私は強い。レイヴンズアークに所属する傭兵として活動を始めた後も、その自信が揺らぐことはなかった。

 

 若いレイヴンで私よりも腕の立つ者などいなかったし、腕利きと呼ばれる者が口にする経験の差など、多少の下調べで易く覆る脆弱な自負に過ぎなかった。

 

 誰も彼もが達者なのは口ばかり。かつて私が恐れ敬っていた社会とは、弱きものに挑ませることすら許さず、ひたすらに自らの強大さを押し付ける欺瞞の塊だった。徹底して正体を隠し、誇張した自己を振りまくことで増長した、醜悪な弱者の群れの中にあって、私が負ける道理などあるはずもなかった。

 

 だが、数え切れないほどのACを破壊し、幾百に及ぶ依頼を完遂しても、世間が私を認めることはなかった。

 

 開設当時に比べて企業の力は格段に伸びており、アークは統率力を既に失っていた。特定の企業と二重契約を結ぶことが有力なレイヴンの間では蔓延し、ステータスにすら見なされていた。早い話が、大企業に見初められなければ評価されなかったのである。

 

 そのため古参のレイヴンは世渡りばかりに長けていき、就いた先を自らの派閥で囲い、従わない跳ね返りは芽を出さないうちに潰すことで地盤を固めていた。故に新人のレイヴンは有力者の下につかなければ満足な依頼を受けられず、また連中を上回る出世を遂げることは決して出来なかった。

 

 腐敗した弱者共は負けることを恐れてか、直接手を出してくることこそなかったが、大企業を通じてアークに手を回し、依頼を制限することで私の力を抑えていた。隠すつもりもなかったのだろう、アリーナのランクが上がるほどに増えるはずの依頼は露骨なまでの減少を見せ、一般のネットワークに名前が載るようになった頃には、ミラージュやクレストといった大企業から私の存在は消えていた。

 

 権力に居座る連中を呪わなかったといえば嘘になる。しかし、無いものとして扱われていた私にとって、発言すべき場などこの世界にはなく、ただ無力を噛み締めて、奇跡が舞い降りることを祈るほかに手立てなど残されてはいなかった。

 

 神よ、願わくば私をこの地獄から引き上げたまえ。と。

 

 

 そして、神託は再び下った。

 

 

 きっかけは一人のレイヴンである。

 

 アークのNO.2に君臨する実力者でありながら野心家として知られるジャック・Oが、飾りと化したアークに見切りをつけ、新たなレイヴンの統治機構を立ち上げたのだ。

 

 派閥抗争に疲れた気概ある者や成り上がる道を断たれた若手は、藁にもすがる思いで彼に追随し、私もこれに同伴した。もっとも私は、あわよくば新興勢力が生み出す利益のお零れに与ろうとするハイエナや、ただ強者にもたれかかりたいだけの無責任主義者と道を同じくするつもりはなかった。私は、機会さえ得ることが出来れば自力で栄光を掴み取る覚悟を決めていたし、それだけの実力を備えていた。

 

 この騒動は、袋小路に陥った私のために神が下した道標だとすら思っていた。そう思い上がるだけの成果を挙げる自信が私にはあったのだ。

 

 しかし、この騒動は思わぬ形で終焉を迎える。ジャック・Oの元に有志が集い、活動が始まろうとするまさに直前、ナービス社が管理しているという新資源こと旧世代の遺産が、突如として自立した活動を開始し、飛来した夥しい数の小型破壊兵器、通称特攻兵器によって、新興勢力はおろかアークも、企業も、人類の生み出したあらゆる文明は軒並み崩れ去ってしまったのだ。

 

 これは、私にとってこの上ない贈り物となった。人の生死すら無意味にかえる未曾有の大混乱は、飽和し硬直していた文明のヒエラルキーを完全に破壊し、世界を力だけが物をいう原始の時代へと変えた。当然、特攻兵器の襲来以前に聳え立っていたレイヴン同士の派閥など意味を失くし、生き残った企業は新たに自治の体制を整えるための戦力を、我々真の強者に求めるようになった。有益と無益を問わず、ただ浪費してきた時間のみを取り上げ、抹殺と同意とされるまでに私の存在を踏みにじってきた権力者共が、こぞって縋り付いてくる姿は滑稽ですらあった。

 

 私はかつて世界最大の権勢を誇っていたミラージュに組することに決めた。最も私を見下していた相手に手を貸すという皮肉に、私怨が混じっていたことは否めない。

 

 一人のレイヴンとしては十分過ぎる成果を残して見せると、奴らは媚びへつらうように私を持ち上げるようになった。私はミラージュを代表するレイヴンへと上り詰め、やがてクレストやキサラギといった過去の権威と結託した連合組織アライアンスが立ち上げられると、そのお抱えの戦術部隊に隊長として迎えられた。特攻兵器や、破壊以後の争いによって次々と数を減らし、今や二十二人しか残されていないレイヴン五名によって構成される、世界最強の部隊だ。

 

 最大の組織が持つ最強の部隊の統率者、私は自分が頂に立っていることを確信した。

 

 私は誰よりも強い。だからこそ地獄から這い上がり、権力を壊し、闘争を勝ち抜くことが出来た。神は私に生きろと命じ、ひれ伏すなと願い、支配しろと諭しているのだ。

 

 ならばこそ、私はこの神託に殉じよう。幸いなことに状況は整っている。他でもないあのジャック・Oが、アライアンスに反するレイヴンを集めた組織バーテックスを立ち上げ、宣戦を布告したのだ。

 

 現存する二十二人のレイヴンは分裂し、各々にかけられた賞金を賭けて殺し合う。私の力を知らしめるには絶好の舞台と言えるだろう。

 

 この戦いが終わった時、人は選ばれた者の存在を知ることになるだろう。

 

 それこそが全世界の受け入れるべき福音なのだ!





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