民衆に不安と恐怖を与えた、忌まわしきアライアンス襲撃事件。

バーテックスが「レイヴンによる新たな秩序の創出」という名目によって引き起こした、
この抗争の結末はアライアンスの、バーテックス壊滅作戦の凍結、という形で幕を閉じた。

それから数ヶ月後、
民衆が受けた過去の争いの傷跡が癒えはじめた頃、
多くの不可解な謎と、把握しきれないほどの噂を残したこの事件は、
マスコミやジャーナリスト達の格好の餌になっていた。

巨大統治機構アライアンスが世界を牛耳っていた数ヶ月前ならともかく、
今や風前の灯とも言える状態になってしまったこの統治機構には、
情報管制やマスコミ操作などに余力を与えるほどの余裕は、もう既に無かった。

多くの情報が止め処なく溢れ、何が真実で何が虚偽か、特ダネと誤報の区別も付かなくなり、
ソースよりも説得力が優先され、小難しいレポートよりも、夢のあるウワサがまかり通るこの時代。

いくら勝利者といえど単なる武装組織のバーテックスには、
この混沌とした世界を治めるには、少々荷が重すぎたようだ。
全ての頭脳であり、リーダーであった、ジャック・O
世紀のカリスマと言われた彼も、抗争中に行方不明となってしまった。

大事な頭脳を失ったこの組織は皮肉ながらも、アライアンスから数十名、
頭脳の代わりとなり指揮してもらえる有能な人間を派遣してもらう必要がある程の有様だったのである>>





例の事件から一ヶ月ほどたった頃だろうか、突然VRアリーナから一般開放がされたとの広告メールが来た
その時の俺は若干レイヴンというものに興味を持っていた。
ちょっとレイヴン気分を味わえるならネトゲー感覚でやってみようかな。
そんな軽い気持ちで登録したのだ。

勿論あの英雄に憧れたというのもあるが

そんな俺は連戦連勝、最初は苦労したがあらゆる工夫と弛まぬ研究で着実に実力をつけ、
数ヶ月でアマチュアチャンピオンの道を築いたのだ。





―――で、なんで俺は黒服の男達に囲まれて銃を突きつかれているのだろう・・・

「「動くな!!」」「「手を頭の上に挙げろ!!」」「「お前を不正アクセスの容疑で連行する!!」」

訳がわからない・・・
ようやっと10連勝目を達成したと思ってコクピットカバーが開いたら
最初に見えたのがガッチリした体型の男達である・・・

それこそ、設備が豪華なゲーセンと代わりが無いような所で
VRアリーナのバーチャルコクピットに跨っているチャンピオンを
黒服の男達が囲っている光景は非常にシュールとしか言いようが無いだろう。

「あの・・・なんで連行されるのか、よく分からんのですが・・・」
「お前が、アレックス・モノだな?」

一際体の大きくサングラスを掛けた大男がドスのきいた声で話かける

「え、あぁ・・・はい」
「連行しろ」

訳がわからん

「いや、だからなんで俺が捕まる必要があるんだよ!?」
「お前は携帯端末を持っているな?」
「えぇ?いやいやいや・・・」

質問を質問で返すなってイケメンに言われたこと無いのかお前は・・・
・・・と反論してやろうと思って立ち上がった、それがいけなかった。
多分、俺が抵抗すると思ったのだろう、大見得切ってやろうと意気込んでいた俺の思いは
空しくも大男のブローによって遮られてしまうのだった。



―――気がついたら硬いベットに横たわっていた。半日は経ってたんじゃないか?
どこかの留置場らしいが一体どこなんだろうか・・・

ちなみにこの世界には、法律は存在するが警察のような組織はもう存在しない。
各企業が、自前の自警団を設立し、法に則ってその自警団が動くといった物だ
企業ごとに規模はまちまちで、大きさによっては居住ブロックを10区はカバーできるのもあるらしい・・・
―――とは言っても、今のアライアンスは壊滅に近い状態で正常に機能してると言えないらしいが

・・・三方はコンクリートの壁、前は数十本の鉄棒と鉄のドア、いかにも牢屋といった感じである。
というか状況が読めん
余りにも突然すぎて、素数を数えるまでも無く冷静になってしまった。

目の前は廊下になっていて、一定時間ごとに当番が見回りにやってくる・・・そんな感じだ。
当番の足音から察するに廊下は相当長いものだと思われる。
廊下を見てみようと顔を伸ばそうとしたら当番に怒られてしまった。監視カメラもあるようだ。
また顔を出す様な事があったら俺の額に素敵なエアーインテークが出来るらしい、ヤッタネ


しばらくしたら、いやしばらくといっても数時間は経っていたが・・・
あの大男から尋問があるから着いて来るようにと、監視員に言われた。もちろん手錠付きで。
尋問室は、俺の牢から出て、右に真っ直ぐ行った突き当りにあるのだが、
その途中で何人か知った顔を見た、皆アマチュアランカーで俺と同じように牢に入れられていた。





