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 やきとり、と書かれた赤ちょうちんが店先に吊り下げられていたりする。
 企業戦士達は真っ赤な顔で人種を超越し、ネクタイを鉢巻にして笑っている。
 電柱の影でいちゃいちゃしているアベックは、野良犬がにションベンひっかけられた気づかんかった。死ね。 
  
 そんな通りの中に、一人の少女がいた。彼女の顔は土器色。右手を胸に当て、よろよろ歩く。
 群衆は、さながらモーゼの割った海のように少女を避けて歩く。
 少女の方はぶつぶつと何かを言っている。瞳はどろりと気違いじみて、その視線はもうダメで変なとこ見てた。

 「おまえらが……お前らが、殺したんだ。たった、一つの、希望を……」

  少女は天を仰ぎ叫んだ。

 「 く た ば っ ち ま え ! ! 」

 幾らか居る通行人は操り人形のように一斉に少女を見るがそれも一瞬の事。すぐさま蜘蛛の子散らすように早足に逃げていく。
 叫びは虚しく虚空に消える。少女は、左にぶらぶら提げてる一升瓶を、そのままラッパのみする。
 ゴクリゴクリ咽喉が鳴り、空になった瓶を片目で覗くと残った酒が目に入り、ギャッと叫んだ。

 「ギャァァァツ!!」
 「んギャァアアアアアだああああウウアアアあああああ痛い言いいい意あああああああぁああああああああ!!!!!!!」

 だけど少女の叫びは、掻き消された。振り上げた瓶が通りすがりのターバンの頭部を強打したのだ。
 たまらなくスンゴイ叫びをあげるターバン、倒れて、もんどりうって、ピクピクするけど誰も助けない。
 当の彼女の周りには誰もいなくなっていた。彼女は辺りを一瞥し、ニヤリ。
 口をあんぐりと開けていた。舌は真っ青だった。照準は、すでに定まっている。

 そして群衆の案の定――ゲロった。哀れなターバン、ゲロにまみれた。
 だから、彼女の周りには誰も行きたがらなかったのだ。
 当の少女も自分のゲロにまみれてヒヒ! とキモい笑いを残して、ぶっ倒れた。


 目覚めると、其処は白い部屋だった。
 部屋の中は薄暗いのだが、はっきりと、その部屋は白い、と感じる。そんな部屋に彼女は、寝かされていた。
 白い天井が少女を押し殺そうとして、ゆっくり、ゆっくりと降りてくる。そんな錯覚に囚われる厭な部屋だ。
 横を見ても誰も居ない。身体を起こすそうとするが、ベッドに縛りつけており、首だけが動いた。ニセ木材で作られたドアがある。
 今は彼女一人しか此処に居ない。どうやら、彼女を、此処に運び込んだ者は、この部屋の外。ドアの向こうに居るんだ。
 
 少女が目覚めた部屋の外。そこに男と女がいた。二人は向かい合い、ベルベット張りのソファに座っていた。
 男は背が高く、眼鏡をかけていた。こう言うと、かっこよいのか、とか思われるがまるで、『冴えない』という言葉が具現化した男だった。

 その冴えない男と正反対に、女は美しかった。
 室内で、ただひとつの灯りである、テーブル上の太い蝋燭に妖しく、女の影は揺れていた。

 「まったく、あんな可愛い娘が今にもブッ倒れそうにふらふら歩いてるのに誰も助けようとしないなんて、みんなどうかしてるわ」
 「まあそう言わないで下さい。彼等には彼等なりの事情があるんでしょうし……。ゲロられては、いやでしょう?」
 「ゲロ上等よ。かわいいは正義=汚くない。異論は認めないわよ? あいつ等はただたんに駄目なだけよ。
  そう、みんな駄目人間……。彼女とは違う。もちろん完璧たる私とも違う。そうね……、あんたはどうなのかしらね?」
 「まあ落ち着いて。私はかれらとは違いますから。彼女には、どうせ私がいるんですし、大丈夫ですよ」

 男の言葉を聞いた女は、向かい合ったソファーから腰を上げ、男の隣へ。

 「……えい!」
 「ふえぁあっ!!!」
 「痛いでしょう。痛いわよね!」

 女は笑みを浮かべて男の太ももをつねる。

 「いたい、いたいです、いたいですってッぇ! ……ああ、いたかったッ!」
 「ねえ、あの子はこれからどうなるのかしら。まあ、ACのメンテナンスなら、私にも出来るけど、
  彼女の場合、ちょっと違うから。薬しかあげられない。彼女、この頃一段とくたびれ始めてる」 
 「いやいや、ほんとう感謝しています。全て、スカーレッド、あなたののおかげです。本当にいつも、有難う御座います」
 「そう……。うふふ。例には及ばないわ。……そうね、如何してもお礼がしたいっていうのなら」

