『ネームレス、参戦』
最近、アリーナのあちこちにそんな張り紙を見かけるようになった。
ほぼ全ての情報が謎に包まれたレイヴン、ネームレス。
アリーナには参加せず、依頼のみをこなすことで有名なレイヴンだったが、最近になって突如アリーナに参戦した。
その参戦理由もまた一切謎に包まれているが、『ネームレス参戦』のニュースは瞬く間に世間に広まることとなった。
謎を深めるばかりのネームレスだが、確かなことは、愛機ミステリーの性能と、ネームレス自身の操縦技術がずば抜けて高いということだけである。
がちゃ、とドアが開く音とともに真っ暗な部屋に廊下からの明かりが入り込み、それとともに廊下からの逆光を受けながら一体の人影が部屋に入ってくる。
人影は手探りで壁のスイッチを探り当て、部屋の照明をつける。
蛍光灯が照らした人物は、まだ若い女性だった。
女性は明かりがついたことを確認すると、来ていた上着を脱ぎ、そばにあったソファーへ放り投げる。
自らは窓際のデスクへと歩いていき、椅子に腰かけると同時に目の前のパソコンのキーを一つ、軽く叩く。
パソコンがスリープ状態から復帰し、自動的に一つのソフトを起動する。
開かれたウィンドウには、グローバルコーテックスのマークが映し出されていた。
「いるか?」
「はい、ここに。お帰りなさい、ネームレス」
「ああ、ただいま」
ネームレスと呼ばれた女性は、自身のオペレーターに軽く微笑んで答える。最も、顔の映像は送ってはいないのだが。
「久しぶりの休日はどうでしたか?」
「よかったよ。新しくオープンした雑貨屋を見つけてね、一時間ぐらいそこで時間をつぶしてしまった」
オペレーターがああ、と心当たりあり気に声を上げる。
「28番通りのですか?私も先日あの店でマグカップを買ったばかりです」
そうか、とネームレスがにこやかに答えてから、そういえば、と何かを思い出したように切り出した。
「こんな記事を見つけたよ」
こちら側の映像を向こうへアップする。自身の顔も映ってしまうが、気にすることはない。
誰にも素顔を見せたことがないネームレスだが、相手は自身のオペレーターだ。顔などとっくの昔に晒している。
ネームレスがカメラの前でふりふりと掲げる物は、一冊の雑誌だった。
内容はアリーナの専門誌だが、表紙には大きな文字で
『ネームレス大特集』
と書かれている。
「ああ、それなら私も読みましたよ。色々な憶測が飛び交ってて面白いですね」
該当記事の内容は突如参戦したネームレスに関する情報や、すでに参戦以来無敗で十連勝を成し遂げている事、その他はネームレスに関する様々な憶測が書かれていた。
その戦い方から地下ランキングに登録されているBBあたりが搭乗しているのではないかとか、
実は機械だ、管理者の実働部隊の生き残りだとする見方まであった。
「レジに持って行ったら、店員にネームレスの魅力を熱く語られたよ」
「本人に魅力を語ったんですか?正体明かせば腰抜かすでしょうね」
可笑しそうに笑うオペレーターに、おいおい、とネームレスが苦笑する。
「何か依頼はあったか?」
「いえ、今日は一件もありませんでした」
「そうか、珍しいな」
ネームレスは正体が謎に包まれているとはいえ、レイヴンとしての実力がずば抜けているのは周知の事実である。
故に連日企業からの依頼が絶えないのだが、珍しく今日は一件も来ていないらしい。
まあ、依頼を断ったり選定する手間が省けるから助かるのだが。
「明日は試合ですから、遠慮したんですかね、企業も」
「なるほど、気がきくじゃないか」
このところ連日のようにアリーナから試合を組まれる。
おそらく今話題になってることもあって儲かるからだろうが。
「……それで、そろそろ教えていただきたいのですが」
きょとん、とネームレスが頭の上に?を浮かべる
「何をだ?」
「アリーナに参戦した理由です。そろそろ本当のことを――」
「だからあれはメビウスリングを破った男の強さがどれほどのものか知りたくて――」
「嘘です!隠しても無駄ですよ、長い付き合いですからあなたが嘘ついてるかどうかぐらい分かります!」
面倒なやつだ、普段はぽやぽやしているくせにこういうときだけ鋭い。おまけにしつこい。
「……どうしてそこまでして知りたい?」
