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未完。作者は行方不明

ハーメルンと言うサイトにて、修正版投下しました。
mobimobiと言う名前を名乗ってます。続きは未定



1

そのレイヴンは目立った存在ではなかった。
任務遂行率61%、装備は最安価のフレームにライフルと単発式の小型ミサイル、ブレード。
任務中に敵レイヴンに出会えば時間稼ぎに徹して逃げ、劣勢になれば領域を離脱して逃げ帰る。
装備のせいか、記録上は今までレイヴンを倒したことはない。
中堅というには功績が足りず、素人というには手馴れている。
その程度の認識しか持たれていないレイヴン。

もう一度言おう。そのレイヴンは目立った存在ではなかった。
今の今まで生き残ったのは運が良かったからだ。
かの策士、ジャックOですらそう思っていた。
バーテックスが予告したアライアンス襲撃まで後24時間。
彼がこの戦いに影響を及ぼすことは無いと、皆が思っていた。
だが――――――


ディルガン流通管理局。
敵AC襲撃の報を聞いたライウンは、施設前に愛機を佇ませていた。
警備のMTは既に全滅、敵ACはそちらへと向かっている。
オペレーターの連絡を聞き、気を引き締める。
残るレイヴンは22人。敵はそのうちの誰なのか。
この短時間に居並ぶMTを破壊、突破してのけたのだからかなりの手練れと見たほうがいいだろう。
いくつか思い当たる名前はあるが――

「誰であろうとも楽な戦いにはなるまい……」

呟きと同時にコンソールを操作する。

『メインシステム、戦闘モード起動します』

目覚めを告げる言葉と同時。扉は開かれた。


そのACはライウンの記憶にない構成だった。22人のレイヴンの、何れとも違う。
機体そのものはジナイーダのファシネイターに良く似ているが、コアと頭部が違う。
右腕にライウンの愛機と揃いのSHADEを携え、左腕にバズーカを下げる。
そして、カラーリングは青灰色。そんなACは、彼の記憶にはない。

誓って、ほんの一瞬だった。これは誰だ。そうライウンが考えたのは。
そしてその一瞬の内に、敵は動き出していた。
SHADEが瞬く間にストラックサンダーへ向けられ、H09-SPIDERのモノアイが狙いを定める。

咄嗟に左へ。反射的に回避運動を取ったストラックサンダーをレーザーが掠める。
そして一拍置いたタイミングでバズーカの弾体が突き刺さった。
始めのレーザーを囮に、タイミングを合わせて襲い掛かってきた一撃。反射的に避けてしまったが故の被弾とも言える。
本来ならば当たる事もなかっただろうが、敵から意識をそらしていたライウンは、この一撃をもろに受け止める羽目になった。

CR-WH05BP―――敵機が装備していたバズーカの型番だ。重量はあるが、バランスは良い。反動もかなりのものだ。
重装甲のストラックサンダーならば、一撃で沈む事はない。が……その反動は機体を数瞬、地面に縫い付ける。

「ぐぅっ……」

揺らぐ機体を立て直し、うめきを漏らしながら、ライウンは敵の動向に目をやった。
そこには、SHADEからレーザーを放ちつつ一直線に突き進んでくるACの姿があった。

――反動で満足に動けぬ間に接近し、至近距離からの連射で仕留めてしまおうという魂胆か。

ライウンはそう判断し、迎撃のためにFCSをキャノンへと切り替える。
大口径レーザーキャノン。本来ならばACに致命的な隙を強要する武器。
だが、強化人間であるライウンならば。

「思い通りにはさせない!」

吼えた直後、鮮やかな青が砲口から迸った。
強化人間としての処理能力により、相手の目論見より幾分か早く機体の姿勢は回復した筈。不意を討たれた相手が、これを避けられるはずはない。
そう確信した一撃だったが、破壊的な威力を秘めた青のエネルギー塊は虚しく宙を穿った。
その場に残されていたのは、SHADEとバズーカのみ。相手は、既に視界の外へと抜け出している。

レーザーキャノンが放たれるより先に武器をパージし、速度を上げて回避したか。
だが、相手に残されているのは格納が可能な武装。これならば一部の例外を除いて、破壊力はそれ程でもない。
そして相手がその例外を所持していたとしても、コアそのものへの直撃以外ならば一発は耐えられる。

舌打ちを漏らしながらコアを左手でカバーし、レーダーに映った敵を追って旋回させる。
その直後、カカッ――という音がコクピットに響いた。

「何――」

次いで、爆発。機体が揺らぐ。
だが、この程度ならば致命傷にはならない――まだ勝負は決していない!