話を聞く分にはどうやらVRアリーナの総合サーバーにウイルスが仕込まれたらしい

総合サーバーに潜り込んだウイルスは、そこで自身のファイルのコピーを無尽蔵に作り、
それをプロとアマのメインサーバーを経由させ、各支部のサーバーへ大量に送り込むのだ。
送り込まれたそのウイルスはサーバーを乗っ取り、そしてそのサーバーに強制的にプレイヤーとして
自身のプロフィールデータを登録させてしまうという。

便宜的にその登録されたデータをウイルスプレイヤーとしよう。

そのウイルスプレイヤーはプレイ中に突然ルール無用で乱入し、対戦中のプレイヤーに無差別で攻撃するという物で、
しかもそのウイルスプレイヤーのACはその各サーバーのトップランカーのアセンブリで組まれているという。

俺が捕まってから一時間ほど過ぎたあたりで、あそこのアリーナも感染してしまったらしい。

つまり今は既に、俺の居住区のアリーナで、ウイルスプレイヤーが、俺のアセンで組まれたACで大暴れらしい・・・いやな話だ。
ちなみに何故アマチュアのランカーばかり捕まってるかというと、
ウイルスの潜伏した日が、一週間前のアマチュアのトーナメントイベントがあった日だという事が判明したとか。

つまりその時に出場ランカーの誰かがウイルス入りの携帯端末を持ってきて、
大会中にサーバーを管理している部屋に忍び込みサーバーのコンソールから、ウイルスを垂れ流したと。
ついでに言うと大会時のサーバーはオフラインだったらしい。
確かに俺は出場者だし、トーナメントの開催地はは総合サーバーのあるサークシティだったが、
それだけを理由に捕まえるのは横暴ではないだろうか。
・・・まぁ腹に一発パンチを食らっただけで気を失ったのが不幸中の幸いか、この時ばかりは自分の運動不足に感謝した。

今はVRアリーナは休止中らしい、ウイルスは強力で複雑な防壁ロックで守られているため
ウイルス駆除に時間がかかっているらしい。
しかも一週間前の保守データに切り替えたり、電源を切ろうとすると全てのデータをデリートする上に、
登録されている全てのレイヴンの情報をネット上にバラ撒くように、そのウイルスはプログラムが掛けられているらしい。

また休止という事は、もちろんVRアリーナで飯を食ってるレイヴンは試合をキャンセルされたも同じであるため、
その保障をするために経理部は四苦八苦しているらしい。俺達と待遇ちがい過ぎワロタ

尋問は一時間ほど行われたが、内容は支離滅裂で脅迫的、何が何でも吐かせようという感じだった。
その癖、親切にも事件の概要を事細かに説明するそのギャップに俺は失笑を禁じえなかった。張り手を食らったけど。

尋問は終わり、自室に戻れと言われた。
俺はやっとこの固苦しい状況から逃れる、と思っていたら
最後にグラサン大男は俺の自宅にあるHDDを調べると言い残した。それだけは止めてくれ


他の奴らもどうやら同じように尋問されたようだった、
行きの時は気付かなかったけど中には泣いてる奴や顔にあざが付けられているのも居た。
アマチュアというだけあって若い奴らも何人もいる。中にはまだ10代半ばなんじゃないかと思える奴もいた。

・・・やはりバーテックスが勝利したといっても、この有様じゃあ変わったと思える所は何も無い。
むしろ混乱を招き、アライアンスが築いた秩序を崩壊させた様にしか見えない。
まぁアライアンスも褒められたものでは無いが・・・




俺の部屋の位置は大体真ん中で、
目の前の通路を右に行くと突き当たりでT字路、そこに尋問室がある、
左は奥に進んでも行き止まりになっている。
トーナメントには午前の部、午後の部16人ずつで32人居た、
もし全員がこの施設に捕まってるとしたらこの通路だけでは少し足りない、
恐らくどこかにここと同じような通路がこの施設のどこかにあるのだろう。
部屋の後ろには窓が無いので、もしかしたら反対側にもその通路があるのかもしれない。


しばらくしてから俺と同じように女の子が監視員に連れられて行った、左隣の部屋の子だ、
向こうはなんと俺のほうを見るとウインクをしてきた。あっちは俺のことを知っている様である。誰だったかな・・・?

・・・ちょっとしてから思い出した、トーナメントの話が出ていなかったら思い出せなかったかもしれない
彼女は一週間前のトーナメントの優勝者だった。
さっき言ったとおり俺はランキングではチャンピオンだ。
しかし勝負とは時の運、チャンピオンでも負ける時がある。
特に彼女との相性は悪いようでトーナメントの決勝戦ではかなりのボロ負けをしてしまった。
ランクは確か三位、名前はクリスティーナ・セブンスウェイだったかな・・・

重二バズーカ、ブレードと、いかにも漢らしいアセンブリだったので、
どんな女子レスラーかと思っていたら実は意外と綺麗だという事で、
トーナメントの時に地味にビックリしたのを憶えている。

とはいえこれから尋問されるというのにウインクする余裕があるとは、実に豪胆な女だな・・・
さすが上位ランカーなだけはあると言う事か。
そういえば彼女の姉もレイヴンでかなりのランカーだったな、血は争えないとは良く言ったもんだな。

