『約束したのだが、そうもいかなくなってすまない。
  俺をまっていてくれるのはありがたいが、それは無意味だし、
  作った料理が冷めてしまえば不味くなるからさっさと食べてくれ。
  シーラも分かってくれるだろう。俺はレイヴンなんだ。何時死んでもおかしくない。
  俺は今死のうとしている……それもゆっくりと死ぬ。餓死だ。
  流石にインターネサインに食べ物は無い。
  吸収はおろか消化すらも満足に出来そうに無い紅い蟲たちの擬似アミノ酸の塊しかない。
  後は鉄、電気、か……。これは当たり前だが、プラスである俺にも食べられそうに無い。
  人間を越えた人間。そう定義づけらていた俺たちプラスも、食べ物が無いと動けない。
  所詮は人間だったって事さ。
  そうなんだ。俺はもう、そちらには帰れそうに無い。
  だからシーラ、居るんだろう、エドたちと一緒に?
  ジャックからの報酬はエドに頼んで口座から無理矢理引き出してもらえ。
  やつは全財産を俺にくれやがった。いや、半分か。ジナイーダが半分貰ったんだな。死んだけど。
  それでもアライアンスの野郎達もめんたま飛び出る額だ。俺の代わりに使ってくれ。
  俺は、お前達とやれて結構たのしかった。あとはじゃあな、としか言いようが無いな。
  だから、じゃあな……。元気でくらせよ』

 何がだからなのか。じゃあな、そして、元気で暮らせ……。
 誰がそんな事ぬかすのか、貴方が居ないと私はどうしたらいいのか……。
 シーラはレイヴンからの最後のメールを受信し、今読んで、泣いていた。
 発信時刻は半年前……そう、半年前だ。
 それが今届いた。たった今死んだように。たった今、戦いが終わったように……。
 シーラは端末を叩いた。仮想キーボードがゆらりと揺れる。

 今から半年前。
 アライアンス、バーテックス、双方の陣営のレイヴン全員が、死亡、戦闘不能、行方不明になった、あの抗争から現在まで半年。
 結果は知っての通り、共倒れだ。

 アライアンス本部は生き残った戦術部隊を掻き集めて復興しようとしたが、戦術部隊の兵器類は壊滅状態。
 企業連合の結束も敗れて、各企業は独立し、なんとかやり繰りして生計を立てながら、その地域から去って行った。

 武装勢力バーテックスは派閥別に散り散りになって、一部は企業に、大半は個別の傭兵部隊として分裂した。
 だが傭兵部隊として成り立っていくには争いが必要だ、と、判断した彼等はその地域からどんどん去って行った。
 
 そしてその地域からは、活気も何も無くなった。
 死の荒野――そう呼ばれるようになった。
 そこで生きようとしたもの達は大地に拒絶されて、砂をかぶって帰っていった。
 そこに住みたいと思って住むもの――利益が無いことをしようとするやからは誰も居なかった。
 今はまだ……。

 それから三十年余りが経ち、経済も安定し、大陸中に散らばっていった企業たちも力を付け、
 武装勢力も大きくなり、再び争いが始まった。
 
 だがレイヴンはその戦場には現われて居なかった。

 ACを動かすものは、居るには居る。
 アリーナ専属で見世物試合をする、傭兵ではないACパイロット。

 企業には自社で育成したたくさんのAC乗りが居るし、
 従えている武装勢力に以前よりも格段に進歩したMTを与えて、
 相手の企業と日夜世で金を廻す努力をしている。その相手企業も言わずもがな。
 だから企業に牙を剥くかも知れないレイヴンは必要なかった。
 今はまだ……。

 事が起こるのは、更に十年余りの月日が流れた。
 企業が、再び死の荒野に進出し、新資源を掘り返し始めた。
 過去の悲惨な出来事を繰り返さぬためにも、やってはならない事なのに。
 企業は利益を重視する……それもあとのことを考えず、目先の金が欲しいのだ。
 
 そうして膨れ上がった企業は、遂に旧サークシティの封を破り、ジャックが巧妙に隠した地下への入り口を見つけた。
 そう、インターネサイン……そう呼ばれていた場所に通じる穴だ。

