時は西暦2XXX年。
 宇宙より突如、飛来した彗星が、『アクトムナムン』という特殊粒子を撒き散らし、地球の軌道上を廻り始めた。
 そしてその、宇宙の闇黒の目覚し時計〔トリックスター〕によって、世界を支配したと言われる
 《古のものども》が、永遠の幽谷、とこしえの闇、極寒の牢獄、灼熱の銀河より、目覚め始めたのだ。
 《古のものども》とは、人類が生まれる以前、地球の利権を争っていた外宇宙からの使者――旧支配者である。
 彼等邪神を崇拝対象として崇めていた者らは当然喜んだ。しかし――彼等は自らが崇める神によって蹴散らされた。
 それもそのはず――邪悪な旧支配者達にとって、人類亦は、それに似た生物など、机の裏のハナ糞ほどの価値も無いからだ。
 
 彼等は再び地球の利権を争い、闊歩し始めた。
 手始めに地球環境を自分に住みやすいものへと変えた。
 その劣悪な環境に、堪え得ること叶わず、地球上の生物は、次々と息絶えていった。
 人間もとうぜん、その例に洩れず、次々と死んでいった。
 人類に残された砦は、チベット、アルプス、ネパールといった汚染の届かない高山や、
 超越大帝国日本〔エクストームネオジャパン〕の富士山麓人類拠点〔フジサンロック・ターミナル〕、
 超越自由主義合衆国〔スペシャルネオアメリカ〕の聖愛蔵富戸横町〔バンガードアーカム〕、
 超越海流大英帝国〔サンダーネオイギリス〕の幽都倫敦〔クラインズロンドン〕、
 超越中東撃滅殲滅隊〔サルモネラネオデストロイティーム)の駐留する中東アラビアなどの、天然の霊的結界に守られた場所だった。
 だが見た目には、多く見えていても、所詮軍事力が勝負の世の中。軍事力〔チカラ〕の無い者らは次々と蹴散らされた。

 そんな中、最後に残ったのは、富士山麓人類拠点〔フジサンロック・ターミナル〕だった。
 人類皇帝〔エンペラー〕の守護を受けた霊峰は実に、堅牢だった。
 邪神たちの撃滅的な攻撃にも、破滅的な汚染にも、潔癖たる霊的パワーがそれを防いだ。
 一人の科学者が圧倒的なひらめきをもって完成させた『装甲機兵ダンガンガー』もまた、その守護を受けつつ慄然たる戦果をあげた。
 
 だが、それも、終わりが来た。人類皇帝が殺されたからだ。
 崇拝者――仲間が殺されてもなお、邪神をただ一途に崇め続ける白痴の亡者が、
 富士山麓人類拠点〔フジサンロック・ターミナル〕に侵入し、彼を殺したのだ。
 霊的な軍事力の根源たるエンペラーがなくなられた今、邪神の攻撃を防ぐ霊的結界〔バリアー〕は存在しない。

 物理的結界を破って突入する邪神の眷属による歴然たる攻撃に、ダンガンガーは最早、成す術も無かった。
 これまで圧倒的な攻撃を、神聖なる人類皇帝力〔エンペラーパワー〕を持つ彼一人で防ぎ、ダンガンガーに力を与え、
 彼に仕える永遠地球防衛戦士軍団〔エターナル・サムライ=トルーパーズ〕へ的確なる指示をしていた彼は、本当に、偉大だった。

 辛酸〔しんさん〕を舐めながら生きる栄光は尽きえ、人類はなぶり殺しに合った。
 そして現在に到る……。


  @


 衝撃。衝撃。衝撃。
 衝撃により内臓が破裂し咽喉を通して口内から血が盛大に吹き出る。それは割れたヘルバイザーの隙間から洩れ出〔い〕でてコクピットを濡らす。
 笹井晶〔ささいあきら〕の潰れた鼓膜から聞こえてくるのは機体のあらゆる部位から次々と聞こえる、ガリガリと五月蝿い機体への着弾音。
 自己修復も間に合わず、崩れ落ちる特殊魔術装甲ダンガンガリオン。そして割れたスピーカから流れる声。
 その主はオペレータのM、そして頭部COM。
 『おい、このままでは……、地球は!』
 『機体破損率―95パーセントっ!!』
 それらは晶の耳には入らずコクピット内の大気を少しばかり振動させただけだった。