「とても 楽 し そ う な 匂いがします」
「…………」
「私の第六感が首を突っ込むべきだと告げています!さあ、さっさと吐いてください!」
「…………」
「さあ!さあ!!」
爛々とした声で急かしたてるオペレーター。
ネームレスは はぁ、とため息をつくと、観念したように口を開く。
「……誰にも言うなよ?」
「言いません」
「絶対だぞ?」
「はい♪」
「ずぇえええええったいに、誰にも言うなよ!?」
「大丈夫です、コーテックスの職員はみんな外ではお口にチャックです♪」
不安だ……長い付き合いだから一応信頼はしているのだが、こういう変なテンションが、不安だ……
「……実はだな」
ネームレスがほのかに顔を赤らめる。その様子を見て、画面の向こうではオペレーターがニヤニヤしている。
おそらく、このオペレーターはすでに事情を見抜いているのだろう。
「……彼に、会いたい」
ぶふっ、とスピーカーから変な声が漏れた。
「……今、笑っただろ」
「いえまったく」
「いや笑った」
「はい笑いました。……くくくっ……」
「…………」
恥ずかしさでネームレスの顔がさらに赤くなる。普段クールな彼女がここまで赤くなるのを見たのは初めてだった。
「……こほん。ええと、それでどうして彼に会いたいんですか?」
「ずっと思ってたがお前その様子だともう全部分かってるだろ」
「いえ全く」
嘘だ。絶対嘘だ。私のレイヴンとしての勘がそう告げている。しかしここは私が自分で言わねばならんようだ。
「……その、なんというか……」
「惚れたんですね」
ああやっぱり分かってたよこいつ。顔が熱くなるのを感じる。
「……まあ、そうだ」
ぶふっ。
本日二度目の噴き出し。
「笑うな!」
「笑ってません」
「そのやりとりはもういい」
「で、なぜ 愛 し の 彼に会うための方法が“参戦”なんですか?」
愛しの、という部分を強調してオペレーターが訊く。恥ずかしいとムカつくのダブルパンチ。
「その、彼と対戦することになったら直前に二人っきりで会えると思ってな……」
くっ。
今このオペレーターは噴き出すのを我慢した。確実に我慢した。
「そ、それで……?」
苦しそうな声でオペレーターがさらに訊いてくる。
「その前にお前、ちょっとそっちの映像見せろ。具体的には今の表情見せてみろ」
「お断りします」
きっぱりと。いつもの事務口調で。
「…………。まあ、それでだな、うまく会うことができてもし私が勝ったら、デ、デートの約束とか、付けられるかな、なんて……」
ぶふぅっ!
本日一番の噴出。
「……いい加減にしろよ?」
中々冗談にならない目付きでディスプレイをにらむ。顔は紅潮したままだが。
「す、すいません……ですがあまりにその、あなたが可愛かったものですから……」
「か、かわ……っ!?」
わたわたと慌てふためくネームレス。ああ可愛いなあ。
「いやあ、まさか世間で人外だの機械だの言われているネームレスの正体が、まさか恋する乙女だなんてそのギャップがもう……」
自分の世界に浸ろうとするオペレーター。もう放っておいてもいいんじゃないだろうか。
「まったくお前は……あ、そうだ」
「どうしました?」
「その、だな……私って、印象悪くないか?」
「は?」
「情報はほぼ全て非公開だし、雑誌とかでもあまりいいことは書かれてない気がするんだが……これって彼と会う時にマイナス要素になったりしないか?」
「っっ!?」
絶句するオペレーター。
無理もない、“女性だとなめられたくない”から全ての情報を非公開にしたぐらいレイヴン一筋だったネームレスが、たった一人の男の為にこうも悩んでいるのだから。
「ど、どう思う?」
身を乗り出すようにして真剣な眼差しで訊いてくるネームレス。
恋とは人をこうも変えてしまうのか。
「え、えーとそうですね。大丈夫だとは思いますよ、何も残虐非道な行為を行っているというわけではないですから……会った時に驚かせることもできますし」
とりあえず思いついた回答を述べてみると、ネームレスの表情がぱあっと明るくなる。
「そ、そうか。それはよかった、これで安心してアリーナに集中できる」
とは言うものの、彼女の表情は明らかにアリーナではなく彼のみに集中しているように見える。
