リンクス戦争――
被検体ジョシュア・オブライエンの数々の戦果
リンクス養成計画としてジョシュア・オブライエンの存在はアスピナ機関にとって重要な物となった
同時にこの計画は成功と判断し、次なる被検体を戦場に送り込むことにする
機体コンセプトはジョシュアに与えたホワイトグリントを更に攻撃的にした機体を
アスピナのアーキテクトの粋――三ツ星と言っても過言ではないアステリズムを与えた
こうしてまた一人。被検体ジュリアス・エメリーは戦場に送り出された
「ジェラルド。お前はまだ青い。」
各坐したネクストを前に、レオハルトは苦笑しながら言う。
「そうは言いますがレオハルト、貴方が大きすぎる存在なだけですよ・・・」
ジェラルドは投げやりに言い返す。彼我の戦闘能力の差が歴然として、思わず拗ねてしまう
ローゼンタールの象徴であるノブリス・オブリージュを継げるかどうか、その見極めのつもりでジェラルドを呼んだのだ。
しかし時期尚早だったようだ。レオハルトが訓練してやればすぐに腕を上げれるのだろう、彼自身もリンクスとして多忙な生活を送っていた。
そこでアスピナ機関から派遣された一人のリンクスを当てる事にした、あのイレギュラーと同門ならば腕は確かだろう。
「新しい仲間を派遣してもらった。今日からお前の訓練相手だ。」
シミュレータから出てきたジェラルドの前に一人の女性が立っていた
「ジュリアス・エメリーだ。以後よろしく」
カーキーの長髪を束ねた女性が握手を求めてくる。
ジェラルドはその美しい手を取り、たどたどしく「よろしく」と言った。
彼女は強かった。各社製品の混合フレームに重火器を搭載している機体は、速く、一撃の重みがあった。
「ここまで30戦。未だに無敗なのだが」
強く、勝てない。レオハルトと同等かそれ以上の能力があるのではないかと思わされる。
「擬似とは言えAMS接続だ。そろそろ休め」
ああ、と頷き自室に戻ろうとする時よろめいて転びそうになる
「大丈夫か?」
寸でのところでエメリーが肩を支えてくれた
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
軽く頭を振り体勢を立て直す。同じ時間シミュレーターにいた筈なのに彼女は汗一つかいていない。
ジェラルドは驚嘆しながらも、支えてもらっている肩から彼女の身体がか細い、女性の身体ということに気づく。
ここまで来るのに彼女は一体どれほど努力したのだろうか。この細い体でどれほどのAMSによる負荷を背負ったのだろうか
「どうした?私の顔に何かついているのか?」
いや、なんでもない。そうはにかみながら自室へと戻る
そういった毎日が続いた。充実していた。彼女と模擬戦をする度にレオハルトにどんどん近づいている気がした。
だが、彼女は消えた。リンクス戦争は激化を辿り、彼女の行方を捜す暇さえなかった。
レオハルトの支援をこなすうちに欠番であるバックスナンバーにもうじき入れることになった。
「これも、君のお陰なんだろうな・・」
そして月日は流れ、リンクス戦争は末期を迎える。
ナルとレオハルトはレイレナードの最高戦力であるネクストチームとの戦場に赴いた。
ジェラルドと他にもう一人、アナトリアの傭兵は2機が戦っている隙をついた奇襲・援護をするという役割があった。
その任務への移動中のことである。オーギルのカスタム機を駆るジェラルドは襲撃を受けた。
スナイパーライフルによる狙撃だった。
「敵性機体を確認。システム、戦闘モードに切り替える」
早い機体だった。レイレナード製のネクストだろうか、凄まじい機動力だ。
ジェラルドは敵機を見失わないように距離を取り、しかしスナイパーの車軸が定まらないギリギリの距離を維持していた。
「フッ、腕を上げたな」
が、一瞬にして距離を詰められ、その機体が見えた。数社による混合パーツ群によるネクスト――
「ジュリアス・エメリー・・・!」
何故君が邪魔をするんだと通信機に叫びかける。無論高速戦闘は継続。ライフルとハイレーザーによる応酬が続く。
「ローゼンタールの派遣を取りやめ、レイレナードに派遣されただけさ」
それがイレギュラーというものさとQBの出力を更に上げる。
勝敗の行方はすぐそこまで来ている
どちらかと言えば好ましい人物だった
エメリーからするとジェラルドは弟のようなものだったかもしれない。
あるいは自らの動きにアドバイスを求めてくる様子を教育者と生徒に見る者もいるだろう。
「正直・・・嬉しいよ!」
自ら鍛えた男がここまで強くなるなんて。と
だが、まだ足りない。まだ完成には遠いのだ。
PAの内側にハイレーザーを押し込み発射する。オーギルの表面装甲を焼き機体を各坐させる。
「ジェラルド、お前は生きろ。」
すぐ傍に着地し、語りかける
「決着は既についている。どちらも」
何のことかと聞き返すジェラルドにエメリーは続ける
「レイレナードの精鋭戦力は全滅、ローゼンタールもレオハルト、ナル共に戦死。生き残ったのはアナトリアの傭兵だけだ」
言葉を失くしたのが無線ごしにも伝わる。
「恐らくお前が間に合えば圧勝だったろうに」
いつか私を超えるんだ、復讐するんだ。
そう告げてエメリーはジェラルドを置いてその場を離れた。
――――十数年後
「防衛部隊が全滅・・・? 20秒足らずでか・・・ノブリス・オブリージュ、青いイレギュラーを排除する!」
運命の道は再び交差する。
因縁を、過去の敗北を、人類を脅かす存在を覆す為に。
因縁を、過去の貸しを、人類の確定的な死を覆す為に。
fin