自らを叱咤しつつ、機体を振り向かせる。
しかし、ライウンが見たのは、モニターの隅で鮮やかなオレンジの刀身を伸ばしたブレード、ELF3を振りかぶっている敵機の姿。
そしてそれを振り抜くACが、彼の見た最後の光景となった。

ストラックサンダーの、右腕が飛ぶ。

重りとなるSHADEとバズーカを手放した敵機の速度は、500kmは楽に出ていたのではないだろうか。
吸着地雷によって再度体勢を崩したストラックサンダーの死角に回り込んだ敵機が、駄目押しとばかりに右腕に向けて斬撃を放ったのだ。
収束されたエネルギーが装甲を食い破って腕を完全に切り落とし、同時に放たれた光波が真横から、
遮る物のないストラックサンダーのコアを直撃、プラズマライフルにも匹敵する破壊力を開放。
極あっさりとライウンの身体を蒸発させた。

崩れ落ちるストラックサンダー。
彼は――ライウンは知る由もなかった。
自らを屠った者が、気にも止めていなかった『あのレイヴン』だということを。


2


ベルザ高原。
サンダイルフェザーを駆るレイヴン、プリンシバルはアライアンスより
承った任務を遂行するべく、とある場所を目指していた。
つい先程コクピット内で受け取った情報によれば、バーテックスは既にその動きを察知。
迎撃のためにレイヴンを雇ったらしい。
サンダイルフェザーを討ち果たせばそれでよし。突破されるにしても時間を稼ぎ、守りを固める事が目的ではないかとの事だ。

雇ったのは――よりによって『あのレイヴン』だというから笑える。
恐らくは後者としての使い方だろう、正面からライウンを討てるほどの腕が、『あのレイヴン』に備わっているはずがない。
そんな相手を使うようではバーテックスも底が見えた―――彼女はそう考えていた。

まぐれだろう、というのは彼女がライウンと戦闘したことがない故の考えであり、楽観的過ぎる上、根拠も何もない。
実力が伯仲している相手ならともかく、彼女が考えている通りにライウンを討てる腕がなかったとすれば、一度のミスで
勝敗が引っ繰り返る事はほぼ有り得ない。ライウンはそれ程の腕を持っていたレイヴンだ。
彼女はライウンを、そしてそれを討った『あのレイヴン』を過小評価していた。

この時点で彼女の運命は既に決していた、と言っても良い。
戦場で相手を侮る事。それがどの様な結果を生み出すかは想像に難くないだろう。

「才能はあっても、あまり賢い女ではないのだろうな」、とのエド・ワイズの推測は的を得ていたのかもしれない。
現に、ジャック・O、リム・ファイアー、エヴァンジェ、ケルベロス=ガルム等の切れ者たちは、その動向に注意を向け始めていた。
奴が今まで自らを偽っていたのでなければ、一度や二度の偶然でライウンに勝てる訳がない――それが彼らの共通した認識だったのだ。
事実、この任務はバーテックスが依頼主とされているが、『あのレイヴン』に依頼することを決したのはジャック・Oその人でもある。

そして、ついに彼女の視界に、小さくACが見えた。

『敵ACを確認、Ambitionです。敵はバズーカを装備。中近距離での戦闘は――』

CPUの警告、聞きなれぬ名前。なるほど、武器もフレームも、そして機体の名前すらも一新したようだ。
しかし、それを手足のように操る腕がなければ恐れる事はない。
それも、少し前に一度戦った事のある相手だ。その時は仕留めきれずに逃がしてしまったが、腕前は分かっている――