「はぁ……。ちゃんと依頼もこなしてくださいね」
「わかってるわかってる」
わかってないわかってない。もうこっち見てないし。
ネームレスの依頼遂行率100%の神話もこの辺で打ち止めかしら……
「会う時に何かプレゼントとか必要だろうか……?」
「それは会うことになってから決めればいいのでは……」
しかしこの様子ではいざ会った時にも何も話せずに終わりそうだな、と心配してあげた優しいオペレーター。
「メールとか送ってみてはどうですか?」
「な!?そんなことしたら私が女だってばれるだろうが!」
「何もラブレター書けと言ってるんじゃないんですよ。何か挑戦的なメールを送っておけば、向こうも意識してくれると思いますよ?」
「う、うむ……」
頷くが早いかキーをタイプし始める。何度もうーんと唸りながらたっぷり一時間。
「なんとか挑戦的にはできた、が……不安だな、少しみてくれ」
「はい、ではこちらに送って――」
「あ」
「?」
「……彼に、送ってしまった……」
「え」
「うわああああどおしよおおおお!!!」
びっくりするほど取り乱すネームレス。彼女をここまで取り乱させるとは、やはり恋の力は恐ろしい。
「お、落ち着いてください。それで、どんな文面にしたんですか?」
「た、確か……“メビウスリングを破ったのは見事だ。だが最後に勝つのはこの私だ。私にやられる日まで、せいぜい浮かれているがいい”」
「……どこの悪役レイヴンですか」
「私の馬鹿あああああああああ!!!!!」
そんなこんなで紆余曲折ありながらも、数か月としないうちにネームレスは愛しの彼と対戦することになる。
結果?教えられるわけないじゃないですか、ネームレスに関する情報は全て、非公開なんですから。
最近、アリーナのあちこちにそんな張り紙を見かけるようになった。
ほぼ全ての情報が謎に包まれたレイヴン、ネームレス。
アリーナには参加せず、依頼のみをこなすことで有名なレイヴンだったが、最近になって突如アリーナに参戦した。
その参戦理由もまた一切謎に包まれているが、『ネームレス参戦』のニュースは瞬く間に世間に広まることとなった。
謎を深めるばかりのネームレスだが、確かなことは、愛機ミステリーの性能と、ネームレス自身の操縦技術がずば抜けて高いということだけである。
がちゃ、とドアが開く音とともに真っ暗な部屋に廊下からの明かりが入り込み、それとともに廊下からの逆光を受けながら一体の人影が部屋に入ってくる。
人影は手探りで壁のスイッチを探り当て、部屋の照明をつける。
蛍光灯が照らした人物は、まだ若い女性だった。
女性は明かりがついたことを確認すると、来ていた上着を脱ぎ、そばにあったソファーへ放り投げる。
自らは窓際のデスクへと歩いていき、椅子に腰かけると同時に目の前のパソコンのキーを一つ、軽く叩く。
パソコンがスリープ状態から復帰し、自動的に一つのソフトを起動する。
開かれたウィンドウには、グローバルコーテックスのマークが映し出されていた。
「いるか?」
「はい、ここに。お帰りなさい、ネームレス」
「ああ、ただいま」
ネームレスと呼ばれた女性は、自身のオペレーターに軽く微笑んで答える。最も、顔の映像は送ってはいないのだが。
「久しぶりの休日はどうでしたか?」
「よかったよ。新しくオープンした雑貨屋を見つけてね、一時間ぐらいそこで時間をつぶしてしまった」
オペレーターがああ、と心当たりあり気に声を上げる。
「28番通りのですか?私も先日あの店でマグカップを買ったばかりです」
そうか、とネームレスがにこやかに答えてから、そういえば、と何かを思い出したように切り出した。
「こんな記事を見つけたよ」
こちら側の映像を向こうへアップする。自身の顔も映ってしまうが、気にすることはない。
誰にも素顔を見せたことがないネームレスだが、相手は自身のオペレーターだ。顔などとっくの昔に晒している。
ネームレスがカメラの前でふりふりと掲げる物は、一冊の雑誌だった。
内容はアリーナの専門誌だが、表紙には大きな文字で
『ネームレス大特集』
と書かれている。
「ああ、それなら私も読みましたよ。色々な憶測が飛び交ってて面白いですね」
