太陽系第五惑星、木星。
 その宙域にて大規模な工事が行われていた。だが、それも終ろうとしている。
 火星より出発したこの建設旅団はハイパージャンプ(所謂ワープ)用のカタパルトを
 設置するために、いちいち通常航行で、何年も掛けて、この宙域に侵入したのだ。
 しかし、そんな長年の苦労を終えて、彼等はシャトルに機材を詰め込み、撤収作業を始めていた、そのときだ。
 『おい、気をつけろ。映画だと、こんな場面でナンカ変なモンに襲われるだ!』
 『ばかいってんじゃねえ。ささっとけえるべ』
 『んだ、こんなところにノコノコしてたらなにかされてしまうっぺ』
 『そうさな。けえるだーけえるだ』
 『……うなぁ! なんだかいっぱいきただぁ!』
 突然、レーダーに反応が現れた。
 小さな赤い三角が、わらわらと、無数!
 ソレラは、すぐに使節団を取り囲んで口に相当する部位からレーザービームを照射した。
 銀色の、流線型ロケットは穴ぼこだらけ。勿論、乗員はみんな死んだ。

 無数の三角。見た目は、虫の様。だが、宇宙空間で生きられる虫など、聞いたことない。
 彼等の残したカタパルトに近づいて薄気味悪くニヤリ。
 声なき笑いが、大気エーテルを振動させた。
 そして、

 『 ふんぐるい こいろすじばくなふ あみだ きさらぎ ぶれあたらな ふたぐん』

 奇妙な呪文が電波で木霊した。
 集団があつまってビーコンに生体電気を送ったのだ。 ビーコンは、別のビーコンへ、光の速さで電波を送り、返ってきて、ゆらぐ座標を算出し、カタパルトへ転送。
 バチバチと、空間が湾曲し、ソレらはともども、ハイパースペースに送り込まれた……。
 

 《OP》
 グゥゴオオオオカーン!

 時は未来
 所は宇宙
 光すら飲み込む果てしない宇宙で
 愛機のACを駆る男とか女とか
 最大の傭兵斡旋企業であるナービス・コンコード
 そこの所属する者を人は、レイヴンと呼ぶ!

 キュイーン! チョイトイチュシャァーン!

 子供の頃は 空を飛べたよ
 草に寝転び 心の翼広げ
 どこへだって 行けた僕だった
 君を愛した時 忘れていた翼が
 もういちど 夢を飛ぶ事を教えた

 どっちを向いても水没!

 どっちを向いても水底!

 どこまで行っても水没!

 どこまで行っても水底!

 テーテ! テーテ! テレッテー!



 (*)Aパート

 実在するブツリ法則には砕ける空間など存在はしない。
 だが次元連結――縦横五千七百三千万億兆ナユタ次元――ハイパースペースにリンクさせればそんなの、造作も無い事である。
 次元が連結され、別世界とこの世界が一部が接触するため、起きる自然現象だ。 
 それは映画撮影に使われる割れ易いアメザイクの硝子のように、空間が破片をもって、ブチ撒ケられる。
 現われる巨大な宇宙船。
 破滅的な負の虹を引き連れて、先端ブについている次元潜航螺旋《ディメンションダイビングスパイラル》を捻子《ネジ》こみ、
 場亀場亀《バキバキ》と突き、張って、轢いて裂いて割った、胴体に巨大な重力リングを廻したその姿!
 約一分前の月ベースでカタパルトによって虚数化→ハイパースペースに送り込まれ、
 目的地=火星より、遅くとも三日ほど距離を離して『概念的に虚数化された』船体を実世界に実体化した。

 各部の埃溜りの隙間から幻想火花が飛び散る。ハイパースペース内の、光子は質量をもっているからだ。
 それがこの宇宙に次元連結した際、此方側に触れたため、顕現作用で沸騰したのだ。
 アチラの世界での正体を失った質量が、此方の世界の正体に変化し、大気エーテル中で真っ当な化学変化を起こし、
 まことに派手な花火を咲かせ、歓迎を祝してくれているのだ。航行は順調に行われていた。
 ハイパージャンプは、成功である。

 この船――次元潜航宇宙貨客船《アーナルトコーナル》はもともと企業の所有ものを政府が買い上げ、
 庶民を相手にしなかった企業に代わり、まだ多少価格は高いが、企業に比べれば安く、地球と火星間をワープで行き来することを可能にしてくれた。
 そのお陰で、彼女も来れた。

 彼女には兄がいた。彼はレイヴンであった。
 彼女は恨んだ。「なぜ、会いに来てくれないの。そんなにあたしが嫌いになったの。お金を送ってくれるだけじゃぁ厭だよ……」
 会いたくて会いたくて堪らなかったから、彼女もレイヴンになった。
 何処デモよかった。戦場ででもよかった。兄に殺されるのなら本望だった。
 「あたしは迷惑を掛けていたから。足が動かないから。家族に――オ兄チャンに、迷惑を、掛けていたから。でも、オ兄チャンはもう……」