高速でAmbitionに接近するサンダイルフェザーのFCSが、両肩の垂直ミサイルを選択した。同時にエクステンションの連動ミサイルを起動。
発射されたミサイルは上方から、そして前面から相手を襲う。逃げられる場所は左右のどちらかだ。
そこにスナイパーライフルを連続で撃ち込んでやれば良い。それで終わり。
腕の立つレイヴンならともかく、この程度の相手がそれを避けられる道理はない。

「私たちに逆らおうなんて、度胸はあったようだけど……相手が悪かった、そういうことね」

勝利を確信し、笑みを浮かべてトリガーを引き、ミサイルを放った。
だが次の瞬間、その笑みは凍りつく。
ミサイルの発射を確認するや否や、こちらへ向かって突進を開始した敵ACの――Ambitionの速度はプリンシバルが予測していたより遥かに速かった。
青い噴射炎を引き、連動ミサイルを飛び越えると尚も空を駆け、サンダイルフェザーに肉薄する。
CR-B83TP――ACが装備できる中で最高の出力を誇るブースターは、莫大なエネルギーと引き換えに、異常とも言える速度を叩き出す。
短時間しか使用できないのが難点ではあるが、使いこなせばデメリットを補って余りある性能を引き出す事が可能となっていた。

そして垂直ミサイルは敵視界外からの攻撃を目的とした物だが、欠点がある。
あまりに近すぎる場合は相手を追尾しきれず、地面へと沈んでしまう事がそれだ。
CR-B83TPが与える速度は、その欠点を突くことが十分にできる機動力をACという巨大質量に与えている。
サンダイルフェザーが慌ててスナイパーライフルを上げ――そして敵機が不規則に揺れていることに気付いて愕然とした。

左右に揺れる機体。ACのFCSは敵機の移動方向を予測し、未来に敵が存在するであろう座標を狙う。
それを利用し、左右に細かく揺れることでFCSの予測を狂わせる回避方法だ。
ある程度の連射が利く武装であれば、この回避方法を取っても徐々に被弾が増えていく。
だが、サンダイルフェザーの左手武装はスナイパーライフル。連発機工内蔵ではあるが、その数は二発までだ。当たる見込みは限りなく小さい。
ならばマシンガンはどうかと思うが、ミサイルを発射した直後なのが仇になった。
ミサイルやレールガンなどの発射間隔の長い武器に言えるのだが、FCSはそのような武器を発射後、
短時間ではあるが武器を切り替えてもFCSの管制が切り替わらず、発射ができないという事態に陥る。

迎撃が出来ずにこのまま突進すれば、高火力武装の餌食になる――

背筋を這い上がる恐怖。
比較的装甲が薄く、安定性能が低いサンダイルフェザーがバズーカの直撃を受ければ、その後に待っているのは確実な死。
無抵抗のまま雨あられと攻撃を受け、瞬く間に爆散するしかない。
反撃の手を完全に封じられ、目前に死が迫っている事に気付いたプリンシバルは、反射的にペダルを踏み込んだ。
ブースターを噴かして右へとスライドした刹那、サンダイルフェザーが突進を続けていたのならば機体が存在したであろう軌跡に、
レーザーとバズーカが相次いで撃ち込まれていた。

危機を脱しても息を付く暇は無い。
サンダイルフェザーを追う様に旋回したAmbitionは続けざまにレーザーを、バズーカを、サンダイルフェザーへ放つ。
当のサンダイルフェザーはと言えば、ブーストをやめれば蜂の巣になる事は確実であろう火線を避けながら、
マシンガンとスナイパーライフルで応戦する。
嵐のような攻撃を只管に回避し、おざなりな反撃を繰り返しながら、プリンシバルは勝機を待ち続けていた。

あれだけレーザーライフルを連射し、ブースターを使用し続けていれば必ずチャージングに陥る。そこを叩けば――
反撃の隙を与えないのは重要だが、EN兵器を使用した敵の攻撃は途切れる時が来るのだと、近距離では重りにしかならないミサイルとエクステンションを、
弾が切れたスナイパーライフルをパージして機動力を高め、ECMメーカーを放出して耐え忍ぶ。
熱が危険領域に達し、エネルギーが減少していく警告音を聞きながら、尚も。
そして、耐えに耐え、今にもエネルギーが切れようかというその時。ついにAmbitionがブースターを停止する。レーザーライフルも――放たない。
しかもバズーカも弾切れしたのか、パージした。