しばらくしてから右側のほうから足音がしてきた、もう監視員が回って来たのか、と思ったが微妙に違うようである。
誰だろうと思って見てみたら、クリスだった。
いや、早!10分くらいしか経ってないぞ、手錠はずして歩いてるし!
しかもまたウインクしてきやがる・・・
と不平不満の念を抱きながら、クリスティーナが通るのを恨めしく見ていたら
クリスティーナの手元が不自然に動いた気がした、こっちに何か投げたようだ。

足元を見ると5ミリ程度の大きさの何かがあった、多分クリスティーナを見てなかったら気づかなかっただろう。
俺は監視員と監視カメラに気を配りながら、さり気なくそれを拾った。こういう時に限って監視員が戻って行くのが遅い。
四角いチップみたいな物・・・片面には両面テープが貼ってあるようだ
じっくり見てみようと近くで見てみようと思ったら・・・・・・女の子の声がした。

・・・ちゃんと聞こうと思って、それが耳に近づくような体制をとった。もちろんさりげなく。

少しずつだが、なんて言っているか判ってきた

『・・たら・・壁・三・・たいて・・・しもし・・・聞こえる?・・・聞こえたら壁を三回叩いて・・・』

・・・・・・どうしようか迷った、
壁を三回叩けと言われてもそんなことがバレたら、額にエアーインテークは確実だ、
いや、もしかしたらもっと素敵な事になるかもしれん。

ドクドクと心臓の音すら聞こえる、それほど緊張していた。絶対に危険だとわかっていた。

・・・とはいえ散々な目に会ったんだ、あのウインクもふざけてやってた訳じゃないようだし、
この際この退屈な時間を何とかする為に壁を叩いてみるのも面白いかも知れない。
緊張しすぎて感覚がおかしくなったんじゃないかと自分でも思った。

・・・トントントン

こんな感じで良いのだろうか?監視員にバレて無いだろうか?緊張した面持ちで返事を待ったところ、

『あ!よかったぁ!気付かないかと思ったよ~!』

・・・この緊張感の無い返事が返ってくるのは今の俺にとってかなりの皮肉だった。




『・・・じゃあこの無線機の裏にある両面テープを剥がして、そしたらそれを出来るだけ耳の穴の奥に貼り付けて、
あと部屋の監視カメラはマイクも付いてるから、それにも気をつけてね』

5ミリ四方とはいえ耳の奥に入れるにはそれなりに苦労する、ちゃんと貼りつけられるように小指で慎重に貼り付けた。

『・・・出来たかな?分かってると思うけど、それは受信機でそっちから話しかける事はできないからヨロシク』

・・・トントン

『うん大丈夫っぽいね、え~とそうだなぁ・・・
これからは私の質問とか意見に対して、[はい]とか[肯定的な意見]の時は、三回壁を叩いて返事して』

言われたとおりに三回叩いてみた

『うんOK、OK、じゃあ逆に[いいえ]とか[否定的な意見]な時、その時は二回叩く事で返事してね』

また俺は三回叩いた

『OK、えっと、今なんで話す事が出来るかは後で説明するけど・・・君の名前はリー・クーロンだったかな?』

そりゃ二位のランカーだ・・・

トントン

『えっ?あれ、ウソ!?ごめん・・・え~っと・・・ランカーだよね?』

というかここの皆は全員ランカーだけどな
・・・トントントン

『ランクは一位?』

・・・トントントン

『あっとゴメン、名前を間違って覚えてたみたい・・・ソージ・オーヤマだっけ?』

そいつは四位だ
・・・トントン

『あれ!?ゴメン!う~ん・・・あれ~・・・あ!アレックス・モノだ!?』

トントントン

『やっぱり!そっか~ごめんね、リー・クーロンの印象が強くて・・・』

もしかしてアホの子なのかな・・・

『顔はそっちの方が印象強かったんだけどね』

それはどういう意味だ

『・・・で本題に戻るけど、実は今、私の部屋は監視カメラから外されているの、
アイツらレイヴンにはめっぽう弱いから、私の姉の名前を出したらコロッと態度を変えたよ』

なるほど・・・
まぁ確かにレイヴンの身内を無理矢理連行したなんて言ったら、それこそ何が起こるか判らないしな。

『だけど開放することは上からの命令でどうしても出来ないんだって、
だからせめてプライベートだけでもって事で、監視カメラを部屋から直接取り外してもらったの』

・・・だからあの時に監視員が戻っていくのが遅かったのか

『とは言ってもアイツら、話を聞く分にはしばらく開放してくれるつもりはないらしい、まぁ短くて一週間かな。
私はもしかしたら早く帰れるかもしれないけど、あなたはいつまでもこんな所に居たくないよね?』

もちろん肯定だ

『だよね、ちなみにここはサークシティの第十三居住区にある、第二自警団本部の留置場なの、
サークシティ二番目の大きさの自警団なだけあって、いろいろな設備も整ってるの』

