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 あの日、彼女と共に拙者はいた。
 拙者にとってメノ・ルーはそれはそれは大切な友人だった。
 「これは……なんでござるか」
 「うふ。わが国屈指のショクモツ、その名もスパム缶ですよ」
 「この珍妙な臭気! このオゾマシキ色彩! これが人の食い物でござると!!」
 「そう……けっこうおいしいと思いますけど?」

 そう言って、クラッカーをスパム缶に突っ込んだ。
 スパムがなんともねっとりとついたそれを彼女は口へ運ぶ。
 「とまあ、こんな感じで。慣れとくと戦場で便利よー?」
 彼女に押される拙者、嫌々ながらもクラッカーを突っ込んでほお張る。
 「……ん、これは、これはこれは……」
 子首を傾げる彼女。だが拙者は言ってやるのだ。
 「人間の食い物じゃあない!!」

 三杯目のコップがテーブルを叩く。
 「やっぱり、ワカには無理ですか、これ」
 「そうでござる。拙者にゃあ、古からの丸薬があるでござるから大丈夫でござる」
 「どう見てもソレの方が人の食い物にみえませんけど……。そうねえ、こんなのどうでしょうか、暇になったらアメリカとニッポンの食べ物どっちが美味しいか勝負するっていう」
 「そんなの当然日本が勝利でござる、何故なら味の素という心強い存在が有るでござる!」
 
 突然彼女は笑う。何で笑うか理由も分からないが釣られて拙者も笑った。
 「だめよ、そんな笑い方じゃ。もっと大きな口を開けて、ね?」
 「わっはっはっはっはっはっはっはわ!」
 こんなに腹の底から笑えるのは彼女と共にいる時だけだった。
 いまでは彼女は遺影だ。だが墓には埋められていない。研究施設に持っていかれた。
 遺影は笑うがそれは微笑だ。あの時の彼女の笑い声は、拙者しか知らない。
 この顔に、涙を浮かべて泣いていても、大きな口を開けて、笑おうと、拙者は決めた。

 「まだ貴女の元へはゆけないでござる」
 拙者は、エレベータで車懸のコクピットにたどり着き、座る。
 先の先頭で失われた両腕が無いのに疼く。四方からコネクタが伸び、背骨と後頭部、臀部に接続される。
 電子・アイに黄色の光が灯る。コジマ燃焼炉に火が灯り、鼓動するのを感じた。
 貴様に奪われた両腕が、拙者にはまだ此処にある。引き金を引く指は、失われてなんかいない。
 
 「リンクス:ワカ=ネクスト:車懸、発進する」

 カタパルトが蒸気圧によって稼働し、拙者は海上に吹っ飛ばされた。
 自立戦闘ヘリを指揮する、紅いネクストが此方を見ていた。

 「敵機確認、メメントモリ。腕グレネード展開:弾込め……撃てェエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
 
 ――神様よ。美しき、戦いの女神よ、安らかに眠れ。――――
 ―――全てを終えたら拙者も、貴女に会いにいくでござる……。――――

 海水の柱がヘリ部隊を飲み込む。メメントモリが車懸の横をすり抜けようとする。
 だが彼は、それを見越していた……。武装をパージし、敵にぶつけた。動きの鈍ったネクストをその豪腕で締め上げる。
 車懸の装甲が弾け、内部機構が剥き出しになる。胸のコジマ増殖炉が臨界点に達して、溶解を始めた。

 『莫迦な……、死ぬぞ』
 「元よりそのつもりでござる……」
 『貴様、笑っているのか……』
 「わっははっははははっはぁっはひっくああ、わっはははははは!!!!!」
  
 二つの巨人が折りたたまれる。概念が消失し、物体が崩壊する。
 物理現象として、濁った海水がエネルギー変質を起こして、彼らを球状に囲んでいく。
 煉瓦が積み重なるようにして組みあがる海水の球体。そして、それは一気に縮小し、碧の輝きを放ち、大爆発。
 超高密度圧縮された彼らは沈み、海底の砂と化した。

 彼らはもう二度と、浮かび上がる事は無い。

 
 




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