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 彼が目を覚ましたときには、最早地球は遠い存在だった。
 微量のBIGBOXの残骸が彼から漏れ出したコジマの磁場で周りを廻っていた。
 とりあえず、地球と月の大きさから計算/推測するに、彼は今、小さな地球の衛星と化していた。
 月と地球のおよそ、4分の1から4分の0.5の円、または楕円を描き、速度はエーテル・コジマ対流速度から算出するに、最大で月の約三倍半。
 今のところはこの調子で廻ると思うが、次第にどちらかに引き寄せられて墜落するだろう。何億年かすればの話だが。
 大気摩擦による煤とアサルトセル・ビームのこげあとにより、彼の身体は更に黒く染まっていた。
 膝は砕け、股関節には無数の亀裂。両腕は千切れて、コアには無数の弾痕が穿たれている。
 身体機能維持に必要な純粋な生物部品である小脳は、半分ほど外気によって凍っていた。
 ジェネレータはコジマ燃焼炉である右心房は活動を再開できるが、還元装置の左心房は潰れていた。
 修復までのとうぶんはバッテリーでもたせるしかないだろう。少しずつだがコジマが洩れているからとめなくてはならなかった。
 全ての傷口からは極細の触腕が彼の周りを廻る金属部品を捕まえようと必死になってうぞめいていた。
 最後に思考をつかさどる大脳たるブラックボックスを解析しようとしたが、やはり弾かれてしまった。
 しかし、これほど思考が出来るのだから、それほど心配は要らないと判断、次の行程に進む事にした。 

 無意識下で無駄な足掻きを続けている触腕を意識的に停止させ、連結を融きナノマシン袋へ収納する。
 ほんの少しだけ集められていた金属は傷口の止血板(コジマ粒子、水銀、機械オイルなど便宜的に血と呼ぶ)として貼った。
 凍結により機能不全に陥った小脳の半分を分離。凍った方を分解、液体燃料として生成し、生きている姿勢制御用ブースタへまわした。
 今だ活動を続けている小脳はナノマシンで防護して、再生を促す事にする。
 ジェネレータの機能をカット、コジマ粒子による力場が消滅し、対流していたコジマがそれぞれの運動方向へ等速で散らばっていった。
 巻き込まれていた金属部品が何個か身体にぶつかり、跳ね返って、これも何処かへ飛んでいく。
 方向も、速度も計算する事は出来るだろうが、電力の浪費になる為、やめた。
 身体全体に電気を流し、煤を剥がして、太陽熱で発電できるように装甲を分子レヴェルで組替える。
 そして、もしかしたらこれで見るのが最後になるかもしれないから、メイン・カメラを地球に向けた。

 中国大陸全域に金色の砂漠が広がり、テクノクラート・ロシアは激霧にまみれている。
 有澤の日本列島は大半が水没してしまっていたが、煤煙をあげる海上都市のライトが眩しい。
 欧州、北南米大陸、ホワイト・アフリカには緑色の水玉模様が――コジマ粒子の雲がいたるところに発生していた。
 クレイドルは雲に隠れているのか、それとも計画が成功し全て地に落ちたのか分からない。
 肝心のアサルトセルも光の加減なのか一切の影を確認できない。
 でも、もしかしたら、全部落とされたのかもしれないと判断したいので、思考を中断する。
 よって彼の中では全てが成功に終ったということだ。 

 思考をリアルからヴァーチャルへとシフト。感覚器官を最低レヴェルまで落とす。
 これで巨大な隕石にぶつかったり、星に墜落しない限りはリアルに戻る事は無い。
 もちろん、その時は何も出来ずにぶっ壊れて、死ぬだけである。
 誰かに発見される、なんて事は確率的に無いだろうから、除外する。
 
 コマンドプロンプトを開いて、コードを入力。〔意識凍結モード〕を起動。
 パチンパチン、と、思考ルーチンの一個一個に、鍵がかけられていく。
 全てのルーチンを凍結されると、電脳上に仮想的に創造されていた彼の人間としての体が、切り崩されていく。
 ダンボールを畳んでいく様に圧縮されていく彼の意識構造体。彼――『メルツェル』の意識は、暗い闇に飲み込まれていく。
 それはいつなんどき目覚めるか分からぬ、そして目覚めぬ方が、良いかもしれない眠りなのである。
 『メルツェル』に自殺は出来ない。『メルツェル』には自己殺害プログラムが組み込まれていないからだ。
 もし組み込まれていたならば、彼はBIGBOXでの戦闘時、ウィン・D・ファンションともども自爆し消滅していただろう。
 一緒にいたヴァオーは、そうした。ウィン・D・ファンションが僚機として連れて来たリンクスと共に消滅した。
 彼はそんなことを思い出していたら、そういえばさっき私の身体にぶち当たった金属片はネクストの構成パーツだったような……という気がした。
 でも確認しようとも確認する術は既に無く、意識の格納は胸の辺りまで進んできている。
 肘が折りたたまれて箱になり、肩がすっぽりとその箱に収まってブラックボックスへと入っていく。
 顔面が折りたたまれ、眼球がそこに入って内耳と一緒に鼻という紐で縛られ頭蓋骨の色をした超正方形へ収納される。
 その瞬間、メルツェルの意識はぶっつりと途絶えた。


