アリーナC-4、ファナティックは可愛い。いや美人なのか?どっちでもいいがとにかく顔がいい。
だが友人は少ない。なぜか。それは彼女に近づいてみればわかる。
彼女は怖い。話しかけるとやたら睨まれる。または絶対に目を合わせてもらえない。
そしてその視線は正直殺意が籠もってると言っても過言ではない。
寂しそうな眼差しがたまらんとか言われてるがそれは彼女に話しかけたことがない奴がいった戯言だ。
いや実際ひとりでいるときは寂しそうなんだが。そこに騙されて話しかけてはいけない。
アデューなんて話しかけたら数十秒後には涙目で帰ってきた。阿呆め。
「ファナティックさんてかっこいいですねえ」
「……へえ」(遠く見てる)
「僕もファナティックさんみたいに早く強くなりたいなあ」
「そうか」
「…………」
「…………」(遠く見てる)
「……あの」
「まだ何かあるのか?」(不機嫌そうに睨む)
「……何でもないです……」
その後ミルキーウェイに慰められてたがアデュー、そいつはもっとひどいぞ。詳しいことは言えないが。女運がないなアデュー。
唯一彼女が心を許している(と思われる)人物が一人だけいる。B-4、ワルキューレ。
この二人はよく話してるのをアリーナのロビーで見かける。
ワルキューレもクールビューティーだがファナティックが陰のクールビューティーなら彼女は陽のクールビューティーだろう。
その対比がたまらんとか言う輩が結構いる。
因みに彼女と話しているときのファナティックの目に殺意はこもっていない……と思う。あまり直視してたら睨まれるから分からん。
ファナティックの自室。ここに入ったことがあるのはおそらく彼女本人とワルキューレぐらい。
今は照明が消されカーテンの閉められた薄暗い部屋でファナティックが寝息を立てている。ワイシャツ一枚で。
下着は作者の趣味で下だけ着用。模様は読者に任せるが水色しましまがいいと思うよ!
で、もし男が見たらスラッグガンゼロ距離射撃も覚悟の上でルパンダイブしてしまいそうな格好の
ファナティックは今抱き枕を抱きしめて夢の中なのだが、その抱き枕が問題である。
ウサギである。子供の背丈ほどもある巨大なウサギのぬいぐるみを抱きしめて寝ているのである。
あの眼力クールビューティースラッグガンが。
某幼稚園児がストレス発散のために殴りつけるようなウサギのぬいぐるみを抱いて寝ているのだ。
しかもたまに「んに」とか寝言言うからたまらん。おもに作者が。
ぴんぽーん。インターホンが鳴る。もちろんファナ嬢の。ああファナ嬢ってなんかいいな。ファナ姐が一般的だろうけどファナ嬢もいいな。でも嬢ってつけるならやっぱエネだよな。作品違うけど。
「おはよー、ファナ起きてるー?」
ああこれはワルキューレの声だ。相変わらずよく通るいい声してますね。
部屋の中にワルキューレの声が入ってくるがファナティックは反応しない。相変わらずウサギを抱きしめて夢の中。
「おーい起きろー、もう十時だぞー。おーい」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん。
インターホンを連打するBランク4位。それを無視して眠り続けるCランク4位。実にシュール。
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん。
「ん……んあ?」
ようやく薄目を開けるファナ嬢。よだれ垂れてる。
「ファーナー。おーきーろー」
ようやく耳の中で詰まってたワルキューレの声が脳まで達したのか、
だるそうに上半身を起こして左手で目をこすりながら大きく欠伸。
因みに右手にはウサギを抱きしめたまま。ああ眼帯は寝てる時もしてるんですね。
……が、眼帯の柄が、 ね こ !
ちなみにこの時点で既に軽二でジャックに旋回戦を挑みつつ両手火炎放射機で炙るがごとくキャラを好き勝手にいじりまわしてますが、
この後さらに好き勝手にいじるので嫌な人は今すぐゲームの電源を切れ雷電!
