「エネルギー弾連射兵装?」
コーヒーを口に運ぼうとした手を止め、今しがた目の前の職員が言ったばかりの単語を反復する。
「そんなものが開発されてたのか」
「まだ実験段階の兵器ではありますが。今回あなたには、その実践テストを行っていただきたいのです」
「やれやれ、久々の仕事が、モルモットとはね……」
男はミラージュ専属のレイヴンだった。レイヴンネームはアルタイル。
MT上がりだが腕は確かで、蒼い塗装を施した彼の愛機ガニュメデスは“蒼い大鷲”と呼ばれ恐れられていた。
しかし恐れられているといってもそれは他の企業からのこと。
グローバルコーテックスに所属している純粋なレイヴン達はおそらく、蒼い大鷲の通り名どころかアルタイルの名前さえ知らないだろう。
つまり、コーテックスに所属するレイヴンに比べれば、彼の腕前は決して優秀とは呼べるものではなかったのだ。
アルタイルの雇用主であるミラージュもそのことは重々承知しているようで、企業間の抗争が激化、高ランクレイヴンが投入されることも少なくない昨今、彼を出撃させるならば他のレイヴンを雇う、といった事態が増えていた。
そして久々にミラージュから仕事が来たと思ったら、これである。
「まぁ、どうせ暇なんだから受けてやるけどね。日時はいつだ?」
「明後日の、1100から開始します。場所は我が社の演習場です」
「ああ、分かった」
説明すべきことを全て話し終えた職員は、自分のコーヒーカップを空にすると、ゆっくりと立ち上がった。
「あなたには期待していますよ。何しろ、他のものではろくに扱うこともできないでしょうからね」
「何?それはどういう意味だ?」
職員は背を向けたまま答えず、アルタイルの言葉から逃げるように、足早に部屋を去って行った。
「……やれやれ、やっぱり受けるべきじゃなかったかもな」
「おはようございます、アルタイルさん」
「ああ、おはよう」
午前十一時。時間丁度に屋外の演習場に現れたアルタイルは、職員の後ろに佇む、重量二脚タイプの機体を見上げた。
「これが……実験用の機体か?」
「ええ。そして右腕に装備されているあの武器が、先日お話しした実験兵装、MWG-XEG/600です」
職員が指差す先、そのパーツを見てアルタイルは我が眼を疑った。
三本の銃身が一門の砲身となったガトリングタイプのバレルは、よしとしよう。
しかし問題はそのバレルが取り付けられている銃身本体だった。
「これは、本当に腕部兵装なのか……?」
アルタイルだけでなく、このパーツを初めて見た者ならば、必ずその言葉を口にしただろう。
両肩用兵装と言われても納得するほどに巨大な塊がそこにあった。
試作品のため、塗装はまだ施されていないのだろう。
素材本来の銀色一色の塊は、まるで棺桶のような形をしており、あらゆるところから訳の分からない部品が飛び出しては再び塊の中に入り込んだりしている。
そして機体のコアの前を横切る形で、棺桶から一本長い棒が飛び出していた。
「まだ試作段階のため、ほとんどのパーツが小型化できておりません。そのため、両手で持たなければ支えきれないほど巨大になってしまいました」
しまいました、じゃないだろう。
「それにしてもこの大きさは……威力は、この図体に見合うものなんだろうな?」
そう訊くと、職員は目線を逸らして言葉を濁らせた。
「……もういい、試作段階だから、ということにしておく」
「そう言ってもらえると、助かります」
機体を眺めていたアルタイルが、あることに気付く。
「おい、あれは何だ」
指差す先には、棺桶から飛び出した太いコードの束のようなものがあった。
その束は再び棺桶の中に戻るということはせず、そのまま機体の背後まで伸び、両肩に装備された巨大な円筒型のパーツに繋がっていた。
「ああ、あれはエネルギー供給用のコードと、補助ジェネレーターです」
「補助ジェネレーター?」
初めて聞く単語に、首をかしげる。
「こちらとしてもエネルギー弾を連続して発射させるというのは初めてなため、まだ効率的なエネルギー変換技術が確立されていないのです。現在の技術では、どうしても連射の際に余分なエネルギーを消費してしまうのが現状で……」
「あっという間にジェネレーターはすっからかん、それを補うためのパーツ、ということか」
「ええ、そういうことです」
腕を組んだまま、大きくため息をつく。まだ実験は始まっていないというのに、アルタイルの顔には疲労が感じられた。
