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サークシティとアライアンス本部の中間にある名も無い整備工場。
ここでは、特に目立った抗争も無く、平和な日々が続いていた。

時は、ジャック・Oがアライアンス襲撃を宣言する三日前のことである。

「親父。コロッケ蕎麦」
食券をカウンターに置く物静かな男。
どこか儚げであり、重い空気を背負っている。
こんな時代だ、無理もないが。


はいよ、と食券を受け取る。湯の中で泳ぐ蕎麦をすくい、お湯を切る。
長年かけて出汁を研究し、少しずつ継ぎ足して出来た特性のだし汁。
大き目の入れ物に出し汁を入れ、そこに湯を切った蕎麦を落す。
手早く葱を刻み、それも出し汁へ。
さらに、冷凍ではなく、自家製のコロッケを小皿に移す。
先ほど揚げたばかりだからか、未だパチパチと元気な叫びをあげている。
我ながら良い揚がり具合。こんがり狐色で、容易に噛み締めた瞬間の音を想像できる。


「お待ち」
静かに男の前へ蕎麦を置く。
蕎麦の香りを感じているのか、男は随分と嬉しそうな顔をした。
これが私の至福だったりする。

この店には、様々な理由でアークを離反したレイヴンが訪れる。
何故かしらないが、組織に組していないレイヴンは、
好んで「立ち食い」という言葉の食堂へ足を運ぶ。

蕎麦をすする音が店内に響く。
どうやら男は、出し汁の味と蕎麦の歯ごたえに満足したようだ。
一口目で素の味を把握した男は、今だ元気な叫びをあげるコロッケに箸をつける。
サクリ、と子気味良い音がする。
一口サイズに切り出したそれを、出し汁につける。

    • しばしの静寂。

数秒後、男はコロッケを口に運び、蕎麦と出し汁を一気にかきこんだ。
汁につかりきっていても、いまだ衰えを見せないコロッケの衣。
今日は改心の出来だった。

「親父」
男が静かに口を開く。

「良い味だ」
「ありがとうごぜえやす」
まさに、至福の言葉であった。

その言葉を最後に、男は蕎麦に箸をむけ、味わいながら食していた。
男は出し汁を飲み干すと、ああ、と息を吐いた。

「なあ、親父」
「へい」

男は、これ以上ないほど神妙な面持ちだった。
「私は、一度レイヴンから身を引いた」
どうやら、「元」レイヴンだったようだ。

「しかし、平穏な日常を過ごしているだけでは、私のここは満たされなかった」
男は胸に親指を突き立てる。
「恐らく、あの火薬の臭いとACの駆動音が染み付いてしまったのだろう。
私はもう戦いの中でしか、己の心を満たすことが出来なくなっていたようだ」

新たな蕎麦を茹でながら、男の話を聞く。

「私は悩んでいる。組織は二つ。どちらも強大だ。
どちらが私の死に場所に相応しいか、わからないのだ」

出し汁を温めている鍋のフタをあける。
むわ、っと出し汁の香りと大量の湯気があがり、換気扇に消えていった。

茹で上がった蕎麦を冷水に浸し、身を引き締める。
出し汁を小さめの入れ物にいれ、葱を散らした。
蕎麦を冷水からあげ、水を切り、ざるの上に乗せる。

それを、男の前に差し出した。

「お客さん。あっしもレイヴンをやっていたことがあります。
確かに、一度戦場の味を知っちまうと、どうにも抜け出せねえようだ。
あっしも、お客さんの話を聞いていると、血が騒ぎ出しますぜ」

「親父。頼んではいないはずだ」

「サービスです。
ざる蕎麦ってのはシンプルなんですぜ。掛け蕎麦もそうだ。
違いなど、温かいか冷たいか。それだけなものです。
しかし、温かさを求めるか、冷たさを求めるかはお客さん次第です」

「ふむ」

「ですが、あっしは冷たいざる蕎麦を出した。
これが、何を意味するかわかりますかい?」
男は神妙な面持ちで、蕎麦屋の親父を見つめる。
そして、口を開いた。

「・・そうか」
ざる蕎麦に箸をつけ、すすりだす。
ズルズル、とこれまた子気味よい音が店内に響いた。

「私は、冷たいざる蕎麦についていくことにしよう」

親父はぶっきらぼうな笑いで、男に手を差し出した。
男は親父の手を取り、「親父、冷たい蕎麦も悪くないな」
そういって、また蕎麦をすすりだした。





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