308 名前:1/3 :2006/08/20(日) 13:31:05.72 ID:IqS76I5F0
男はコックピットの仲でただひたすら待っていた。
男の乗っている鉄灰色の機体-ACを乗せた輸送機が目的の場所へと到着するのを。
外には漆黒の夜が広がっているだけである。
その夜を切り裂くように、輸送機がエンジン音を響かせ飛んでいる。
男は今日という日に限り、夜が恐かった。
この夜の内に今までの自分が失われ、明日からはレイヴンという存在になるかと思うと、体が震えてくる。
男はこれから自分が何をするのかも、自分がどうなるのかも知っていた。
それをいくら知っていようが、これから自分がすることがいくら正しいことであったとしようが、
男はやはり恐かった。男は、死というものの存在とその意味を深く知っていた。
310 名前:2/3 :2006/08/20(日) 13:31:50.51 ID:IqS76I5F0
だが手段を選ぶような余裕はない。
選んでいればあの日見たACのようにはなれない。
あの日……どのくらい昔のことだろうか。ただ覚えているのは、1機のACが、夜の市街地でMTを倒していることだけだ。
幼い頃の男の眼には、そのACがこの世のなによりもかっこよく、この世の何よりも輝いて見えた。
男は、臆病な自分を追いやってでもレイヴンになりたかった。なって、あの日見たACのようになりたかった。
憧れ。その思いだけが、男がレイヴンになりたい動機だった。
『そろそろ目標地点に到達する』
通信が入る。輸送機が離陸してからそれなりの時間がたったであろう。男はふと我に返った。
『もう一度君たちに課せられた依頼を言う。内容は、市街地を制圧する敵MTの排除だ。
この依頼を達成したとき、君たちはアリーナに登録され、レイヴンとして認められる。
この作戦に二度目はない。必ず成功させることだ。』
二度目はない。その言葉が男の心に響く。ここで失敗をすれば、自分は死んでしまうのだ。
ここはもう今までの世界とは違う。あの日のACがいる……レイヴンの世界だ。
311 名前:3/3 :2006/08/20(日) 13:32:44.00 ID:IqS76I5F0
輸送機のハッチが開き、機体が投下させる。漆黒の空と、静まり返った市街地が姿を現す。
大局的に見て、男がこの依頼を失敗する可能性はほとんどないだろう。
相手はMTなのだ。ACとMTでは戦力差というものが目に見えている。
それでも男は恐かった。これほどまでに死という存在が間近にあるということが、なにより恐かった。
だがもう逃げることは出来ない。男はもう、レイヴンなのだから。
震える指でシステムを起動させる。
『戦闘システム 起動』
手元のモニターが明るくなり、コンピューターがシステムの起動を告げる。
レーダーが敵の存在を印す。ここで恐れていては、何も始まりはしない。
あの日見たACのようになることはできない。恐怖なんてものは意識の外に追い出すしかない。
負けることなど、死ぬことなど考えてはいけない。ただこの依頼を果たせばいいのだ。
ふと、男は思う。この市街地の人達の目には、自分はどう映っているのであろうか。
あの日のACみたいに輝いた存在に見えるのであろうか。それとも、ただのACなのだろうか……。
男は身に迫る恐怖を振り払い、落ち着いた手つきでパネルを操作する。
自分は今はまだ輝いて見えないのかもしれない。でもいつか、あの日のACのように輝いた存在になってみせる。
それまで死ぬことはできない。男は漆黒の闇の中へ機体を走らせ、小さく呟いた。
「これに生き残れば……俺もレイヴンだ!」
男はコックピットの仲でただひたすら待っていた。
男の乗っている鉄灰色の機体-ACを乗せた輸送機が目的の場所へと到着するのを。
外には漆黒の夜が広がっているだけである。
その夜を切り裂くように、輸送機がエンジン音を響かせ飛んでいる。
男は今日という日に限り、夜が恐かった。
この夜の内に今までの自分が失われ、明日からはレイヴンという存在になるかと思うと、体が震えてくる。
男はこれから自分が何をするのかも、自分がどうなるのかも知っていた。
それをいくら知っていようが、これから自分がすることがいくら正しいことであったとしようが、
男はやはり恐かった。男は、死というものの存在とその意味を深く知っていた。
310 名前:2/3 :2006/08/20(日) 13:31:50.51 ID:IqS76I5F0
だが手段を選ぶような余裕はない。
選んでいればあの日見たACのようにはなれない。
あの日……どのくらい昔のことだろうか。ただ覚えているのは、1機のACが、夜の市街地でMTを倒していることだけだ。
幼い頃の男の眼には、そのACがこの世のなによりもかっこよく、この世の何よりも輝いて見えた。
男は、臆病な自分を追いやってでもレイヴンになりたかった。なって、あの日見たACのようになりたかった。
憧れ。その思いだけが、男がレイヴンになりたい動機だった。
『そろそろ目標地点に到達する』
通信が入る。輸送機が離陸してからそれなりの時間がたったであろう。男はふと我に返った。
『もう一度君たちに課せられた依頼を言う。内容は、市街地を制圧する敵MTの排除だ。
この依頼を達成したとき、君たちはアリーナに登録され、レイヴンとして認められる。
この作戦に二度目はない。必ず成功させることだ。』
二度目はない。その言葉が男の心に響く。ここで失敗をすれば、自分は死んでしまうのだ。
ここはもう今までの世界とは違う。あの日のACがいる……レイヴンの世界だ。
311 名前:3/3 :2006/08/20(日) 13:32:44.00 ID:IqS76I5F0
輸送機のハッチが開き、機体が投下させる。漆黒の空と、静まり返った市街地が姿を現す。
大局的に見て、男がこの依頼を失敗する可能性はほとんどないだろう。
相手はMTなのだ。ACとMTでは戦力差というものが目に見えている。
それでも男は恐かった。これほどまでに死という存在が間近にあるということが、なにより恐かった。
だがもう逃げることは出来ない。男はもう、レイヴンなのだから。
震える指でシステムを起動させる。
『戦闘システム 起動』
手元のモニターが明るくなり、コンピューターがシステムの起動を告げる。
レーダーが敵の存在を印す。ここで恐れていては、何も始まりはしない。
あの日見たACのようになることはできない。恐怖なんてものは意識の外に追い出すしかない。
負けることなど、死ぬことなど考えてはいけない。ただこの依頼を果たせばいいのだ。
ふと、男は思う。この市街地の人達の目には、自分はどう映っているのであろうか。
あの日のACみたいに輝いた存在に見えるのであろうか。それとも、ただのACなのだろうか……。
男は身に迫る恐怖を振り払い、落ち着いた手つきでパネルを操作する。
自分は今はまだ輝いて見えないのかもしれない。でもいつか、あの日のACのように輝いた存在になってみせる。
それまで死ぬことはできない。男は漆黒の闇の中へ機体を走らせ、小さく呟いた。
「これに生き残れば……俺もレイヴンだ!」