その町は瓦礫になった。灰色の粉塵と煙で空も曇ってしまった。
 たった一人のレイヴンによってその徹底的な破壊はもたらされた。
 殆どの住民は、死んでしまった。
 ACに撃たれて死んだ訳ではない。
 究極的には彼なくして人が死ぬことはなかったが。
 彼の放った榴弾によってビルが爆発し、アスファルトが飛び散り逃げ惑う住民の頬にあたった。
 あたしは死にたくない。住民同士の小競り合い。よってよって、互いに殺しあって、死んだ。死んだのだ!
 他人。知人、友人。夫婦に兄弟姉妹、家族同士。昨日愛し合い今日結婚するはずだった恋人同士でも!
 誰も彼もが! ともにともに!

 ACの放つ爆音が途絶えた、人々の叫びも聞こえなくなる頃。
 たった一人の少女が、彼女だけが生き残ってた。
 生き残った彼女はぼうーっと、ほのかに熱をもっている瓦礫畳の上に
 ぺたんと座って、くすんだ空を片目で見上げていた。
 見上げていた空から降り注ぐかすんだ太陽の光の柱が突然遮られれた。
 少女は、破壊をもたらしたレイヴンの乗った、ACを見た。カラスのようにまっ黒だった。 
 特徴的な潰れた頭、そして逆足。腕に持つは、バルカン砲。
 肩に担ぐは、軽量のキャノン砲に、まだ殺すかと追加弾層。
 その上から、まっ赤な斑が。
 べたべたと塗られていてまるで血が飛び散ったように!

 電機の殺戮者が少女に目を向けた。カメラ・アイが彼女を凝視する。
 まるで嗤うようにACは目玉を点滅させ、右手のバルカンに残った最後の一発を天球に向けて撃った。ガラスが割れた。
 空が割れた。ガシャンという音がして。世界は暗黒になった。
 暗黒の中で、あかりはACだけだった。
 まっ赤な人殺しの眼だった。彼は次第に遠ざかった。
 まっ青なプラズマ光が尾を引いた。

 着崩れたパジャマ。カラードネイルはベッドから落ちて、頭を床にしこたま打っていた。
 彼女はすくっと立ちあがり、ブラインドを上げた。
 強烈な光の帯が、彼女と彼女の部屋を照らす。洗濯物が散らばっていた。
 食べ終わったカップメンもそのままだった。
 テレコールのLEDが点滅していた。
 よく整備された拳銃がテーブルの上で未だ照準してはおらぬ獲物を今かと待ち構えていた。
 よだれが垂れていたので、袖で拭いた。朝だった。彼女が見る最後の朝かもしれなかった。
 太陽が燃えるように盛り狂い、地球の半分を照らしている。月がもう半分。
 彼女の育ったレイヤードには無かった自然の巨大な星。しかしながらその巨大も大宇宙の中では針の先にも満たない小ささ。
 今起こっている、レイヤード人類存亡を掛けた危機さえ、その針の先の上で踊るミジンコなのだ。 
 カラードネイルは左頬を触った。金属の冷たい感覚、しかれども自分自身の身体である彼女自身の誇り。
 獲物に、確実に、逃さぬ刃を突き立てる為に。決して隠さない。誇りであり、証しだ。
 ゼロを殺して、カラードネイルが最強になる。彼女の中の最強に、彼女はなるのだ。

 少女は大人になり、復讐者《アヴェンジャ》になった。
 彼女の憎んだ傭兵に、彼女は身を落とした。ゼロを殺す為に、戦場のハゲタカ、レイヴンに。
 戦場を巡り、または作り出し、金を貰うアイツとおんなじ、おんなじレイヴンに!
 脱いだパジャマをそのままに。髪をゴムで纏めて、濡らしたタオルで体を拭いた。
 そしてパイロットスーツを身につけて、テレコールの受話器を取った。
 「了解」のたった一言。
 人類の終焉へのカウントダウンは開始された。
 作戦は開始されたのだ。

 レイヤードの管理者《DOVE》の打ち立てた人類再生プロジェクト『ブライゲード以前』。
 我々人類は、彼女を倒し、地上に出て暮らすようになったのは、今より少しばかし遡る。
 人類の開放に反対する企業を打ちのめした一人のレイヴンが、管理者の中枢へ特攻して、太陽降り注ぐ大地への帰還口を開いた。
 《DOVE》が用意し、かつてのレイヴンの開いた門。それは再び閉じられようとしている。