『そこでチャンピオンである、あなたに頼みがあるの』

さて、まいったね。



―――アレックスに大男と呼ばれているこの男、名をポール・Vと自称する。現役時代はかなり名を馳せた凄腕レイヴンだったが、
戦闘中の攻撃によってコクピットのパネルが割れてしまい、その破片が不幸にも両目に刺さってしまう。
不幸中の幸いか失明だけは免れたものの視力が致命的に落ちてしまい、やむなくレイヴンを引退してしまう。
引退後、知り合いからの呼び掛けで自警団に所属するも、その強引でスピード重視の彼のスタイルは、
課長となった今でも、上司の頭痛のタネになる事は少なくなかった。

彼がサングラスを掛けているのは、事故時の傷を隠すものだったのだが、
今から12時間後、彼はサングラスを捨て、電子義眼を付ける事を決意する。


「課長、支給の時間になったのですが、あのレイヴンの妹の分どうします?」
「フン、何もそんなにビビる必要もねぇだろ、文句を言われた時だけお情け程度にスープを増やしてやれ」
「・・・わかりました」

あのクリスティーナとかいう女・・・姉がレイヴンなどと言っていたが、そんな事で早く釈放されるとでも思っていたのか。
今は、レイヴン御用立ちのVRアリーナも休止中だ、ここを攻撃すれば捜査が遅れるというくらいどんなバカでも判る。
まぁ腹いせにここを攻撃されたらたまらんからな、それなりの保険は掛けたつもりだが・・・
・・・姉は何て名前だったか・・・そうだ、アンジェリーナ・セブンスウェイか
確か奴は新米レイヴンながらも数週間でランカーになった化け物だったな・・・妹も少しは似て欲しいものだな。

・・・もう8時は過ぎた所だろうか・・・俺も晩飯を取る事にした。
留置所のガキ達と同じ物を食べるってのもいささかシャクだが、量が多い分それでもマシか。
そんな事考えながらロールパンをかじっていたのだが、食べきる前にノックが響いた。

「・・・失礼します」
「なんだ、どうした」
「いや・・・あのレイヴンの妹がですね・・・腹が痛いと」
「あぁ?」
「とにかく来てくれませんか」

なんて奴だ!腹が痛けりゃ早く帰れるとでも思ってるのか!全くバカも休み休み言え!
そんなことで食事の邪魔をされちゃたまったもんじゃねぇよ!
俺はさっさとくだらない事は終わらせたい主義だから、ガマンしろと一喝すればすぐ終わると思っていた。

・・・だが女は備え付けのトイレにゲロを吐きながら苦しそうにうめいていたのである。腹が痛いどころではない。
全く最近のガキはこの程度で腹を壊すのか。

「おい、お前腹が痛いのか」
「う・・・あぁ課長さん、あはは、ちょっとお腹の調子が・・・うえぇ・・・はは・・・サラダが悪かったのかな・・・」
「しょうがねぇな・・・おい、医務室に運んでやれ」
「・・・はい、わかりました」
・・・その後食事の残りを食べる気にならなかったのは言うまでも無い。

#6演じる技とは

正直早めに食事を終わらせて正解だったなと思った、
流石にあそこまでリアルに吐かれるとこっちまで吐きそうな気分になりそうだった。
クリスティーナは医務室に移動するついでに、中の施設の構造を確認するようだ。
やはりクリスティーナは手錠を掛けられていなかった。

しばらく彼女の連絡を待っていると

『OK、こっちは無事に医務室に到着したよ、今はベットで休んでるフリしてるからそっちも医務室に向かって』

ついに来た、
彼女と同じように食中毒に当たったということで俺も演技しなくてはならない。
ほんとは、俺までゲロ吐く必要は無いと彼女は言ってたのだが、
満腹な上にあのリアルな演技を無線越しに聞いていた俺にとっては、ちょっと思い出すだけで
喉の奥から酸っぱいものがこみ上げてくるのだった・・・ええい吐いてしまえ。その方がスッキリする。

少ししてから監視員が回ってきた、ここが俺の演技の見せ所。

「・・・あのー・・・すんません」
「あ?どうした・・・」
「・・・ものすごく腹が痛いのですが・・・」
「あぁん!?お前もかよ!ちょっと待ってろ!」

バタバタと監視員は向こうへ走ってしまった。
間もなくしてあの大男もやってきた、トイレに浮かんでいる俺のエクトプラズムを見て

「あーあーわかった、お前も医務室に行け、これ以上食中毒患者が増えたらかなわん」

流石に少しばかり危険な状況だと思ったのだろう、俺もあっさり医務室に行く事が出来た。もちろん手錠付きで。
医務室は尋問室からちょっと離れた所らしい、俺は監視員のグチを聞きながら静かな廊下を歩いた。

「まったくよぉ、困ったもんだねぇ食中毒とか、俺全部食べちゃったし・・・なぁ?」
「はぁ・・・」

普通それを食中毒患者の目の前で言うか?・・・まぁ演技なんだけど。

「はぁ~何で上司がアイツになっちゃたかな・・・お前も見てて分かると思うが滅茶苦茶だろう?」
「はぁ・・・」
「ホントはアイツがいなけりゃ俺が課長になってたんだぜ?俺なら絶対アイツよりも効率のいい捜査できるよ・・・」
「さいですか・・・」
「おっと、この事は秘密だぜ?」
「別に言いやしませんよ・・・」
「それにしても、あのクリスティーナとかいう女・・・結構かわいいと思わないか?」
「いや、スイマセン、顔あんま覚えてないんで・・・」
「あっそうなの?ぜったい見とくべきだと思うぜ、まぁお前の顔じゃ見向きもされないだろうが」
「あはは・・・」