無言でベッドから立ち上がり入口に向かうファナ嬢。もちろん装備はワイシャツ、ぱんつ、ウサギ。
寝癖が巨大なアホ毛のように歩くたびにびょんびょん揺れる。
ガチャ。ドアを開ける。ワルキューレと目が合う。
「おはよ。やっと起きた?」
「……ああ……おはよう……」
なんとかここまで言葉を出したかと思うともう一度 くあぁ、と大きく欠伸。
「……入れ……」
中へ入るよう促すと自身は洗面所へ。続いてワルキューレもお邪魔しますと部屋へ入る。
Cランクともなると部屋もなかなかの広さであるがその描写はだるいので省く。
洗面所から水音が聞こえる始める。
ファナティックは他人を部屋へ入れたがらない。なぜか。
まあそりゃ女性なら誰だって他人を部屋へ入れるのは抵抗があるのかもしれないが、彼女には明確な理由がある。部屋のインテリアだ。
そこかしこにぬいぐるみが──特に猫のものが多い──置かれているのだ。
あの常時殺気を放って他人と会話する眼力スラッグガンが、
ぬいぐるみに囲まれて暮らしているなんてばれた日には、おそらく彼女はレイヴンを辞めるだろう。
部屋だけではない。
自分のAC、レッドアイにも彼女の可愛い趣味は施されている。
誰にも見られる事のない、コクピット内。メインモニターの隣。
シールが貼られている。大きさは10センチ四方。絵柄は、可愛いウサギのキャラクター。
彼女が抱き枕にしていたキャラクターと同じものである。
そしてミッション中だろうがアリーナで対戦中だろうが彼女は度々これを見てにんまりしている。
誰も見てないからにんまりしまくっている。
「まあ、せいぜい協力しようか」
などと言っていても目線はシール。というかこのシールに向かって言っている。
ワルキューレは彼女が僚機を雇うのはよそ見運転のフォローをしてもらうためじゃないかと最近疑い出している。
ワルキューレがベッドに腰掛け手持無沙汰にそばにあったぬいぐるみで遊んでいると、洗面所からファナティックが戻ってきた。
表情は凛々しくもどこか寂しげないつものファナティックのものになっていたが、
相変わらず装備はワイシャツ、ぱんつ、ウサギである。なんというアンバランス。
「……朝飯は?」
「もう10時よ?とっくに食べたわよ」
「そうか」
すたすたとキッチンへ歩いていくファナティック。ウサギ装備したまま朝飯作る気か?なにやらゴソゴソ音がしたと思ったらクロワッサンを加えて戻ってきた。
「で、どうした?」
もごもごと喋りにくそうにファナティックが訊く。
「どうしたって……あんたがまたゲーセンでほしい景品があったって言うから、取りに行ってあげるんでしょうが」
「ああ。……ぁあ?」
生返事。疑問形。
「まだ寝てるわね、あなた」
朝飯を食べ終わったファナティックはようやくここでウサギをパージする。
ベッドの上に丁寧に座らせて。頭を撫でておくのも忘れない。
そしてワイシャツもパージ。これは無造作に床の上に脱ぎ捨てて。形の良い胸が(省略されました……
「よし、行くか」
Tシャツにジーンズとラフな格好で支度を済ませたファナティック。それを確認してワルキューレも立ち上がる。
外に出て目的地のゲーセンを目指し歩道を歩く。
レイヴンにとっては休日でも世間は平日なので人通りはそう多くない。
「……にゃにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー……(Artificial Sky)」
突然小声で歌い出すファナティック。しかも歌詞が全部にゃー。
隣で歩くワルキューレはいつものことなので気にしない。
Artificial Skyとか9とかThinkerをにゃーだけで歌っている間にゲーセンにたどり着く。
やかましい電子音の不協和音が店内から洩れまくっている。
すたすたと目標まで一直線に歩いていくファナ嬢。それについていくワルキューレ。急にとまるファナ嬢。
一台のクレーンゲームの中を指差す。
「……あれだ」
指差す先には猫のぬいぐるみ……だと思う。