それを確認した瞬間、プリンシバルは打って出た。
エネルギーはこちらも空だが、発射間隔の長いバズーカだけなら余裕を持って回避できる。マシンガンとハンドガンを構え、サンダイルフェザーがAmbitionに接近し、
一気にトリガーを引いた。マシンガンが、ハンドガンが、無数の弾丸がAmbitionに襲い掛かる。

その刹那、Ambitionが上へ跳んだ。先刻のようにブースターを使用したのではない。ジャンプしたのだ。
それを追って銃身を上に向けたサンダイルフェザーが捉えたのは―――

SHADEを捨て、格納されていた携行プラズマライフルを向けている敵機。
撃てる筈が無いのに、何を悪あがきをしようとしているのだろう。
そうプリンシバルが思った瞬間、Ambitionのプラズマライフルが発射された。
頭に浮かんだのは「フェイク」という単語のみ。
それ以外の何を思うことも無く、プラズマの直撃を受けたプリンシバルはその命を終え、主を追うようにサンダイルフェザーも消滅した。

Ambitionが、バズーカを拾う。残弾は6発。チャージングに見せかけた歩行も、バズーカのパージも、全てはサンダイルフェザーの接近を促すため。
残り少なくなってきたところで停止させたジェネレーターは、目論見どおりのタイミングでプラズマライフル一発分のエネルギーを蓄え終えていた。
ややあって、クランウェルが姿を見せた。Ambitionは、ただ佇み続ける。

Ambition――その単語が意味するのは「野心」。
その名は、ACを操るレイヴンの、始まったばかりのこの24時間で剥き出しにされるであろう内心を表しているのか。
それを知るのは、当人のみである。


3


『依頼を受諾する』

送られてきたメールを確認したズベン・L・ゲヌビはほくそ笑んだ。
準備は万全、こちらにはリム・ファイアーという奥の手も存在する。
これで奴にかけられた賞金は自分の物―――
笑みが溢れ出して、止まらない。
ライウン、プリンシバルを屠ったという事からあのレイヴンに掛けられた賞金額はグッと上がった。
20000cでしかなかった賞金額は50000c――2倍以上の額だ。
だが、奴は実力でその賞金額に達したのではない。単なる偶然の賜物だ。
これを放って置けば、近い内に50000cは他のレイヴンに掻っ攫われてしまう。
放っておけるはずがない。50000もの金が、手を伸ばせば手に入るところにある。
そう考えて策士を気取るレイヴン、ズベン・L・ゲヌビは一層笑みを深くした。

「頼むぜ、高い金払って雇ったんだからな」

振り向き、暗がりに座っている一人のレイヴンへと声を掛けた。
返ってくる言葉はなかったが、ますます上機嫌でズベン・L・ゲヌビは笑っている。

自分の眼差しには侮蔑が多分に含まれていた筈だが、こいつはそれにも気付かず笑っている。

その様子がリム・ファイアーの心中にあった、ズベン・L・ゲヌビに対する軽蔑を更に増した。
この期に及んでこんな勘違いをしている様では、この男も長くはない。
他者の実力を見極める目は、レイヴンにとって最も必要とされる要素の一つだ。
今はまだ情報が不足しているが、『あのレイヴン』が危険な存在であるという可能性は既に色濃い。
そんな事も解らず、相手を侮りきり、「自分はあんな野郎にやられた間抜け共とは違う」などと思い込んでいる。
これを嘲笑せずにどうしろというのか。
端からズベン・L・ゲヌビを相手の実力を見極めるための捨て駒にするつもりだったリム・ファイアーの視線は、
氷の様にと言っても足りないほど冷たく、厳しい。

どう転んでもこの男はここで終わる。
捨て駒としての役目を全うして死ぬか、あるいは敵を討ち果たしてからバレットライフの凶弾に倒れるか――
どちらにせよ、後少しすればこの世からレイヴンが二人減る事になる。喜ばしい事だ。

