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あ? 誰のことだって? うん? 
――ああ、あいつか。ああ、もちろん知ってるさ。俺の3年来の相棒だった男だ。
なんだおまえ、あいつを探してるのか? なら止めとけ。あいつはもう帰ってきやしないさ。どうして? どうしてだって? どうしても何も、そうだからさ。
あいつはもう帰って来ない。理由も何もない、たったそれだけだ。
まぁいいさ、教えてやるよ、あいつがどうして行っちまったのかを。事の発端は、そうだな、どこから話したもんかな。一年前に街が丸々一個消えたのは知ってるな? 
ああ、そう、それだ。ミラージュの連中が住んでた街だな。そこを襲撃したレイヴンの中に俺たちはいた。
事の詳細は知ってるか? ああ――ああ、いや、違うな。略奪と凌辱があったってのは真赤な、血反吐みたいに真赤な嘘だ。あそこにあったのは破壊だよ。破壊と死が充満してた。それ以外には何一つなかったね。
ああ、極端な悪夢さ。想像出来ないだろ、夏の朝っぱらだってのに、あの街は真っ暗だった。吹き上がる煙と粉塵でな。人も建物もそこかしこで燃えてた。燃えてないものなんか無かったよ。全部俺たちに燃やされたのさ。警備部隊なんか五分で綺麗にこの世から消えちまったさ。こちとら化け物じみたAC十何機も並べて行進してたんだ、もし向こうが余所の戦力掻き集めて応戦したって、結果は同じだったろうな。
うん? ああ、そうだ。俺は、俺たちはあの街を制圧するために行ったんだ。脅威を排除しろって、そういう依頼だったからな。街を警備してるMTどもなんてカスみたいなもんさ、MTぐらいじゃ話にならねえ。適当にやってりゃ馬鹿みたいな報酬が貰えるなんて、確かにムシが良過ぎるとは思ったけどよ。いざ蓋を開けて見りゃムシが笑ってやがった。三尸虫のやつが所狭しと飛び交う最悪の戦闘だった。
ああ、俺たちはただ一人だって死んじゃいない。飛んだムシは連中の、ミラージュの連中のだ。連中全部が敵だったんだよ。分かるか? あの街の住民の大半が戦闘員だったんだよ。サラリーマンがミサイル打っ放して、女が迫撃砲で攻撃してくる。朴訥そうな爺さんが狙撃銃を構えてる。メスガキだからって安心しちゃいけない、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにして爆弾抱えて走ってくる。所詮携行火器だなんて馬鹿にできないぜ、実際。連中、たぶんミラージュに掻き集められた貧困層の人間かんんかだったんだろうな。必死だった。
ああ、雨みたいにロケットやら何やら撃ちこまれちゃ、いくらACでも耐えられないからな。ディスプレイじゃいつでも発射光がチカチカしてやがったし、ミサイルアラートは延々鳴りっ放しだ。止まったら終わりだよ。俺は必死で避け続けた。仲間のタンクAC乗りはあんなでもどうにか凌げてたみたいだが、しかし俺みたいな軽量二脚乗りは当たりどころによっちゃ致命傷になる。一瞬たりとも気が抜けない。あちこちから即死が飛んで来る。――ああ、ACの火器管制は人間なんかロック出来やしない。おい、待て、勘違いしてるみたいだから言っとくがレイヴンだって悪魔じゃないんだ、殆どのヤツが生身の人間なんて撃てねぇよ。戦車やMTを相手にするんじゃないんだ、分かるか? 俺たちだって顔が見えない相手だから殺れるんだ、死体みたいな顔色で必死にションベン弾撃ち込んでくるおっさんを、おまえは平気に踏みつぶせるのか? ああ?