やたらとまるまるした猫に首輪だかベルトだかしらないものが巻かれている。首がどこだか分らないからベルトかもしれない。
「首輪つきけもの。あれが欲しいんだ」
首輪らしい。
「なるほど。ちょっと待ってなさい」
小銭を作りに両替機を探しに行くワルキューレ。その間ずっと首輪つきけものを見つめ続けるファナ嬢。
ていうかワルキューレが金払うのか。
「おまたせ。では、お姉さんに任せなさい」
「ああ、頼む」
ああ、なんて頼もしい僚機なんだと心の中で思うファナ嬢。EXアリーナじゃステルスのせいで攻撃がこっちに集中するけど。
ちなみに作者は僚機をレジーナにして制覇した。
いやあレジーナと一緒にエースBBペアをぶっ殺したときは俺はレジーナと結婚したと思ったね。
賞金の150万コームは二人の子どもの養育費だね。
「ん~、お~」
意味不明に声を出しながら首輪つきけものに挑むワルキューレ。
優しいお姉さんキャラなワルキューレが実はゲームが得意だという事実を、いったいアリーナの何人が知っているだろうか。
友人の意外な一面を自分だけが知っている、そう思うとファナティックは、らしくもなく優越感に浸ったりするのである。
「お、あとちょっと。次で仕留めるわよ。……何?」
彼女を見ながら少し嬉しそうにしていたのがばれたらしい。
自分を見て微笑む(本当にわずかにしか微笑んでいないが)ファナティックを見て怪訝そうな顔をする。
「いや、なんでもない。次で三回目か?」
「そうよ。次で取れたらパフェにクレープも付けてね」
それを聞いて鼻で笑うファナティック。
「取れると確信しているくせに、よく言う」
つまり、ぬいぐるみを取ってもらう報酬として、彼女にパフェだのなんだのをおごるのが二人の習慣になっているのである。
ファナティックは別段甘いものが好きというわけではないのだが、
ワルキューレは大好物のようで、この“報酬”のとき以外にも、よく甘いものを食べに連れて行かれる。
「ぬ~、お、おお、よしっ!」
首輪つきけものがクレーンのアームに蹴られ、転がり落ちる。
「はい、取れたわよ。首輪つきけもの」
なかなかの大きさである。まるで小ぶりのスイカだ。
両手でつかむとかなりもふもふしているのが分かった。枕にしたら気持ちいいだろうなあ。
それを早く触りたくて仕方がないという風に挙動不審なファナティックに手渡す。
手渡された首輪つきけものをしばし見つめるファナ嬢。そして思い切り抱きしめてみる。
「ありがとう。すまんな、毎度毎度」
すりすりと頬ずりしながら笑顔で言うファナティック。
彼女の笑顔を見たことがある人間がいるとしたら、それは彼女の親か私ぐらいだろう。
自分だけが知っている友人の笑顔を見ながら、ワルキューレはちょっとした優越感に浸る。
「まあ、パフェのためを思えば安いもんよ。ああ、あとクレープと」
「ああ、ちゃんとおごるから安心してくれ」
胸の前で首輪つきけものを両手で抱き締めたままファナティックが言う。
首輪つきけものが丁度こちらを見上げる感じで、すごく可愛い。微妙に自分も欲しくなってきた。
「ほかに欲しいのはないの?」
「ああ、今日はこれだけだ。じゃあ、行く──」
「あれ?ワルキューレか?」
後ろから声がしてファナティックが振り向く。見た事のある三人組がいた。
「おや、ファナティックも一緒か」
×××××、レジーナ、アップルボーイの仲良し三人組だった。レジーナはファナティック同様胸に首輪つきけものを抱えていた。
「あら、あなた達もそのぬいぐるみ取ったの?」
「うん、なんか可愛かったから。六回ぐらいかかったけど」
「取ったのは僕ですけどね……しかも自腹で……」
アップルボーイが苦笑いしながら注釈を入れる。かわいそうに。
「あとでご飯奢るって言ったでしょうが人聞き悪い!」
「……で、そのぬいぐるみはファナティックの趣味か?」
ファナティックと彼女に抱きしめられた首輪つきけものを交互に見やりながら×××××が訊く。
迂闊だった。まさか顔見知りに会うとは思っていなかった。
「……悪いか?」