泣いていいかな俺

しかもこの監視員、わざとかどうか知らんが、わざわざ俺の前で手錠の鍵をくるくる回している・・・
全くここの教育はどうなっているんだ・・・あ、落とした
ここで突撃して鍵を奪ってやろうかとも思ったが、それでは作戦が台無しなのでガマンする。

階段を降り・・・しばらく真っ直ぐ進んだ先にある医務室に入った。
中には誰もいない・・・いやカーテンで閉じられているが、そこのベットにクリスティーナがいるのだろう。

「あれ・・・?先生居ないのかな・・・?」

監視員は先生と呼ばれる人を探しに、隣の部屋の方に入った
・・・が居ないようなので、すぐ戻ってきた。

「おっかしいな・・・おい、お前は先生が来るまでここで待ってろ」
「え?・・・あ、はい・・・」

そばにある丸椅子に腰掛けようとしたその時

「う~ん」

うめき声が聞こえた。そこのベットからだ。

「・・・すいませ~ん、誰か居ませんか~?」

もちろんクリスティーナである。
いかにも苦しそうな声を出しながら、向こう側にいる誰とも知らない人間に助けを求めていた。演技だけど。

「おう、どうした・・大丈夫か?」

監視員は若干の期待とささやかな下心を持っていたのだろう、なんの疑問も持たずベットのカーテンに顔を突っ込み、

「ぶべら!!!」

空中で縦に2回転した。大の男が。
見事に顎にヒットし、美しい弧を描いたそのキックに、俺はオーガの血筋を見た気がした。




気絶した監視員から鍵を奪い取り、クリスティーナは俺の手錠を外してくれた・・・
俺達が来る前に、先生と呼ばれる人物はやっぱり気絶させられて、
それを自分のベットに隠して監視員を待ち伏せしていたという。

正直うらやましいぞ先生。気絶してるけど。

「・・・で、これからどうすればいいんだ?」
「うん、そうだね、そこの窓をみて」

窓ごしに外を覗いて見る、もう九時を過ぎていて辺りも真っ暗だ、どうやら中庭らしい。
中庭の真ん中には大きな噴水が何重にも円を描きながら水を噴き出している。
真下には植え込みがある。やはり人数不足なのか、見張り自体はそんなに多くない。

「向こうに倉庫があるでしょ」
「ああ、あるね」

俺達からみて中庭の左の向こう側、結構遠いがそこには確かに倉庫があった。

「そこの倉庫にはACが置いてあるの」

クリスティーナは、布団のシーツや引きちぎったカーテンなどで端っこ同士を結びながら言った。
そして俺は嫌な予感がした。

「ACの倉庫って・・・
いやいやいや・・・まさかチャンピオンだから頼みがあるって・・・」
「あれ、今頃気付いたの?はいっ」

クリスティーナはロープ状にしたそれを俺に手渡した

「それを窓の枠に縛り付けて」
「あのなクリスティーナ、俺はアマチュアだぞ?いくらチャンピオンでもレイヴンとは天と地の差があるぞ・・・」
「クリス」
「へ?」
「クリスティーナだと長いからクリスって呼んでくれないかな」
「・・・ん?あぁ、だがクリス、いくらなんでも無茶じゃないか?大体、ACの起動パスはどうするんだよ?」
「あたしがトーナメントの時、あなたに何で簡単に勝ったか知ってる?」

いやいやいや・・・だからお前も質問を質問で返すなとイケメンに(ry

「実はね・・・」

クリスティーナは自分の背中に手を突っ込んで何か出してきた
・・・何かのコンポーネントパネルのようである

「・・・?・・・あ!お前インチキしやがったな!!」
「へへへ・・・実はそんなにACは得意じゃないんです、サーセンwww」

実はクリスティーナは、トーナメントの時VRコクピットにデータ改ざんのプログラム仕込んでいたのだ。
確かにプレイ時はコクピットに、カバーが掛けられるため外部からは見えないのだが・・・
なんて女だ・・・よくそんな度胸があるな

・・・・・・!

「・・・お前まさか」
「ちょ、ちょっと待ってよ!別にサーバーにウイルスを仕込んだりしてないって!
ただ、こういう技術も持ってるから、起動も余裕だよって事が言いたかっただけ!」

「どうだかなぁ・・・・・・・・・まぁそれは置いといて、見張りはどうするんだよ、人数は少ないけど正直危険だぞ?」
「まぁまぁ見てなって」

と言いながらクリスティーナは、
そこで伸びている監視員から拳銃を奪い取り、中庭を挟んでこっちと反対側の施設を狙った。
三発の銃声が響き、施設の一階の窓ガラスが飛散する。
もちろんそんな騒ぎがあったら、見張りは皆そっちの方へ確認するに決まってる。
その隙に俺達はするするとロープをつたい、植え込みの影に降りるのだった。