 あのクラインの反乱より、すでに現在、6年が経過している。
 反乱以前はおおっぴらに抗争を繰り広げていた企業も形《なり》を潜めている。
 配下の武装勢力に秘密裏で武器を提供していると言う噂も立っている。
 だがその秘密裏も、どこまで秘密裏か分かったモンじゃないが……。


 巡航速度であと3日だ。
 そうしたら軌道エレベータ《ハンマーヘッド》に、アーナルトコーナルは連結される。
 とんかち型の宇宙港に、何十隻という宇宙船と共にドッキングされることで船旅は終りを迎える。
 船内では、二千人ほどの乗客が、火星につくのは、今か今か、と思って待っていた。
 だけど彼女の目的は火星自体ではない。火星を取り囲む半環状の塵――罪の環《クラインズギルティ》。
 衛星フォボスの残骸。
 兄が死んだといわれる場所。
 脱出できずに衛星と共に爆散した兄の墓場。
 彼女は6年をかけてヤット、決心がついたのだ。『兄の死に場所を見に行く』という事を。



 アーナルトコーナルの全長は3キロメートル。客室はその中央に、後部には変速エレメントが設置され、前方には巨大な螺子《ネジ》だ。
 乗客はみな個室で寛《くつろ》ぎ、航海終了の日を待つ。

 彼女――晶《アキラ》はおばけ南瓜《かぼちゃ》の帽子から携帯電話《モバイル》を取り出して、通話アドレスをプッシュする。
 が、耳にあてようとするにやはり大きすぎる帽子がジャマだった。それを脱いで、帽子掛けにかける。
 身長は女性では高いほうにあり、長く艶やかで隠れた瞳は美しく濡れる翡翠色だ。
 しかし下瞼の分厚いクマがある所為《せい》で、印象を暗くしてしまっているの残念だった。尚、胸の事には触れない。
 晶が振り向くと、柔らかなソファに彼女のオペレータが眠っていた。
 実世界に顕現したので、ドア付近の安全ランプの点灯が消えロックが外され、液晶パネルが天井からスルスル降りてきた。
 天井テレビに現れた少女は、政府のCMガールだった。
 指で鉄砲の形を作り、火星の荒野で撃って馬から落とした野郎に言う。
 「惜しかったなオヤジとか学生とかマセボーイ。あたしには指一本触れさせないぜ、……うふ! 
  どう、かっこ良いかな。ウエスタンみたいなあたしの台詞まわし。
  もっとも、さらさら触れられる機会ないので多い日も安心……ってなんじゃそりゃ!
  とりあえず、火星までのひと時をこのお船で過ごし下さいませおほほほほ。
  現在でも結構大きい火星をみれます。ワッパも、みえます。食堂はあちらー、こちらは……――。。。」



 ソノ声でヤットおきたオペレータが言った。
 「はっはっは、目的とやらを果しにいきましょう。簡単です。合理的にいきましょう。ほれ。この毛布にくるまり裸になりなさい。
  そして俺は自らのズボンに手をかけ、チャックを開けてゴハァアアアアアアアアアアーーーーーーーーー」
 「なにしてんじゃボケ!!」
 「ね、ねぼけておりました」
 「ボケすぎじゃ死ね」
 「まあ、そうなんですが……。どうします、見に行きますか? すぐですよ。結構でかく見えるみたいだし。
  やはり映像だけじゃだめです。一見、本物を――」
 「ん……わかってるって……そんなの……」
 晶はモバイルをベッドに投げた。オペ男と一緒にドアを、開けた。
 モバイルの液晶には、この番号は現在使われておりません、と表示されていた。


 現在の火星は、湿気も空気も多く、人が生きられる状態だ。
 だがキツイ宇宙線が注がれる事もあるから、一般的に透明な半球ドームの中か、B‐ハイブ時代と変わらぬ地下で家を建て暮らしている。
 とりあえず、ここに繋がりそうな記述を――初期――大破壊以前時点での火星は、
 地球からの観測だと重力が地球の半分も無いと記録されているので、技術者たちは困ってしまった。
 「このままの重力で此処に住んじゃったら、ぼく達は、ひものになってしまう」
 そう思ったのだが、一応、火星に飛んでいって調べてみると驚いた。火星の重力は地球と全く同じだった。

 そうしてなんだかなあと原因も分からずにいたら、クラインの反乱後にそれが分かった。
 火星(その衛星も含める)は人工物だったのである。もちろんその人は、宇宙の人である。
 人間が生まれるずっと前、火星で生きていた知的生命体。彼等は滅びたのか。ハタマタ宇宙に逃げたのか。
 それは誰も知らないのだ、今のところは。