言い逃れできないと悟ったのか×××××を睨みつけながら事実上肯定の返事を返す。
「いや、別に。どこかのおてんば娘と趣味が似てると思っただけだ。意外ではあるが」
「ほう。それでおてんば娘ってのは誰のことかな?」
ファナティックと同じぬいぐるみを持ったレジーナが顔をヒクつかせながら訊く。
「さあな。アップルボーイに訊いてくれ。よくおてんば娘って言ってるし。」
「僕がですか!?」
「ほう……詳しく聞こうか……」
「ちょ、誤解ですって……」
レジーナに詰め寄られるアップルボーイを尻目に×××××が会話を続ける。
「で、それ、ファナティックが取ったのか?」
「あたしがとったのよ。たった三回でよ、三回」
横からワルキューレが入ってくる。後ろがやかましい。
「ワルキューレが?流石だな、スナイパー」
「昔から得意なのよ。ゲームは全般得意よ」
「ほう、それでぬいぐるみが欲しいけど取るのは下手なファナティックに代わりこうやって取ってやってると」
「そういうこと。彼女の部屋、すごいわよ?」
「お、おいっ!」
部屋のぬいぐるみワールドを暴露されそうに──いやほぼ暴露したも同然だが──ファナティックが焦って発言を遮ろうとする。
が、ワルキューレの言葉はレジーナの耳にも届いていた。
「ほんと!?」
×××××を押しのけるように首輪つきけものを抱えたレジーナが割って入ってくる。
アップルボーイは無事だろうか。
「今度見せてよ!」
「……考えておく」
「やったっ!」
はしゃぐレジーナ。少し恥ずかしそうなファナティック。
ていうかなんだこの乙女チックな会話。お前ら二人ともそんなキャラじゃないだろう。
×××××が口に出さなかったのは死にたくなかったからである。スラッグガンとグレネードが怖かったからである。
三人と別れて並木道を歩く。ちなみに首輪つきけものはファナティックが持ってきたリュックの中にぶち込まれている。
「良かったわね」
「何がだ?」
「友達、増えたじゃない」
「……レジーナか?」
「そうそう。あたし意外に誰かを部屋に入れるなんて、初めてじゃない?」
「まだ入れると決めたわけじゃ……」
「入れない理由はないんじゃない?」
「…………」
「いいじゃない。いい子よ?レジーナだけじゃなくて、アップルボーイも、×××××も」
ファナティックはうつむいたまま何も言わない。
不意にワルキューレが立ち止まる。
それに気づいてファナティックも立ち止まり、顔をあげてワルキューレの方を見ると、微笑みながら頭をなでられた。
突然のことに目をつむる。
「さみしがり屋のくせに、なかなか他人を受け入れようとしないからなあ、ファナは。あたしも苦労させられたわ」
「…………」
「もう少しガードゆるくしてもいいんじゃない?普段からあたしと一緒にいるときのようにしてれば、すぐに友達なんかできるわよ」
「……本当にそう思うか?」
「思う思う。親友のあたしが言うんだから、間違い無い」
笑顔で即答される。その笑顔につられて、ファナティックもふっと笑う。
「そうか。……がんばってみるよ」
「その意気その意気。じゃ、行くよ」
「ああ」
再び歩き出す二人。ファナティックは無言で微笑み、今度はワルキューレが鼻歌を歌っている。
「……もしこれから、何人友人ができたとしても……」
「うん?」
「……一番の親友は、やはりお前だよ」
それを聞いてワルキューレが立ち止まる。見ると少々面食らった顔をしていた。
「どうした?何か変だったか?」
「ん、いや、ファナにそんなこと言われるの初めてだったから、ちょっと驚いただけよ」
「そうか?まあ、思ってはいても言うことなんてなかなかないしな」
「ん、そっか。そっかそっか」
しきりにうなずきながらにんまりするワルキューレ。ファナティックの腕に自分の腕を絡めて歩き出す。
「な、おい!」
引っ張られるようにファナティックも歩き出すが恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。
「気にしない気にしない。ほら、行くよ」
