ ̄| ヽ
.  ̄ ̄| ↓崖
 ̄ ̄
| 興<ヤラナイカ(゚д゚ )
. ̄ ̄| ノヽノ |
 ̄ ̄| < <
.  ̄ ̄|
.  ̄ ̄| ↓崖
 ̄ ̄
|
. ̄ ̄| 興<ヤラナイカ
 ̄ ̄| (゚д゚ )
.  ̄ ̄| ノヽノ |
.  ̄ ̄|< < ↓崖
 ̄ ̄
|
. ̄ ̄|
 ̄ ̄|興<ヤラナイカ ( ゚д゚ )
.  ̄ ̄| ノヽノ | ━┓・・━┓・・━┓・・━┓・・━┓・・━┓・・
.  ̄ ̄|< < ━┛. ━┛. ━┛. ━┛. ━┛. ━┛
おれは今、俺自身の頭のクソさ加減をほんのちょっぴりだが実感した
い…いや…実感したというよりはもう殆ど絶望の域だったのだが……
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれは荒猫SSに挑戦していると
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ 思ったらいつのまにか電波を受信していた』
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/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった…
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|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
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/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「うんだりるらんかぎがぐんぐぐぐ!」という豚の断末魔のような声で目が覚めた。
薄く目を開けば、燃え上がるカーテンの隙間から七百二十六の眼球が真っ黒い瞳で俺を見つめている。
朝が来たのであって、それは朝であり、それはつまり起床ということだから、朝だと経験からそう判断する。
枕元ではいまだに「ぎぐるれまうんぎんぐだに!」と目覚まし時計が唸っていた。頭から突き出た肉の突起を叩いてやると、「ぶぎゅ」と声を上げて静まった。
果実のような香りのフーゼル油と生ぬるい血でヌラヌラと光る右の手で焼け爛れた感触の顔を拭い理解不能な象形文字がびっしりと書き込まれた布団を撥ね除ける。
洗面所に行って、捻った蛇口から吐き出された紫色をした腐敗臭漂う粘液で顔を洗い、罅とも黴ともつかない何かがうねうね表面を這う鏡を見ると、俺の背後には顔を削り取られた異様に首の長い女が立っていた。
――頭が痛い。俺はいったい何をしているんだ?
鉄板と木版、それに生物の腸と思しきもので内側から滅多打ちにされて塞がれたドアの前には、パンであるらしい名状しがたい肉の塊と、粘度の高そうな緑色をした、生臭い匂いを放つミルクが置いてあった。
食欲が出ないので無視した。一緒に数錠の薬もあったが、やはり飲む気にならない。
今朝ぐらい飲まなくたって大丈夫だろう。
逆様の人間が張り付けられたクローゼットを開き、肉片に塗れたパイロットスーツを取り出し、フーゼル油でべたつく寝間着から着替える。スーツの肉片はにわかに蠢いていた。
肉塊を固めたベッドに座って待機していると、血錆だらけの携帯電話が少女娼婦の毒々しい嬌声で「私は私な私を私で私が私に私の私」と喧しく怒鳴り立てた。
慌てて出て見ると、艶やかな女の声で囁かれた。
『月面に鴉がおりまして、これは連結しています。それゆえに唯一自我的女王認知論を不可避とし、倫理発言禁圧女王認知論。ですからあるまじき非業肯定女王認知論。また、連鎖航空痙攣王女論。因美が漏洩したので夕暮れ、落ちます。だから展開構造的女王閉鎖論なので、結露方式女王認知論が導き出されます。羊を食べた男の右手を剥がすと、そこには真っ赤な紋白蝶が止まっていました』
「はい」
電話は切れた。
やがて裏表が逆転した内臓男が部屋に入ってきた。
――この男はいったい誰だっただろうか? どうにも、思い出せない……。
「であるから、私は三回歯を磨いたのですな。どうしてか分かりますかな?」
「いいえ」
「嘘を吐くなああああああああ!」
要するに、ミッションだった。彼はこれからミッションが開始すると言っていたのだ。
俺は内臓男の後ろに付いて部屋から出た。
コックピットは緑色のネバつく蒸気で満たされていた。
シートは得体の知れない虫の卵や繭で埋め尽くされていた。その内の幾つかは孵化していた。
もたれかかるとぐちゅぐちゅと何かが潰れる音が聞こえて、コンクリートの腐ったような臭いがもわっとコックピットに立ち込めた。
何かの皮で覆われ、じっとりと湿っている操縦桿を握り締める。
小骨のレバーを弾くと、罅割れが動き回りモニタに光が灯った。
ぐちゃぐちゃのシートからケーブルを引っ張り出す。後頭部のデバイスへ接続する。
――わからない。なにもわからない。
自分が拡張されたような気がするが、それだけだ。
モニタに映し出された比率の狂った寸法のドアが開かれる。
出撃。
――もはや何も理解できない。
眼前で蠢く、この蛙と蜥蜴と人間を混ぜ合わせたような容貌の木の棒を持った巨大な生物は、もしかするとMTなのだろうか?