ようやく、リム・ファイアーが笑った。
どことなく獣を思わせる笑みではあったが。

「おっと、来たようだ……俺一人で十分だろうが、危なくなったら加勢してくれよ」

コンソールとにらめっこをしていたズベンが立ち上がり、己の乗機に向かっていく。
リム・ファイアーはその背中に小さな笑み――嘲笑を浴びせると、自らも父の形見とも言える愛機、
バレットライフへ向かっていった。

輸送ヘリ、クランウェルからACが投下される。
今頃は攻撃を受けている様子がないのを見て面食らっているのだろう。
敵の慌てぶりを想像しにやけた表情で、ズベン・L・ゲヌビはガレージの扉を開放した。
鮮やかな紫色をしたサウスネイルを、白日の下に晒す。

これもまた、愚かな選択だったというべきだろう。
ここまでして不意を討たないというズベン・L・ゲヌビの行動は、この男の愚かさを短時間ではあるが
間近で目にしていたリム・ファイアーでさえも呆れ返らせていた。

「まんまと騙されてくれたな。お前に作戦を依頼したのは、この俺さ……そうとも知らずにおめでたい野郎だ」

おまけにいつ戦闘が始まるか解りもしない状況で無駄口を叩くという暴挙。
戦場においてあるまじき行動。その隙を、見逃してもらえる筈がない。
ロックオン警告を出して気付かれないように、火器管制を停止させたSHADEとバズーカの銃口がサウスネイルを指す。
その危険な状態に気付かず、まだ回避行動を取らないサウスネイル。あろう事か、敵から目を離しているらしい。
そして台詞が終わる前に、十分過ぎる程に時間を掛け、狙いすまされた一撃がサウスネイルを襲っていた。

「だが安心しな。すぐに―――うおっ!?」

着弾の衝撃に機体が揺れ、バランスが崩れる。
距離があったことが幸を奏したのか。サウスネイルが致命の一撃を受ける事は免れた。
だが――

『右腕部破損』

CPUの機械的な声が、右腕が鉄屑に成り下がったという事を無情に告げる。
恐るべきはノーロックでの狙撃を成功させた、敵の技量か。
レーザーは虚空を穿つに留まったが、バズーカの弾体はサウスネイルの右腕を付け根からもぎ取っていた。
右腕を失った事に気付き、慌てて回避運動を始めるサウスネイル。
コクピットに座するズベン・L・ゲヌビの目には有り余る推力を全て前進に回し、距離を詰める敵――Ambitionの姿が写っている。
それでも未だ、彼の顔には笑みが浮かんでいた。
そう、こちらには切り札があるのだから――――


リム・ファイアーは、敵機が降下した直後から周囲の警戒を始めた事に気付いていた。
依頼にあった物とは違う環境だというのに、あまりに自然に、警戒行動へと移る手際。
これだけでも相手が場慣れしている事がわかる。
自らの実力を誤魔化していたのではないかという推測は、確信に変わった。
このレイヴンは間違いなく、かなりの手練れだ。
それに引き換え――

冷めた目で雇い主であるズベン・L・ゲヌビが、防戦一方で逃げ回る様子を見詰める。
無様にも程があるというものだ。自らの過失で、開幕の一撃で腕を一本失うとは。
大体、機体の構成からしておかしいのだ。何故、両腕に射撃兵器を搭載しながら並列射撃処理を苦手とするFCS――MIROKUを使用するのか。
遠距離戦に特化した装備なのは見れば分かる。ならば、いっそのこと長距離FCSを使えば良いものを。
サウスネイルが敵機が放つ弾丸に追われ、散発的な反撃をくり返す。だが、FCSがそもそも機体に不向きなのだ。そこそこの腕があれば当たる訳がない。
逆に、敵機は的確な射撃、そして吸着地雷によりサウスネイルの逃げ場を限定し、崖へと追い詰めていく。
サウスネイルは機動力に秀でた構成である。だが、代償として装甲はお粗末なものだ。
退路を立たれてしまえばその運命は決するだろう。