観念したのかファナティックも黙って並んで歩く。
時刻は十二時丁度。レイヤードは今日もそれなりには平和である。
だが友人は少ない。なぜか。それは彼女に近づいてみればわかる。
彼女は怖い。話しかけるとやたら睨まれる。または絶対に目を合わせてもらえない。
そしてその視線は正直殺意が籠もってると言っても過言ではない。
寂しそうな眼差しがたまらんとか言われてるがそれは彼女に話しかけたことがない奴がいった戯言だ。
いや実際ひとりでいるときは寂しそうなんだが。そこに騙されて話しかけてはいけない。
アデューなんて話しかけたら数十秒後には涙目で帰ってきた。阿呆め。
「ファナティックさんてかっこいいですねえ」
「……へえ」(遠く見てる)
「僕もファナティックさんみたいに早く強くなりたいなあ」
「そうか」
「…………」
「…………」(遠く見てる)
「……あの」
「まだ何かあるのか?」(不機嫌そうに睨む)
「……何でもないです……」
その後ミルキーウェイに慰められてたがアデュー、そいつはもっとひどいぞ。詳しいことは言えないが。女運がないなアデュー。
唯一彼女が心を許している(と思われる)人物が一人だけいる。B-4、ワルキューレ。
この二人はよく話してるのをアリーナのロビーで見かける。
ワルキューレもクールビューティーだがファナティックが陰のクールビューティーなら彼女は陽のクールビューティーだろう。
その対比がたまらんとか言う輩が結構いる。
因みに彼女と話しているときのファナティックの目に殺意はこもっていない……と思う。あまり直視してたら睨まれるから分からん。
ファナティックの自室。ここに入ったことがあるのはおそらく彼女本人とワルキューレぐらい。
今は照明が消されカーテンの閉められた薄暗い部屋でファナティックが寝息を立てている。ワイシャツ一枚で。
下着は作者の趣味で下だけ着用。模様は読者に任せるが水色しましまがいいと思うよ!
で、もし男が見たらスラッグガンゼロ距離射撃も覚悟の上でルパンダイブしてしまいそうな格好の
ファナティックは今抱き枕を抱きしめて夢の中なのだが、その抱き枕が問題である。
ウサギである。子供の背丈ほどもある巨大なウサギのぬいぐるみを抱きしめて寝ているのである。
あの眼力クールビューティースラッグガンが。
某幼稚園児がストレス発散のために殴りつけるようなウサギのぬいぐるみを抱いて寝ているのだ。
しかもたまに「んに」とか寝言言うからたまらん。おもに作者が。
ぴんぽーん。インターホンが鳴る。もちろんファナ嬢の。ああファナ嬢ってなんかいいな。ファナ姐が一般的だろうけどファナ嬢もいいな。でも嬢ってつけるならやっぱエネだよな。作品違うけど。
「おはよー、ファナ起きてるー?」
ああこれはワルキューレの声だ。相変わらずよく通るいい声してますね。
部屋の中にワルキューレの声が入ってくるがファナティックは反応しない。相変わらずウサギを抱きしめて夢の中。
「おーい起きろー、もう十時だぞー。おーい」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん。
インターホンを連打するBランク4位。それを無視して眠り続けるCランク4位。実にシュール。
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん。
「ん……んあ?」
ようやく薄目を開けるファナ嬢。よだれ垂れてる。
「ファーナー。おーきーろー」
ようやく耳の中で詰まってたワルキューレの声が脳まで達したのか、
だるそうに上半身を起こして左手で目をこすりながら大きく欠伸。
因みに右手にはウサギを抱きしめたまま。ああ眼帯は寝てる時もしてるんですね。
……が、眼帯の柄が、 ね こ !
ちなみにこの時点で既に軽二でジャックに旋回戦を挑みつつ両手火炎放射機で炙るがごとくキャラを好き勝手にいじりまわしてますが、
この後さらに好き勝手にいじるので嫌な人は今すぐゲームの電源を切れ雷電!
