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 手術台もどきの上に男は寝ていた。眼底ソケットにはプラグが差し込まれて、繋がった、違法回線から信号が流れてくる。
 クロームグループ、ムラクモ・ミレニアム、プログテック、数々のインダストリアル系列から、機密情報が大量に。
 毎日の日課だ。誰にも渡さない、自分だけ知っている情報。ただの自己満足の行い。
 男は仮想キーボードを叩き、痙攣する。脳を駆け巡る激動の流動。リアルでは体験できない、無類の喜び。
 その時、男に右腕に激痛が走る。針だ。針が刺さった激痛に、彼は額の電極を引き剥がし、プラグを引き抜き、代わりにゴーグル・アイの端子を押し込んだ。
 右腕に針が刺さっている。自分で仕掛けた、ヤツラに見つかれば起動するように。そして、逃げられるように。
 仮想キーボードを叩き、エンター。隣の部屋の窓へ向けられたカメラを起動し、ゴーグル・アイの端子から映像が脳を駆け巡る。
 滞空する、機械の凧。巡航型:疾風。ムラクモ・ミレニアム製の無人監視機だ。赤外線、レーザーで窓の奥を探索している。
 機体底部に装備されたバルカンが火を噴いた。窓が粉粉にされて、ヤツが入ってくる。窓は、ヤツが入れるように設計されているのだ、この都市では。
 男は、机の下の拳銃を取り上げて、装弾を確かめる。光学系撤甲弾が五発。予備弾丸は無い。ヤツの噴き出すバーナーの熱にカメラが焼かれた。
 真っ暗闇になる視界を、主観に戻した瞬間、バルカンが、ヤツと男を隔てる壁を破壊する。
 男は、とっさに鉄製の手術台もどきに隠れようとするが、遅かった。男は、バルカンによってミンチとなって飛び散る。
 手の中から弾き飛ばされ、コンクリ壁にぶち当たるリボルバーの銃身は前衛芸術のようにひん曲がる。
 だが、その芸術も、誰にも評価される事は無い。その部屋に、動くものは疾風と意地汚いゴキブリとその他の蟲のみだ。
 疾風は、揺ら揺らと部屋を来たとおりに戻っていく。そして宙で滞空し、作戦データを送信する。
 『イレギュラー、ハイジョ完了』――アイザック・ガードの元へ、そしてネストの元へ、その情報が届き、返信される。
 果たして受信した内容にそって、疾風は動き出す。ジェットを噴かして、一気に高度を下げる。
 従順なハンターは、テトリスの一本棒の様なビルの合間の網目を駆け抜け、獲物を探し出し、殺すのだ。 

 巨大な大破壊以前の人工衛星が落ちてきて、大地を抉った。彼が、作戦を開始しようとしているときもその熱は完全に冷めていなかった。
 真ん中へ行けばいくほど深くなる半球の穴ぼこ。地面はガラス状になって固まり、太陽の光を反射している。
 ヤグアルがキャタピラでガラスをバキバキと粉砕しながら周回している。
 コルセア・パワードスーツを着た何十人が、随伴歩兵ならぬ、随伴宙兵として付き添っている。
 クロームのティルトジェット輸送機がここに墜落したはずなのだが、姿は見えない。
 きっと、ムラクモのヤツラが持っていってしまったのだろう。
 「さて、どうするべきか……」
 『作戦領域へ到達。ACを投下、離脱します』
 レイヴンはヘルメットのフェイスカバーを閉めて、操縦桿をギュッと握る。
 「考えることなんて、無いな……」
 そうだ。回収目標が無い以上、言われた通りにやるだけだ。彼は、ショック吸収アブゾーバを起動させ、奥歯を強く噛んだ……。 