薄く青いはずの空の色は濃緑色ののっぺりとした質感でゆっくりと落ちてくるし、太陽は明らかにギンギグンググガの形をしていた。
――しかしギンギグンググガとはなんなんだ?
それは断然、ギンギグンググガだ。
ギンギグンググガ?
しかしギンギグンググガとは、なんのことなんだ?
あれがMTだとすれば、するとそこら中に散らばる内臓とも肉とも排泄物とも付かない小山は、建物か。
腐肉の大地をそろそろと移動する、『うるいるあか(これもなんのことだかわからない)』を数珠繋ぎにしたタイヤは、戦車かもしれない。
――俺はいったいどうしたんだ?
無線機からは、朗らかな声で女が『貴方に心臓を捧げた結果、世界が受精しました。切断機械は順調に回転し、貴方の血肉を確実に咀嚼しています』と延々わけの分からないことを語り続ける。
――俺はレイヴンだった。確かにそうだったはずなのだ。
――俺はいったい、どうしてしまったというんだ?
怪異の輩をひたすらに破壊……破壊なのか? 殺害ではなく?
――こんな、何も、分からないのは、何故だ。
耳元でけたたましく老婆が笑っている。
――確か、俺は、手術を受けて……。
――うあああああああああああああああああああああああああああ
――頭が痛い。
――俺はもう正常じゃなないのか。
――すると、もう人間ではないのだ。
――世界がこんな風に見える人間は、人間ではないからである?
――だが、どうしてこんなことに……。
――昔はこんなじゃなかった気がするというのに。
――どうしてこんなことに?
――確か、俺は、手術を受けて……。
――うあああああああああああああああああああああああああああ
――頭が痛い。
ACの右手に握らせたライフル砲で飛び掛ってきた巨大な裸婦(単眼で、口からは乱杭歯が突き出し、股間からは槍が生えている)を射殺。
ブースターでバックして左右から砲撃を加えてきた鳥の脚を持った牛と人間の戯画からの攻撃を回避、ブレードで切り殺す。飛び散った茶色い体液がいくらかモニタに付着した。
そいつらの残骸に念入りにライフルを打ち込んだ後、少し先で逃げようとしている全身を炙られてどろどろの巨人の背中を一文字に引き裂く。
悲鳴が轟いた。
構わず切り刻む。
切り刻む切り刻む。
気付いたときにはそこら中がどろどろだった。
――なんだここは?
――なんだこれは?
――ああ、俺は頭がおかしいのだある。
――人間の目には世界はこんな風に映らないからぬである。
――こんな風に見えるから、俺はつまり人間でじゃあない。
――だうしてくんな風になってしまったか?
――確か、俺は、手術を受けて……。
――うああああああああああああああああああああ。
――頭が痛い。
部屋に帰ると、俺は『助けて! 私はこんなことしてないの! お願い信じて! だからやめて! 私がしたことを認めないということを断言するために私は何でもしようと宣言する可能性を持った人物を探してくる未来もあるという事実の証明のためならば私はどんなことでもするわ! お願いだから!』と泣き喚くパソコンを起動し、メールを打った。
もはや俺には何もわからない。この異常な世界の何がおかしいのか理解できない。
――もうたくさんだ。もうたくさんだ!
頭痛が酷かった。
生臭い白い粘液の詰まった頭痛薬を飲んでどうにか持ちこたえているが、もう倒れてしまいたいぐらいにつらい。
――俺は何かをされている。
激しい吐き気の中で俺はそれだけは理解できていた。
――頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。
――思い出せるぞ、俺は、確か、手術を受けて!
――うあああああああああああああああああ頭が。だが俺は思い出せるぞ、そうだ、俺は、連中に、手術を受けた。頭が! 頭が痛いしかし俺は思い出しているああああああああああああああ。
――そうだ俺は手術を受け続けている最初の数回の手術ではこんな風にはならなかった。
――全てが正常清浄だったはずだそれが手術を受けるたびに妙になっていったのだ。
――俺はどんどん作りかえられているそして人間ではない何かに入れ替えられていっている!