無言でベッドから立ち上がり入口に向かうファナ嬢。もちろん装備はワイシャツ、ぱんつ、ウサギ。
寝癖が巨大なアホ毛のように歩くたびにびょんびょん揺れる。
ガチャ。ドアを開ける。ワルキューレと目が合う。
「おはよ。やっと起きた?」
「……ああ……おはよう……」
なんとかここまで言葉を出したかと思うともう一度 くあぁ、と大きく欠伸。
「……入れ……」
中へ入るよう促すと自身は洗面所へ。続いてワルキューレもお邪魔しますと部屋へ入る。
Cランクともなると部屋もなかなかの広さであるがその描写はだるいので省く。
洗面所から水音が聞こえる始める。
ファナティックは他人を部屋へ入れたがらない。なぜか。
まあそりゃ女性なら誰だって他人を部屋へ入れるのは抵抗があるのかもしれないが、彼女には明確な理由がある。部屋のインテリアだ。
そこかしこにぬいぐるみが──特に猫のものが多い──置かれているのだ。
あの常時殺気を放って他人と会話する眼力スラッグガンが、
ぬいぐるみに囲まれて暮らしているなんてばれた日には、おそらく彼女はレイヴンを辞めるだろう。
部屋だけではない。
自分のAC、レッドアイにも彼女の可愛い趣味は施されている。
誰にも見られる事のない、コクピット内。メインモニターの隣。
シールが貼られている。大きさは10センチ四方。絵柄は、可愛いウサギのキャラクター。
彼女が抱き枕にしていたキャラクターと同じものである。
そしてミッション中だろうがアリーナで対戦中だろうが彼女は度々これを見てにんまりしている。
誰も見てないからにんまりしまくっている。
「まあ、せいぜい協力しようか」
などと言っていても目線はシール。というかこのシールに向かって言っている。
ワルキューレは彼女が僚機を雇うのはよそ見運転のフォローをしてもらうためじゃないかと最近疑い出している。
ワルキューレがベッドに腰掛け手持無沙汰にそばにあったぬいぐるみで遊んでいると、洗面所からファナティックが戻ってきた。
表情は凛々しくもどこか寂しげないつものファナティックのものになっていたが、
相変わらず装備はワイシャツ、ぱんつ、ウサギである。なんというアンバランス。
「……朝飯は?」
「もう10時よ?とっくに食べたわよ」
「そうか」
すたすたとキッチンへ歩いていくファナティック。ウサギ装備したまま朝飯作る気か?なにやらゴソゴソ音がしたと思ったらクロワッサンを加えて戻ってきた。
「で、どうした?」
もごもごと喋りにくそうにファナティックが訊く。
「どうしたって……あんたがまたゲーセンでほしい景品があったって言うから、取りに行ってあげるんでしょうが」
「ああ。……ぁあ?」
生返事。疑問形。
「まだ寝てるわね、あなた」
朝飯を食べ終わったファナティックはようやくここでウサギをパージする。
ベッドの上に丁寧に座らせて。頭を撫でておくのも忘れない。
そしてワイシャツもパージ。これは無造作に床の上に脱ぎ捨てて。形の良い胸が(省略されました……
「よし、行くか」
Tシャツにジーンズとラフな格好で支度を済ませたファナティック。それを確認してワルキューレも立ち上がる。
外に出て目的地のゲーセンを目指し歩道を歩く。
レイヴンにとっては休日でも世間は平日なので人通りはそう多くない。
「……にゃにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー……(Artificial Sky)」
突然小声で歌い出すファナティック。しかも歌詞が全部にゃー。
隣で歩くワルキューレはいつものことなので気にしない。
Artificial Skyとか9とかThinkerをにゃーだけで歌っている間にゲーセンにたどり着く。
やかましい電子音の不協和音が店内から洩れまくっている。
すたすたと目標まで一直線に歩いていくファナ嬢。それについていくワルキューレ。急にとまるファナ嬢。
一台のクレーンゲームの中を指差す。
「……あれだ」
指差す先には猫のぬいぐるみ……だと思う。
