映された蒼天が、見下ろしていた。周りは炎に囲まれ、灰色の煙が昇っている。
 しかし換気扇の中に、それは吸い込まれて、空には届かない。
 吹き飛ばされた、父の右腕と、母の左腕。両手の無い妹にくっ付けようとしているが無駄である。
 出血死した妹の顔は、潰され、日に干され、青くなったカエルに似ていた。
 少年の涙では、血の枯れた妹の渇きは潤せない。それでもだらだらと流れ落ち、父と母の腕をくっ付けようとしている。
 少年は、影に入った。見上げる少年。大きな影だ。熱源。パルスジェネレータ特有の音がする。
 銃口が、こちらを向いていた。紅い、黒い、ACの右手から生えた破壊の銃。
 照準はそのままに、コクピットが開く。前面装甲がめくれ上がり、ミサイル迎撃機銃が独立して腰のほうまで移動する。
 シートがせり上がる。パイロットは、逆光でよく見えない。でも……でもそれは……。



 「うぁあああああッあああああああぁあああああああああああわあああああああああ」
 「モウリ、大丈夫か?! モウリ、モウリ!」
 隣に寝ていた、今では狂乱し、叫びをあげている青年の肩を、彼女は揺さぶる。
 青年の叫びは、ピタリと止まったが、ヒクリヒクリ、しゃくりあげている。
 瞳孔も、かなり開いており、彼女は、ベッドから起きて、棚から鎮静剤を持ってきて青年に打った。
 青年は、ゆっくりと、眠りに落ちていく。彼女は、ベッドに腰を落として溜息をついた。
 やはり、私では、無理なのか……。モウリ、君の夢には、誰が敵として現れているんだ?
 彼女の目には、涙がたまっている。温かい、人の涙が……。



 ラナ・ニールセンはレイヴンのオペレータだ。彼、モウリ・ニールセンを担当している。
 そして、モウリの母親代わりでもある。恋人でもある。
 幼く孤児となったモウリを、ラナは母として、育てて、モウリが十五となったある日、女として彼を愛した。
 逸脱している関係だ。彼女には、人の母として、彼を育てる術を知らなかった。
 次第に離れていってしまう、と思うと辛く、恨めしい。
 世界にモウリを盗られてしまうという嫉妬が、彼女をそうさせた。
 モウリを、守り、彼と死ぬまで共に居たい、そう思っていた。
 彼が世界秩序を壊すイラギュラーとして顕在するまでは。



 プログテック。新興企業。
 百年計画にはあらゆる意味で不要な存在となる企業、
 人物はナインボールによって現実、そしてナーヴより抹消される。
 一抹も残さず、強引に、存在の根元から引き抜かれてしまうのだ。
 最初に、モウリの元へ、プログテックからの依頼が舞い込んできたのは偶然だったが、
 それらをことごとく成功へと導いたのは、モウリに力があったからだ。
 プログテックが、世界から逸脱する、そう実感したネストは、ナインボールへ、勅命を下した。
 ナインボールは、プログテックの本社へ向かい、行動を起こそうとした。
 しかし、阻まれた、イレギュラー:モウリによって。ラナは、もうその時彼にはついていなかった。  
 彼は、彼女の腕の中から抜け出て行ってしまった。私はもう、必要ないのか。ラナはそう実感した。
 お前は、もう、一人で生きていけるんだ。一人では、いられなかったのは私のほうだったか……。



 大破したナインボールは、ネストによって、大改修を施された。巨大な羽を持ち、矛を持ち、銃を持ち、甲冑を纏う、大鴉。
 もう、時間が無い。私が、私で居られるのは、そう、長くは無い。
 私が、消えていく。モウリ=イレギュラーレイヴンを消すために。



 ナインボールが、彼に襲い掛かる。しかし、
 切りかかるも、逆に切り返されて、真っ二つになる紅い機体。
 グレネードを撃とうにも、照準が合わない。パルスライフルは言うまでもない
 モウリのACが、透明なチューブエレベータを通って、降りてくる。
 彼女は、待っていた。
 私が、彼を作った。モウリの両親、彼の住んでいたセクションを破壊したのは、この私だ。
 私は、彼を作った。自分をなぐさめる為に。人として、生きたいと願った下種な人形は、この私だ。
 モウリ……レイヴン……私は、なんの為に……私は、私は……。

 炎に燃え上がる、ナインボール=セラフ。私/兵器の左腕が沸騰して、もげる。
 右手を彼に伸ばす。けど、内蔵火器が作動してしまう。嗚呼、止めてくれ、私の可愛い、モウリ……。
 嗚呼、ライフルの数発で、私のコアが弾けた。意識も、弾けて、消えていく。 
 良かった。本当に良かった。私は、キミを殺さなくて……本当に良かったよ……。

 『作戦終了。自爆します』

 ――了―― 





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