地下都市レイヤードの機能は今は管理者の小脳部分で補ってはいるが、やはり大脳司令野が無いと、環境監理機構は上手く働かない。
だからレイヤードは急速に寂れていって、誰もいなくなったゴーストタウンがたくさん出来た。
しかしながらゴーストタウンとは言えども、不法住居者はそれなりにいた訳だ。
存管理者時代(彼女は死んではいないが、形式的にそう呼ぶ事にする)には企業警察が摘発し、
IDの確認、再登録をさせて、見知らぬ者等が徘徊せぬようにしていた。
今は地下の大部分に警察機構なんて物は存在してないし、管理者に直結していたID管理機構も機能を停止している。
この話にぶっちゃけあんまかんけいないけどね。一応説明するんだ。
テン・コマンドメンツは、レイヴンだった。
レイヴン。
彼等は、『何者にも縛られぬ自由な存在』と広告打ってはいるが、事実とは裏腹だ。
形式上はそうなっているが、実際レイヴンなど企業の駒であり、管理者の駒に過ぎない、ただの使いっパシリ。
最後まで、他人の思惑通りに働いて死ぬ、忠犬なのだ。
だが意志の自由はあった。働きは統制されていても、心は自由だった。
だからレイヴンは自由な存在。大体そういう事になっていた。
まあ、おれは、きっと死んでしまうって分かってるけど戦う、つまり馬鹿ばっかだと思うね。
戦う意味を見出した殺し屋――かっこよく言うと、こんなかんじかな。
テンコマはそんな役割でも、別によくって、他にやりたい仕事も無かったから、リクルート機構に勧められるままレイヴンになった。
結構そういう漢字でレイヴンになったヤツは大勢いる。さっきと矛盾してるけどまあ、許してくれ。
でも戦う理由はあった。そして彼は、今だって、理由を持っている。だから戦うのだ。死ぬまで。
テンコマは栓抜きでオレンジジュースの王冠をポンッと抜き、一気にラッパ飲みした。
円卓の向かいに座る紫色した青年も、彼に倣って王冠を抜き、それをラッパ飲みにした。
床には、何十本もの空き瓶が転がっている。みんなオレンジジュースだ。
テンコマは酒なんぞではもう酔えない体なのだ。だからお酒よりおいしいジュースを好む。
こんなアットホームな感じなのだが、彼らのいるところはそんなもんじゃあない。
石で出来た、遺跡の真ん中に、彼らはいた。
パープルの青年――オーリーが言った。
「テンコマのダンナ。そろそろ止めにしないかい」
「どうせ貯めといても後に持っていけない代物だ。さっさと飲んでしまったほうがいいだろう」
「しっかし、オレンジジュースばっかり、こう、飲んでたら、血がみんなオレンジジュースになっちまいそうで」
「オレンジジュースこそ思考の品だ。俺はオレンジジュースが大好きなんだ……むぅ、もう、あと一本しか無い……」
「あんなにあったのにもう一本ですかい」
「キサラギマートの奥に隠されていただけだもんなあ」
「ヘ!……これ、キサラギ製だったんですかい?」
「ああ」
「……ダンナのことだからクレスト製だと思ってましたよ」
「クレストの食品は不味い。俺はクレストのそこが嫌いだ。ACとかは良いんだけどな。
さて、最後の一本、俺が飲むか、お前が飲むか、どっちにしようか」
「ダンナがお飲みくだせぇ。俺ぁ、もう腹がパンパンでェ」
「ありがたい」
テンコマはお礼を述べてから、栓抜きで王冠を抜いて、飲んだ。
それはもう美味そうに。
「……いるか?」
「……ダンナが良いっていうのなら」
「良いぞ」
「ありがたい」
テンコマは半分ほど飲んだキ印オレンジジュースをオーリーに渡す。
オーリーもまた美味そうに飲んだ。
「……後は、クローバーナイツが来るのを待つばかり、ですかねェ」
「だな」
「俺は、ダンナぁ、あんたが好きだからこの作戦にのったんですぜ。
そうでもなけりゃぁ、こんな馬鹿げた、それも見返りなんて何にも無い……」
「わかってるさ」
「わかっているなら」
「わかっているさ……これは愛の為だ」
「愛って言ったって、俺のように、生きている人を愛してんならまだわかるけど、
管理者を愛してるんだからってんで、そんなことするなんて、俺は……」
「何度も彼女を守ってきた。近寄るヤツラはみんな殺してきた。
だから今度もきっと出来る。《DOVE》はまだあそこでしか生きられないんだ
外に連れ出してしまったら、彼女は、戻れなくなってしまう」
「だから……彼女、なんてのはもう死んで」
「死んでなんかいない!!」
「……」
テンコマは瓶をぎゅっと握り緊めて、
「死んでなんか……いないんだよ、オーリー。彼女は、まだ……まだ、生きているんだよ。
……まあ、それにな、オーナーの意向には逆らえんだろう?