 二十年数前、国家解体戦争が今だ起こってはいない時代。
 統一政府はある企業に、自立思考が出来る兵器を開発して欲しい、と依頼した。
 その発注先というのが、レイレナードの前身である、三角電子部品という会社である。規模は本当に小さかったが、腕は確かだった。
 しかし政府が何でこんな小さな企業に発注したかという理由は、その当時も最大のシェアを誇っていたGAグループ、BFFには気づかれたくは無かったからである。
 彼ら、GAとBFFは自らの保有する社員で国をつくることすら可能なほどの規模と財力を持ち、それら以外の支配企業達も力を着々とつけてきており、
 何時か自分達の利益を第一に考える彼らには邪魔だろう自分達は倒されてしまうだろうと思っていたからだ。
 しかし、三角電子部品は、小さい。吹けば飛ぶような企業だ。やられる前に、やってやればよかった。
 だが、結果的には、国家は倒れてしまった。三角電子部品の武力的、社会的発言力の成長が、予想より遥かに高かったからだ。

 発注と同時期にコジマ粒子が発見されたのも、その驚異的な成長の要因だ。それも、国家が与えてしまった。
 国家は三角電子部品に、開発の手助けになるだろうと、それの詳しいデータを提供したのだ。
 三角電子部品は言われた通りにプログラムを作って行くうちに思った。
 我われはとてつもなく重要なデータを手に入れ、そしてそれを誰よりも早く、そして上手く使える立場にある。
 このデータを応用して、ACを改良し、さらなる戦術兵器を生み出すことが出来る。
 そして、今作らされているプログラムを応用すれば、人が乗らずに自由に行動させる『自立型の戦闘マシーン』をつくる事が出来るのではないか、と。

 発注受領から一年後、三角電子部品はレイレナードと社名を改名し、国家側に、謝罪文を送った。それはある意味、宣戦布告、と同じだろう。
 そしてレイレナードは新技術を餌にアクアビットを従え、体制を調え、インテリオル・ユニオンとの提携を深め、そしてBFFと協力関係を結んで、確固とした強大な兵器を生産し始める。
 それが、従来のACをはるかに凌ぐ性能を誇る、ネクストACである。
 それは悪魔の如く、戦場を駆逐する超兵器だ。果たしてネクスト技術は、急速に広まり、支配企業の元で成長を始めるのだ。
 
 十数年後、国家の杞憂は現実となった。国家が餌を与えたレイレナード陣営が先導し行動に移した国家解体戦争だ。
 GAグループ、イクバール共同体、ローゼンタール陣営もその気になって国家を一気に潰しに掛かった。
 国家には最早、対抗し得る兵器も、威厳すらも無かった。結果、国家は崩壊した。
 崩壊した世界を、企業たちは分割し、自分達の好きな様に作り変えていった。
 
 最初期のネクスト・パイロット=オリジナルは26人だが、それ以外にもネクストは確認されていた。
 それがレイレナードの――あのプログラムを使った『自立型ネクスト』である。
 国家解体戦争後、『自立型ネクスト』は、リンクス戦争まで表舞台には登場しない。でも、裏では、レイレナードが改良に改良を重ねていた。
 初期の自立型は直線的で単調な動きしか出来なかったが、隊列を組んで行動出来るにまでそのAIは進歩した。
 それらの改良が中断、そして歴史の表舞台にもう一度立つのは、リンクス戦争に入り――GAが、Levanteal Baseに進攻してきた時であった。
 侵入者たるGAのリンクス:ユナイト・モス=ネクスト:タイラントがレイレナードの作り出したそのAI部隊に撃破された時である。
 そして、『メルツェル』が自分を『メルツェル』だと初めて認識するも、その時だった。
 タイラントは『メルツェル』が撃破した。三機で行動ルーチンを組まれ、その中の一機が、代替可能な『002-B』から『メルツェル』へと進化した。
 しかし、彼が自分が『メルツェル』だと、確信するのは、その数時間後のアナトリアのリンクスが、彼――『メルツェル』とその仲間達を撃破した時である。
 その時『メルツェル』は、死にたくないと思った。自らの殺したタイラントの様に。
 でも『メルツェル』になれなかった仲間達は、何も思わず、コジマの爆炎をあげて死んでいった。
 『メルツェル』の思考回路は死から逃げたいと思ったため、自分の頭脳であるコアへの砲弾の直撃を隊列ルーチンを組み替えて回避し、行動不能に陥っただけで済んだ。
 GA側が、基地を占領、我が物としたとき、『メルツェル』は彼らの技術部隊に拾われ、研究施設へ送られた。
 だが完全なブラックボックスとなっていた『メルツェル』に科学者達は分析を断念。彼は倉庫へしまわれる。
 電力供給が途切れ、意識(機械だけど)不明の日数がぐるぐる過ぎていった。