――もう何も分からないんだ。俺の名前は何だ? ショゴス3号だだがそれはなんだ? どういう意味なんだ? なんなんだそれは? 親の名前は? それは断然『シュブニグラス』。そうだだが分からない意味するところが分からない。
――大切なものがあったような気がする。大切な人があった気がする。それはなんだったかといえば、フベントロンティ、ブラゾ、タブラソル。ダボツ・メムプロトだ。だから、それはなんなんだ! なんななだそれは! どういうことなんだ! なんなんだよそれはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
駄目だ何一つ分からない俺は何かに浸食されている。
全てを書き換えられている人間でなくなっている。
手術はこれからも続くそして俺は人間を人間が人間で人間がもう沢山だ!
これ以上分からなくなってたまるか!
そう俺は人間だが人間ではなくなってしまってもう嫌だ。
俺は俺を誰かに始末してもらうつもりだ。ついでに連中の輸送列車も破壊してやるこれで連中に一矢酬いることが出来る。
だが連中とは誰のことだろう?
――あああああああああああああああああああああ。分からない。
ぶよぶよとした緑色のキーボードを叩いていると、はたと気付いた。
自分の書いている文章が理解できない。全く理解できない。
これでは正確な依頼内容を送信できないかもしれない。
仕方無しに、俺は音声データを添付してのメール送信を行うことにした。
魚面人の手から音声入力マイクを受け取り、発音のひとつひとつを明瞭にして言葉を吹き込んでいく。
「レイヴン、協力して欲しい。私は――」
――俺は何をされたのだろう。
――手術だ。手術とはなんだ?
――どういうものなんだ??
「何か、されたようだ。人間でなくなってしまった。ムラクモを」
――そうだ、連中は確かムラクモとかいった!
――だが連中とは誰だろう? それにムラクモとはなんのことだ?
どちらもわからなかった。
――はて、俺はいったい何を喋ろうとしていたのだろう。
――そうだ、列車だ。
「列車を襲撃したい。これ以上、手術を」
――そう、手術だ。手術をさせるわけにはいけない。
――手術が何のことかは知らないが、とにかくだめだ。
――だめだ。だめだ。
はて、俺はいったい何を喋ろうとしていたのだろう?
「解放されたい」
――解放。何から? 分からない。分からない。分からない。
――ただ、解放されたい。
「協力してくれ」
録音し終えた俺は、それを適当なレイヴンに送信する。
この依頼を誰かが受け取ってくれるかどうかすら怪しい。
だが、どうか、受諾してくれることを願う。
――うああああああああああああああ頭が痛い。
だが、それももうすぐ終わる。
終わらせるためには、まずここから脱出しなければなるまい。
連中が俺を閉じ込めるこの施設から脱出せねばなるまい。
――そうだ、もうすぐ内臓男がやってくる。
脱出を狙うならその隙だ。
俺は洗面台の鏡を叩き割って、手頃な大きさの一片を手に取った。
ぎゅっと握り締める。
裂けた掌から真っ青な血が滴ってきた。
――これは俺の幻覚だろうか?
――それとも現実だろうか?
おそらくはそのどちらもだ。
頭がこれなのに、体が無事なはずがない。
――俺は人間ではなくなってしまった。
――手術されたせいだ。
だがこれも、もうすぐ終わる。
もうすぐ解放されるのだ。
肉のドアがジグジグとノックされる。
――来た!
――さぁ行くぞ!
尖った鏡の破片を握り締め、俺は踏み出す。
背後で少女左右上下の反転した世界にいる少女が俺に向けて手を振っていた。
砕かれた鏡の向こうに億万劫の過去があった。
俺は息を深く吸い込み、駆け出した。
内臓男が現れる。振り上げる鏡の破片。
世界が明滅する――。
補足:施設からACを奪って逃走したこの被験体は、他のレイヴンの助力を受け、ムラクモ・ミレニアム所有の輸送装甲列車を襲撃、これを完全に破壊。その後、協力者であるレイヴンに襲い掛かったが、反撃を受けて敢え無く撃破された。破壊された機体から回収された被験体は損壊が激しく、蘇生は不可能だった。我々はかろうじて原型を留めていた大脳から補助記憶装置を摘出し、情報を再生することに成功した。それによって得られたのが上記のような非常に断片的で要領を得ない文字の羅列である。
なお、殆ど資料的価値はないが、この情報と披験体の脳髄の破片は、研究所の標本倉庫の棚の一角に今でも陳列されている。
|興<ウホッ
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