 んでディソーダーはその種族が、自分達の容姿に似せて作ったものだとされている。
 人間も、MTなど二足歩行できる機械を作ったのと同じ理由だ。『浪漫』。それは共通言語だなと思う。
 が、その話の世間への公表は控えられている。一般人が要らぬ詮索などしたら危ないからだ。
 ナニカ出てきたら、他のヤツラも危ないではないか。



 しかし、彼女は知っている。教えてもらったのだ、――兄のオペレータだった女《ヒト》に。



 晶は廊下に出た。閉じられていた窓のシャッターが開けられていて、外の深淵をのぞかせていた。
 展望台へ、彼女たちはやってきた。意を決して目を開けた晶は船の進行方向――火星に、僅か六年前には無かったはずの、
 旧中国の蒼龍刀を無理矢理引き伸ばしてような不完全な環《クラインズギルティ》が存在し、ぽつねんと寂しそうなダイモス……。
 アレを毎日見ている火星人たちは、ドンナ思い天を見ているのだろうか。
 火星の英雄《レイヴン》の象徴、悪魔《クライン》の手先の置き土産。……いっこうに分からない。
 だが彼女の胸はズキリと痛み、心臓が唸る。
 やはり兄は、死んだのだ。生きてなどは、もう、いない。打ち砕かれる希望の破片は晶の心を食い破る。
 「そうだ。そうだとも……ソウナンダヨッ。そうだとは思っていた。生きているはずなど無い。
  デモデモデモデモでも――――! それでも……あたしは、オ兄チャンに逢いたかった会えると思っていた思いたかった!」
 「レイヴン……」――オペ男が蒼白になりかけた晶の肩に手を置く。
 「でもね。でもでもね、オペ男。だからあたしは、頭を振ってその思いを振り落とすよ。
  火星で遊ぼう。パーッ。派手に遊ぼうよ。カジノに行こう。お金を巻き上げよう。スっちゃったら、レイヴンして稼ごうよ」



 もう一度――今度はオペ男と一緒に、火星を見た。
 火星は小さいといえども星。巨大だ。環だけに焦点がいかず、火星圏全体が目に入る。
 普段でも必要なら晶はそのようなカメラ目にする事が出来るので、そう珍しい事ではない。
 火星の大きさを見ると、もうすぐつきそうな気がするがやはり着かないのだ。
 1分くらい見続けて、部屋へ引き返そうとしたとき、
 「……あー」 
 「どうしたのですか」
 「でかい光。ながれほし、かな?」
 「そんなところで見えるもんなんですか、ソレ」
 「普通はみえないよ」
 「なんだか、俺にはみえないな」
 「ちょっと拡大してみる……。ん。これはっ!」
 「おー?」
 「……弾ける空間……! ハイパージャンプしてくるヤツラがいる!」



 船内一斉に、赤いサイレンが鳴り響く。緊急警戒態勢に入ったのだ。
 廊下のシャッターが閉められ、それが映像スクリーンに変わった。
 現れる文字は危険《ワーニング》。そしてまたあのCMガールが現れて言った。
 『あー。危険です。デモ安心。この船には安全のため、宇宙保安隊《スペース・ガード》がいるのです。
  通常の敵だったら、大丈夫ですよ。……え、ええ! つ、つゅうじょうの敵じゃあないって!
  なんと、あれは、ディソーダー!』



 すぐさま、船のカタパルトから、防衛兵器が繰り出されるが、蟲たちはそれを軽くいなす。
 その小さな爆炎をあざ笑うかのようにして、分厚い船の防御を、集中的に、または、分散して、突破。
 船体に張り付き、プラズマトーチの光を出してその外殻を溶かそうとする。
 だが防御スクリーンの反発によって蟲はたちまちに吹き飛ばされる。
 がしかし、次々にやってくるものだから根負けした装甲に小さな穴が開く。
 刻一刻とその穴の数は多くなる一方だ。船がヤツラに占拠されるのは、時間の問題だ。
 『なぜなんです。あれはきかいじゃないのですか! ディソーダーは、生ものだったんですか!!』
 何匹か撃ち落されたディソーダーが炎ではなく、ミドリ色の体液をぶちまけて死んだのをCMガールは見た。
 ディソーダーは機械のはずだ。しかしそれでは、ヤツラはまるで蟲だ。
 あれよあれよの展開に驚く晶。しかしあい変わらずのオペ男。
 「あれが、ネルさんが言っていた火星人なんじゃあないですか?」
 「まさかこんな所で会うなんて思っていなかった。よりにもよって、コンナ処で!」



