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「お腹が・・すいたなあ」
天を仰ぎながら、呆然と立ち尽くす。
空腹のあまり、眩暈がしてきた。
ここ最近、まともな食事をとっていなかった。

レイヴンの試験に合格して浮かれていたが、
まだ試験がとおっただけであり、生活費は苦しいままだった。
一つでも仕事を行えば、多少なりとも良い食事にありつけるのだが。

虚ろに霞む目をこすり、財布の中身を確認する。
財布には、小銭ばかりで、
紙幣を入れる場所は閑古鳥、いや鴉が鳴いているように見えた。

思わず溜息をついた。
とぼとぼと肩を落し、けだるく歩を進める。
すると、妙に鼻腔をくすぐるよい匂いを、不覚にもキャッチしてしまった。
これでは空腹を促進するばかりだ。

しかし、せめて香りだけでも・・・。
体力のすべてを脚力に注ぎ、匂いの方を目指して歩き始めた。




「・・・これか?」
このかぐわしい香りの発生元は、裏路地にひっそりと根を張る屋台であった。
「うう、なんでもいい。見るだけでも・・」

ふらふらと屋台に近づく。
しかし、全神経を脚力に集中したおかげで、足元にある小石に気付かなかった。

「あ」

そこでもう、全てのエネルギーを使い切ったのであった。
ジェネレータが生み出すエネルギーもなく、
冷却装置だけが悲しく動いている状態に似ている。

「ここで、終わりかあ」
ごろん、と仰向けになり、目を閉じた。
そのときだ。


「小僧、こんなところで何をしている」
目の前には、なんとも威厳漂う中年の男が立っていた。



「ほう、レイヴンになれたのか。それは素晴らしいことではないか」
威厳漂う男が不敵に笑う。

「へえ、空腹で倒れる奴もレイヴンになれるんですねえ」
こちらは・・亭主だろうか。
そういいつつも、せっせと手を動かしている。

自分はと言うと、だ。
空腹のあまり返答も出来ず、厨房の様子に釘付けだった。
威厳漂う男性に肩をかしてもらい、なんとか席についたのである。

「親父、いつものを頼む。貴様はどうする、小僧」

「・・・あ、ええと。一番安いやつで・・かけそばを」
口も動きづらくなってきた。空腹とは恐ろしい。上位ランカー以上の強敵だ。

そういうと、亭主はそばを茹で始めた。
麺を茹でる釜の中では、元気に泳ぐそばの姿が見えた。
生唾ものだ。思わず、ごくりと喉をならしてしまう。
それをうまく掬い取り、さっと冷水につけたと思えば、
あっという間に水気をきり、それを器に運んでいる。
職人芸とはよくいったもので、まさにこの一連の動作は洗礼されていた。

出し汁には、様々な素材が詰め込まれ、香りは「よい」としか表現できない。
これは、まさにファンタズマな香りといえよう。
まずい。空腹のあまりに何かスイッチが入ってしまった気がする。

「さ、出来ました。どうぞ」
ことり、と音を立ててかけそばが目の前に出現する。
これを本当に食べて良いのかどうかわからず、思わず威厳漂う男性に目をやってしまった。
男は、「食え」と一言。

その言葉がトリガーとなった。
もはや、言葉は不要か。
「い、い、いただきます!」

そうして、かけそばに箸をつけた。
シンプルであるが、それこそが究極のメニュー。
厳選された素材を想像させる、この出し汁の臭みのなさ。
そして、蒸気と共に視界を覆うほどの良い香り。
何より見るべきは、麺の絶妙な歯ごたえだ。

レイヴンになる前、いつもインスタントヌードルを食していた。
その極貧時代に食べたものとは比べ物にならない、
まさにこれぞ「蕎麦」だといわせんばかりの歯ごたえを体感させられた。

「う、うまい。うまいよお」
泣きながらソバをすすることになるとは思わなかった。
しかし、この感動は一生忘れないものとなる。

「ごちそうさまでした」

出された水を飲み干し、一息つく。
ふと、隣に目をやると、男の前には、大きな器が。

「あの、それは?」
本当に、好奇心だけでその言葉を吐いてしまった。
意地汚いと思われてしまうと、後悔の念が募る。

「ふむ。好みによるのだがな、私はこれが好きなのだ。
    • 小僧、試してみるか?」

そうして男は、自分の前に大きな器をよこす。
「味見、させていただきます」

自分の使用した箸をつけることが、ここまで申し訳ないとは。
それをなんとか振り払う。

「これは・・」
うどんだ。ソバではない。
ずず、と汁をすする。
そこには、新鮮な魚介類が大きな海原を泳ぐ姿が想像できた。
臭みのでやすい魚介類だが、その癖を全て取り除き、爽やかさを感じさせるとは。
灰汁の取り方が完璧であり、
出汁を取る際にこれらの味を引き出すだけの時間を、一秒の誤差なく把握していないと出来はしない。

「・・うまい」
ただ、その一言につきた。

「だろう。これ以上はやれん。私も空腹なんでな。
しかし、もし初めての仕事をこなせたら」

男はそういって、うどんに手をつけはじめ、語ることはなかった。
ずるずる、とおいしそうな音を立ててうどんをすする。
亭主はそれを満足そうに見つめていた。

自分もかけそばの汁を飲み干し、両手の平をあわせた。


「ありがとうございました。おかげで、助かりました」
そういって、ふかぶかとお辞儀する。
亭主は笑顔になれてないのか、ぎこちなく笑っていた。
男は自分の肩を叩く。

「戦場では敵にならぬことを祈る。
困難を極める仕事だったら、呼んでくれ。そのときは、手を貸そう」

男はそういって、路地に姿を消した。
亭主も屋台を片付けて、一度手を振ったかと思うと、屋台を引きずっていった。


「さあ、初任務。がんばるぞ」
そういって、アップルボーイは歩き始めた。
これがレイヴンとして、傭兵を始める第一歩だったのだ。





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