該当記事の内容は突如参戦したネームレスに関する情報や、すでに参戦以来無敗で十連勝を成し遂げている事、その他はネームレスに関する様々な憶測が書かれていた。
その戦い方から地下ランキングに登録されているBBあたりが搭乗しているのではないかとか、
実は機械だ、管理者の実働部隊の生き残りだとする見方まであった。
「レジに持って行ったら、店員にネームレスの魅力を熱く語られたよ」
「本人に魅力を語ったんですか?正体明かせば腰抜かすでしょうね」
可笑しそうに笑うオペレーターに、おいおい、とネームレスが苦笑する。
「何か依頼はあったか?」
「いえ、今日は一件もありませんでした」
「そうか、珍しいな」
ネームレスは正体が謎に包まれているとはいえ、レイヴンとしての実力がずば抜けているのは周知の事実である。
故に連日企業からの依頼が絶えないのだが、珍しく今日は一件も来ていないらしい。
まあ、依頼を断ったり選定する手間が省けるから助かるのだが。
「明日は試合ですから、遠慮したんですかね、企業も」
「なるほど、気がきくじゃないか」
このところ連日のようにアリーナから試合を組まれる。
おそらく今話題になってることもあって儲かるからだろうが。
「……それで、そろそろ教えていただきたいのですが」
きょとん、とネームレスが頭の上に?を浮かべる
「何をだ?」
「アリーナに参戦した理由です。そろそろ本当のことを――」
「だからあれはメビウスリングを破った男の強さがどれほどのものか知りたくて――」
「嘘です!隠しても無駄ですよ、長い付き合いですからあなたが嘘ついてるかどうかぐらい分かります!」
面倒なやつだ、普段はぽやぽやしているくせにこういうときだけ鋭い。おまけにしつこい。
「……どうしてそこまでして知りたい?」
「とても 楽 し そ う な 匂いがします」
「…………」
「私の第六感が首を突っ込むべきだと告げています!さあ、さっさと吐いてください!」
「…………」
「さあ!さあ!!」
爛々とした声で急かしたてるオペレーター。
ネームレスは はぁ、とため息をつくと、観念したように口を開く。
「……誰にも言うなよ?」
「言いません」
「絶対だぞ?」
「はい♪」
「ずぇえええええったいに、誰にも言うなよ!?」
「大丈夫です、コーテックスの職員はみんな外ではお口にチャックです♪」
不安だ……長い付き合いだから一応信頼はしているのだが、こういう変なテンションが、不安だ……
「……実はだな」
ネームレスがほのかに顔を赤らめる。その様子を見て、画面の向こうではオペレーターがニヤニヤしている。
おそらく、このオペレーターはすでに事情を見抜いているのだろう。
「……彼に、会いたい」
ぶふっ、とスピーカーから変な声が漏れた。
「……今、笑っただろ」
「いえまったく」
「いや笑った」
「はい笑いました。……くくくっ……」
「…………」
恥ずかしさでネームレスの顔がさらに赤くなる。普段クールな彼女がここまで赤くなるのを見たのは初めてだった。
「……こほん。ええと、それでどうして彼に会いたいんですか?」
「ずっと思ってたがお前その様子だともう全部分かってるだろ」
「いえ全く」
嘘だ。絶対嘘だ。私のレイヴンとしての勘がそう告げている。しかしここは私が自分で言わねばならんようだ。
「……その、なんというか……」
「惚れたんですね」
ああやっぱり分かってたよこいつ。顔が熱くなるのを感じる。
「……まあ、そうだ」
ぶふっ。
本日二度目の噴き出し。
「笑うな!」
「笑ってません」
「そのやりとりはもういい」
「で、なぜ 愛 し の 彼に会うための方法が“参戦”なんですか?」
愛しの、という部分を強調してオペレーターが訊く。恥ずかしいとムカつくのダブルパンチ。
「その、彼と対戦することになったら直前に二人っきりで会えると思ってな……」
くっ。
今このオペレーターは噴き出すのを我慢した。確実に我慢した。
「そ、それで……?」
苦しそうな声でオペレーターがさらに訊いてくる。
「その前にお前、ちょっとそっちの映像見せろ。具体的には今の表情見せてみろ」
「お断りします」
きっぱりと。いつもの事務口調で。
「…………。まあ、それでだな、うまく会うことができてもし私が勝ったら、デ、デートの約束とか、付けられるかな、なんて……」
ぶふぅっ!
