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 私の才能は天から授かったものに違いなかった。
 少なくとも、人間と呼ばれることさえおこがましい、あの腐れた番いから受け継いだものではない。奴らが、このような輝ける要素など一欠片たりとも持ち合わせているはずがないからだ。
 父と明記するだけで虫唾の走る男は所謂荒くれ者だった。職にもつかず毎日ふらふらと出歩いては日の高いうちから酒に溺れ、つまらない女を追いかけまわしたり、たまたま目に入った相手に喧嘩を吹っ掛けたり、そうかと言ってどこかの組織に籍を置く気概もない、ただの腰抜けだった。
 母と名義されるあばずれはそれなりに美しい容姿を持っていたが、分不相応なプライドを振りかざし、自力では服を着替えることすら出来ないくせに相方には星を掴むほどの高い要求を迫るので、毎晩のように男を作っては捨てられて、焦点の定まらない瞳で夜の街を彷徨う、汚れた肉壺だった。
 そいつらは気が向いた時に空き家をかすめとった自宅に戻っては、日頃の憂さを晴らすために私を殴った。社会的に抹殺され、ヒエラルキーの底辺である二人にとって、勝てる相手は幼く両親の庇護がなければ生きていくことさえ出来ない私だけであったのだ。
 幸いなことに母方の親戚にあたる者(もちろん母は両親から勘当された天涯孤独の身ではあるが)がミラージュの社員で、戸籍を同社の敷地に置くことが許されていたので、わずかな生活支援を受けることができ、飢えることはなかった。両親が名義上であれど離婚せずに夫婦でいるのは援助金を減らしたくないためであるし、私が二人に殺されなかったのも同じ理由であった。虫けらにも劣る奴らに家族を省みる甲斐性など期待できるよしもなく、ましてや子供にかける愛など考えるだけ愚かな話だ。
 だから十代の初めだと思うが、私の声が変わる頃になると、奴らは私を仕事に追いたてた。ミラージュから貰えるわずかな養育費よりも、私の稼ぎにたかる方が得になると踏んだのだ。
 とは言え、満足な教育も受けておらず、頼る相手も持っていない私の就くことの出来る職など限られており、中でも二人の要求を満たす収入を期待できる場所となると、もはや戦地に身を晒す他に残されていない。私はレイヴンズアークに所属するレイヴンとなった。
 機動兵器ACを操り、戦場を駆ける自由傭兵と言えば聞こえは良いが、その実態は行き所を失くした負け犬たちの吹き溜まりである。アークは事務手続きさえ踏めば誰でもACを与えられ試験を受けることが出来るので、一攫千金の希望を込めるわけだが、平坦な人生すら踏み外した出来損ないが、幼少時よりしっかりとした訓練を養成所で受けたエリートに敵うはずがなく、大半が満足な成績をあげることも出来ずに命を落としていくのだ。
 私も、例に違わず戦火の塵と消える運命を受け入れていた。感傷は抱いていなかったと思う。当時の私には、孤独でないということがわからなかった。

 

 だが、奇跡は起こる。私には才能があったのだ。それも煌くほどに、飛び抜けた輝きを持つ力が。

 

 ACを与えられ、操縦の説明を受けた後に行う初日の試験では、数十人の候補生が十人になるまで戦い合わされる。私は数十人いた同期の候補生がどうして不格好な動作しか取らないのか不思議だったが、都合が良かったのでそのまま全員を殺した。彼らは最後までろくな抵抗を取らなかった。
 試験が終わりACを降りると、監督者たちが大騒ぎしながら駆け寄ってきて、私に関することを根掘り葉掘り尋ねてきた。後に聞いた話では、その時に仕留めた候補生の中にランカー候補とまで呼ばれていた養成所の生え抜きが混ざっていたらしく、私が彼を消すためにどこかの機関が回したレイヴンではないかと勘ぐっていたらしい。
 しかし当時の私がそんな事を知るはずもないので、生まれて初めて経験する他人から注目を感じたことで、自分は何か特別なことをしたのだとただ満足に浸っていた。
 そして明日、明後日と同じことを繰り返すうちに私の評判は上がっていき、特殊な才能の持ち主であることを周りから指摘されるようになった。試験と銘打って差し出される対戦相手は生贄に過ぎず、ソレらを殲滅することで私は自分の力を実感することが出来た。
 自分は強い。その自覚はまさに天から舞い降りてきた神託そのもので、私は勝者に分類される人間であることを知った。
 だからそれを齎したACを、私は神託(オラクル)と名付けることにした。

 

 やがて試験が終了し、レイヴンとして正式にアークに登録されると、私はミラージュの敷地内に隠れて過ごす出来損ない二人の下を訪れた。
 あいつらは私の生還を祝うでもなく、ただ金を無心したが、私が断ると聞き苦しい罵声と共に掴みかかってきた。
 胸倉を握られ引っ張られたが、その力はひどく弱く、軽く振りほどくと壁まで転がっていった。全身を強打してうめき声をあげる連中の姿は、みじめなほどに小さく情けなかった。
 私はまず男の足を踏み砕いて動きを封じると、女の方に向き直り、近くにあったガラス製の灰皿で側頭部を殴りつけた。女はびくんと全身を痙攣させると、ぐったりと横たわり動かなくなった。一方、男は奇声をあげながら体を震わせていたが、足を折られているので逃げられずにいたので、私はその首に両手をかけると思いきり締め付けた。
敢えて動脈を抑えることはせず、気道を締め上げることでじわじわと窒息へと追い込んでいく。男は必死で腕をはがそうとするが、ろくに鍛えてもいない老体の力ではそれも敵わない。
 脳への酸素供給が途絶えてから数分、意識を失うまでの間、奴は呪い続けるだろう。絶対的強者である私との力の差を。
 奴は気付かなければならない。自分は弱く、私は強い。この神が与えた真実に。
 奴は最後まで言葉を発することがなかったので真意は掴めない。しかし、その表情は醜悪に歪み、この世の全てを憎むような壮絶な死相を取っていた。

 

 私は汚物を投げ捨てると、薄汚い住処を離れて新天地へと飛び立つことにした。
 何のために? それは私の名が語っているだろう。

 

 私の名前はエヴァンジェだ。





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