――おっと、話が反れたな。ああ、俺たちは暫くの間は防戦一方だった。頭がどうにかなりそうだった。特に機体にダメージがあったわけじゃないが、それでも頭ん中は真っ白だ。生の悪意とか敵意なんざ初めてだったからな、俺。
おまえも何十人から一斉に睨まれてみたら分かる、それだけで腰が抜けて涙が出て来て、胃がひっくり返りそうになるぜ。パニック状態だ。百機の戦車に囲まれたほうが、まだ冷静でいられるぞってぐらいのな。
それでもトリガーは引けない。意識のどっか深いところにあるもんが、越えちゃいけない一線みたいなもんを引いてたんだろうな。だが退くわけにもいかない。前金で馬鹿げた金額を貰ってるから信用は裏切れないってのもあるが、俺たちの足に絡み付いてたのは恐怖だ。怖くて怖くて、逃げるなんて発想がまずなかった。連中がわらわら出て来て目が回るほど撃って来た瞬間には、感情がどこか冷たくて胸糞の悪いところにすとんと落ちちまった。かちかち変な音がするから何かと思ったら歯が鳴ってるんだよ。ああ、最悪の極みだったな。思い出すだけで吐き気がする。
そんな中、誰かが一発撃ち返すだけで一線を越えちまう――分かるだろ? でかい銃声一発で、つられて撃ちだしちまう。
その悪魔の一発を撃っちまったのが、あいつだ。そう、おまの探しているレイヴンだよ。
あいつは俺のACのすぐ傍でカラサワを打っ放した。青白い光が、足下にいたロケラン背負った女を焼いた瞬間、俺もトリガーを引き絞った。1000発入りのマシンガンのだ。ACのマシンガンの弾がどんなデカさか知ってるか? 一発でも戦車の装甲なんかじゃ防ぎ切れない威力があるんだが、それが人間に当たったら、どうなるか。酷いもんだったね。当たった部分が無くなっちまうんだよ、本当に。その上ソニックブームで内蔵やら肉やらが派手に飛び散りやがるんだよ。もちろんそんな光景を何度見たってトリガーは緩めない。一線を越えちまったらもう引き返せやしないのさ。ああ、俺は1000発全部撃ち尽くしてもまだ引き金を引いてた。皆そうだよ。どいつもこいつもトリガーは引きっ放しだった。
戦闘自体は一時間ほどで終わった。大勝さ。けれど誰も歓声をあげない。任務達成にすら気付かない。結局俺たちが帰還したのは街が跡形も無く吹っ飛んでからだ。そう、跡形もなくな。空は真っ暗だった。まだ朝も早いって言うのに、吹き上がる煙と灰燼で真っ暗だったんだ――
あいつがおかしくなったのはその直後だ。ACから降りて来たあいつの顔ったらなかったね。俺たちは皆青褪めるのを通り越して土毛色してたんだが、あいつは違った。なにがどう違ったのかは具体的に言いづらいが、強いて言うなら目だな。目が異常だった。爛々としてるってんならまだ興奮してるで片付けられるんだがあれは違う。あれは何か普通じゃないものが見えてるって様子だった。早い話が、螺子が完全に抜けちまった風だった。
やつの表情は全く平静だったよ。ああ、今そこで糞でも捻ってきたってぐらい普通だった。だが何か恐ろしいものに耳元で囁かれてるような動きをしてるんだな、目が。囁き続けるそいつの姿を必死で追いかけてる感じだった。あんまりにも変だったから、俺も心配になって訊いてみたよ。
酷い戦いだったな、相棒。大丈夫か。
やつは何て答えたと思う? 
おまえは見たかって、そう訊ね返しやがったんだよ。
見たって何をだ? 地獄なら散々見たさ、俺もおまえも。
違う、そうじゃない。おまえはアレを見たのか? 
だからアレってなんだよ。化物でもいたのかこのくそったれ。
気が立ってたんだろうな、俺も。ついきつい調子でそう怒鳴っちまったんだ。吐いちまった後にしまったと思ったよ、胸糞悪いのはあいつだって同じだもんな。当然言い返してくるもんだと思ったさ。
だがあいつは何も答えない。さっと顔を反らして、それきり黙り込んじまった。
おい、なんだよ。どうしたんだよ、相棒。
あいつはたっぷり三十秒ほど地面に視線を落として、やっと答えてくれたよ。
目だ。
目? 目がどうしたんだよ。
やつはほうと息を吐いて首を振る。
いや、なんでも無いんだ。ああ、見なかったんならそれでいいさ。妙な事を言ってすまなかった。
あいつは忙しなく目を動かしながら俺に引き攣った笑みを投げかけた。顔の皮膚の下に針金でも埋め込んで固定したんじゃないかって気色の悪い笑みだ。俺がコトを問い詰める前にあいつは自分のガレージに飛んで帰ったよ。ああ、そう。ACのOBまでぶっ飛ばして、本気で飛んで帰りやがったんだ。
それから、一週間ぐらいかな、あいつと連絡がつかなくなった。電話にもメールにも応答しやがらないし、記録を調べても出撃した形跡はない。それで、八日後の夜か、あいつはひょっこりと行き付けの酒場に顔を出しやがった。
ああ? ああ、妙だった。頬はこけてたし顔色も真っ青で、オマケにぐるぐる回ってるのが右目だけだったんだ。左目はどうしたんだって? おいおい、察してくれよ、回ってるのは右目だけだったんだ。分かるだろ? 右目と左目は連動してる、右が回れば左も回るんだよ。そうならないってことがどういうことか、分かるだろ? 