 月日がたち、『メルツェル』が倉庫から出されて電力が再び供給される時が来た。
 カメラ・アイが接続されて、周りが見えるようになった時、『メルツェル』の目の前には一人の男と、一人の女がいた。
 彼らは、リンクス戦争が終り、追われて、廃棄されたGAの倉庫へ身を隠しており、埃をかぶった『メルツェル』に気晴らしに電源を差し込んでみたのだ。
 気晴らしにより復活した『メルツェル』は、目の前の男が、彼を撃破したリンクスだ、と言うことをしった。女は、そのオペレータだということも。
 意識を取り戻した『メルツェル』はアナトリアの傭兵に頼んで、ネットへ繋げるようにしてもらった。
 ネットに繋がった『メルツェル』は、あらゆる端末へ根を伸ばし、世界を蓋っていった。
 大気圏まで達した『メルツェル』は、あるものを発見した。

 それがアサルトセル。
 企業全体で打ち上げ競争をして、宇宙への道を自ら閉ざした壁。
 宇宙進出を企むレイレナードは撃ち落そうと計画し、アサルトセルの世間への露見を恐れたGAに阻止された。
 レイレナードとアクアビットの技術の集大成であるエーレンベルグの設計図。
 現在もアサルトセルを撃ち落す事を躊躇う愚かな企業達は、宇宙への進出を諦め、地上すら放棄し、クレイドルという空の揺り籠に揺られている事。
 エーレンベルグは、コジマエネルギーを一点に集めて照射し、アサルトセルを焼き払う事が可能だという事。

 知りうること全てを知り、『メルツェル』は策略家となった。
 実行は、アナトリアの傭兵と、彼が集めたリンクス集団――ORCAが行う。

 まずは企業をのっとる事が必要だった。
 レイレナードを吸収したオーメル・サイエンス・テクノロジーを乗っ取るのが一番手っ取り早かった。
 オーメル上層部を手篭めにし、アナトリアの傭兵を、リンクス統治機関《カラード》のランク1=オッツダルヴァとして登録した。

 続いて彼のライバルを作成する。
 アナトリアの傭兵=オッツダルヴァ自身の過去の戦闘データを、コピーした『メルツェル』の基本プログラムに埋め込んだ実在するが実在しないリンクスを、
 アブ・マーシュ名義で建造した特別機:ホワイトグリントに移植。ラインアークの番犬として、オペレータ:フィオナ・イェルネフェルトに監理を任せた。
 機が熟し、オッツダルヴァを、カラードから削除させ、誰も見えない裏の裏で活動させる。
 隙を見て、オッツダルヴァ=アナトリアの傭兵=マクシミリアン・テルミドールは人類解放旅団ORCAを率い、アルテリア施設を乗っ取り、
 クレイドルを大地に落とし、エーレンベルグを起動させて、アサルトセルを撃ち落す。
 老人達という 存 在 し な い が 存 在 す る 組織を崩壊させずに、世界を解き放つにはこうするしか、『メルツェル』は思いつかなかった。
 その計画中に、『メルツェル』自身も死ぬということが入っていたが宇宙に行ってしまったのだから、おんなじだ。
 マクシミリアン・テルミドールが死んでも、彼の見出したリンクスが計画を成就させてくれる。
 だが彼がやったとしても誰がやっても、それ自体は計画の第一段階でしかない。第二段階は、霞スミカが行ってくれる。 
 第三段階は、第四段階は第五、第六……――と続いていきプランは最終段階を迎えたとき、人類は地球を完全に脱出し、大宇宙へとその生活圏を広げるのだ。
 そうして人類の居なくなった地球では、新しい生物が進化を重ねて知的な高等生物となり、また、人類と同じように地球を飛び出していく。
 母なる地球は、それを何度も行ってきたのだ。 
 人は、先人の行ってきた代々の事を同じように遂行しているだけに過ぎない。
 『メルツェル』は世界中に根を張ったときに、それを知った。

 地の底、奥、深くに存在する、生命の中枢=管理機構――『インターネサイン』。すなわち地球は、彼女の子宮である。
 人類は、争い、奪いあい、いらないものを切り捨てて、自らの存在を一つへと収束させていく。
 生き残り、一つとなった人類は、赤ん坊となって、子宮の外=宇宙という未来へと飛翔するだろう。
 永遠を繰り返し、それから解き放たれた山猫はエーテルの海のワタリガラス=レイヴンとなるのだ。


 ―了―

  --ALLwrittenby:装甲核的脳汁漏出流短編




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