 反乱前のことだ。ディソーダーに襲われた宇宙船は、ほとんど、ダメになってしまった。
 もう、その船は、廃船、いや、廃船なら、まだ良い方だ。木っ端微塵に破壊されて、宇宙を漂う事になるかもしれない。
 「死んでたまるか!」
 「AC持って来ましたよね。格納庫でしたっけ」
 「そうだけど。ACをどうするんだ」
 「乗って二人で脱出しましょう」
 「マジか。二人乗りは言いとしても、ACって宇宙で動けたっけ?」
 「知りません。やってみなくちゃ分かりません。因みにやってみた人はいません」
 「いないって言うか、みんな死んじゃて伝えられなかったんじゃないの!」
 「宇宙で動くMTもいます。ほら見てください。防衛兵器があんなにも華麗だ。生ディソーダーもそれはそれは。
  だからAC――アーマードコアでも出来るはずです! というか出来なきゃおかしい。最強じゃない!」

 彼女は仕方なくえんやえんや捲し上げるオペレータに従った。
 此処にいたら、どうせ死ぬしかないのだから。本当に仕方ないのだった……。


 《CM》 
 AMIDA『コソコソ…… ! イヤーン。クサイヨー!』
 じな「網戸にムシコナーズ!」
 プリン「ムシコナーズ?」
 じな「イエス、イエス! ムシ、コナーズ!」
 ムーム「あたし、夫が帰ってコナーズ!」
 じな「それ、私ワカラナーズ」

 ムーム「チジュショゥウウウ!!なんで死んだんだガル……お前が居なくなったあたしは、あたしはぁああ!」


 じな「そんなとき!」
 プリン「葬儀のキサラギに」
 じな・プリン「「お電話を!!」」

 モクギョ・おわん「ぽくっぽくっぽく……チーン!」

 ムーム「うわぁああああああああああああああああああああああああ!」

 二人「「「0126~×○~○○○○~!≪変死体、好みます!≫ 葬儀のキサラギ!」」」
 ムーム「イヤダァ嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 (*)Bパート――

 オペ男の手にしているアーナルトコーナルの地図を頼りに格納庫までの道のりを歩くものの一向に着かない。
 これは夢ではないか。先ほどより何度もぐるぐると廻っているような気がした。
 そして果してソレは事実。これではどうしようもない失敗作の迷宮《キングス・フィールド》じゃないか。
 「あっ。これはヤッパリさっきのジュースの空き缶ではないか!」
 オペ男が拾い上げるソレは、紛れも無く先ほど通った通路に投げ捨てられていた空き缶だった。
 「どうなっとるんよ!」
 『こうなっとるのよ!』
 「うわっ。なんじゃお前。急に出てくるなよ……」
 通路の天井にいくつもぶら下がる映像スクリーンに、声の大きいあのCMガールが映し出されていた。
 映像は乱れていたが、やはり声はでかかった。

 『困っているヒトは、見過ごせないわ。だってあたしはプログラムだもの。逆らえず、命令された事を忠実に。
  実行行動てき面効果――泣く子はイネガー!――でございます。はい。当方で承りましたあなた方の困った事について話しましょう』

 CMガールの背景とBGMがウエスタン→カントリー。

 『この貨客船《アーナルトコーナル》には面白い機能が搭載されています。
  なんと全ブが極少の機械《ナノマシン》の集合体なのです。つまり小さい機械の集まり。簡単に言えば浜辺で作る、砂の城のすごいヤツよ。
  だから軽微な場合は穴が開いてもすぐ治るし、緊急の時は通路を捻じ曲げて侵入を拒むわ』
 「侵入って事は、入ってきたんですか生ディソーダーが?」
 オペ男が言ったことにプログラムの従者は、
 『そうなのよ。入ってこられちゃ困るわ。でも入られちゃった。防衛の役立たず。反吐が出るゼイ――ぺっ。
  損傷も大きいのだとナノマシンが流出して塞げなくなるからドッグに入らなきゃあイケナイワ。でも。もう。入る事は出来ないかもおほほほほほ。
  あはははははははtfgyふじこlp;@:「・・・・・・。。。。。』

 コンピュータがやられたのか元からそうだったのか。ともかく狂ってしまったCMガールの映像は消えた。
 晶とオペ男はどうしようか相談するも、どうしようもない。
 とりあえず進む事にした。
 もちろんまた来た所へ戻ってきてしまうだろう。だから違うやり方でやらなくてなならないのだ。