まだ周りは騒ぎになっている、見張りの気を逸らしたうちに俺達は倉庫へ全速力で走った。
・・・もちろんそんなに時間稼ぎが出来るわけではなく、気付いた見張りがこちらに威嚇射撃をする。
とはいえ今更このまま大人しく捕まるつもりはない訳で、無視して走っていたらこっちに向けて撃ってきた。

横を見たらクリスが走りながら拳銃で応戦している、ホントにすげーなコイツは・・・
辺りはアラームと銃声が鳴り響いていたが、不思議と焦燥感は無かった、むしろワクワクした気分だった。
もうすぐ倉庫にたどり着く、ACに乗れば自分達にアドバンテージがある、
正直ちゃんと乗れるか不安だが、やるだけやってみるさ。


ガツンと音がした、

一瞬、体が右の方に向いた

左肩に衝撃が走ったのに気付くのに、ほんの少しだけど遅れた
足がもつれて前転した、というよりしてしまったのか
空が目の前にある、星がきれいだった
アイツは先に行ったようだ、ははは、笑えん
今更、悪あがきかもしれんが起き上がってみた、まだ警備員との距離はある
肩の傷も思ったよりも浅いようだ(軽症とはいえないが)
出来る限り走った、地を足が蹴るごとに肩に痛みが走る
意識が朦朧とする、血の気が引いてくるのがわかった
もう少しで倉庫だった、あれ?なんで倉庫なんだっけ
足が徐々に動かなくなっていく、いつまでたってもクリスは出てこない
前のめりになって、転んで、よつんばいになってしまった
アウトだ、すぐそこに警び員がいる、MTもこっちにむかってきている

ゲームオーバー、ふざけたつもりではないが

もうおきあがれそうにない





『なにやってんだアレックス!!!!起きろ!!!!!』




俺の耳の中から直接怒号が聞こえた、クリスの無線だ、マジに気絶しかけていた。
ハッとして起き上がると、ちょうど倉庫のゲートが崩れた所だった。




クリスの乗ったACは、俺に向かってくる警備員やMTに向かってライフルを放っていた。
相手に距離を置かせた後、真っ直ぐ俺に向かってきた

EOを起動させ、他のMTに牽制を掛けながら、クリスはコアの後部にあるコクピットを開け、俺に伝えた。

『早く来て!』

ACの足元まで搭乗用のワイヤーを垂らし、どうやら俺を乗せる気らしい、足手まといになるかも知れないのに。
しょうがないから乗ってやったよ、こうなったら一蓮托生だ。
ワイヤーがコクピットに達した頃、クリスは俺に手を伸ばしてくれていた。

流石にACのコクピットの中を二人で乗るには狭く、しかも俺が血を流しているせいでベタベタする。
クリスは俺の血を止めるためにわざわざ自分の服を引きちぎって止血してくれた。

さて今度は俺がレバーを握るわけになったのだが、実弾EOはもう切れてしまった。
こっちの攻撃が止まったからかMTがこっちに向かってきている。
アセンブリの確認をしてみたが、アリーナの初期機体にEOコアを積んで若干のチューニングをした程度のごく安価なものだった

とりあえずACを動かさないことに進展は無い、電子機器関係はクリスがやってくれると言う。
MTから離れる様に歩いてみた・・・確かな振動を感じる、VRアリーナとは大きな違いが見受けられないものの、
揺れる度に肩が痛むので、これは現実であると言う事を嫌というほど感じさせてくれる。

MTが本格的に攻撃を始めてきた、それを回避するようにブーストを吹かす、
安価なACとはいえ体感するGは凄まじいものだった。

「おぉ・・・」

思わず歓喜とも動揺ともいえない声を出してしまった・・・
後ろから吹いた声が聞こえた気がしたが、もはや気にするまい。

ライフルを確実にMTに当てていく、回り込みながら着実にダメージを蓄積させ、
距離を置いたMTにはミサイルを、近づいてきたMTにはブレードを食らわせる。

三機は居たMTは今はもう一機になっている、クリスがこれを倒したらここから離脱するようにと言った。
俺もそれに同意し、さっさとMTを倒して帰ることにしようと思った・・・が、そうは問屋が卸さないようだ。
施設の奥からACを確認したらしい、どうやらコイツを撃破しないと帰れないようだ。やれやれだぜ。

最後のMTを破壊したころにはもう敵ACが目の前にいた。
漆黒のボディに紫のアクセントが聞いた逆間接型のAC、旋回ブースターに両手はNIX・・・えげつないアセンだな・・・

こっちは大したダメージを受けてはいないが何分火力不足だ、弾薬も残り少ない。
最終的にはブレードの特攻になるだろうと覚悟する必要があった・・・

とりあえず距離を置く必要がある、基本の引き撃ちをしながら相手の弾切れを狙った、
とはいえ流石はレイヴン、滅多な時にはマシンガンの引き金を引かない。
しかも俺が着地した時を確実に狙ってミサイルを撃ってくる・・・かなりの腕前だ。