やたらとまるまるした猫に首輪だかベルトだかしらないものが巻かれている。首がどこだか分らないからベルトかもしれない。
「首輪つきけもの。あれが欲しいんだ」
首輪らしい。
「なるほど。ちょっと待ってなさい」
小銭を作りに両替機を探しに行くワルキューレ。その間ずっと首輪つきけものを見つめ続けるファナ嬢。
ていうかワルキューレが金払うのか。
「おまたせ。では、お姉さんに任せなさい」
「ああ、頼む」
ああ、なんて頼もしい僚機なんだと心の中で思うファナ嬢。EXアリーナじゃステルスのせいで攻撃がこっちに集中するけど。
ちなみに作者は僚機をレジーナにして制覇した。
いやあレジーナと一緒にエースBBペアをぶっ殺したときは俺はレジーナと結婚したと思ったね。
賞金の150万コームは二人の子どもの養育費だね。
「ん~、お~」
意味不明に声を出しながら首輪つきけものに挑むワルキューレ。
優しいお姉さんキャラなワルキューレが実はゲームが得意だという事実を、いったいアリーナの何人が知っているだろうか。
友人の意外な一面を自分だけが知っている、そう思うとファナティックは、らしくもなく優越感に浸ったりするのである。
「お、あとちょっと。次で仕留めるわよ。……何?」
彼女を見ながら少し嬉しそうにしていたのがばれたらしい。
自分を見て微笑む(本当にわずかにしか微笑んでいないが)ファナティックを見て怪訝そうな顔をする。
「いや、なんでもない。次で三回目か?」
「そうよ。次で取れたらパフェにクレープも付けてね」
それを聞いて鼻で笑うファナティック。
「取れると確信しているくせに、よく言う」
つまり、ぬいぐるみを取ってもらう報酬として、彼女にパフェだのなんだのをおごるのが二人の習慣になっているのである。
ファナティックは別段甘いものが好きというわけではないのだが、
ワルキューレは大好物のようで、この“報酬”のとき以外にも、よく甘いものを食べに連れて行かれる。
「ぬ~、お、おお、よしっ!」
首輪つきけものがクレーンのアームに蹴られ、転がり落ちる。
「はい、取れたわよ。首輪つきけもの」
なかなかの大きさである。まるで小ぶりのスイカだ。
両手でつかむとかなりもふもふしているのが分かった。枕にしたら気持ちいいだろうなあ。
それを早く触りたくて仕方がないという風に挙動不審なファナティックに手渡す。
手渡された首輪つきけものをしばし見つめるファナ嬢。そして思い切り抱きしめてみる。
「ありがとう。すまんな、毎度毎度」
すりすりと頬ずりしながら笑顔で言うファナティック。
彼女の笑顔を見たことがある人間がいるとしたら、それは彼女の親か私ぐらいだろう。
自分だけが知っている友人の笑顔を見ながら、ワルキューレはちょっとした優越感に浸る。
「まあ、パフェのためを思えば安いもんよ。ああ、あとクレープと」
「ああ、ちゃんとおごるから安心してくれ」
胸の前で首輪つきけものを両手で抱き締めたままファナティックが言う。
首輪つきけものが丁度こちらを見上げる感じで、すごく可愛い。微妙に自分も欲しくなってきた。
「ほかに欲しいのはないの?」
「ああ、今日はこれだけだ。じゃあ、行く──」
「あれ?ワルキューレか?」
後ろから声がしてファナティックが振り向く。見た事のある三人組がいた。
「おや、ファナティックも一緒か」
×××××、レジーナ、アップルボーイの仲良し三人組だった。レジーナはファナティック同様胸に首輪つきけものを抱えていた。
「あら、あなた達もそのぬいぐるみ取ったの?」
「うん、なんか可愛かったから。六回ぐらいかかったけど」
「取ったのは僕ですけどね……しかも自腹で……」
アップルボーイが苦笑いしながら注釈を入れる。かわいそうに。
「あとでご飯奢るって言ったでしょうが人聞き悪い!」
「……で、そのぬいぐるみはファナティックの趣味か?」
ファナティックと彼女に抱きしめられた首輪つきけものを交互に見やりながら×××××が訊く。
迂闊だった。まさか顔見知りに会うとは思っていなかった。
「……悪いか?」
言い逃れできないと悟ったのか×××××を睨みつけながら事実上肯定の返事を返す。