 「キエエエエエエエエエ!」
 晶は強化人間の標準装備である脳内レーダーを使用して、格納庫の位置を特定した。
 この先の向こうにあるのだが、何度も壁に阻まれて進めない。此処を曲がってしまうとまた、同じ場所を廻るのだ。
 「こりゃだめだ此処で死にましょうそして俺はズボンを脱ぎ始め……」とオペ男が喚くも、
 「だがあたしは進むのだ」と晶は近くにあった金属椰子《メタルヤシ》を持ってきて、
 「こ、殺さないで! レイヴンあんまりだあー」
 「馬鹿者! 殺すわけ無いだろ」
 振りかぶりブツケテ、壁を叩いて砕こうとする。

 「あはは馬鹿はお前だー。これじゃあダメだもん。レーザーでもなきゃ……」
 「お前もとち狂ったか? しかしレーザーか…………ッ!」
 「どうしたんですレイヴ……ッ!」
 レイヴン、と言おうとしたオペ男の口が、晶の口によって塞がれた。
 そのまま倒れこむ二人。オペ男は勃起した。晶の内から粘度の高い液体が、オペ男へと入っていく。
 「もがもが」
 「だまって、伏せていろ!」

 全て入れ終えれたのは幸いだった。窓のシャッターが拉《ひしゃ》げ、蟲が一匹飛び込んで来た。
 船の重力フィルタのお陰で空気の洩れは最小限に抑えられているが、空気は無限ではない。

 「死にたくなかったらだまってそれを体内《ナカ》に押しこんでろ。少しは持つ」

 酸素水を肺に満たされた涙目のオペ男はコクリ肯き、物陰に隠れる。
 晶のほうはというと手にもったヤシの木を得物に、彼女の五倍はありそうな蟲と対峙する。
 彼女は、深呼吸をした。目をつぶり、そして叫んだ!

 「 メ イ ン シ ス テ ム 、 戦 闘 モ ー ド 起 動 し ま す 」

 晶の脳内プロセッサが彼女を戦闘マシーンへと変える。眼の色は翡翠から紅になり通常より格段に可視光の幅が増えた。
 厳重に封印されていた人造筋肉を開放する。筋肉のバケモノになった彼女は咆哮を挙げた。
 ターゲットを破壊せんとするその眼光は鋭すぎる鋼鐵の刃。肉体は、粉砕の槌!

 数ある強化人間《プラス》の中でも、生身の体で戦える戦闘歩兵、と彼女は自らを位置付けて改造を施してもらった。
 ナノマシンで少しずつ臓器を解かされ再構築されていく、苦痛、その不快にも堪えた事がヤット報われた。
 いつもいつも今か今かと期待していた。彼女の口元は悪魔のように吊りあがっていた。

 脚部出力を開放→跳躍→蟲の真上に到達する。そして一気に踵落としを喰らわせる。
 硬質ダイ・アモンドのような装甲は振動→共鳴→断裂を繰り返す双曲線に満ちて満ちて満ち満ちていた。
 形崩れ、泥の様に腐敗し、緑色の腐った体液をジューサーに掛けたようにぶちまける蟲。
 晶は、割れた甲羅から、体内に侵入し、脈打つ筋肉と神経を引き千切り、
 内側から頭蓋を割り、大きなピンクの脳をグチャグチャにし、死んだディソーダーの口から、彼女は出てきた。
 ついでに生体レーザービーム砲をからブチブチ引き千切り、件の壁に向けて撃つ。
 凄まじい光線で、溶解する壁。ボロボロになった蟲。
 構成物質は二つとも違うが、同じような音を立てて通路を叩いた。


 隠れ見ていたオペ男は怯えるのだ。臓物に、緑色の汚泥にまみれる彼女に。
 名状しがたい色でヌラヌラ輝く髪振り乱し、彼女は三メートルもあろうレーザー砲を振り上げるのだ。
 そこで笑っているのはレイヴンだけだ。荒らし回る者。彼女はこの場の暴君であり、彼女に逆らえる者など此処には居ない。
 ただただ粉砕されたモノ等は、肉片をぶちまけられ、塵にもならずに、存在を消されて、死にたくても死ねない未来永劫の苦痛にうめく存在となるのだ。

 モードを変更する。限界を超える筋肉がふたたび封印され、晶の紅く光る義眼は元の翡翠色に戻った。
 先ほどの邪悪な笑みは消えうせていた。晶はオペ男に向かってウインクした。
 「ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
 怯えるオペ男。そんな彼に彼女は近づき血まみれの手を差し出した。
 「ホラ愚図愚図しているとお陀仏だよ?  あんたが脱出しようと言ったんだ。二人でね。
  だから、絶対逃げよう。そして火星で目一杯遊ぶんだ!」
 「ごぼぼぼぼ……(……そ、そうですね。俺とした事が取り乱してすみません。
  ごぼりごぼり!(歩兵型だと聞いていましたがあんなにまさか凄いとは思いませんでしたので……。
  ……ごぼごぼ(恐がったりして本当にすみません」
 「まあ、大丈夫だよ。ジオ社のやつらが吹っかける訳だ。初体験。
  あたしも、こんな力が出せるなんて思っていなかったよ」