一体どこのレイヴンだ?・・・という俺の疑問はすぐに解決される。

『その程度の腕前でチャンピオンとは片腹痛いわ、アマチュアというのはこんなにレベルが低いのか?』

どこかで聞き覚えのあるドスの効いた声が響く。
そう、あのグラサン大男だ。

「さて、まいったね」

あえて口に出した、皮肉の意味もあったし、自分に対する戒めでもあった。
でも一番参っているのは自分の血が足りなくなってるのを実感している事である。




ヤバイ、非常にヤバイ、こっちが完全に不利だ。アセンがショボイってのもあるし、
二人乗りで狭いってのもある、ミサイルはすでに弾切れだし、脚部も一次破壊寸前だ。
しかし何よりも血が足りない、意識が朦朧とする・・・
クリスにはカラ元気で、大丈夫だと言ってはいるが向こうもウソだって事は分かっているだろう。

「・・・おいおい課長さん、こっちにゃレイヴンの妹さんが居るんだぜ?そんなに攻撃して大丈夫なのか?」
『・・・貴様らは脱走、職務妨害、暴行、MTの破壊と搭乗者の殺害、器物破損その他の罪に問われている、
いまさら貴様らを殺した所で弁護のしようも無いだろう・・・』

そりゃそうだ

手持ちの武器で牽制をしつつ、公園の遊具のようにお互いがグルグルと回りながら話は続く・・・

『ふむ、そうだな・・・お前らが投降して、ウイルスを仕込んだという事を認めるんだったら、
攻撃するのを止めるという事を考えてやらなくも無いぞ』
「ふざけるな、まだそんなことを言っているのか」
『まぁこれ以上抵抗を続けるのなら、こちらもそれなりに必死な攻撃をするしかないな、
その際に向こうの留置場が被害を受けても俺は知らないが』

後ろにあの忌々しい施設が目に入る。
そこにはもちろん未だに数十人のアマチュアのランカーが牢に居る。

「人質にするってーのか」
『いや?俺は”もしかしたら”お前の必死な抵抗のせいで”誤射”してしまうかも知れないと言ってるだけだ』

俺の血は少なくなっているが、それでも俺の中でふつふつと熱くなっていくのを感じた

それは相手の卑怯な言いぶりのせいかも知れないし、もしくは自分の技術不足に対する怒りかも知れない。
それでも勢いに任せて相手にブレードで突っ込むのは間違いだった。

俺は出来る限り相手のマシンガンが施設に当たらないような向きで突っ込んだはずだ。
俺と施設の延長線上の間に、相手が居れば大丈夫だと思った。
パワー不足だが、その一撃には確かに手ごたえがあった。

『ハハハハ!!やったな貴様!』

しかし相手は逆間接特有の高いジャンプで俺を飛び越し、
逆に奴と施設の延長線上に、俺のACが来てしまったのだ、
俺は延長線上から外れようとしたものの、旋回ブースターの機動性には勝てなかった。

そのマシンガンの弾の軌道は、きれいに施設の方へ繋がる

「・・・!!、このヤロウが!!」

俺は施設の方へ飛ぶしかなかった、施設の弾除けぐらいにはなると思った。
いや、それが正しい行動ではなく、逆にさらに相手が施設に攻撃をさせる口実になるのはわかっていたのだが・・・。
ACがモロにマシンガンを食らったというのが、コクピット内に響いているので良くわかる。

『フフフフ・・・逃げなくていいのか貴様?まぁ、そこを動けばどうなるのか分かっているのだろうがな』

俺の真後ろは施設の留置場がある位置だ、動けば留置場が撃たれ・・・動かなければ俺が撃たれる・・・

もう奴は自分の仕事がどうというより、レイヴンの特有の毒気に侵され酔っている。俺はそんな印象を受けた。
だってどう見ても異常じゃないか。
ふと、ウイルスを仕込んだと言ってやろうかとも思ったが、プライドが承認否決の旗を揚げた。
後ろでクリスが震えているのが分かった、俺も震えている。

俺は、情けなくも諦めの言葉をポロっと口にしてしまった
「ごめん」
二人とももう、何も言わなかった

ヤツのマシンガンの雨に少しづつ機体が朽ちていくのがわかる、CPUの機械的な音声が残酷だった。

『左腕部破損』

『頭部破損』

『コア損傷』

『右腕部破損』

『AP10%危険です』





―――何故か、本当に何故か俺は良くわからなかったのだが

奴に特攻した・・・というか体当たり。
どうせ大したダメージでは無いが相手に不意でも何でも突かせれば、もしかしたら戦況が変わるかも知れないと思ったのだ。

読み通りヤツは俺の突然の奇行に反応できず、俺の体当たりをモロに食らった。
―――が弾き飛ばした所でやはり何も効果は無い・・・

すでに貧血寸前でフラフラしている。視界もぼやけてきた・・・

『フン・・・今更悪あがきか?情けないガキがぁ!』

ヤツはマシンガンをこちらに向けている、もはや策は無い・・・
アマチュアチャンピオンもこのザマじゃあ、ベルト返還だな・・・

『さっさと死にな、往生際が悪いのは男らしくないぜ?』

万事休すか・・・

『そう?少なくともレイヴンでもない女性を攻撃する方が女々しいと思うけど』

白いACがOBを吹かしながら、俺のACと大男のACの間をすりぬける
そして大男のACの右腕が吹っ飛んだ

『なっ・・・誰だ!!』
『情けないヤツ!自分のレーダーもまともに見れないの?』

その白いボディに青のアクセント、右腕にショットガン、左にブレード、知っているぞあのAC・・・ヴァルキリアだ
そして搭乗者は、現ランカーのアンジェリーナ・セブンスウェイつまり・・・