 全人類の救世主〔メサイア〕たる笹井晶が駆る、装甲機兵ダンガンガー。
 それは屍とも言い得ない当〔ほど〕に鉄塊同然化して、荒神十字架〔アンチクライストクロッセル〕に打ち付けられていた。
 鋼鉄の杭が打ち付けられた手からは虹色の火花を散らし、特攻兵器サクリファイスが撃ちつけられる全身は装甲が捲れ、目にも当てられない惨状だ。
 コクピットに、何本もの邪悪の槍〔ダークスピア〕が貫通しており、晶の腹はそれに割〔さ〕かれて、人工内臓が半分ほどはみ出ていた。
 相次ぐ爆発の振動が晶の体を刻一刻と使い物にならなくしていった。
             
 仰々〔ぎょうぎょう〕しく邪悪な黒い影が空に伸びている。
 そうだ。その影こそが今戦っている邪神の刺客『大魔道士チャンドラプトゥラ』だ。
 『ぐははははッ、この程度か人類ぃ! この程度の実力で我々にたてつくとは、言語道断。即ち、死に値するぞ』
 敵は人の姿を纏い、人類を殺戮するサディストだ。手下のくせをして、とても強い。

 そしてその惨状を見つめる鋼紅〔メタルレッド〕の機神、バトロイヤーファイナル。
 その特徴的な複眼は機械であっても”無念”という感情を現していた。

 コクピットシートに座る晶はぐったりとして目はウツロを見ている。
 瞼に入れる力ももぼんやりで、しかも映っているのは特攻兵器が彼女――餌に向かってところだけ。
 しかしその映像も夢か現実か定かではなく今更に考えるのは無駄な事なのだ。
 どす黒い血液が口から吹き出〔い〕で、ヘルバイザーを染め上げる。
 「もう何も、見えないよ、これなら、眠ったって、いいよね……」
 そう考えた彼女は再び目を閉じる。永遠のまどろみは、彼女を誘〔いざな〕って行く……。


 @


 「ハッ!!!」
 目を覚ましたら、見慣れた、血と膿にまみれた世界ではなかった。見えたのは顔のような模様がある低い天井であった。
 
 辺りを見ると、汚染された富士山麓を思わせる、奇妙奇怪な山があった。
 それはこれから着るであろう衣服でありながら、またの名を洗濯物であった。
 時計を見た。午後12時30分。日時は9月9日。戦いの火蓋が切られた――隕石が地球に落下した日時であった。

 ブルーバックとカーテンからの木洩れ日で目を覚ました彼女は、ボット、考えていた。
 
 「あたしは、戦っていた。そして友を失い、親のような鬼教官を失い、崇拝する陛下までを失った。
  陛下がいなくなって、バリアが壊れ、ヤツラが怒号のように押し寄せて来たけど、あたしは戦った。そして……」

 彼女は一瞬躊躇〔ためら〕って、

 「あたしは死んだのだ……」

 自分の身体を見る。
 布団は血で染まっていて、出血元は、自分の膣からだ。経血だった。
 晶には無い、女としての器官、人をして人を生む、その器官は、この身体には在った。

 「そしてここは常世と言う訳か……」
 彼女の想像する死後の世界とは違っていた。
 汚〔きたな〕らしい垢じみたシーツ、着ているヨレヨレのTシャツ、壁の染み、天井の染み、そしてこの部屋の狭さ。

 「もう少し、あたしは活躍したとおもうんだけどなあ……。
  だけど、死ぬ前の世界よりは、快適そうな世界だなあ……はぁ……」

 だがこの世界は、彼女のいた世界よりは安全そうだと思い、安堵の溜息をついた。
 その時、玄関のドアをノックする者が現われた。

 「あきらー、はいるよー!」
 「この声は……Mか!!」

 晶はせんべい布団をさらに薄く踏み潰し、猫のように俊敏に――といっても四畳半の中――玄関へ。

 「おきていたか、良かった。これから掃除を……って何だお前その格好は!」
 「そうか、そうか、お前も死んだか、つらかったなあ、つらかったなあ……」
 「どどどうしたんだよ晶。俺に抱きついても良い事無いぜ?」
 「だがもう大丈夫、大丈夫なんだよ……」