本日一番の噴出。
「……いい加減にしろよ?」
中々冗談にならない目付きでディスプレイをにらむ。顔は紅潮したままだが。
「す、すいません……ですがあまりにその、あなたが可愛かったものですから……」
「か、かわ……っ!?」
わたわたと慌てふためくネームレス。ああ可愛いなあ。
「いやあ、まさか世間で人外だの機械だの言われているネームレスの正体が、まさか恋する乙女だなんてそのギャップがもう……」
自分の世界に浸ろうとするオペレーター。もう放っておいてもいいんじゃないだろうか。
「まったくお前は……あ、そうだ」
「どうしました?」
「その、だな……私って、印象悪くないか?」
「は?」
「情報はほぼ全て非公開だし、雑誌とかでもあまりいいことは書かれてない気がするんだが……これって彼と会う時にマイナス要素になったりしないか?」
「っっ!?」
絶句するオペレーター。
無理もない、“女性だとなめられたくない”から全ての情報を非公開にしたぐらいレイヴン一筋だったネームレスが、たった一人の男の為にこうも悩んでいるのだから。
「ど、どう思う?」
身を乗り出すようにして真剣な眼差しで訊いてくるネームレス。
恋とは人をこうも変えてしまうのか。
「え、えーとそうですね。大丈夫だとは思いますよ、何も残虐非道な行為を行っているというわけではないですから……会った時に驚かせることもできますし」
とりあえず思いついた回答を述べてみると、ネームレスの表情がぱあっと明るくなる。
「そ、そうか。それはよかった、これで安心してアリーナに集中できる」
とは言うものの、彼女の表情は明らかにアリーナではなく彼のみに集中しているように見える。
「はぁ……。ちゃんと依頼もこなしてくださいね」
「わかってるわかってる」
わかってないわかってない。もうこっち見てないし。
ネームレスの依頼遂行率100%の神話もこの辺で打ち止めかしら……
「会う時に何かプレゼントとか必要だろうか……?」
「それは会うことになってから決めればいいのでは……」
しかしこの様子ではいざ会った時にも何も話せずに終わりそうだな、と心配してあげた優しいオペレーター。
「メールとか送ってみてはどうですか?」
「な!?そんなことしたら私が女だってばれるだろうが!」
「何もラブレター書けと言ってるんじゃないんですよ。何か挑戦的なメールを送っておけば、向こうも意識してくれると思いますよ?」
「う、うむ……」
頷くが早いかキーをタイプし始める。何度もうーんと唸りながらたっぷり一時間。
「なんとか挑戦的にはできた、が……不安だな、少しみてくれ」
「はい、ではこちらに送って――」
「あ」
「?」
「……彼に、送ってしまった……」
「え」
「うわああああどおしよおおおお!!!」
びっくりするほど取り乱すネームレス。彼女をここまで取り乱させるとは、やはり恋の力は恐ろしい。
「お、落ち着いてください。それで、どんな文面にしたんですか?」
「た、確か……“メビウスリングを破ったのは見事だ。だが最後に勝つのはこの私だ。私にやられる日まで、せいぜい浮かれているがいい”」
「……どこの悪役レイヴンですか」
「私の馬鹿あああああああああ!!!!!」
そんなこんなで紆余曲折ありながらも、数か月としないうちにネームレスは愛しの彼と対戦することになる。
結果?教えられるわけないじゃないですか、ネームレスに関する情報は全て、非公開なんですから。