「予想以上に問題だらけだな」
「面目ない……」
消え入りそうな声とともに、職員が小さくなる。
「まぁ、言ったところで仕方無い。さっさと始めよう」
「こちらアルタイル。実験機、戦闘モード起動完了」
「了解。指定位置に着いたらターゲットのMTが現れますので、順次撃破してください」
職員は、演習場の管制塔に移動、そこから機体を見下ろす形で指示を出していた。
「了解、指定位置まで移動する」
そう言ってフットペダルを踏み込むと、実験機はゆっくりと歩き出した。
「こりゃあ……予想以上に重いな」
普段から重量二脚を愛用しているアルタイルだが、ここまでゆっくりと歩く機体は初めてだった。
試しに左右に旋回させてみたが、その速度は絶望的に遅い。
「重量過多ぎりぎりですからね」
「まずはこの重量を何とかして欲しいな」
「そのための実験ですから……」
小型化に実践テストは関係なくないか、と思いつつも、アルタイルは機体を指定位置まで歩かせる。
「位置に着いた。始めてくれ」
「では、カウント開始します。3、2――」
1は聞こえなかった。正確には、発せられなかった。
「どうした?」
「れ、レーダーに反応!こちらへ急速に接近する機影が多数!」
「何だと!?」
「10時方向です!迎撃してください!」
「この機体でか!?」
「実戦レベルの威力は有しています!」
「威力だけありゃいいってもんじゃねえんだぞ……」
機体をゆっくりと旋回させ、指示された方向を見ると、確かにメインモニターに映し出される多数の戦闘機らしき影が見えた。
「おそらく本社に攻撃を仕掛けるつもりでしょう。全て撃ちおとしてください!」
「言われなくても今からやるよ!」
機影をロックサイト内に収めるが、距離が足りないのかロックオンされる気配はない。こちらへ飛んでくる機影が段々大きくなるばかりだった。
「まだか……」
ピピッ。
ロックオンを告げる電子音とともに、先頭の一機にロックオンマーカーが被さる。
それを確認したアルタイルは、頭で考えるよりも早く、体がトリガーを引いていた。
放たれたのは、機体の色と同じ、蒼い光条。
通常のレーザーよりも短い光条が、目にも止まらぬスピードで連射、戦闘機に降り注ぐ。
撃ちこまれた光条の一本一本が戦闘機に大きな焼け跡を残し、たちまち戦闘機は空中で爆散した。
「なんだ、こりゃぁ……」
威力に対して言ったのでもなければ、連射速度に対して言ったのでもない。
発射の際の、エネルギー消費量に対して言ったのだ。
通常の大容量ジェネレーターに加え、補助ジェネレーターまでも装備しているはずの機体のエネルギーは、今のたった一度の射撃でその全容量の三分の一を消費していた。
「こんなもん、補助ジェネレーターが無けりゃ一瞬でチャージングだぞ」
チャージングに陥ればこちらの負けだ。
編隊を組んで飛行してくる戦闘機群に対して、極力一度の弾数を抑えるようにしながら撃墜する。
おかげで一度に三分の一も消費するということはなかったが、それでも一機撃墜する度にエネルギーゲージはプラズマライフル一発分ほどの量を減らしていた。
いや、実際の数値としては、プラズマライフル三発分ほど、といったところだろうか。
「とんだ穀潰しだぜこいつは」
何度も毒づきながら戦闘機を撃墜するが、編隊が途切れる様子はない。
それどころか編隊を組む戦闘機の数が増し、一度に撃墜すべきターゲットが増えてきていた。
「おい管制塔!やべえぞ!」
「どうしました?」
「エネルギーの回復が追い付かなくなってきた!これじゃその内チャージングだ!」
「なんですって!?」
おそらくこれらの試作パーツ群は、装備時、待機時のエネルギー消費量も膨大なものだったのだろう。
出力を削りに削られたジェネレーターのエネルギー供給量は、もはや向かい来る戦闘機群に対抗できなくなっていた。
「援軍は来ねえのか!」
「現在、本社周辺に防衛部隊を配備中です!配備完了まで耐えてください!」
「クソッ!」
アルタイルの脳が、指先にさらに細かな動作を要求する。すなわち、連射兵装の単発射撃。
トリガーを押しこむか押し込まないか、微妙な力加減を加え、カチリとトリガーが反応すると同時に指を離す。
その操作は、単発とまではいかないまでも、極限まで一度の発射量を抑えさせた。
「とりあえず、威力に関しては申し分ないみたいだな」
どうやら一発でも当てれば戦闘機を撃墜することは可能なようだ。