 バケツに掃除用具を詰め込んだ雅貴を、晶は母親のように暖かく両手で包み込んだ。
 いきなりで何の事だか分からない雅貴は、ビックリして彼女から離れ、手摺りから落っこちそうになった。
 
 「うわわ!」
 「危ないッ!」

 晶は鍛え上げられた動体視力で咄嗟に反応し、彼の手をきつく握り、手繰〔たぐ〕り寄せて、二人は再び抱き合う格好となった。

 「こらお気をつけ、もう一回死ぬところだったんだぞ!」
 「キミが悪いんじゃないか。いきなり抱きつくほうがどうかしていると……」
 「…………M」
 「どうした晶、……泣いている?」
 「………………M」

 騒ぎを聞きつけ、何事か、と階段を上がってくる階下の住人に雅貴は気づき、彼を追い払うように手で諭した。
 階下の住人は物分りよく、手のひらを打ち、自分の住処〔すみか〕へ戻っていった。
 抱き合う二人は、掃除をしようと動きやすいジャージ姿の男と、Tシャツとパンツを赤く染めた女。
 女は男の胸に顔をうずめ、泣いていた。男は彼女に、黙って胸を貸していた。 

 その後、晶と雅貴はせっせと掃除した。
 空き缶も、溢れたゴミも、全部袋に詰めて、ゴミ捨て場に棄てた。
 だが晶は先ほど雅貴を助けた時など嘘のように始終ボーとしていたので、
 稼いだせっせのだいたいを雅貴のものとしよう。

 掃除が終り、晶と雅貴は、コインランドリーに向かった。二人とも、白いかごを抱えていて少々前が見ずらかった。
 白いかごは、かび臭い押入れに沢山積んであった。それを見つけた雅貴は、
 「彼等はこれから行くコインランドリー出身で、此処にいからには不法滞在者たる身だ
  ――と言うのは喩えであり、晶、お前が持ってきて返さなかったからこうなったんだぞ?」
 「……あ。うん。そうだったね」 
 だが、晶の記憶にコインランドリーに行った事は一度も無かった。
  

   @


 表通りから行こうとしたが、今日はやけに、車が多かった。事故があって、通行止めらしい。
 日差しも強かったので、イチョウ並木の方から行く事にした。
 しかし突然、表通りの渋滞に耐え切れなかった車が交差点から突っ込んできた。
 
 ゆっくりと周りを見ながらまたもやボーとしながら歩いていた晶だが、この突然の事態に的確に対応した。
 かごを放り投げ、雅貴の首根っこを掴む。そしてステップを踏み、その場から飛んだ。
 二人は宙で弧を描き車を飛び越え、アスファルトに着地する。そして共に宙を舞ったかごが二人の傍らにぼとぼと落ちた。
 車はブレーキを踏み、車窓を開け、「あぶねーな、死にて――のかぁあー。あん?」と定番を行〔おこな〕うのは目に見えていた。

 晶はもうすで死んだ身である。死ぬつもりなど元より無い。晶は運転手を、睨んだ。
 その射殺すような眼は、確実に運転手の心〔ハート〕を粉粉〔こなごな〕に打ち砕く。
 運転手の汚らしい引きつる面〔つら〕に向かって、唾を吐き、中指を立て、
 「FUCK OFF ,BABY !! (意味:失せな、池沼!!)」
 「びゃぁああ゛ああ゛ーごみんなぁいぃい゛いいい゛いいい゛い。だから、あわびにお車あげようじゃないか!」

 晶の途方も無い殺気に恐れをなした運転手は、車を置いて逃げていった。ぺこぺことたまにこちらを向いて頭を下げた。
 後ろを向きながら走るもんだから電信柱にぶつかったりゴミ捨て場に潜ったりしたけど、運転手は元気です。
 晶は、雅貴に顔を向け、にやりと笑い、今度は親指を立てた。
 「ほら、車が出来たぞ。早く行こうよ。此処は暑いもの」
 それに雅貴は「キミ、……変わったネエ」と言った。