お前には仕事の選択権があるが、俺にはもう無いんだ。だからって、いやな訳じゃあないがな」
「……把握しやした」
――警報が鳴る。
「……来たか」
「来ましたね」
二人とも椅子から立ち上がった。
どこかで爆発が起きたらしく、振動で天井から石の欠片が落ちてくる。
オーリーは一瞬目を閉じて、テン・コマンドメンツに状況を告げる。
「レーダーによると、敵は一機。たぶん移動速度からフロートMTか、AC」
「多分ACだろう。
まあ、ミラージュも本気モードという訳だ。手ごわいヤツが、送り込まれてきているだろう。
気をつけろよ、やばくなったら奥につれて来てみんなで倒してやればいい。
クローバーナイツが来れなくても、絶対にこっちが勝つ。勝ってみせようじゃないか」
「ガッテンでェ! ダンナはくつろいでてくだせぇ。こっちで仕留めちまうんで安心してくだせェ!」
オーリーは何の変哲も無い石の壁を拳でリズミカルに叩くと、壁が割れ、秘密の通路が現われた。
オーリーが通路に入ると、壁は元通りに閉じてしまった。
「さて、俺も……行くか!」
テンコマは、ぶっ壊れた大聖堂の奥へ進み、地下へのチューブエレベータに乗った。
床の無いエレベータがぐんぐん下に下りて行く。
管理者中枢=《DOVE》が眠るの元へ……。
俺は彼女を見上げる。
彼女の装甲に煤がこびり付いている。
しかし払ってやることは、俺にはできぬ。
俺の手は銃だ。鉄を穿つ、兵器だ。
彼女に触れることは、許されぬ。
もう誰もここへは来てはいけないんだ。
彼女を殺しの道具には、ゼッタイにさせない……。
『メインシステム、戦闘モード起動します』
―完―
いいわけ:
テンコマはサイプレスだった!
そして書いてあることが良く分からないのは、おれ自身もわからないのだったまる
だからレイヤードは急速に寂れていって、誰もいなくなったゴーストタウンがたくさん出来た。
しかしながらゴーストタウンとは言えども、不法住居者はそれなりにいた訳だ。
存管理者時代(彼女は死んではいないが、形式的にそう呼ぶ事にする)には企業警察が摘発し、
IDの確認、再登録をさせて、見知らぬ者等が徘徊せぬようにしていた。
今は地下の大部分に警察機構なんて物は存在してないし、管理者に直結していたID管理機構も機能を停止している。
この話にぶっちゃけあんまかんけいないけどね。一応説明するんだ。
テン・コマンドメンツは、レイヴンだった。
レイヴン。
彼等は、『何者にも縛られぬ自由な存在』と広告打ってはいるが、事実とは裏腹だ。
形式上はそうなっているが、実際レイヴンなど企業の駒であり、管理者の駒に過ぎない、ただの使いっパシリ。
最後まで、他人の思惑通りに働いて死ぬ、忠犬なのだ。
だが意志の自由はあった。働きは統制されていても、心は自由だった。
だからレイヴンは自由な存在。大体そういう事になっていた。
まあ、おれは、きっと死んでしまうって分かってるけど戦う、つまり馬鹿ばっかだと思うね。
戦う意味を見出した殺し屋――かっこよく言うと、こんなかんじかな。
テンコマはそんな役割でも、別によくって、他にやりたい仕事も無かったから、リクルート機構に勧められるままレイヴンになった。
結構そういう漢字でレイヴンになったヤツは大勢いる。さっきと矛盾してるけどまあ、許してくれ。
でも戦う理由はあった。そして彼は、今だって、理由を持っている。だから戦うのだ。死ぬまで。
テンコマは栓抜きでオレンジジュースの王冠をポンッと抜き、一気にラッパ飲みした。
円卓の向かいに座る紫色した青年も、彼に倣って王冠を抜き、それをラッパ飲みにした。
床には、何十本もの空き瓶が転がっている。みんなオレンジジュースだ。
テンコマは酒なんぞではもう酔えない体なのだ。だからお酒よりおいしいジュースを好む。
こんなアットホームな感じなのだが、彼らのいるところはそんなもんじゃあない。
石で出来た、遺跡の真ん中に、彼らはいた。
パープルの青年――オーリーが言った。
「テンコマのダンナ。そろそろ止めにしないかい」
