バーテックス統括者、ジャック・Oは、深い溜息をついた。
アークの上層部を徹底排除し、自らが管理するものとなってからは、
気が休まる時間など無かったのである。
アークの上層部を徹底排除し、自らが管理するものとなってからは、
気が休まる時間など無かったのである。
「今年も終わりか」
部屋の窓は薄く曇り、外は見えなかった。
いかつい掌で窓ガラスを擦ると、その先には幾多数多の星が光を放っている。
空気が澄んでいるのだろう。よく冷えるが、よく見える。
部屋の窓は薄く曇り、外は見えなかった。
いかつい掌で窓ガラスを擦ると、その先には幾多数多の星が光を放っている。
空気が澄んでいるのだろう。よく冷えるが、よく見える。
唐突に、自動ドアのロックが解除される。
誰であろうか、このような時間に。
誰であろうか、このような時間に。
「ジャックよ、今年はどうであった」
大老が一升瓶を片手に笑っていた。
「邪魔をする」
ライウンは無愛想に鍋を手にしている。
「・・年明け前の一杯、だそうだ。おめでたい連中だな」
悪態をつきながらも、どこかソワソワしているオメガ。
「そういうな。大老に落下玉を貰ったんだから」
片手に蕎麦の材料を一式もってオメガを諭すファウスト。
「ジャック、めでとう」
微妙な言葉で挨拶をしてくるンジャムジ。
大老が一升瓶を片手に笑っていた。
「邪魔をする」
ライウンは無愛想に鍋を手にしている。
「・・年明け前の一杯、だそうだ。おめでたい連中だな」
悪態をつきながらも、どこかソワソワしているオメガ。
「そういうな。大老に落下玉を貰ったんだから」
片手に蕎麦の材料を一式もってオメガを諭すファウスト。
「ジャック、めでとう」
微妙な言葉で挨拶をしてくるンジャムジ。
皆が皆、バーテックスの主力メンバーである。
とはいっても、やはり人間だ。年越しは皆で行う、と集まったのだろう。
どこまでいっても人間臭い奴らである。
とはいっても、やはり人間だ。年越しは皆で行う、と集まったのだろう。
どこまでいっても人間臭い奴らである。
そうして、ジャックの部屋で鍋を炊き始める。
年越しの蕎麦、とは聞いたことがあるが、鍋は聞いたことが無い。
どうしたものかと考えていると、ファウストが口を開いた。
年越しの蕎麦、とは聞いたことがあるが、鍋は聞いたことが無い。
どうしたものかと考えていると、ファウストが口を開いた。
「蕎麦は何も、一つの器に一玉の麺を泳がすだけでは無いのですよ。
こうして野菜、豆腐、しいたけ、鶏肉を煮込み、最後に蕎麦を入れる。
我々が食しながら、味を調えていくこの過程。
それを楽しむことができるのが、鍋です」
こうして野菜、豆腐、しいたけ、鶏肉を煮込み、最後に蕎麦を入れる。
我々が食しながら、味を調えていくこの過程。
それを楽しむことができるのが、鍋です」
鍋の中には、何も入っていない。
しかし、この鍋は厨房で見かけるものではなく、
随分と使い込まれた逸品である。
しかし、この鍋は厨房で見かけるものではなく、
随分と使い込まれた逸品である。
「では、野菜を入れていきます」
ファウストが手際よく野菜をお湯に浸していく。
独特の風味をかもし出しつつも、野菜は煮立つ湯に身を預けていく。
ファウストが手際よく野菜をお湯に浸していく。
独特の風味をかもし出しつつも、野菜は煮立つ湯に身を預けていく。
その後も続いて、材料を入れていく。
こいつはレイヴンにしておくには勿体無いとも思うが、
今だ復帰した理由がわからない以上、余計な口出しも無粋というものだ。
こいつはレイヴンにしておくには勿体無いとも思うが、
今だ復帰した理由がわからない以上、余計な口出しも無粋というものだ。
「後は、しばらく待っていればいいです」
そうして、ファウストは床につき、熱燗をあおった。
皆が皆、それぞれ持ち寄った食物を口にし、鍋が煮立つまでの空白を埋めていた。
しかし、ファウストは出汁を取らなかったが、そこらへんはどうなのだろうか。
そうして、ファウストは床につき、熱燗をあおった。
皆が皆、それぞれ持ち寄った食物を口にし、鍋が煮立つまでの空白を埋めていた。
しかし、ファウストは出汁を取らなかったが、そこらへんはどうなのだろうか。
「ジャック。私は、いつ如何なるときも、この鍋で煮込み、食してきました。
出汁はあえて取らなかったのです」
出汁はあえて取らなかったのです」
そういって、ファウストは煮立ったお湯をお玉で掬い取り、小皿にうつした。
そして、その小皿を差し出してきたのである。
そして、その小皿を差し出してきたのである。
小皿を手に取り、口にしてみる。
「・・・これは」
無味無臭のお湯であると思ったそれには、しっかりとしていて、
それでいて爽やかな味があった。