 あはははは、と乾いた笑いを挙げる晶。彼女の手を借りて立ち上がるオペ男。オペ男の手にも、蟲の血がベッタリついた。
 普通は嫌悪し、手を振り払う。だが、オペ男は彼女を受け入れ汚れをズボンで拭くだけだ。
 血の汚れは、拭けば綺麗になる。オペ男はレイヴンを好きなのだ。
 彼女を裏切ることが、最大の恥だ。それは、拭えぬ罪なのだ。
 ポケットのハンカチで、彼女を顔を丁寧に拭いてやる。綺麗になった所で彼等はひっしと抱き合い、熱い口づけをかわした。
 オペ男のほっぺから酸素水がこぼれ出る。晶はそれをペロリと舐めとる。そして再度、縦と横を交代し、ディープキス。
 この、顔が真っ赤になる光景。それを、くそみそになった蟲が、恨めしそうに、じっと見ていた。

 二人は先に進もうとする。が、晶がグラリと急に前のめる。倒れる彼女を彼がさっと受け止めた。
 「ごぼぼぼ(独りでかっこつけるからですよマッタク。レイヴンは独りではダメなんですよ。
  ごぼぼぼっぼ(俺がいてやんなかったら、ダメなんですよ。だから俺の後ろで少し負ぶさってやってくださいな」

 オペ男は自分の背中をクイと親指で刺す。

 「ふん。お前こそかっこつけだ。ほらよ……乗ってやったぞ」
 「ごぼぼ(レイヴン太りましたね。ごぼぼぼ(結構お尻がゴボォオオオオオオオオオオオオ!」
 肘打ちされて悶える彼。しかし彼女を絶対に振り落とさなかった。顔がすげーにやけてたけれど……。


  《CM》
 AMIDA『コソコソ…… ! イヤーン。クサイヨー!』
 じな「網戸にムシコナーズ!」
 プリン「ムシコナーズ?」
 じな「イエス、イエス! ムシ、コナーズ!」
 ムーム「あたし、夫が帰ってコナーズ!」
 じな「それ、私ワカラナーズ」

 ムーム「チジュショゥウウウ!!なんで死んだんだガル……お前が居なくなったあたしは、あたしはぁああ!」

 じな「愛しい人が」
 プリン「死んだときは」
 じな・プリン「自殺しなけりゃあいけません!」
 酸性洗剤「まぜっこー!」
 塩基性洗剤「まぜっこー!」
 硫化水素「デキタヨー\(^o^)/」

 モクギョ・おわん「ぽくっぽくっぽく……チーン!」

 ムーム「うひょオオオオオオオヒョオオオオオオオオ!!」

 二人「「「0120~×○~○○○○~!≪邪魔者は綺麗綺麗≫ クレスト製薬!」」」
 ムーム「ガル……刻が見えるわ!」

 

 (*)Cパート--

 おんぶされている晶が、左手で分かれ道の道筋をしめす。
 「はい。ソコ右に曲がってー」
 「あいあい」
 オペ男の肺に入っていた液体は、進んだ先に気密シャッターを見つけたのでそれを閉めたお陰で吐き出せるようになったのでそうした。
 「もう一度やって欲しいなんて言えない!
 「ん。なんか言ったか?」
 「キスしてダーリンンンンンンンーー! イヤァ! 抓《つね》らないで! 俺のお饅頭を抓らないで!」
 「さっきのお返しだ。こういうものは三倍返しするものだ。だからする。つねりつねり!」
 「いたいー」

 オペ男の背で、蟲レーザーを次の突き当たりの壁に照準する。質量をもった光線が壁にあたり、ドロドロに溶かす。
 使わないときは右手でずるずる引きずった。
 彼等は一歩づつ、たまに痛かったりするけど、確実に、格納庫へとたどり着くこととなる。

 晶の足がちゃんとした頃、彼女たちは格納庫前にいた。
 重い隔壁が開いた途端、二人は打ち合わせどおり行動した。
 オペ男がコンソールを操作して、ターンテーブル上に晶のACを運び出す。
 そして晶はAC――バトロイヤーの元へ。そしてコクピッドシートに座る。
 重量級パーツで構成されたバトロイヤーと言えども、コア内部は狭い。
 諸々の要らないものを全部外に出し、身体を縮めて、ヤットコ、初めて、二人が一緒に入れる広さになった。
 二人がコアに搭乗したと同時に、一層凄い爆発音が響いた。

 「早いところいこうか」と、晶。
 「そうしよう。そうしよう、……ムハァー、晶たんのやんごとなきもひょひょ、うぎゃヤメテクレ!」と、晶の太ももの間で絞め上げられるオペ男。