 二人は車に乗り、コインランドリーへ向かう。
 車内はクーラーが効いていてとても涼しかった。
 運転は、晶が行った。狭い道をすいすいと抜けていく。
 「いつの間に免許とったんだい?」
 「なぜならあたしは晶だからだ!! そうだ、天皇陛下バンザイだ!」
 「へ……、テンノー?」
 「バンザイ!」と片手を上げて万歳〔ハイル〕する晶。
 「う……バンザイ」としぶしぶ応ずる雅貴。
 だが次第に、晶は元より雅貴も調子が出てきた。
 「バンザイ! 嗚呼、バンザイ!」
 「えいこら、バンザイ! せっせと、バンザイ! それきた、バンサイ!!」
 「「バンザイバンザイ!! 二礼一拍手で、ぬははははぁああ」」

 キチガイのように笑いながらドライブを愉しむ二人。
 凄まじい切れのコーナリングで豆腐屋をビビらせコインランドリーをすっ飛ばし、
 何の因果か知らないが山奥の小屋に一晩泊り、コトをなした。
 これら手際のテクニックから推測するに、彼女等は馬鹿ではない。彼女等は阿呆〔あほう〕なのだ。 
 「ぐーぐぐぐー……」
 「ふふふ、寝ているな……寝ると可愛い寝顔をするものだナァ。
  生きていたときは、いつもキリキリしていたもんナァ。今はゆっくりとおやすみ」

 晶は、眠る雅貴の頬に軽くキスをし、小屋を出る。
 ちょうど、夜の霧が、朝露にとって代わろうとしている微妙な時間帯だった。
 ほてった身体に、冷たい空気を吸い込ませ、リラックスする晶。だが森の中から何者かの気配がした。

 銃を取ろうと腰に手をやるが、彼女は裸だった。
 いや、裸でなくても、銃は持っていなかったのだが。
 嗚呼――、習慣とは恐ろしいものだ。
 
 あさもや朝靄から、フード頭巾を被った男が現われた。
 彼の足元では、一升瓶ほどはあろうねずみが這い回り、チューと挨拶するように鳴いた。

 霧とは対照的な、浅黒い男は、歪んだ笑顔を讃えて立っていた。
 ねずみは、あいもかわらず浅黒いアラブ人の足元をとことこ這い回っている。

 アラブ人が口を開いた。唾棄すべき邪悪な姿からはまるで想像出来ない穏やかな声だった。
 「どうだい晶、この世界、気に入ってもらえたら、わたしは嬉しいな」
 「貴様は誰だ、何をしに来た!」
 
 晶のあからさまな敵意にアラブ人は、
 「そう怒らなくてもいいだろう、友よ。悪意があって、やったんじゃない。
  半分は遊び心で、もう半分の半分はただのサボタージュ、あとは混沌の塊だよ。
  流石にわたしもくたびれた。何千年も連絡の繋がらない上司達から命令なんて待っていられない。
  あんまり聞いてやる気もないしさ。そう。きっとまだ来ないしね、わたしだってサボりたくなるさ。
  だから、折角だし、遊んでみたんだ。わたしは遊び方をあまり知らない。だから好きな事をしてみた。
  ヒトに喜んでもらうのがすきだ。そして困らせたりするのもすきだ。
  そう、これは、喜んでもらいたい一心でやったんだ。だからのこれはわたしからの言うなれば、プレゼントだ」
 「……プレゼント?」
 「そうだ、プレゼントだ。その生身の身体、いいだろう。
  これは、そう、第二の人生だ――この世界の言葉で言うならば、セカンドライフをあなたに!
  晶。あなたは死んではいない。世界を移動したんだ、あなたの居た世界〔モノガタリ〕から、違うこの別の世界〔モノガタリ〕へとね」
 「別の……世界?」
 「そう、別の世界。
  あなたが居た永劫の殺戮パーティーが毎日催される素敵な世界から、この怠惰という俗人の唾液で汚れたかぶれ爛れた世界に。
  あなたも気づいているだろう、そこの雅貴が、あなたの知っている雅貴とは……オペレータのMとは違う人物だと。
  あー、でもだがね、違う人物といっても、実は同じ人物であり……云々。
  あ、アー、わからんなくなってきた。わたしは、余り話が上手くないんだよ。 
  仕事で命令されるか、まあ、そん時は台本があるからいいんだけど。
  あとは気まぐれでちょいちょいやるだけだからネェ?」
 