 スカーレッドと呼ばれた女はずいと彼の耳元に唇を近づけ、体で払って、と小さく囁いた。
 頬を染める男。スカーレッドは彼の両目を手で覆い隠す。深遠なる虚空を両手で掻く、男。

 「あ、っ、そ、それはっ……ちと、まずいんじゃあないかなぁ……?」
 「あらそう? あ、ちがう? そう。そうかしら。ねえ、オペ男。なんだか、ちがうらしいわ。ちがうのなら良いじゃない?わたしで。ねぇ……?」
 「いやでも、彼女が起きてしまいますし……」
 「うふ。否定するのはソコですかあ。大丈夫、エネはぐっすり寝ています。そして、うふふふ。万が一のため、縛っております!」

 スカーレッドは、ちょいとばかしの抵抗をするオペ男の服をずるずる脱がしにかかっているその時、とんだ罵声がかけられた。
 同時に硬いが柔らかい――木材のようなものが壁にぶつかる、デカイ音が聞こえた。声の主は、当のゲロ少女――エネだった
 
 「おやめ! このバイタめ。女狐め。死ね、腐れ○○○っ! おはだ、びちびち!」
 「あらあら、起きちゃったの。だめじゃないちゃんと寝てなきゃ、うふふふ……」
 「けっ。だいじょうぶだよ。ほら、もうぴんぴんよう! さあ、いきましょ。
  もう出なきゃ。うん。これ以上はせいしょーねんのいくせーとかによくねーわ。うん。」
 
 なにやら独りで肯くエネ。真っ赤な顔をして、肩で息をしているその少女は、
 両腕をベッドの張り付けにされており、ベッドをカメの甲羅のように引きずって、足で蹴っ飛ばしてドアをぶち破ったのだ。
 その衝撃かなにやらで拘束していた縄は切れ、エネは身動き自由の身となった。

 「ああ。元気よ。すごくすごく精力がみなぎっとるわ。魅力もチャーミングよ! オペレータ! ハリー! ハリアップ!」

 エネの足取りは千鳥足。壁にしこたま頭をぶつけながらも、玄関を開け、外に飛び出した。変な音がした。
 此処は二階なので、急な階段があるのだ。多分それにつまずいて転んだのだろうか。記述できないような悲鳴が聴こえてた。
 オペレータの男は、急いでシャツを着なおし、転げないように気をつけながら、ドアから出る。
 だが此方も同じような音がして、スカーレッドはやっと思い出した。

 「階段くさっとたわ!」

 スカーレッドは腹を抱えて笑う。
 黒いゴミ袋へ、頭を突っ込んでいる二人を見下ろすと、

 「エネーッ、オペ男っ。なんか困ったら、私に助けを呼びなさい。そしたら助けてあげるわ」

 腹抱えて笑う女、そのまま、新しい階段用の板あったかしら、と、ぱたりと玄関を閉じながら言った。


 二人は通りに出る。エネが倒れた通りとは何本も外れた、大きな通りだ。
 酔っ払いどもが群がるすえたところではない。しかし膝が超痛い。

 エネはレイヴンである。彼女は貧民街の生まれであった。
 家族は母と兄と姉。優しい兄は出稼ぎで労働して、そのスズメの涙の片割れを送ってくれてた。
 美しい母と姉は、貧民街で生まれたという事で、カタギの仕事にありつけずに水商売。
 成長し、母や姉のように体を売って生活していくのだなぁ、とエネは、ぼんやり考えるようになった。
 そして、彼女の母と姉が病に倒れ、頼みの綱の兄は音信不通となった。
 苦しむ肉親見る、エネ。これは、もうやるしかないぞ、と心に決めるエネ。
 幸い『ルックス』はよかったので『その道』では何とかやっていけるだろうと思った。

 何度かそういうことを重ね、ある企業の偉い人との夜の事だ。
 ねっとりとした、汗のにおい漂う、薄暗いその部屋で、レイヴンにならないかと誘われた。
 彼はジオ・マトリクスの上級社員だったのだ。