 咥えた煙草をろくに吸い込みもせず、灰皿におしつける。
 天井ビルの最上階。回廊が、真下にある場所。底面界の天井としての場所。
 ライトを消して、セキュリティを起動する。彼以外がドアに近づきノブを捻れば最後、その者はガードメカによって生を与奪される。
 背広を着込み、白髪の混じった髪を油で撫で付ける。窓の外からの煌びやかなネオンサインが反射する、家族の写真。
 妻、と、娘。
 乱立する建物のような記憶、セピアの奥から引き出されるネオンサイン。忘れたい過去。大切な人の死を思い出す。
 たくさんの思い出はアイザック・シティのネオンサインのようだ。下品に五月蝿く喚く蛍光色の。見たくなくても見えてしまう。
 なあ、キミはもう、自由なのか……?
 この世界に空は無い。にせものの空、映像素子の中の輝く粒子の明かりはムラクモ・ミレニアム本社の天井にへばり付いている。
 アイザックには、吊り下げられた行灯。回廊およびその流れる大河の道に生えている電気街灯。
 底面界の足元灯。此処より更に天井の汚れたヒカリ・ファイバー。
 フォートガーデンの美しい庭は幻想のようだが、全ては作られた造花だ。
 空気は地上より遮断され、先進バイオ技術の結晶ともいえる還元林のフィルターを通って、ハイブを循環している。
 髭が剃り終わった頬をたたくサラリーマンは、玄関を開けて、今日も出勤する。
 エレベータに乗り、回廊へと、十数分。彼と同じような背広を着た人間が、交差する。煙草を吸う者。携帯電話で話をしながら。
 学生。アルバイト。現実から逸脱する事のとの無い、健全で良心的な人間。管理された世界の家畜は企業の金を回す購買者。彼らは歩く。秩序を守る為に。
 
 黒煙をあげるヤグアル中戦車、柔らかい天井にドでかい穴が空いている。
 コルセア部隊の影などは空中の何処にも見えず、ただ点々と、ガラス状の土に重なり合って、血だまりが浮いている。
 レイヴンのACは、ほうぜんと立ち尽くして、バラクーダが帰ってくるのをまっていた。
 すると突然、レーダーに赤い三角マーク。――これは敵だ。
 『敵ACを確認。神威mkⅩⅦです。敵は高火力の武器を装備……』
 「神威mkⅩⅦ……8thランカー、神威瑞穂か……!」
 神威mkⅩⅦ;重装タンク:型武器腕キャノン・ミサイル・グレネード・ランチャーが装備されている。
 接近戦は危険だ……。だが、相手はタンクだ。レイヴンの射撃装備では歯が立たない。高威力のブレードを叩き込まなくては、倒すのは不可能だ。
 だが、やるしかない。依頼を成功させなくては。敵の殲滅、それがレイヴンのミッションだから。 

 『噂はかねがね聞いているぞ、ルーキー。おれの事は知っているな、神威瑞穂だ。よろしく頼む』
 敵からの通信。男の声。レイヴンと、歳が余り変わらぬような、青年の声。
 『だが、ここでお前が勝ったらのはなしだがな……ククク!』
 神威mkⅩⅦの武器腕キャノンが火を噴いた。大口径の砲弾が、ACのライフルのように飛んでくる。
 レイヴンは機体を引かせて、それをかわす。だがそれを待っていたかのように、ミサイルがお見舞いされた。
 ミサイルが三発、コアを直撃する。防御スクリーンを展開する。が、APをごっそり持っていかれた。
 反動でよろけながら敵との距離を保つ。キャノン系はこれで当たる事は無いだろう。
 だが、この距離ではこちらも攻撃を加える事が出来ない。レイヴンは意を決し、ブーストペダルを踏んだ……。

 「こんにちわ、お兄さん」彼女は暗い底面界の路地回廊で、呼び止めた。
 しかし誰も見向きもしない。アスファルトに接した裸足。赤毛の少女。左目は、無い。
 たんぱく質の腐る、有機的な臭いが充満している。遠くでは瘠せた犬が何かを貪っているが逆上され殴り殺されて、浮浪者に食われた。 
 ヤニまみれの歯を缶切りに、ひくひくと痙攣する犬の頭蓋をこじ開けて啜る音。
 「こんにちわ、お兄さん」――売春婦はアスファルトに倒れこみ、そう呟いた。
 誰も見取ってはくれない。ただ、自分の役目を果すだけだ。少女は、笑った……。