まぁいい。俺は驚いてあいつに詰め寄った。
おいどうしたんだ、何があった。その目はどうしたんだ。
あいつは砂漠みたいにカラカラな息を吐きながらいよいよ狂ったことを言い始めた。
入ってきたんだ、あの時。あいつらは目から目に伝染する。あいつらは俺の目に入り込みやがったんだよ。だから抉ってやったんだ。はは、ざまあみろ。
俺はそのとき、もうどうしようもないほど確信したね――こいつは狂っちまったんだってな。ああ、そんな馬鹿げた化物の話は聞いたこともない。大方、あの街の連中の、ぎらぎらした目を直視しちまったんだろう。それが他愛もない化物のイメージに摩り替わっちまってたんだろうな。
あ? そんなことが聞きたいのか、物好きなやつだな、まぁいいさ、聞かせてやるよ。
あいつが言うには、あの街の連中は汚染されてたんだそうだ。何かは分からない。ただ目から目へと移動する化物であるらしい。あいつはあの街で、その化物を見たんだそうだ。
詳しいことは結局語らなかったがな。最初は錯覚だと思ったらしい。狭いコックピットで、あいつはディスプレイ越しにそいつを見つけた。ああ、さっきも言ったがあいつはそいつの詳しいことについては何一つ言及してない。ただ概要を伝えただけだ。そいつは何か恐ろしいものの姿をしていた、だからあいつはそいつを撃った。ああ、あの女を撃ったんだ。俺もその女なら見たが、別に頭が割れて木が生えてたわけでも口から腕が飛び出してたわけじゃなかった。俺もあいつにそう言ったさ。そしたらあいつ、くすくす笑い出しやがるんだ。
ああ、おまえは見てないんだろ? 目を。
あ? ――だから俺にも分からないんだって言ってるだろうが。あいつは最後まで教えちゃくれなかった。
あの街は滅ぼして正解だったっていきなりあいつは口走った。あの街は生物兵器の演習所だった、滅ぼすことは正義だったのだって具合にな。まぁ、そうかもしれないとは思わないでもない。あそこの住人どもは異常だった。普通、ACが二十機近く襲ってきたら逃げ出すだろ? いくら戦闘員でも、一人や二人は逃げ出すさ。なのに連中は逃げなかった。誰一人として。死に損ないの爺さんからまだろくに足し算もできないようなガキまでな。
俺は何にも言えなかったね。いや、感心してじゃないぞもちろん。あいつは一呼吸も入れずに十五分もそんな妄言を吐き続けたんだ。割り込めやしない。こいつは目の当たりにしなきゃ分からないだろうが――奇妙な威圧感があった。侵入したら打ち殺すって類の無言の威圧感だ。サイレントラインみたいなもんだな。それがあいつの意識とか認識世界とか、そんなものの周りにびっしりと敷き詰められてた。
それで、ひとしきり言い切った後、あいつはビールを一杯飲み干して、急かされる様に店から出て行った。追いかける? 無理だよ、無理。体が嫌がりやがったんだ。あいつを追いかけちゃいけない、何か不吉の臭いがするってな。
次の日の朝のことだ、あいつは俺のガレージに輸送用リグを借りに来た。知ってるか、輸送用リグ。簡単に言やあ、馬鹿でかい自家用ACトレーラーだ。武器でも何でも山ほど積める。たまげたのは、あいつが完全武装のタンクACに乗ってたってことだな。これから戦争でも始めるのかってぐらいの重武装だ。オマケに俺のトレーラーを借りて何をするのかと思えば、ありったけの武器弾薬を乗せていきやがるんだよ。
おい待てよ、どうしたんだおまえ、今から任務か? 
あいつはにこりともせずに答えた。
やつらを迎撃しに行く。
やつら? また目の化物か。
ああ、あいつらはまだ死んでない。俺には分かる。
どこにいるってんだ。
あの街に。
待てよ、落ち着け相棒。あの街は滅んだ。分かるな? あの街にはもう灰と瓦礫しかない。ネズミ一匹いやしないさ。
いや、まだ生きてる。俺には分かる。あいつは断言したね。
後はご想像通りだ。あいつは行っちまったよ、やつらを『迎撃』するためにな。あの街での出来事が、あいつの頭を完全にヤっちまったんだ。ああ、そうに違いないね。俺にだって常識ぐらいはある、目から目に乗り移る生物兵器なんて聞いたことない、そんなもんがあるはずないのさ。
あ? 今、あいつがどこにいるのかって? ああ、街で戦ってるわけじゃない。そんな場所はもうどこにもないし、今はクレストがなんかの調査をしてるからまず近付けもしない――あそこを見ろ。山があるだろ? あの山の頂上から北東を向くと、上手い具合にあの街の跡が見える。あいつはあの山の頂上から、スナイパーライフルであの街を見張ってるのさ。こっちに侵入してこないようにな。たまに銃声も聞こえる。何を撃ってるのは――あいつにしか分からんだろうね。
ずっとだ。もう一年ぐらいになるか。たまに業者があいつに弾薬やら食料やら届けてるみたいだが、一度も降りてきちゃいない。完全にイッちまってるのさ、俺たちには想像もできない遠いところにな。
これで話は終りだ。分かったろ? あいつに会うのはもう不可能なんだ。あの山で戦ってるのはあいつじゃない、何か別の人間だ。分かったならさっさと帰ることだな、あんたに話せることはもう何もない。
あ? この指か? くそ、またかよ。俺がもうレイヴンを辞めたことは知ってるな? こいつが原因さ。気を抜くとすぐに曲がりやがる。
ああ、トリガーを引いてるんだよ、こいつは。
そういうことだ、結局俺も、まだあの街での戦いから逃げ出せずにいるんだよ――




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