 人工知能『AI』が暴走を始めた。
 暴走した彼等は、サイレントラインの中心地、もう一つのレイヤード、『オールドコート』に集結した。
 何者かによって再起動された旧世代の遺産の衛星砲は取り押さえた。
 が、レイヤード以前の超科学兵器は我々の科学では手に負えぬ。
 到底理解出来ぬ技術と理論で作られていた。故、何者がその動かし方を知っているだろうか。
 地上では、無人兵器達の攻撃は激しく、二大企業『ミラージュ』『クレスト』は応戦するも防戦一方。
 無人兵器にはパイロットがいらないが、企業側には人が必要だ。兵器はいくらでも作れるがパイロットが足りないのだ。
 『キサラギ』は、その他の中小をまとめて、ネット回線での情報戦を行っていたが、相手は疲れ知らずの機械が無数、勝ち目などあるはず無かった。
 あるレベルより上級の人工知能が、最早人類には無いのだから、手作業でやるしかないのだ。
 ただこれが初めて企業たちの利権というか、意思が一つになった瞬間だった。
 これが平時に起こってくれていれば、このようなことにも対処できたというものを。
 人には時間が必要だ。機動兵器に乗るにしても、何にしても。そして危機が、全員に一致した絶望が。
 それがこの泥沼の戦場にあった。

 傭兵派遣企業『グローバルコーテックス』は依頼を受けた。人類総意の依頼だ。
 『電気発火《スパーク》プラグ』と名づけられたその作戦。失敗《ミスファイヤ》すれば、人類の滅亡を意味する。
 カラードネイルの参加する第一段階はAC載せた岩盤貫通用のドリルロケットに施設にブチ抜き侵入、第二陣の侵入口を作り出す。
 第二段階は、潜航した第一陣を援護しながら、第一陣と交代して施設を一挙に占拠する。
 とても正気とは思えぬ作戦だった。が、これは絶対に成功させなくてはならない作戦だ。
 レイヴンは敵の本拠地を一気に叩き、これを爆破せしめるべし。

 こんな今でもレイヴンの権利と言う物はあり、拒否は出来る。が、彼女はそのミッションを受諾した。
 第一陣はどうみても死ぬ確立が高いだろう。第二陣よりか報酬は高いとしても、割には合わない。
 しかし、カラードネイルには、割に合った。ゼロも第一陣へ志願したのだ。
 アリーナでは、彼の元へたどり着かなくては、殺すことが出来なかったが、ミッションでは別だ。  
 敵同士なら勿論、味方としてでも、攻撃して殺してしまえばよかった。
 千災一隅のチャンスだ。そのチャンスがこんな時にやってくるとは、運命とはなんというものなのか。
 ただ彼女も心得ている。作戦を成功させてからゼロを殺す。ちゃんと分かっているのだ。ちゃんと。

 カラードネイルはぶつぶつと呟きながら、ヘルメットを被り、コクピットハッチを閉鎖した。
 黄色に輝く計器の灯りでコクピットは一杯になった。
 カラードネイルは、コンソールにパスコードを打ち込み、音声入力。それはミッション開始の一斉だ。

 「発動せよ、グラッジ!!」

 デジタルタコメーターの針が三回転して止まり、排気口から、重水の蒸気が吹き出る。
 AC:グラッジの平べったい頭部の青い眼が、更に輝きを増す。
 感覚が接続され、視覚が送り込まれてくる。感情の無い、鉄の、ACが、わたしになる。
 感覚が、冷たい感覚が、灼熱するジェネレータによって消えていく。
 変わる。人としての、それではなくて、違う、これは、鉄の感覚に私が鉄だ。
 機械の身体の一部になって、わたしはわたしを命令しているんだ。
 わたしは、機械だ。兵器だ。鉄だ。
 そして殺すのだ!
 ゼロを!
 否定してやるぞ……貴様を全部。

 《作戦行動を認識:群がる敵の破壊→後続隊への引継ぎ:OK?》
 「OK」
 《エネルギー充填率120%オーヴァー》
 《擬似プロメテ回路へ、余剰ENをバイパスします》
 《武器管制システム:オールグリーン。電力入力出力テスト:突破》
 「あんたの名前はグラッジ。あたしはカラードネイル。これからあんたはあたし」
 《了解、マイ・マスター・レイヴン》
 「システム、起動」
 《メインシステム 戦闘モード起動します》

つづく





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