 アラブ人は晶に同意を求めるように、眼差しをくばらせた。
 そして、
 「でももう少しがんばってくれると思ってたんだがね。
  まあ、エンペラーも所詮は人類〔ヒト〕の子。邪神勝てるはずも無いか……?」

 その言葉を聞いた晶の怒りは頂点に達した。
 怒髪天を衝くということわざ諺がピッタリはまるくらい怒っていた。

 「陛下を悪く言うな!」

 その怒声により、空を舞うウィップアーウィル夜鷹が、一斉に羽ばたいてどこかに消えた。

 「そんなに大きな声を出すと、彼が起きてしまうよ。いや、まあ、知られたところで、どうってことはないけど……。
  ふふふ、嗚呼、そうか。そんなに良かったのかい、良かったんだよな、良かったんだろうな。
  わたしもやりたいなあ。あ、勘違いしないでくれよ? あなたが好きだとかそういうんじゃあないよ。
  でも、自然の元でのこう開放的なものは、ちょっとそそられるよねえ?
  ……うんまあ、どうこういう立場じゃあないんだけど……。
  まあ、いいさ。どの道、わたしの道楽はもう終りだ。
  もうあなたたちには干渉しないよ。別のモノガタリ世界にわたしは行こうと思う。
  これで、事実上のニートではなくなる。わたしは働きたい、命令されて動きたいんだ。
  働きたくても働けない、このジレンマ、きっとあなたたちのお仲間にもいるだろうね。
  だから分かってくれると思う。もっとも、働く気がないやつだっているだろうさがね。
  まあ、上司達にも嫌なやつは居るし、良いやつも居る。
  彼等に久しぶりに会えるとなると、わたしは俄然ワクワクしてきたよ。
  もっとも、わたしが知っている彼等とは違うのだろうがね。
  また、いろいろと、楽しめるよ。
  あ、そうだ、ああ、うん、よかったね。あなたはこの、安定した世界に出られてサ。
  旧支配者もいないからその眷族もいない、空に瞬く星は只煌めいているだけ、
  あと大気はきれいだし、……、でも政治家は腐ってるな。いや、これはご愁傷様だ」

 アラブ人は心をこめて合掌した。
 ねずみはとことこ這い回るのをやめない。

 「嗚呼――、この世界に居たあなたは、あなたに押し出され、一体何処へ言ったのでしょうか。
  あなたの居た世界に似た世界? 
  それとも非なる世界? 
  考えも及ばぬ変な世界?
  でも、それは、わたしにもわからない。わかっても教えないけどね。
  わたしは有でありながら無であり、無限でありながら枯渇している、矛盾をもつ断片的な存在だからね。
  わたしは道化だ。仕事に明け暮れる中で、観客を愉しませる同人作家〔トリックスター〕だ。
  嗚呼、お代は要らないよ。
  さっきも言っただろう。
  わたしはあなた達の笑顔と悲しみと絶望と諦めと憤怒と哀愁漂う愛情やらそんなものが大好きなんだ。
  それらさえ見れれば、わたしのハート心は満腹さ。
  まあ、わたしに心あればの話だけどね。でさ、ねえ?どうだったの晶? 
  たのしかった晶、ねえ晶、晶あきら、言葉で表す事も大切だよ?
  たのしかったでしょう、晶、けけけけ」

 けたけたと笑うアラブ人に晶は、
 「ふん、ありがとうよ。お陰で楽しめたよ……この莫迦野郎〔ナイアーラトテップ〕!」

 「嗚呼ァ、喜んだあなたの姿はまるで美しい泥人形、
  うふふふ、はけ、くくくァあ、
  あははははあはははあはあはっはははけははああははぁははあ、
  ははははくはははぁあははははははははは!」