威力に関しては、既に実戦レベルと言えるだろう。が、残念ながらそれだけだ。
「アルタイル、本社が防衛部隊の配備を終了しました。帰還してください」
「了解!」
戦闘機を適当に撃墜しながら、ゆっくりと後退し、ガレージまで戻る。
ガレージへの格納が完了したとき、アルタイルは体中にどっと疲れが溜まるのを感じた。
「開発中止?」
コーヒーを口に運ぼうとしていた手を止め、アルタイルは目の前の職員の言葉を反復する。
「ええ。あの後、機体を調べたんですが、機体のジェネレーターも、両肩の補助ジェネレーターも、限界だったようです」
「限界、ってのは……」
「あと少し使用時間が長ければ、ジェネレーターが暴走、機体もろとも大爆発を起こしていたでしょう」
さらりと言い放つ。
「な……」
全身から力が抜け、危うくカップを落としそうになった。同時に顔から血の気が引いていくのが分かる。
「それで話し合った結果、MWG-XEG/600の開発プランは、凍結されることとなったのです」
今度も爆発しない、とは限りませんからね。と職員は付け足した。
「……おい」
「何でしょう?」
「……もう、こんなことは御免だからな」
その言葉に職員があわてて身を乗り出す。
「とんでもない!今回あの機体であそこまで戦い、なお且つ機体の爆発を防ぐことができたのはあなたの操縦技術があったからこそです!次もあなたにお願いするつもりですよ!」
「次もそんな危ない代物を使えってのか!?」
「危なくなんてありませんよ!ただ少し不安定なだけで――」
「それを危ないと言うんだ!」
MWG-XEG/600
ミラージュ製ENガトリング銃。
実弾のものと同様、3つの銃口を旋回させてエネルギー弾を乱射する。
だが、連射力を求めた結果に多くの問題も生じ、解決できないまま開発が中止された。
第一に機構の極大化が挙げられる。
目指した高速連射には変換装置や透過フィルターの耐久性が不可欠であり、重量が実用レベルに纏められなかったのだ。
次に、エネルギー変換効率が悪かったこと。ミラージュ社といえど、EN兵器の連射の実現は困難だったようだ。
試作段階の性能テストは、重量二脚型の両肩に、専用の補助ジェネレータを搭載して行われた
コーヒーを口に運ぼうとした手を止め、今しがた目の前の職員が言ったばかりの単語を反復する。
「そんなものが開発されてたのか」
「まだ実験段階の兵器ではありますが。今回あなたには、その実践テストを行っていただきたいのです」
「やれやれ、久々の仕事が、モルモットとはね……」
男はミラージュ専属のレイヴンだった。レイヴンネームはアルタイル。
MT上がりだが腕は確かで、蒼い塗装を施した彼の愛機ガニュメデスは“蒼い大鷲”と呼ばれ恐れられていた。
しかし恐れられているといってもそれは他の企業からのこと。
グローバルコーテックスに所属している純粋なレイヴン達はおそらく、蒼い大鷲の通り名どころかアルタイルの名前さえ知らないだろう。
つまり、コーテックスに所属するレイヴンに比べれば、彼の腕前は決して優秀とは呼べるものではなかったのだ。
アルタイルの雇用主であるミラージュもそのことは重々承知しているようで、企業間の抗争が激化、高ランクレイヴンが投入されることも少なくない昨今、彼を出撃させるならば他のレイヴンを雇う、といった事態が増えていた。
そして久々にミラージュから仕事が来たと思ったら、これである。
「まぁ、どうせ暇なんだから受けてやるけどね。日時はいつだ?」
「明後日の、1100から開始します。場所は我が社の演習場です」
「ああ、分かった」
説明すべきことを全て話し終えた職員は、自分のコーヒーカップを空にすると、ゆっくりと立ち上がった。
「あなたには期待していますよ。何しろ、他のものではろくに扱うこともできないでしょうからね」
「何?それはどういう意味だ?」
職員は背を向けたまま答えず、アルタイルの言葉から逃げるように、足早に部屋を去って行った。
「……やれやれ、やっぱり受けるべきじゃなかったかもな」
「おはようございます、アルタイルさん」
「ああ、おはよう」
午前十一時。時間丁度に屋外の演習場に現れたアルタイルは、職員の後ろに佇む、重量二脚タイプの機体を見上げた。
「これが……実験用の機体か?」
「ええ。そして右腕に装備されているあの武器が、先日お話しした実験兵装、MWG-XEG/600です」