 そこに、既に中年を越えて六十歳台とはなったが、活力のある眼差しで老いを感じさせないシーラと、エドが居た。
 シーラはオペレートの腕をクレストに買われ、それを承諾、そして今にいたる。
 薬指には、何もはめていない。まだ独身だった。

 「シーラ、遂にココまでやってきたな」と、隣に座るミッション・オフィサーのエドがコーヒーを啜りながら言った。
 「そうね……でも」シーラも目の前のモニターを見つめてコーヒーを啜った。
 「でも、私は本当にこれでよかったのかと思っているの。
  ジャックはインターネサインが破壊されれば新資源……旧世代の遺産の、
  人類において使ってはならない物や情報は全て破壊されると言っていた。
  私がその事をクレストに告げたら、あれほどココを嫌がっていた彼等は喜んで来て、今、掘り返している」
 「だけど、世界のためになるものもあるんだろう。それを見つけるために、お前は上層部に報告したんじゃあないか」
 「言わせないで、エド……。そうよ私は、彼の……レイヴンの遺体を確認したいがために、……これは私的な用件。
  もしかしたら、ココで得た情報が、再び地上を滅ぼす危険があるかもしれないけど、私は彼を確認したかった。埋葬してやりたいの」
 「……ふふん。俺はおまえのそんなところ、嫌いじゃないぜ。もっとも、一番すきなのはこいつだけどな」
 『ニャー』
 「まったくね、そんなとこが無かったら、私は貴方になびいていたかも知れないわ」
 シーラはクツクツと笑い、エドの操るノートパソコンに映る二次元美少女――赤ずきんに言った。
 「ごめんなさいね、笑ったりして」
 『いいのよ、おばさん。あたしがエドを支えていくニャー』
 「あら、それもプログラミングなのかしら」
 『そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。あたしは人間になりたくは無いけど、人間が好き。
  一番はエドだけど、おばさんは三番。二番目はあのレイヴンさん。
  ああー、もしかしたらレイヴンさん、生体部位は腐ってしまっているだろうけど、もしかしたら記憶チップが残ってて
  それをデコードしてやれば、あたしと一緒に住めるかもしれない。ねえ、そうしよう?』
 「そうね……そうすれば、会えるわね」
 『エドー、どうなの?』
 
 このやり取りを何度しただろう。
 この電子の妖精は、一度した事をそう何度も繰り返さぬはずなのに。
 彼女も彼女なりの心配と期待をしているのだ。
 
 「ん、さあな……お、シーラ、遂に大深度へのエレベータを見つけたみたいだぞ」

 エドはパソコンに繋がれているUSBカメラをそこに向けてやった。
 シーラはモニタを穴が開かんばかりに見つめた。
 一同は固唾を飲んで一時始終を見守った。

 
 リニア機構のエレベータは、腹を振るわせる嫌な音を立てて下降する。
 乗っているのは、クレストの精鋭AC部隊と事実上の私兵である武装勢力のMT達。
 壁面の鉄の血管にたまに光りが走る。だが、レーダーには何も映っていない。
 
 『レーダーに異常ありません。ECM濃度は、地上よりも低いくらいです。まったく敵はいないと推測されます』
 『了解。だがそのまま警戒を続けろ。……そう心配するな。ただの格好だ。上の連中は作戦記録にとやかく五月蝿いからな』
 『そうですよね……でも……』
 『でも……?』
 『この壁、生き物みたいですよね。それも死んでいない。かすかだけど、生きている、そう思えます』
 『そうか? わたしはわからないなあ。霊感とかいうやつか』
 『そうかもしれません。僕は昔からそういう事に敏感だったような気がします。だからレーダーを見る仕事をしているのかも』
 『なるほどなあ……お、もうすぐらしい。MAPがそう告げている』
 『。いえ、それが今音波で確認した所、さらに三キロは下があります。MAPが正確じゃ無かったって事でしょうね』
 『……なんだが気味が悪い。君じゃなくても、私もなにかゾクゾク感じるよ。あ、洒落じゃないよ……?』
 『!』
 『どうした!!』
 『敵反応……敵は……生態機械です!』

 上に流れる壁面から生えてくる機械と肉の触手。上からも物凄いスピードでそれが迫ってきた。
 さらに足元からも、それが……。そしてあっという間に部隊は全員飲み込まれた。生き残りはゼロ。全員、死亡した。