「どうせ貯めといても後に持っていけない代物だ。さっさと飲んでしまったほうがいいだろう」
「しっかし、オレンジジュースばっかり、こう、飲んでたら、血がみんなオレンジジュースになっちまいそうで」
「オレンジジュースこそ思考の品だ。俺はオレンジジュースが大好きなんだ……むぅ、もう、あと一本しか無い……」
「あんなにあったのにもう一本ですかい」
「キサラギマートの奥に隠されていただけだもんなあ」
「ヘ!……これ、キサラギ製だったんですかい?」
「ああ」
「……ダンナのことだからクレスト製だと思ってましたよ」
「クレストの食品は不味い。俺はクレストのそこが嫌いだ。ACとかは良いんだけどな。
さて、最後の一本、俺が飲むか、お前が飲むか、どっちにしようか」
「ダンナがお飲みくだせぇ。俺ぁ、もう腹がパンパンでェ」
「ありがたい」
テンコマはお礼を述べてから、栓抜きで王冠を抜いて、飲んだ。
それはもう美味そうに。
「……いるか?」
「……ダンナが良いっていうのなら」
「良いぞ」
「ありがたい」
テンコマは半分ほど飲んだキ印オレンジジュースをオーリーに渡す。
オーリーもまた美味そうに飲んだ。
「……後は、クローバーナイツが来るのを待つばかり、ですかねェ」
「だな」
「俺は、ダンナぁ、あんたが好きだからこの作戦にのったんですぜ。
そうでもなけりゃぁ、こんな馬鹿げた、それも見返りなんて何にも無い……」
「わかってるさ」
「わかっているなら」
「わかっているさ……これは愛の為だ」
「愛って言ったって、俺のように、生きている人を愛してんならまだわかるけど、
管理者を愛してるんだからってんで、そんなことするなんて、俺は……」
「何度も彼女を守ってきた。近寄るヤツラはみんな殺してきた。
だから今度もきっと出来る。《DOVE》はまだあそこでしか生きられないんだ
外に連れ出してしまったら、彼女は、戻れなくなってしまう」
「だから……彼女、なんてのはもう死んで」
「死んでなんかいない!!」
「……」
テンコマは瓶をぎゅっと握り緊めて、
「死んでなんか……いないんだよ、オーリー。彼女は、まだ……まだ、生きているんだよ。
……まあ、それにな、オーナーの意向には逆らえんだろう?
お前には仕事の選択権があるが、俺にはもう無いんだ。だからって、いやな訳じゃあないがな」
「……把握しやした」
――警報が鳴る。
「……来たか」
「来ましたね」
二人とも椅子から立ち上がった。
どこかで爆発が起きたらしく、振動で天井から石の欠片が落ちてくる。
オーリーは一瞬目を閉じて、テン・コマンドメンツに状況を告げる。
「レーダーによると、敵は一機。たぶん移動速度からフロートMTか、AC」
「多分ACだろう。
まあ、ミラージュも本気モードという訳だ。手ごわいヤツが、送り込まれてきているだろう。
気をつけろよ、やばくなったら奥につれて来てみんなで倒してやればいい。
クローバーナイツが来れなくても、絶対にこっちが勝つ。勝ってみせようじゃないか」
「ガッテンでェ! ダンナはくつろいでてくだせぇ。こっちで仕留めちまうんで安心してくだせェ!」
オーリーは何の変哲も無い石の壁を拳でリズミカルに叩くと、壁が割れ、秘密の通路が現われた。
オーリーが通路に入ると、壁は元通りに閉じてしまった。
「さて、俺も……行くか!」
テンコマは、ぶっ壊れた大聖堂の奥へ進み、地下へのチューブエレベータに乗った。
床の無いエレベータがぐんぐん下に下りて行く。
管理者中枢=《DOVE》が眠るの元へ……。
俺は彼女を見上げる。
彼女の装甲に煤がこびり付いている。
しかし払ってやることは、俺にはできぬ。
俺の手は銃だ。鉄を穿つ、兵器だ。
彼女に触れることは、許されぬ。
もう誰もここへは来てはいけないんだ。
彼女を殺しの道具には、ゼッタイにさせない……。
『メインシステム、戦闘モード起動します』
―完―
いいわけ:
テンコマはサイプレスだった!
そして書いてあることが良く分からないのは、おれ自身もわからないのだったまる