「お姉ちゃん!!」
「いやいやいや・・・ありえない・・・」
『ちぃ・・・貴様邪魔する気か!・・・VRアリーナが惜しくないのか!』
『アンタ、自分で言ってる事とやってる事が破綻している事に気付いてないの?』

白い残像を残しながら縦横無尽に動き回るヴァルキリア。
OBを巧みに操りつつブレードで確実にしとめるその動きは、確実に相手ACを翻弄する。

もはや相手の黒いACは、俺のACとも変わらないくらいズタボロになっていた。

『命までは取らないわ、依頼じゃなくて私情だしね。今度私が来るまでには目をちゃんと治して来る事ね』
『ぐ・・・この・・・』

しばらく2体のACは沈黙を保ったまま睨み合っていたが、
大男のACは流石に無理と諦めたのか火花を散らしつつ引き返していった
・・・余談だが二度と自警団に戻ることは無かったらしい。

「・・・はぁ・・・助かったな、しかし何で助けに来てくれたんだ?」
「あぁ、それ私が救難信号をダメ元で送ったからだと思う」
「・・・へ?いつ?」
「アンタが倉庫の前で伸びてる間よ」
「なるほど・・・だから出るのが遅かったのね・・・」

壊れて、もはや歩く事もままならないACから俺達が出ると、そこには今夜のヒーロー(ヒロイン?)が立っていた

「ここもそんなに長居は出来ない・・・早く私の輸送機に乗って」

輸送機の中は、ほとんどが機材やメーターばかりだった、まぁ座席は最低限あるのだが。

さて俺達を助けてくれたレイヴン、アンジェリーナ・セヴンスウェイ
ヘルメットを取ったその顔は、クリスをそのまんま大人にしたような感じだった、流石姉妹。

「さて妹が世話になったようね」
「え?、いや、はい、とんでもないです」
「まぁ、もうちょっと正しい判断で行動できたと思うけど」
「すいません・・・」

なんかこえーよ・・・このねぇちゃん・・・

「本当は妹が連行された時、穏やかに事を進めたかったんだけどねぇ」
「はい・・・」
「でも君も半ば強制的に巻き込まれたみたいなものだしね」
「いや、そんな」
「まぁあの体当たりは男らしくてカッコ良かったよ」
「へ?あぁ、ありがとうございます」
「顔はイマイチだけどね」
「はは・・・」

この姉妹はそんなに俺の顔が嫌いなのか?

「そういえばアレックスは家どうするの?」
「へ?いや、帰るつもりだけど・・・」
「そうじゃなくて帰れる家はあるのかって話」
「???」

クリスが突拍子も無いことを言うので、理解するのにしばらく時間がかかった

「あ・・・そっか今じゃ俺もお尋ね者だな・・・困ったな」

よくよく考えたらかなりの大罪を犯してしまったのである、家にはもうガサ入れが始まっててもおかしくない。

「だったら私達の所に来ない?」
「は?」
「ちょっと!クリス何勝手に決めようとしてるの!」
「でも私の命の恩人だよ?別に大丈夫でしょ?」
「あのねぇあんな顔の男が家に入ったら何されるか分かったもんじゃないよ!?」
「大丈夫だよ!確かに顔はアレだけど、アレックスは信頼できる人間だよ!」

俺、もう鏡を見ることは出来ないかも知れない

「・・・いやに粘るわね・・・でも先生になるのも・・・まぁ確かに面白いかも」
「ね!大丈夫だよ!」

いや、それなんてエ(ry

「ねぇアレックスはどうするの?」
「うえぇ?う~ん・・・」

そんな事言っても、女の子の家にホイホイと入るには理由が足りない気がする・・・

「別にあなたが家に来る事自体は損じゃないと思うわ、それに私が指導者として
あなたをレイヴンにすることも出来る、そうすれば自警団はあなたを攻撃しにくいでしょうね」

「う~ん・・・確かにレイヴンには憧れるな・・・」

「じゃあ決まりね!きっとその腕前ならすぐにでもレイヴンになれるよ!」

うぅ・・・なにか上手い事丸め込まれた気がする・・・
レイヴンにはなれるといったが、一筋縄には行かないに決まってる・・・
とは言えもう元には戻れない世界だ、くよくよしても仕方ないか・・・
この体験も、もしかしたら俺には必要なことかも知れないしな。

輸送機の窓から見える夜景はもう既に白んでいた。

それが今日の夜明けであり、
それが彼の奇妙な人生の夜明け。
そしてそれが彼のレイヴンとしての夜明けである。




―――その後、彼が凄腕のレイヴンとして、世界にその名を轟かせたというのは言うまでもない。





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