 「その君は、美しき、愛しきロ・リータ! 嗚呼ぁ――ナボコフが書き綴りたくなり、
  ツーラナニガシはかく語りたくなるその裸体。ほっぽり倒して劣化して、もうダメポになるのをふぜぎたい!
  ならば力を与えようぞ! お前は烏だ! レイヴンになるのだ!」

 レイヴンとは、恐ろしい職業だ。
 かたっぱしから戦場を荒らしまわって、金を貰う傭兵のことだ。
 使い切れないほどの金を貰うのだ。使い切れずに、戦場で散華する。
 だがそれはいい腕をもつ者だけの話。ほとんどは、借金まみれになって、ナニカサレルと聞く。
 どっちに転んでも、畳の上では死ねないのは、両方とも同じだ。

 「でもこのままじゃあ私も、畳の上では死ねないよなぁ。でも、任務中に死ぬのはちぃと恐いよ」
 「じゃあ、簡単な仕事だけを回してあげよう。うん。いまよりレイヴン試験を実施しよう。
  試験は現場で起きているのじゃないの、此処でおきているのよ!」

 ハゲ職員は叫び、両手を上に挙げた。
 体を支えていた腕が上空にあるために、重いからだが、股が三角木馬に食い込んでまた、叫びを挙げた。
 そこにエネが間髪いれずに鞭を入れる。――バシン! バシンバシンッッ!

 「ヴォンパッパ! ビターンッ!」 
 
 ともにウマともウシとも、……いややはりブタのような、歓喜の鳴き声が聴こえてきた。
 エネは『SM女王』をやっていたのだ。因みに母と姉もこの道だ。SM女王様である。
 唸る鞭と幼稚な体に纏うボンテージが一部の男をナニカヘいざなおうぞ。

 「ナマ言うなこのブタめ! んんー、……でもそういうなら、やってみてもいいかもしれない。
  病気の母様《かかさま》や姉上は畳の上で死なせてやりたい。あ、もちろん、治療受けさせるのよ。
  そして、行方不明になった兄上もみつかるかもしれん。なあ、資本主義に染まりしブタよ――レイヴンとはどうやってなるんだ?」

 蝋燭をぼたぼた垂らされるミニブタは快楽に悶えながら、喘ぎ喘ぐ。
 ふくよかな体を震わせながら。汗ばむ頭部に虹を煌めかせながら。
 ブタは――レイヴン試験の筆記問題の答えを喋った。

 そのお陰で後は実技試験だけになった。んでも、心配だったがなるほど何とかなるものだ。
 何とか受かったのだ。大学とか、高校とか、色々な試験すら、ようは根本『気合』である。
 エネは、晴れてレイヴンとなり、よろこんだ(功績的な意味で)。ブタも、よろこんだ(性的な意味で)。   
 そして月日は流れ、フォボスが火星に落ちそうになったりしたがこれは英雄となりおおせたレイヴンが止めまして、
 今日まで生きることが出来たエネは、20歳となっていた。レイヴン一筋で6年が経過していた。
 未熟であった操作技術も、結構手について、たまにはミスがあったりはするが、
 これまた何とかなるものでありまして、なんとか赤字は回避していた。
 でも任務の失敗は悔しい。だから彼女だって荒れた気分を紛らわすために、浴びるように酒も飲みたくなる。
 

 世界に置いては、三十年戦争が終り、世界を分断していた二大企業――クロームとムラクモ・ミレニアムが解体された。
 両企業は、当時はまだ新興企業であった、エムロードと、ジオ・マトリクスに吸収され、その身の血肉となったデータを解析したら、
 遡ることを考えるのが面倒くさくなるような年数を経たデータが掘り起こされた。それが火星テラフォーミング計画だった。

 火星でテラフォーミングが始まったのは、今も昔の、大破壊以前。企業と国家の狭間に起きた大戦争より結構前だ。
 その真っ只中に生まれた、異形の水蛭子。いまに、水蛭子というものだから、それは失敗していた。
 しかし水蛭子はしぶとかった。原始的な植物、苔などの生息が可能となっていた。これを指をくわえて見ている企業ではない。
 エムロードとジオ・マトリクスは共同で、最新の技術を使い、なんとか人が、呼吸可能にしえるまでに、火星を地球化したのだ。
 
 人類が住めるようする火星テラフォーミング計画だが、流石に生身でそのまま、というわけにはいか無い。
 すぐに死にはしないが、極端に大気が乾燥していたり、空からの有害な宇宙線が日によって多かったりするのだ。
 だから超硬樹脂ダイ・アモンドで作られたドームを作り、その中で、人間は暮らすのだ。 