職員が指差す先、そのパーツを見てアルタイルは我が眼を疑った。
三本の銃身が一門の砲身となったガトリングタイプのバレルは、よしとしよう。
しかし問題はそのバレルが取り付けられている銃身本体だった。
「これは、本当に腕部兵装なのか……?」
アルタイルだけでなく、このパーツを初めて見た者ならば、必ずその言葉を口にしただろう。
両肩用兵装と言われても納得するほどに巨大な塊がそこにあった。
試作品のため、塗装はまだ施されていないのだろう。
素材本来の銀色一色の塊は、まるで棺桶のような形をしており、あらゆるところから訳の分からない部品が飛び出しては再び塊の中に入り込んだりしている。
そして機体のコアの前を横切る形で、棺桶から一本長い棒が飛び出していた。
「まだ試作段階のため、ほとんどのパーツが小型化できておりません。そのため、両手で持たなければ支えきれないほど巨大になってしまいました」
しまいました、じゃないだろう。
「それにしてもこの大きさは……威力は、この図体に見合うものなんだろうな?」
そう訊くと、職員は目線を逸らして言葉を濁らせた。
「……もういい、試作段階だから、ということにしておく」
「そう言ってもらえると、助かります」
機体を眺めていたアルタイルが、あることに気付く。
「おい、あれは何だ」
指差す先には、棺桶から飛び出した太いコードの束のようなものがあった。
その束は再び棺桶の中に戻るということはせず、そのまま機体の背後まで伸び、両肩に装備された巨大な円筒型のパーツに繋がっていた。
「ああ、あれはエネルギー供給用のコードと、補助ジェネレーターです」
「補助ジェネレーター?」
初めて聞く単語に、首をかしげる。
「こちらとしてもエネルギー弾を連続して発射させるというのは初めてなため、まだ効率的なエネルギー変換技術が確立されていないのです。現在の技術では、どうしても連射の際に余分なエネルギーを消費してしまうのが現状で……」
「あっという間にジェネレーターはすっからかん、それを補うためのパーツ、ということか」
「ええ、そういうことです」
腕を組んだまま、大きくため息をつく。まだ実験は始まっていないというのに、アルタイルの顔には疲労が感じられた。
「予想以上に問題だらけだな」
「面目ない……」
消え入りそうな声とともに、職員が小さくなる。
「まぁ、言ったところで仕方無い。さっさと始めよう」
「こちらアルタイル。実験機、戦闘モード起動完了」
「了解。指定位置に着いたらターゲットのMTが現れますので、順次撃破してください」
職員は、演習場の管制塔に移動、そこから機体を見下ろす形で指示を出していた。
「了解、指定位置まで移動する」
そう言ってフットペダルを踏み込むと、実験機はゆっくりと歩き出した。
「こりゃあ……予想以上に重いな」
普段から重量二脚を愛用しているアルタイルだが、ここまでゆっくりと歩く機体は初めてだった。
試しに左右に旋回させてみたが、その速度は絶望的に遅い。
「重量過多ぎりぎりですからね」
「まずはこの重量を何とかして欲しいな」
「そのための実験ですから……」
小型化に実践テストは関係なくないか、と思いつつも、アルタイルは機体を指定位置まで歩かせる。
「位置に着いた。始めてくれ」
「では、カウント開始します。3、2――」
1は聞こえなかった。正確には、発せられなかった。
「どうした?」
「れ、レーダーに反応!こちらへ急速に接近する機影が多数!」
「何だと!?」
「10時方向です!迎撃してください!」
「この機体でか!?」
「実戦レベルの威力は有しています!」
「威力だけありゃいいってもんじゃねえんだぞ……」
機体をゆっくりと旋回させ、指示された方向を見ると、確かにメインモニターに映し出される多数の戦闘機らしき影が見えた。
「おそらく本社に攻撃を仕掛けるつもりでしょう。全て撃ちおとしてください!」
「言われなくても今からやるよ!」
機影をロックサイト内に収めるが、距離が足りないのかロックオンされる気配はない。こちらへ飛んでくる機影が段々大きくなるばかりだった。
「まだか……」
ピピッ。
ロックオンを告げる電子音とともに、先頭の一機にロックオンマーカーが被さる。
それを確認したアルタイルは、頭で考えるよりも早く、体がトリガーを引いていた。
放たれたのは、機体の色と同じ、蒼い光条。
通常のレーザーよりも短い光条が、目にも止まらぬスピードで連射、戦闘機に降り注ぐ。