 『『……ふ『ん、やるじゃ』ないかル》》ーキー……』』』・・・・
 コアと脚部のジョイント部を一刀両断された敵機体。コアが、ごとり、とずり落ちて、ガラスの地面を陥没させる。
 そして爆発。爆発。爆発。グレネード・ランチャーの砲弾に誘爆。木っ端微塵と成り果てたタンクAC、もはや見る影無し。
 『こちら、クローム社。AC回収機:バラクーダ04、到着しました。クレーター外円部にて待機します』
 AC専用のティルトジェット輸送機が、垂直着陸する。レイヴンは、輸送機が着陸し終わった時にはもう、後部ハッチの前に着いていた。
 オートパイロットを起動し、ヘルメットを脱いだ。冷たい汗が、額を流れる……。
 神威瑞穂のACを、ぶった切ったとき、ヤツは、彼に言い残した。
 『おれはお前だ。お前はおれだ。お前もいつか、おれと同じようになる。戦って死ね、レイヴン……!!』
 神威瑞穂の断末魔。
 自分と同じくらいの男を殺した、レイヴン。自分で自分を殺した、大鴉。

 「俺はもう、後には引けない……」
 宙に浮ぶ、輸送機の中で、レイヴンは呟いた……。
 フワリともう一度浮く感覚がして、ジェットの音が大きくなる。
 ガクン、と一回、つまづいた様に機体は揺れ、そして前方に向けて推進する。
 前に、未来へ進まなくては。先に道があるなれば……。それが暗闇だとしてもだ。

 まるで遊び尽くされ、放棄されたレゴブロックだ。それが自己増殖を繰り返し、ただ己の領地を求めんと必死になっている。
 縦と横。壁と底面と天井。土を抉り抜かれて作り出された大空間。
 金属とコンクリートに囲われて、底面・天井ビルが乱立し、頑丈な渡り廊下が菌糸を張っている。
 疾風がサッと中央回廊を駆け巡り、割れた照明を修復しようとしているテクポッドがそれに怯える。
 人は、重力に逆らえず、ただ舗装されたレンガ道をひた歩き、企業の為に従事する。
 死人のように真っ白な、疲れた顔が在ると思えばまるで子供のように無邪気な笑みを浮かべる者も居る。
 何も考えず、ただ毎日を生きる凡人。明日はおろか、数分後の未来さえにも手の届かないヤツ。
 さまざまな人間が、閉鎖的社会の中にひしめき合い、互いを認識せずに自己完結し、蹴落とし蹴落とされ、
 ただ所属する企業に貢献し生きる。貢献できない、しない、イレギュラーに明日は無い。未来を消される。
 誰もが生きるために従事している。この作られた世界:B-ハイブ。人は、否、支配企業さえも、ただの駒でしかない世界。

 電脳と欲望に支配された、悪徳都市:B-ハイブ、大深度に埋められた蜂の巣、コンクリートの地下複合都市。
 抜け落ちて底面界に突き刺さったビル。首のもげたMT。吹き飛ばされた装甲片。不発弾の雷管が瓦礫の中で起動して、また一つ墓穴が増えた。
 銃弾が転がる。手を伸ばして拾おうとする少年。一瞬の後、少年の頭部は吹き飛ばされて割れた窓ガラスの向こうに飛び込んだ。
 銃口から煙が上がる。兵士はレーダーを見て驚愕する。後ろにACが居た。
 ACは銃を抜き、兵士は肉と化して砕けた粉塵と交じり合う。砂雑じりの血風は自己再生する換気口の中に吸い込まれる。
 そしてコアを微塵に吹き飛ばされるACは、下半身だけで仁王立ちしている。
 満身創痍のMTは、グレネードを収めて、隊列に戻るが、戻るべき場所は最早無かった。
 パイロットは、苦笑し、こめかみにサバイバルガンの銃口をあてがった。
 こうしてその世界の秩序は保たれていた。イレギュラーは排除され、全てが、計画したとおり互いに潰しあっていた時代だ。

 『これで満足か。秩序を・世界を破壊する――それがお前の望みなのか。
  我々は必要だった――だからこそ我々は生まれた。
  秩序なくしては人は生きて行けぬ――たとえそれが偽りだったとしてもだ。
  生き抜くが良いレイヴン。
  我らとお前、どちらが果たして正しかったのか。
  お前にはそれを知る権利と、義務がある』

 その瞬間「再生の時代」は終局を迎えた。
 そして、発展――人が考え、人が施行する、混沌の秩序の時代へシフトする。
 いまだ先が見えぬ未来にあるのは、発展か、崩壊か。

 澱みの先に何があるのか。

 それぞれの結果は後世が判断するだろう。

 --了--




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