近い内に、サウスネイルは鉄塊と化すのは九分九厘、間違いないと言える。
自分は奴がサウスネイルを撃破し安堵した瞬間を逃さず奇襲、そのまま弾丸の雨を浴びせかけてやれば良い。
よしんば撃破されずに逃れたとしても、機体の損傷は避けられまい。少なくとも戦闘を有利に運ぶ事は出来る。

レイヴンを根絶する。それが自分の―――リム・ファイアーの存在意義。
この世にレイヴンなどというものは、不要な存在。誰一人として逃がす訳には行かない。
虎視眈々と、リム・ファイアーは時を待つ。

―――おかしい。

必死に攻撃をかわしながら、ズベン・L・ゲヌビは思う。
これ程までに自分が追い詰められているというのに、リム・ファイアーは動く素振りを見せていない。

時間稼ぎとしてミサイルを放ち距離を取ろうとするが、敵機の速度はサウスネイルの後退速度を上回り、
徐々に詰まる間合いが更なるが焦りを喚起する。悪循環だ。
ズベン・L・ゲヌビはその事に気を取られて気付いていないが、サウスネイルの直ぐ後ろには崖が迫っていた。
もう少し周囲に目を遣っていれば、彼の寿命も若干ではあるが延びたかもしれない。
だが、ズベン・L・ゲヌビの頭は疑心暗鬼と焦りに覆い尽くされている。そんな事が出来る筈もなかった。

一人で十分だと思っていたのが、とんだ思い違いだったという事は分かる。
自分が相手の実力を見切れなかったのも、百歩譲って認めよう。
しかし、そういった場合の事も考えてリム・ファイアーを雇ったのだ。それが何故、まだ動かない?
まさか見捨てるつもりじゃ―――

そこまで考えたところで、不意に後退を続けていたサウスネイルを衝撃が襲った。
被弾とは違う揺れ方に慌てながらも、機体状況をチェックする手際は意外なほど速く、迷いも無い。
この男はこれでも強化人間の端くれだ。この程度の処理なら時間など不要とも言える。
一瞬と言っても差し支えない短時間でチェックを終え、何が起こったかに気付いた直後、
彼は全身の血の気が音を立てて引いていくのを、ハッキリと感じていた。

――メインのブースター出力が低下している。

距離を取る事ばかりを考えながら行っていた起動は、かなりの速度でサウスネイルを背中から壁面に衝突させていた。
その事により、コア後部に装着されたブースターも壁に叩きつけられ、決して軽くは無い損傷を負ったらしい。
申し訳程度には稼動しているが、回避運動――いや、長時間の滞空をすることすら難しいだろう。

「じょ、冗談じゃ……」

無いと言う声を発する前に放たれたレーザーが、左腕間接部に着弾し、メインシャフトを破壊する。
だらりと垂れ下がった左腕は、もうただの重りでしかない。
我知らず、ズベン・L・ゲヌビは助けを求める叫び声を上げていた。


「終わり、か……」

リム・ファイアーは呟き、コンソールに手を掛けた。
元より結果の見えていた勝負ではあったが、よもや、崖にぶつかる等と言う事で勝負が決するとは。
ブースターが破損している現状では、ロックサイトの内側に敵機の影を捉える事すら出来まい。
まさに俎板の鯉だ。ただ、そんな諺をリム・ファイアーが知る筈はなかったが。
操縦桿を握りなおす。
もう直ぐだ。もう直ぐ、始末できる。

「さあ、無防備な姿を晒せ……!」

奴がサウスネイルを鉄塊に変えた時、カウントダウンが始まるのだ。死への秒読みが。
だが、その瞬間。左腕を貫かれたサウスネイルが発した通信が、ズベン・L・ゲヌビの裏返った声が、
その目論見を完膚なきまでに破壊してのけた。