幾多数多の素材のうまみが、そこには凝縮されていたのである。
無味無臭のお湯であると思ったそれには、しっかりとしていて、
それでいて爽やかな味があった。
幾多数多の素材のうまみが、そこには凝縮されていたのである。
「使い続けた鍋は、ステンレスには出せない味があるんです」
さすがに、これには参った。
さすがに、これには参った。
「では、蕎麦をいれましょうか」
ファウストは、包みから蕎麦を取り出す。
蕎麦粉が未だに香りを発している。正直、お前は転職をしたほうがいいと思う。
ファウストは、包みから蕎麦を取り出す。
蕎麦粉が未だに香りを発している。正直、お前は転職をしたほうがいいと思う。
あの爽やかな旨みの出汁の中に、この蕎麦が入ることを想像すると、
正直、胃の収縮速度が促進されてしまう。
他のものも、いまかいまかと酒を煽っているが、待ちきれなさそうだ。
いつのまにか、皆は煮立つ蕎麦の香りに酔い痴れていた。
酒の力ではなく、食物の潜在能力を持って人を酔わすとは。
正直、胃の収縮速度が促進されてしまう。
他のものも、いまかいまかと酒を煽っているが、待ちきれなさそうだ。
いつのまにか、皆は煮立つ蕎麦の香りに酔い痴れていた。
酒の力ではなく、食物の潜在能力を持って人を酔わすとは。
「そろそろいいでしょう」
そうして、大き目の器に蕎麦と葱、鴨肉を入れていく。
最後に赤い香辛料のようなものを入れていたが、なんだろうか。
気になりながらも、皆に蕎麦がいきわたった。
そうして、大き目の器に蕎麦と葱、鴨肉を入れていく。
最後に赤い香辛料のようなものを入れていたが、なんだろうか。
気になりながらも、皆に蕎麦がいきわたった。
「いただきます」
皆が皆、手を合わせ、蕎麦に手をつけはじめた。
良い香りがする。
まずは出し汁を一口。
皆が皆、手を合わせ、蕎麦に手をつけはじめた。
良い香りがする。
まずは出し汁を一口。
「・・見事だ」
「これは、さすがファウスト。良い味を出す」
「これは、さすがファウスト。良い味を出す」
鍋に染み付いた旨みが、出し汁に現れていた。
濃くもなく、薄くも無く、絶妙な味のバランス。
どこか酒の風味を感じられ、ぴりりとした辛味がある。
濃くもなく、薄くも無く、絶妙な味のバランス。
どこか酒の風味を感じられ、ぴりりとした辛味がある。
「ああ、酒は先ほど大老が持ってきたものを少量。
辛味は『もみじおろし』と呼ばれるもので、蕎麦屋秘伝のモノを用意しました」
辛味は『もみじおろし』と呼ばれるもので、蕎麦屋秘伝のモノを用意しました」
「・・レイヴンの仕事じゃないだろ」
といいつつも、箸を止めないオメガ。
「美味いな。ウマイ」
ライウンとンジャムジも、その味を噛み締めていた。
蕎麦の食感、出し汁との調和は絶妙で隙がなく、
噛み締めるたびに蕎麦の風味を感じられる。
出し汁と蕎麦、どちらが自己主張をするわけでもなく、お互いを理解した上での味。
といいつつも、箸を止めないオメガ。
「美味いな。ウマイ」
ライウンとンジャムジも、その味を噛み締めていた。
蕎麦の食感、出し汁との調和は絶妙で隙がなく、
噛み締めるたびに蕎麦の風味を感じられる。
出し汁と蕎麦、どちらが自己主張をするわけでもなく、お互いを理解した上での味。
気が突けば、鍋の中身は空になっていた。
もう一杯食べたかったのだが、年越しには丁度良いか。
もう一杯食べたかったのだが、年越しには丁度良いか。
「ごちそうさま」
そうして、年越し蕎麦を食し終えた。
まさかの鍋蕎麦といったところだが、これはこれで素晴らしいものであった。
そうして、年越し蕎麦を食し終えた。
まさかの鍋蕎麦といったところだが、これはこれで素晴らしいものであった。
「来年は、どうなりますかね」
ファウストが、お茶を出しながら口にする。
「・・・戦いは続くであろうな」
烏は日本酒をちびちびとやりながら言う。
ファウストが、お茶を出しながら口にする。
「・・・戦いは続くであろうな」
烏は日本酒をちびちびとやりながら言う。
「・・そうだろう。しかし、如何なる戦士も、休息は必要というものよ」
そのとおりだ。戦士は常に心の余裕を削っている。
少しでも和らぐときがあるのならば、それを利用しない手はないのだ。
そのとおりだ。戦士は常に心の余裕を削っている。
少しでも和らぐときがあるのならば、それを利用しない手はないのだ。
「・・来年もよろしく」
ジャックが口を開くと、鍋を囲みながらも、皆が敬礼をしていた。
それぞれ手にした御猪口をあおり、バーテックスの年越しは幕を閉じたのであった。
ジャックが口を開くと、鍋を囲みながらも、皆が敬礼をしていた。
それぞれ手にした御猪口をあおり、バーテックスの年越しは幕を閉じたのであった。
終