 移住初期に作られたドームには自動洗浄装置が装備されてはおらず、かといって、人の手でやるのも面倒なので、
 汚れが落とされず、雨ざらしにされて、奇妙な前衛芸術を描いている。
 なんとなく歩きながらまだらを目で追っていたエネは、次第に目を回してブッ倒れた。
 すぐさまオペレータが彼女を起こしにかかるが、エネはそれを振り払った。
 そして気付く。目を回した理由だ。

 「お腹へっただわ!」
 
 いまや彼女の体はアルコールだけで出来ていた。


 手近のハンバーガーショップで食事をしようと中に入ったものの、生憎の満員。そういえば、今日は日曜日だ。
 暇なヤツラがたくさんいた。変なヤツラも、たくさんいた。
 目ぼしいのを見つけたエネは、てくてく店の端っこ、窓際のカウンター席に座る二人の男に話し掛けた。

 「ウホッ、いい女。ぺチャパイだけど」
 「やらないか。ぺチャパイだけど」
 
 その彼らはなるほどいい男だった。が、エネは顔など見てはいない。あえて『ぺチャパイ』の言動も無視する。
 そして、いい男らの耳元で、こっそり何やらを囁く。すると彼らはサワヤカに笑い、ビョインと立ち上がり、ホイホイ店を出て行った。
 「近くに公園が出来た。座りやすいベンチや、広々としたうんこ便器の個室も、ありますよ」と彼らに言ったのだ。
 エネはオペレータを手招きし、一足先に、男らが残していったハンバーガーに齧り付きながら言う。
 
 「んで、ジオから依頼でしょう。そのためにあなたは来んだから。
  さっさ、依頼だす――サクセンの紙、だしてちょーだい。……ん、……お前はホント気が利かないねえ。
  ほらさ。あれだよ。アレ……、あの忌々しいびっちで雌犬の、スカーレッドからもらった薬もさぁ……?」

 オペレータがあわてて差し出すそれを、エネは素早く奪い取り、生暖かいシェイクで胃へ流し込んだ。
 飲んだ数十秒後――エネの体はビクンと鋭く痙攣した。手に握った紙コップのシェイクがクシャリと潰れた。
 ぶるぶると身を振るわせるエネ。しかし、それは必要な事であり、心配しなくてもだいじょうぶなのだ。

 「嗚呼――まさか、強化人間にされるとは思わなんだよ」
 「すみません。こっちの手違いで……」
 「まあ、いいんだけどね。お金、持ってないけど、ただで手術受けられた。
  詫びとして母様と姉上も地球へ、搬送出来た。これもただでさ。
  さすがに薬にたよらんとやって行け無いのは辛いけど、あんまり高望みはしないさなぁ……。
  高望んだら、太陽目指したイカロスみたくなって、まッさかさまな気がするもの」
 「恐縮です」
 「まあ、オペレータも食いなさい。アイツら山盛りにハンバーガー置いてってくれたよ。三つくらいあげる。あとはあたしの。
  さあ……、さてさて、あ、このシェイクはヤバイな。うん。かなりヤバイ。オペレータ、新しいの買って来て!
  そのあいだに、あたしは依頼みてるからさ。あ、あとフキンもお願い。べとべとヤバイヤバイ。因みにLサイズだかんね」
 「あ、はい。わかりました」

 オペレータは財布をショルダーバックから出して、注文カウンターの下へ行く。

 「うん……、かなり、ヤバイよね」

 それはミッションの事なのか、ぶちまけられた温いシェイクの事なのか、それとも彼女自身のことなのか……。
 エネはただ、ぼんやりと、オペレータが戻ってくるまで、窓の外で人の渦が流れていくのを見つめていた。
 本当にぼっとしていて、気がついたら、ハンバーガーの包みが全部開けられていた。
 それに気付いたエネは、口元をにやけさせながら、

 「このハンバーガーは、火星製だけに、『マーズ』いなぁ……」
 
 情けなさに腹を抱えるエネは、急に背筋を伸ばして辺りを見回す。
 こんな寒いダジャレ、誰かに聞かれたらかなり恥ずかしいではないか。
 オペレータが大きなシェイクを二つ持ってきたら、とりあえず、彼にこの恥かしさをぶちまけよう。
 そう思うエネだった。
 
 [了]

 チーズバーガー・マーズ・イン・デイ!




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