 大笑いする道化師は霧と共に消える。
 一コンマ後、それに気づいたねずみは這い回るのをやめ、森の中へデカい腹を引きずって行った。

 道化師のケタタマシイ大笑いで、雅貴が起きて来た。
 「うーん。夢であろうか。なにやらケタタマシイ笑い声が……」
 「いや、外にいたが、なんも全然きこえんかったよ」
 「そーなんか」
 「そーなんよ」

 晶は雅貴に抱きつき、その唇にキスをした。端から洩れる唾液が糸を引く。
 それは見たものの頬を赤くさせる官能の光景だ。
 晶は「これを見ろ見ろ宇宙人」とばかりに雅貴の唇を貪る。
 それを見せつけられた夜空は暁に輝いてこの世界を朱に照らし、周囲の森の屹立した影を作り始めた。

 「あたしは、別の世界の人間だ。
  あたしは機械を埋め込まれ、戦いのためだけに存在し得る兵器だった。
  だがこの世界のあたしは、普通の人間で、兵器ではない。
  そう、この世界じゃあ兵器など、必要のないのだ。
  だが必要のないあたしは、彼によって、必要になった。
  あたしは、今此処に居たい、と実感できた。
  Mがあたしを必要としてくれるとてつもない快感は、あたしが存在し得る事を許す唯一のエネルギーだ。
  だがこのあたしは、あたしではない。
  このあたしは、あたしと同じ存在だけど違う存在なんだ。
  あたしがこの世界のあたしになったからには、この世界のあたしは、いったい何処へいったのだろう。
  それを考えるのだけど、考えるたびにどつぼにはまる。
  ふつぶつ……。
  うはぁー……まあ良いわ、時間はたっぷりとあるのよ……M……いや雅貴、子作りしましょ!」
 「俺はわけもわからずの子猫ちゃん。
  だがおれは、がってんしょうちのすけ、と叫ぶのだ。
  それ――がってんしょうちのすけ!
  うぉおおぁあおおおおおおおおおおあおおああおおおおぁおおおおおおおァ。
  おおおおおおおおおおおあおおおおおおおおおぁおあおおおおおおおおおあおおおお」

 まるで狼のような雅貴の遠吠えは、とても大きくて、山里にも轟轟と聞こえた。

 住人は今日もまた活動を始める、
 うまかったりまずかったりな飯を食い、
 適当に仕事をしたり、ちゃんとやったり
 良書を読み、悪い書をまたいっそう読み、猥文も読だりし、
 人の道をはずれたりはずれなかったりて、警察のお世話になったりならなかったり、
 または警察に自分がなっちゃたり、
 悪さをして人を困らせたり、恋をして愛してやまずな日日を過ごしたり、
 その結果なんやらコトをなして家族を作ったりして、
 炬燵団欒〔こたつだんらん〕でみかんのすっぱいのを食べては人生は甘くない事を痛感するのだ。

 またその逆も、然り。
 それに準ずらないことも、然り

 人間は本当に傲慢だ。
 根性が捻じ曲がった悪徳を背景に、一部が国を腐らせたり蘇らせたり創ったり造られたりする。
 それに参加しない大多数が、昼寝をしては妄想をするので、みんないつも、卑猥で、とてもエロいので、みんなエロくなる。

 世界自体が醜くも美しいくもなく、怠惰な毎日を映し出す鏡として存在している。

 日日と戦っても、誰と戦っても、結果負けても勝っても、それを苦としてもしなくても、一生ずっと生きていく。

 だが、人類は馬鹿ではないのだ。
 敗因を分析し、勝った方はもっと強力な代物を造り、みんなみんな明日に向かって開発し、
 出会い頭にまた戦って、結果負けて勝ってなになに、という、『進歩』だけはするからだ。

 そうだ。人類は、ただ単に、阿呆〔あほう〕なのだ。脳足りんで、へっぽこなのだ。
 阿呆は阿呆らしく怠惰にのんべりと生きるしか道も無く、元々それしか能が無いのだからどうしようもないのだ。

 『嗚呼ァ――爛れた未来を掴んで唯一途に滅び逝けよ、いあ いあ 人類!!』
 


______       おれ
|←樹海|        ↓
. ̄.|| ̄     オワタ┗(^o^ )┓三
  ||           ┏┗   三
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 





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