『お、おい何をやってんだ! 早く加勢――』

一瞬にしてリム・ファイアーの表情が憤怒へ変わる。
愚か者が皆まで言う前に、バレットライフは動き出した。ガレージの扉に弾丸の雨を浴びせ、破壊を試みる。
片一方は間髪入れずに弾け飛んだものの、右側の扉は無数のへこみを作りながらもしぶとく生き長らえていた。
このままでは機体の一部が引っかかり、抜け出す事は難しい。だが、その扉が見えていないかのようにバレットライフは出口へと突貫する。
半死半生というのが相応しい状態の扉が、バレットライフの前足に蹴り破られて役目を終え、単なる鉄板に成り下がった瞬間。

バレットライフの潜んでいたガレージにバズーカの弾頭が着弾、天井を崩落させた。

リム・ファイアーが一瞬でも躊躇していれば、バレットライフは半生き埋めの様相を呈していたに違いない。
そして、二射、三射と浴びせかけられる砲撃がそう時間も置かずにコアを射ち貫いていたであろう。
そうならなかったのは、リム・ファイアーの判断の早さが常軌を逸していたからだ。
強化人間、彼らは人間を遥かに上回る能力を持った者たち。その力の片鱗なのかもしれない。

扉を蹴り破った勢いを殺さないまま、バレットライフはAmbition、そしてサウスネイルへと肉薄していく。

『言われなきゃ出てこないのかこの無能が! 何のために高い金払って――』

ズベン・L・ゲヌビの安堵と怒りがない交ぜになった声。何を勘違いしているのか。
援護するために出てきたとでも? こいつ自身の言葉を借りるならば、つくづくおめでたい人間だといったところか。
自分があえてレイヴンになったのは、レイヴンと言う存在を否定するため。決して、その手伝いをするためではない。

「助けるつもりなど元よりない……!」

ズベン・L・ゲヌビの辞世の句となるその言葉を最後まで聞かぬまま、リム・ファイアーはトリガーを引いた。

バレットライフの両腕を飾ったWH03M-FINGERは、複数の弾丸を拡散して発射するマシンガンだ。
比較的遠距離から発射すれば、相手を包み込むような弾幕を張る事が可能ではあるが、単発の威力の低さから、有効な使用方法ではない。
限界まで接近しての射撃。それこそがWH03M-FINGERの本来の使用法といっても良い。
それを両腕に保持したバレットライフは近距離射撃ならば中量級ACを、零距離ならば重量級ACですら、瞬時に鉄屑へと変え得る。

間合いを詰めていったバレットライフが銃声を轟かせたのは比較的近距離ではあるが、砲火はふわりと広がり、二機のACを飲み込もうとその勢力を増している。
いち早くその動きを察したのか、始めから警戒していたのか。Ambitionはブースターを使い、当然のように弾丸が埋める空間から脱していた。
だが、ブースターを使用できないサウスネイルはどうなるか。FINGERが連射されていたのは僅かな時間であり、弾の密度もそれ程高くない。
しかし、元々装甲が厚くないサウスネイルに止めを刺すには銃弾の数は十分だった。
頭部を、脚部を、コアを。放たれた弾丸が叩き、数多くの穴をサウスネイルに穿っていく。
まさに蜂の巣というのが相応しい状態で倒れこんだ機体は、爆発だけは免れていた。
だがしかし、搭乗者の肉体は既に真っ赤な血煙と化している。運悪く破損箇所からコクピットに飛び込んできた弾頭が、コクピット狭しと跳ね回った結果だった。

倒れ伏すサウスネイルを一顧だにせず、バレットライフとAmbitionは向かい合う。
この程度の小物にいちいち構っていられない。重要なのは――この相手がどう出るか。
奇しくも同じ事を思い、それを見極めるように睨み合う二機からは、濃密な殺気が漂い始めている。
思いついたように、リム・ファイアーが言葉を紡いだ。

「あの一瞬で、俺がどこに潜んでいるかを見抜くとはな。いや、最初から伏兵を警戒していたのか?」

『……最近、奴がレイヴンを迎え入れたとの情報は手に入れていた。奴が現れた時点で警戒はしていたが、雇い主が窮地に立っているというのに
 出て来なかったからな。存在を確信するには至っていなかったが、あのガレージに目は付けていた』