 シーラ達はその光景を見ていた。
 『なに……、あれ?』
 「分からない」
 「ああ、俺も分からない。だが……」
 『だけどなに?』
 「インターネサインは生きていた。そして……」
 エドは一息飲んで、
 「進化しているんだ。今……いや、その前から……ずっとずっと昔から。
  旧世代の遺産……。それらを作り出した過去文明は何故滅びたのか、俺は以前より疑問に思ってきた。
  あれほどの文明をもった種族が、俺たちに掘り返されるまでなにも俺たちに情報を残していないことをな。
  今なら確信できる。インターネサインが旧世代を滅ぼしたんだ。
  インターネサインは死なないんだ。これからも、ずっと生き続けて、そしてめぼしい文明を……捕食していくんだ。
  ヤツに食われた文明は、ヤツに吸収されてその糧となって永遠に生き続ける……。
  だが、だが、ジャックはそうは言っていなかったはずだろ」
 黒い額に玉の汗を流すエド。

 「……ジャックは見誤っていたんだ。インターネサインは、旧世代の種族が作ったものじゃない。
  ものなら壊してしまえば、それでお終い。でもインターネサインは、もの、ではなかった……。
  レイヴンのお陰で、エネルギー不足になって休眠していたけど、餌が来た。
  部隊のエネルギーを喰らって、ヤツは機関部を再構築する気よ」
 カップを床に落としても拾いもしないシーラ。

 『彼等はあたしとおなじ、電子の海から生まれた。
  けど、あたしみたく生み出されてそのままってわけじゃなくて、
  自分で自分を進化させていって、一つの種族となった……人類とは別の、人類――インターネサイン!』
 画面内だけではにこやかな顔の赤ずきん。

 「私は、とんでもないものを目覚めさせてしまった……どうすればいいのかしら。こんな化け物、相手にしていられない……」
 眼鏡に涙を溜めるシーラにエドは、
 「そう、落ち込むな、シーラ」
 「え?」
 「俺たち人類は、一度ヤツに勝っているんだ。俺たちも進歩したから足しにはなるだろう。
  ぶっ殺せないなら、もう一度エネルギーを断って、眠らせてやればいい。こんどこそ、永久に封印してやる。
  だがその前に……やることがあるだろう、シーラ?」
 「……そうね。そうよね。私がやってしまったことは、私が償いをする。
  目覚めたインターネサインをもう一回封じ込めてやらなくちゃならないわ。
  だけど、そのまえにやる事がある。彼等がいないと始まらないわ」
 そこにすかさず赤ずきん、
 『レイヴンの……ドミナントの復活をしなくっちゃ!』

 そうして、シーラたちは、レイヴン育成プログラムを作成した。
 クレストの上層部だけでなく、他企業とも掛け合い、その承諾を得た。
 人類が食われてしまうのだ。企業はこれからも金儲けをしたい。そうだ、やっと彼等も先の事を少し見るようになったのだ。 

 「地上からの爆撃は効果がありません。敵の中枢は更に根を深くしたのでたとえ地殻貫通型を使ったとしても効果は薄いでしょう。
  むしろ、ヤツに大きな爆発エネルギーや振動のエネルギーなどは危険です。それを利用しようとするかもしれません。
  そう……ヤツに余計な燃料を食わせるわけにはいかない。
  だから以前と同じく、単機、または数機でもって中枢へ送り込み、再びエネルギー増殖炉を破壊してもらう、それしかありません。
  それまでに現われるだろう敵は、企業と武装勢力そして、『育成したレイヴン』達で対処する。
  企業が戦場を作り、そして彼等を闘わせます、最後の一人となるまで。
  非情なようですが、これが一番効果的、そして確実な振るいです。そしてそのラストレイヴンに人類の運命を託します。
  これを過去の最強の印をもじって、『ナインブレイカー計画』と名づけます!」
  
 さて、ドミナントが現われるのが先か、それともインターネサインが再び力を取り戻すのが先か。
 もしかしたら、ドミナントは現われる事無く人類は消滅するかもしれない。
 そうであったなら所詮、人類などそんなものだったのだ。
 だが、そんな事認めない。諦めたくない!
 諦めなかったら人類は、生きるのだ!
 人間はインターネサインなんかに負けない力を、きっと持っているはずなのだから……。

   THENEXT..IaIa.Intarnesain...foreverravenraven...youandAI...
   





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