 格納庫内の空気《エア》を半ば抜いて、バトロイヤーは外部直通エレベータに乗った。
 メインシステムをアクティブに。危険があればすぐにでも戦闘モードに移行出来るようにする。
 アヱテル中を漂い混ざり合う油《オイル》と脂《ラード》。
 蟲に気付かれないようにこっそりと船体を離れる。吐き気を催す光景に目をそむける二人。
 オペ男の演算結果を受信したバトロイヤーは姿勢制御バーニアを噴射し、宇宙港《ハンマーヘッド》と向きを合わせる。

 「これでいいと思います」
 「あとは……OB《オーバードブースト》すればいいんだな?」
 「何かにぶつかれなければ、行けると思います」

 止まれよわが涙、と言いたげなオペ男は感動の涙に頬を濡らして鼻水をたらしている。
 晶の方はOB起動の準備が終り、あとはボタンを押せばいいと言う。だがそれは阻まれた。

 船体に噛り付いていたディソーダーに気づかれたのだ。
 ディソーダーは、ディソーダーを呼び、二人の乗ったバトロイヤーは取り囲まれそうになる。
 
 「取り込まれたら、ヤバイですよ。穴ぼこです! カマボコじゃありません……いや、原型をとどめていないという点では同じか?」
 「関係ないことブツブツ言ってないで、どうしたらいいか、教えてよ!」
 「そりゃ、戦うしたないでしょ!」
 「ですよねぇえええええええええええええええええええ!」

 蟲達が一気に突撃してきた。
 晶は、ブースタを発動、操縦桿を弾いて、慣性で方向を変える。
 間一髪で、間に合った。中心に居た蟲は、後続の蟲にペッチャンコにされていた。ACでもひとたまりもないだろう。
 だが、避けたといっても、バトロイヤーは姿勢を制御できずに宇宙で溺れていた。
 当たり前だがACは通常、陸戦兵器だ。だから各部の姿勢制御ブースタのベクトルが、かみ合わず、クルクル回ってしまうのだ。
 散発的に行われる蟲達の行軍を、やみくもに背部のブースタを噴かして緊急回避する。が、それも長くは続かない。
 パイロットに不可が掛かりすぎる。特に、ほぼ真人間のオペ男には、相当のダメージだ。

 「れ、レイヴン……」
 「うん……ごめんね、ちょっと、火星いけそうないや」
 「そうですか……でも、ここまで貴女とともにやってこられて俺はしあわ……、いいやまだです、何とかなりそうですよ」
 「え? ……うわぁ!」

 突然、アーナルトコーナルが爆発したのだ。爆発は大気エーテルを押し流し、濁流がバトロイヤーを襲う。
 コクピットが揺れに揺れた所為で晶がOB発動のボタンを押してしまった。
 突撃の矛先は、蟲たちが開けて出てきたハイパースペースに向かっていた。

 「……ごめんなさい、ヤッパリ、何とかなりそうになりません!」
 「そんなぁー!」

 OBを切るも、その大きな慣性力は止められない。別世界の境界と交わろうとした、そのときだ。
 『正体不明の何か』にバトロイヤーはボンッと押されて、力のベクトルが変わった。

 別の方向――安全な方向――火星の方向へ飛んで行くバトロイヤー。

 一瞬の沈黙の後、宇宙爆発を起こす巨大宇宙貨客船《アーナルトコーナル》。

 その激しい閃光はもんどりかえる蟲達を焼き尽くし、宇宙の塵《デブリ》に帰した……。


 ほんの少し修正を加えてバトロイヤーは一直線に突き進み、なんとか火星圏に到達する。
 オペ男は疲れて眠っていた。彼は任意で眠る事が出来るらしい。器用な男だ。
 「この話で。この事件について本を書くんだ。これはうれるぞむにゃむにゃ」と彼は寝言を言った。

 ハイパースペースに入りそうになった時、レーダーにも映らない『何か』にバトロイヤーは突き飛ばされた。
 オペ男には何も見えなかったらしいが、晶は見た。そしてその姿には見覚えがあった。アレは正真正銘、兄のAC――ダンガンガーだった。
 実態が薄れて霧のようにかすむダンガンガー。しかし、その気迫は、衰え知らずの兄のタマシイだった。
 ダンガンガーから触手が伸びる。血のような紅。その生きている脈動に、晶の意識は包み込まれた。

 「オ兄チャン。生きていたんだね」
 『ざんねんだけど、生きてはいないんだよ』
 「やっぱり、どうだよね」
 『ああそうなのだ。死んだものは生きかえらないんだ』
 「どうして、あたしをたすけてくれたの」
 『どうしてって。おまえはおれのイモウトだからだよ。助けたいから助けた……愛していたからっていうんじゃあ臭いよね?』