「いや、別に。どこかのおてんば娘と趣味が似てると思っただけだ。意外ではあるが」
「ほう。それでおてんば娘ってのは誰のことかな?」
ファナティックと同じぬいぐるみを持ったレジーナが顔をヒクつかせながら訊く。
「さあな。アップルボーイに訊いてくれ。よくおてんば娘って言ってるし。」
「僕がですか!?」
「ほう……詳しく聞こうか……」
「ちょ、誤解ですって……」
レジーナに詰め寄られるアップルボーイを尻目に×××××が会話を続ける。
「で、それ、ファナティックが取ったのか?」
「あたしがとったのよ。たった三回でよ、三回」
横からワルキューレが入ってくる。後ろがやかましい。
「ワルキューレが?流石だな、スナイパー」
「昔から得意なのよ。ゲームは全般得意よ」
「ほう、それでぬいぐるみが欲しいけど取るのは下手なファナティックに代わりこうやって取ってやってると」
「そういうこと。彼女の部屋、すごいわよ?」
「お、おいっ!」
部屋のぬいぐるみワールドを暴露されそうに──いやほぼ暴露したも同然だが──ファナティックが焦って発言を遮ろうとする。
が、ワルキューレの言葉はレジーナの耳にも届いていた。
「ほんと!?」
×××××を押しのけるように首輪つきけものを抱えたレジーナが割って入ってくる。
アップルボーイは無事だろうか。
「今度見せてよ!」
「……考えておく」
「やったっ!」
はしゃぐレジーナ。少し恥ずかしそうなファナティック。
ていうかなんだこの乙女チックな会話。お前ら二人ともそんなキャラじゃないだろう。
×××××が口に出さなかったのは死にたくなかったからである。スラッグガンとグレネードが怖かったからである。
三人と別れて並木道を歩く。ちなみに首輪つきけものはファナティックが持ってきたリュックの中にぶち込まれている。
「良かったわね」
「何がだ?」
「友達、増えたじゃない」
「……レジーナか?」
「そうそう。あたし意外に誰かを部屋に入れるなんて、初めてじゃない?」
「まだ入れると決めたわけじゃ……」
「入れない理由はないんじゃない?」
「…………」
「いいじゃない。いい子よ?レジーナだけじゃなくて、アップルボーイも、×××××も」
ファナティックはうつむいたまま何も言わない。
不意にワルキューレが立ち止まる。
それに気づいてファナティックも立ち止まり、顔をあげてワルキューレの方を見ると、微笑みながら頭をなでられた。
突然のことに目をつむる。
「さみしがり屋のくせに、なかなか他人を受け入れようとしないからなあ、ファナは。あたしも苦労させられたわ」
「…………」
「もう少しガードゆるくしてもいいんじゃない?普段からあたしと一緒にいるときのようにしてれば、すぐに友達なんかできるわよ」
「……本当にそう思うか?」
「思う思う。親友のあたしが言うんだから、間違い無い」
笑顔で即答される。その笑顔につられて、ファナティックもふっと笑う。
「そうか。……がんばってみるよ」
「その意気その意気。じゃ、行くよ」
「ああ」
再び歩き出す二人。ファナティックは無言で微笑み、今度はワルキューレが鼻歌を歌っている。
「……もしこれから、何人友人ができたとしても……」
「うん?」
「……一番の親友は、やはりお前だよ」
それを聞いてワルキューレが立ち止まる。見ると少々面食らった顔をしていた。
「どうした?何か変だったか?」
「ん、いや、ファナにそんなこと言われるの初めてだったから、ちょっと驚いただけよ」
「そうか?まあ、思ってはいても言うことなんてなかなかないしな」
「ん、そっか。そっかそっか」
しきりにうなずきながらにんまりするワルキューレ。ファナティックの腕に自分の腕を絡めて歩き出す。
「な、おい!」
引っ張られるようにファナティックも歩き出すが恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。
「気にしない気にしない。ほら、行くよ」
観念したのかファナティックも黙って並んで歩く。
時刻は十二時丁度。レイヤードは今日もそれなりには平和である。