本編に入る前にひとつ、作者が常日頃思っていることを話そう。
“アップルボーイ”という名前は長いと思う。“林檎”と呼べば十分事足りる。
しかし真面目なSSを読んでいてアップルボーイが“林檎”などと呼ばれたらどう思うだろうか。
果てしなく違和感があるはずである。
よって作者はそれなりにシリアスなSSではこの林檎に限らず固有名詞を略称で書くことは避けている。
しかし今回のSS内においてはそんな必要は全くないのであって作者は現在好き放題にかけると喜びまくっている。
ちなみにこれは他のSSの戦闘シーンに詰まって書いた憂さ晴らしSSなので、過度な期待はしないでください。
あと、部屋は明るくして、テレビから3メートルは離れて見やがってください。

……あとできれば酒に酔った状態など、正常ではない状態で読んでください、下らなさが軽減されます。





アップルボーイ(レイヴン。空を飛ばないものだけを指す)はその女性を一目見ただけで恋に落ちた。
その女性はパイロットスーツを着ていることから同業者、レイヴンであることは明白だった。
ここはアリーナのロビー。観客だけでなく試合を終えたレイヴンが多くたむろす憩いの場である。
ロビーに設置された巨大なモニターでは現在行われている試合を中継している。
このモニター、ロビーにいれば壁に平行に立って壁の汚れを凝視していない限りどこにいても目につくほど巨大なものであるが、
アップルボーイ(レイヴン。この場合は味方です!以下林檎と表記する)はそんなモニターなどまるでアウトオブ眼中だった。
現在試合の真っ最中であるレジーナに後でどこが悪かったか聞かせろと言われていたにも関わらず。
モニター以外にもロビーには見渡す限り人、人、人。
烏合の衆(これレイヴンとかけてます)があふれかえるロビーで、林檎の目には数多くの人間が写っていたはずである。
しかし彼の脳にはその女性だけが信号として送られ、結果林檎の視界には女性だけが写っていた。
他のレイヴンズの衆はお花畑に見えていた。その時彼女は美しい。
林檎は迷っていた。彼女に声をかけるべきか。
だが声をかけたとして一体何を話すのか。いやいやそれ以前に一体何といって話しかけるのか。
林檎は人ごみの中でもその存在感を失わず、むしろ増大させている女性を目で追いながら考え、迷っていた。
ああしかしここで恋する林檎少年は名案を思い付く。
わざと肩をぶつけて謝ろうではないか。そのついでに「あなたもレイヴンなんですか?」とでも言って自己紹介でもしておけばいいではないか。
なんという名案。この作戦に隙などどこにもありはしない。パーフェクトだ。
さっそく実行に移すべく恋する禁断の果実は立ち上がり女性に肩をぶつけるが為歩いていく。
残念ながらモーゼのごとく人ごみが彼を避けるように割れることはなかったが、彼にはそんな感覚までもが生まれていた。
恋とは人を阿呆にするようである。

さて件の女性は林檎の前からそれはもう華麗でエキゾチックでエロチックでクールビューティーに歩いてくるわけであるが、ここでこのパーフェクトな作戦に障害が発生する。
原因は林檎自身が気づけ得なかったこと。それは彼がどれほどにヘタレだったかということである。
件の女性がこちらへ一歩、また一歩と歩いてくる、つまりはこのヘタレに近寄ってくるたびにヘタレの心臓はその心拍数を高め、まるで名曲Box Heart Beatのごとくハイスピードでドキドキという音を打ち鳴らす。
ああどうしようか。このままでは彼女に肩が触れただけで心臓麻痺でも起こして死ぬるのではなかろうか。
いやしかしそれはまだ本望である。若き禁断の果実は恋に生き恋に死んだのだから。
最も危惧すべきは肩をぶつけて謝る際、緊張のあまり
「すすすすすすみますぇん」
などと声は裏返るわ噛みまくるわで最高にきもちわるい印象を与えてしまうことである。
キモいとか気持ち悪いではない。“きもちわるい”印象を与えてしまうことである。
このような印象は後になってもなかなか消えるものではなく、たとえその後女性と仲良くなれたとしても、
ことあるごとに「そういえばあの時――」などと掘り返されて恥辱の限りを味わうことになって死にたくなるのである。
さあどうするか。女性は相変わらず天女のごとくこちらへ一歩、また一歩と近寄ってきている。
決断の時は近い。さあどうするヘタレ。