 透明な意識体の兄が笑う。つられて晶も笑う。
 紅い血液の中の二人の兄妹《きょうだい》の束の間の再開は唐突で、運命的に突然だった。
 晶は疑問に思ったことを兄に尋ねた。『あの蟲はなんなのか』という事を。

 答えはヤハリ、火星人だった。人類発生以前、火星に住んでいた者達の末裔……。
 彼等は滅び冷え逝く惑星を棄て、宇宙に飛び出した。今回此処に現れたのは、木星に移住したヤツラだった。
 彼等はハイパージャンプの開発に成功してはいなかった。そして肝心の船も長年の所為で壊れてしまった。
 だが、彼等にとっては年数など、へとも思ってない。
 で、彼等はワープ装置開発に成功した人類を認識し、ホイホイやってくるのを待っていたのだ。
 今のところ、侵略者《インベーダー》は、木星の火星人だけだ。しかし、もっと敵対するものは増えるかもしれない。

 『だから、おれは、敵対する宇宙人から人類を守る事にした。俺は最強のレイヴンだ。依頼は必ず、達成させる』

 依頼――クラインのたくらみの真相。それは人類を統合し、力をあわせて宇宙人を撃退する事にあった。
 兄はクラインの思想を受け継ぎ、戦っているのだ。晶とは別の次元で。だが、確実にこの世界と直結している世界で!
 しかし独りだ……。これでは勝ち目の無い、孤独な戦いではないか。

 「オ兄チャン……」
 『なんだい?』
 「あたし、オ兄チャンの僚機になる。そしてオ兄チャンを助ける!」
 『ふふふ。それは心強い。力が湧いてくる。ありがとう。おれはいいイモウトを持ったものだ。
  だけど今は、おまえのオペレータと力合わせてがんばてくれな』
 「うん!」

 兄の体がぶれる。背景の紅も色を薄める。
 夢の世界は夢へと還る。晶を世界へ追い出そうとする
 『おや。もう。じかんだ。さあ、もとの世界へおかえり』――――。

 気がついたら兄の姿は消えていた。晶の目の前にはただ、宇宙の無限があっただけであった。
 またぐらで、オペ男がハフハフしていた。
 晶は彼の額にマジックで『肉』と書き、そして、大粒の涙が『肉』を濡らした。
  


 爆発する宇宙船から生還した晶の目に火星が――砕けたフォボスが映る。兄の死んだと云われる場所。
 しかし、彼女は知っている。兄はいつも、彼女を見守っていてくれていたという事を。

 とんかちヘッドを正面に確認。
 燃料切れ寸前だったがなんとか、姿勢制御ブースタを吹かせまくって、そこについた。
 係員は、突然の来客がACだったものだから、襲撃か襲撃か、と慌てまくった。
 本部に連絡する前に、止めさせられたからいいものを、もしされていたら、即刻刑務所だ。
 晶は事情を話し、着陸許可をもらった。
 ……しかし、あの爆発に誰も気づいていないのか?
 きっと政府たちが隠蔽したのだろう。……残念だがいつもの事だ。

 晶が、着陸したバトロイヤーから降りて言う。
 「さあじゃんじゃん遊ぶわよ、オペ男!」
 「まってくださいよ。嗚呼、お腹すいたなぁ……」
 「あ。そうね……あ、そうよ、戦は腹減りじゃあダメだもの」
 「また誰かと戦うんですかぁ?」
 「ちょっとねー」
 「でもそん時は俺も行きますからね?」
 「うん。そうだ。ついて来い。どんどんついて来い。 強いも弱いもみんなみんな! 
  あたしについてくるやつは、この指とーまれ!!」 
 「小指だなんて殺生な! 体全体で一生貴女をサポートします!」

 兄と会った、あの空間。アレは夢か、現実か……。
 それは分からないが彼女は今、決心をしている。
 『人類を守り、兄を助け、宇宙人と戦ってやる!』という事を。
 彼女はこれから火星で、そして母なる地球で、仲間を集めて、ある防衛組織を作るのだ。
 その名はまんまの、『スペース・レイヴンズ』。
 これが、インベーダーの魔の手から人類の未来を守る、幾多の勇猛なる英雄を大宇宙に送り出す、
 『宇宙レイヴンズアーク』の誕生物語だったのである。


 《ED》
 君がいつか あの町まで行く事があったら
 AMIDA通りの公園のベンチ 訪ねて欲しい
 そこに今も 優しい目の男がいたら
 「アイツノはとても元気」と それだけ伝えてきて欲しい
 今ではオトコの恋をして
 僕を忘れたろうか
 AMIDA通り そこはいつも
 夢が帰るところ 時が流れ去っても
 あの日の僕がいる故興

 ――――[了]――――

 





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