言葉を交わしながら、一歩踏み出すバレットライフ。あわせるように一歩引く、Ambition。

「……その情報屋の腕を誉めるべきか。それとも……秘匿するべき情報を掴まれた上に、味方の存在を示唆した奴の愚鈍さを笑ってやるべきか。どちらが正解だ?」

『両方だ。付け加えるなら、最初から罠だと分かる依頼を出した点と……そのついでに、目論見を潰されたお前も笑ってやる。リム・ファイアー』

相手の言葉の途中で、バレットライフが跳んだ。
リム・ファイアーの暗い愉悦と殺意を宿した狂おしい程の瞳の輝きが見据えているのは、討ち果たすべき敵――レイヴンのみ。

「結果的には目論見どおりになる。ここでお前を始末すればな!」

言い終わる前に放たれたのはWH03M-FINGERの同時射撃。
言葉を紡いでいる最中というのは、意識していてもいくらか注意力が削がれるもの。
そこを狙った一撃ではあったが、群雲の如き銃弾は虚空を穿つ。
そして、反撃に放たれた一条の光もまた、バレットライフを打つ事無く、空しく消えた。

い縋るバレットライフと、逃げるように距離を離すAmbition。
双方が、自らが優位に立てる間合いを維持しようと動き出した。
CR-B83TPの生み出す速度の面で勝るAmbitionと、強化人間故のエネルギー効率の良さにより持久力で勝るバレットライフ。
戦闘が長引けばどちらかが必ず息切れを起こす。
それは恐らくAmbitionが先だ。となれば、バレットライフが勝利する可能性は色濃くなるだろう。
故に短時間で決着をつけるのが望ましいが、接近戦などしよう物ならば―――雨霰と降り注ぐ弾丸の前に、サウスネイルと同じ無様な屍を晒すことになる。
決して、状況は良くはない。いや、状況は間違いなくAmbitionに不利であった。


両腕のマシンガンを温存し、バレットライフはミサイルとチェーンガンによる攻撃を続ける。
未だ双方被弾は無し。レーザーライフル、バズーカといった単発武器ならば回避する事はそんなに難しい事ではない。
相手がレーザーライフルを撃てば撃つほど逃げ回っていられる時間は少なくなるのだから、下手にレーザーを放つ事は有り得ない。
それもあって、バレットライフへの砲火はインサイドの吸着地雷とその合間を埋めるバズーカのみであり、おざなりな物だった。
逆に、バレットライフからAmbitionへと向かう砲火は熾烈を極めている。
乱射されるチェーンガン、襲い来る多数のミサイル。足を止めよう物なら、その瞬間に鉄屑となるのが目に見えるようだ。
しかしそれを避け、あるいは遮蔽物を利用し、時にはミサイルの追尾機能を逆手にとって地面へと衝突させ、悉く凌いでいるAmbitionの乗り手もまた並みの腕ではない。

リム・ファイアーの作戦はシンプルな物だ。
有効射程に捉え続け、決して相手を休ませない。それを行うためにはこちらも休みなど無いに等しいが、息切れを起こすのは向こうが先だ。そこを叩く。
本来バレットライフは持久戦用のACではないが、必要であればこういった戦い方も出来るようになっている。

ただ、気になるのはジェネレータとブースターが生み出す熱。
強化人間の処理能力でも抑えきれない高発熱量。それはバレットライフの抱える欠点の一つ。
常人が扱おうとすれば、即座に機体温度は限界を超え、満足に動く事すらできなくなる程の凄まじい高熱を発する。
そして、今もジワジワと上昇を続ける機体温度がレッドゾーンに突入すれば窮地に立たされるのは自分の方だ。
通常の人間ならば命あってこそ、とばかりにこの不毛な追撃戦を打ち切るだろう。
一撃でも被弾し、機体温度が上昇すれば死ぬことになるのは自らなのだから。

だが、この場にいるのは余人では持ち得ぬ執念をその身に宿した男である。

「観念しろ……レイヴンなど不要な存在なのだ……!」

低く呟いたリム・ファイアーの顔を埋めるのは、目の前の獲物を何処までも追う、飢えた獣の表情であった。




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