撃ちこまれた光条の一本一本が戦闘機に大きな焼け跡を残し、たちまち戦闘機は空中で爆散した。
「なんだ、こりゃぁ……」
威力に対して言ったのでもなければ、連射速度に対して言ったのでもない。
発射の際の、エネルギー消費量に対して言ったのだ。
通常の大容量ジェネレーターに加え、補助ジェネレーターまでも装備しているはずの機体のエネルギーは、今のたった一度の射撃でその全容量の三分の一を消費していた。
「こんなもん、補助ジェネレーターが無けりゃ一瞬でチャージングだぞ」
チャージングに陥ればこちらの負けだ。
編隊を組んで飛行してくる戦闘機群に対して、極力一度の弾数を抑えるようにしながら撃墜する。
おかげで一度に三分の一も消費するということはなかったが、それでも一機撃墜する度にエネルギーゲージはプラズマライフル一発分ほどの量を減らしていた。
いや、実際の数値としては、プラズマライフル三発分ほど、といったところだろうか。
「とんだ穀潰しだぜこいつは」
何度も毒づきながら戦闘機を撃墜するが、編隊が途切れる様子はない。
それどころか編隊を組む戦闘機の数が増し、一度に撃墜すべきターゲットが増えてきていた。
「おい管制塔!やべえぞ!」
「どうしました?」
「エネルギーの回復が追い付かなくなってきた!これじゃその内チャージングだ!」
「なんですって!?」
おそらくこれらの試作パーツ群は、装備時、待機時のエネルギー消費量も膨大なものだったのだろう。
出力を削りに削られたジェネレーターのエネルギー供給量は、もはや向かい来る戦闘機群に対抗できなくなっていた。
「援軍は来ねえのか!」
「現在、本社周辺に防衛部隊を配備中です!配備完了まで耐えてください!」
「クソッ!」
アルタイルの脳が、指先にさらに細かな動作を要求する。すなわち、連射兵装の単発射撃。
トリガーを押しこむか押し込まないか、微妙な力加減を加え、カチリとトリガーが反応すると同時に指を離す。
その操作は、単発とまではいかないまでも、極限まで一度の発射量を抑えさせた。
「とりあえず、威力に関しては申し分ないみたいだな」
どうやら一発でも当てれば戦闘機を撃墜することは可能なようだ。
威力に関しては、既に実戦レベルと言えるだろう。が、残念ながらそれだけだ。
「アルタイル、本社が防衛部隊の配備を終了しました。帰還してください」
「了解!」
戦闘機を適当に撃墜しながら、ゆっくりと後退し、ガレージまで戻る。
ガレージへの格納が完了したとき、アルタイルは体中にどっと疲れが溜まるのを感じた。
「開発中止?」
コーヒーを口に運ぼうとしていた手を止め、アルタイルは目の前の職員の言葉を反復する。
「ええ。あの後、機体を調べたんですが、機体のジェネレーターも、両肩の補助ジェネレーターも、限界だったようです」
「限界、ってのは……」
「あと少し使用時間が長ければ、ジェネレーターが暴走、機体もろとも大爆発を起こしていたでしょう」
さらりと言い放つ。
「な……」
全身から力が抜け、危うくカップを落としそうになった。同時に顔から血の気が引いていくのが分かる。
「それで話し合った結果、MWG-XEG/600の開発プランは、凍結されることとなったのです」
今度も爆発しない、とは限りませんからね。と職員は付け足した。
「……おい」
「何でしょう?」
「……もう、こんなことは御免だからな」
その言葉に職員があわてて身を乗り出す。
「とんでもない!今回あの機体であそこまで戦い、なお且つ機体の爆発を防ぐことができたのはあなたの操縦技術があったからこそです!次もあなたにお願いするつもりですよ!」
「次もそんな危ない代物を使えってのか!?」
「危なくなんてありませんよ!ただ少し不安定なだけで――」
「それを危ないと言うんだ!」
MWG-XEG/600
ミラージュ製ENガトリング銃。
実弾のものと同様、3つの銃口を旋回させてエネルギー弾を乱射する。
だが、連射力を求めた結果に多くの問題も生じ、解決できないまま開発が中止された。
第一に機構の極大化が挙げられる。
目指した高速連射には変換装置や透過フィルターの耐久性が不可欠であり、重量が実用レベルに纏められなかったのだ。
次に、エネルギー変換効率が悪かったこと。ミラージュ社といえど、EN兵器の連射の実現は困難だったようだ。
試作段階の性能テストは、重量二脚型の両肩に、専用の補助ジェネレータを搭載して行われた