どんっ。
「っ!!!?」
「あ。……ごめんなさい、余所見してて。大丈夫ですか?」
ああなんということだ。
ヘタレが悩み続けている間にも女性はヘタレとの距離を詰め、ついには彼女の方からヘタレに肩をぶつけてきたではないか。
これは喜ぶべきことだが同時に憂うべきことでもある。
ヘタレの心のうちはまだ整理が付いておらず、そんなところに女性がぶつかってきた上声まで掛けてきたものだからヘタレの心のうちはかき回され放題である。
ああしかしこのままキョドっていてはやはりそれは“きもちわるい”のであって何か言わねばなるまい。
言わずにきもちわるいよりは言ってきもちわるいだ。
さあ行け林檎。本当はヘタレじゃないところをみせるのだ。みせるの“み”は魅力の“魅”!
「あ、いえこちらこそすいません」
なんという本番の強さ。声もとても紳士的でかけらも噛んでない。
きっと彼女にはとてつもない好青年が謝ってきたと思われているに違いない。
「あなた、アップルボーイよね?今日の試合、良かったわよ」
「あ、ありがあqwせdrftgyふじこlp」
なんという奇跡。彼女は林檎のことを知っていた。知っていただけでなく今日の試合を褒めてくれた。
女神のようなほほえみでこんなことを言われたらいかに本番に強くともヘタレが取り乱すのは無理もない。
「どうしたの?」
「い、いえいえいえいえええなんでもありますぇん」
ああなんということだ。せっかくさっきまでとてつもない好青年だったというのに今では声裏返りまくり噛みまくり、どう見ても今のヘタレはきもちわるい男である。
「あはは、面白いのねアナタ」
きもちわるがるどころか逆にウケている。これを奇跡と呼ばずに何と呼ぼうか。
「私はミルキーウェイ。ランキングはC-10。よろしくね」
丁寧に握手を求めてくるミルキーウェイ。
ああなんと美しい手だろう真っ白で細い指はまるでなんだろうよく分からないが美しい。
「こちらこそそそよ、よろしくお願いします!」
握手を終えると、笑顔で林檎に手を振りながらミルキーウェイは去って行った。
「…………」

アリーナのロビーで一人呆けている男がいた。名前はアップルボーイ・ザ・ヘタレ。
彼の心の中はすでにお花畑で埋め尽くされており、そこでアハハハハと楽しそうに笑いながらヘタレとミルキーウェイが踊っていた。
「ミルキーウェイさん、かぁ……」
「あれぇ?林檎くんじゃん何きもちわるい状態に陥ってるのぉ?」
現実に引き戻され振り返るとイエローボート(レイヴン。重量過多の機体だけを指す。この場合はロリ声)がいた。
しかし今彼女がきもちわるいといった気がするが気のせいだろうか。
いやきっと気のせいだろうこの超絶好青年アップルボーイに対してきもちわるいなどという人間がいるはずがない。
「……大丈夫?きもちわるいよ、何かあった?」
ああやはりこのおなごはかわいい声でこの超絶好青年にきもちわるいと言ったのだ。
普段ならばへこむところであろうが今のこの超絶好青年にきもちわるいなどという言葉は通じない。
なぜならば――
「いやぁ、ミルキーウェイさんって女性と知り合ってさぁ、握手までしたんですよぉ」
――ミルキーウェイの美しさと優しさの前には、無力。
しかし、まさかその絶対無敵難攻不落であるはずのお花畑が、このロリ声レイヴンによって陥落させられようとは。
「あー、ミルキーウェイね……ミルキーウェイ……ふーん……」
ロリ声が哀れなものを見るような目で林檎を見つめる。
「どうしました?彼女の美しさに嫉妬でもしたんですか?」
舞い上がりっぱなしのヘタレのその言葉にカチンと来たのか、ロリ声が暗黒微笑を浮かべる。
「ねぇ林檎くぅん。ミルキーウェイさんの秘密知りたくなぁい?」
「知りたいですすごく知りたいです」
入れ食い状態に食いついてくるヘタレ。ああこういう必死な男ってきもちわるい。
「あのねぇ……あの人、ほんとは××歳♪」
「……は?」
何だろう今のは。思わず最後の数字の部分を脳がシャットアウトしてしまったぞ。
「ホントだよぉ?それにねぇ、あの人実は――」

「おーいアップルボーイ。あたしの試合どうだった?ねえ」
アリーナのロビーにたたずむアップルボーイを見つけ、試合を終えたばかりのレジーナが話しかける。
が、反応はない。
「ん?おーい、聞いてる?」
手をアップルボーイの目の前でひらひらと振るが反応はない。
「……ぬう」
周知の通りレジーナはあまり気が長い方ではない。
少なくともタイに住んでる二丁拳銃のアメリカンチャイニーズよりは長いと思うが。
しかしまあ気の短いレジーナがこうも無視されるとどういうことになるかは大体予測のつくことであって。
「返事しろコラァッ!!」
ガン!とアップルボーイを全力で蹴るレジーナ。
さすがのアップルボーイもうっ、と呻く。
これで多少は反応されるかと思ったが――
「そんな……ミルキーウェイさん……そんな……」
アップルボーイは気が狂ったかの如く同じ言葉を繰り返していた。
「何だこいつ……きもちわるいな……」
こんなのはほっといて親父に昼飯代でもたかりに行くか、と踵を返すレジーナ。
後にはアップルボーイだけが残された。
いつまでもいつまでも、そこにはアップルボーイだけが残された。





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