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ナーヴスコンコード主催、アリーナ。
多くの人間が熱狂し、大金を賭け、勝った負けたと一喜一憂するこの火星最大の見世物は、今日は一段と大きな盛り上がりを見せていた。
その原因は今まさにアリーナで行われている試合、そこで戦っている二人のレイヴンだ。
一方はローズハンター。機体名ハートクイーン。スナイパーライフルによる正確な射撃を得意とする女性レイヴンだ。
アリーナにおける彼女の順位が物語る確実な実力もさることながら、彼女の持つ妖艶な魅力に虜になっている者は多い。
そしてもう一方のレイヴンはエネ。機体名はピースフルウィッシュ。
家族の手術費を稼ぐために参戦、しかし連敗が続き下位に停滞気味だった彼女は参戦当初から薄幸の美少女ともてはやされた。
あれから数年。くじけずに戦い続けた少女は一人の女性へと強く成長していた。
苦難の日々で身につけた技術と精神力はもはや疑う余地もなく、当初彼女のアイドル性を非難していた者も今では多くが彼女の実力を認めている。
ローズハンターとエネ。いわば、アリーナの二大アイドルの対戦。
アリーナのロビーには多数のファンが詰めかけ、通路ではなんとグッズまで売られている。
もちろん非公式のグッズなのだが、売る者がいれば買う者もいる。売行きは上々のようだ。
そんなことは知ってか知らずか、ローズハンターとエネ、二人の戦いはますます激しさを増していた。

ハートクイーンとピースフルウィッシュ。二機はどちらも軽量二脚タイプのACだ。
そうなると高速機動戦が展開されるのは必須。めまぐるしく繰り広げられる二機の高速戦闘は、ACに興味のない者さえも熱くさせただろう。
ハートクイーンが握るスナイパーライフルは常にピースフルウィッシュを狙っており、その銃口から高速の弾丸を断続的に発射する。
二機の距離は決して離れているとは言えない。並みの回避技術ならば必中ともいえる距離だ。
それをピースフルウィッシュがまともに食らうこともなく回避し続けているのは、軽量二脚特有の機動性と、それを駆るエネ自身が持つ驚異的集中力によるものだった。
「この距離で避け続けられるなんて、たいした腕だわ、アナタ」
ローズクイーンが愚痴とも称賛ともとれる言葉をこぼす。
後退しつつ肩のミサイルを発射、それに応えるようにピースフルウィッシュもまた同じミサイルを発射する。
両機から放たれる無数のミサイルは空中で衝突することもなく交差し、お互いが敵とみなした機体へ加速しながら突進する。
ハートクイーンが装備する高性能のミサイル迎撃装置は迫りくる無数のミサイルを感知、ただちに迎撃ミサイルを発射し全て空中で撃ち落とした。
ピースフルウィッシュにも迎撃装置は装備されているがこちらは若干性能の劣る型番だ。
ミサイルの接近を感知したが迎撃に成功したミサイルは一発、残るミサイルはピースフルウィッシュを包み込むように飛来する。
思い切りブーストペダルを踏み込むエネ。それに呼応してピースフルウィッシュは大きく跳躍、眼前にまで迫っていたミサイルは機体の足元をかすめるように過ぎ去る。
跳躍したピースフルウィッシュは即座に空中でOBを起動、前方に大きく加速。そのままハートクイーンめがけて突っ込んでくる。
「来るか!?」
接近を許せば遠距離線仕様のハートクイーンには不利だ。ピースフルウィッシュに接近される前にローズハンターはブーストペダルを踏み込み、ハートクイーンを真上に上昇させる。
依然高速で突進してくるピースフルウィッシュにハートクイーンはスナイパーライフルを撃ちこむ。
一発。二発。三発。撃つ度にピースフルウィッシュが小刻みにその細い体躯を揺らす。
放たれた弾丸は全てピースフルウィッシュに命中する。
軽量機にとって高威力のスナイパーライフルをこうも立て続けに食らうことは致命傷になりかねないが、ピースフルウィッシュは不思議とそうはならない。
実際被弾によるピースフルウィッシュの被害は一見して決して小さなものではないのだが、
それでも機体が戦闘不能に陥るどころか、機体の機能低下さえピースフルウィッシュは起こしていない。
なぜか。
エネは弾丸が放たれる度機体を小刻みに揺らし、同一箇所への被弾を避けていた。
それにより装甲が爆ぜることはあれど内部に被害が及ぶことはほとんどなく、ピースフルウィッシュはその機能を低下させずに済んでいた。
スナイパーライフルの迎撃を受け電装部がむき出しになったピースフルウィッシュも応戦するように肩のミサイルを発射するが、ハートクイーンの迎撃装置の前に全て撃墜される。
しかしそんなことは意に介せずともいったように、依然ピースフルウィッシュの突進は止まらない。
もはやハートクイーンの真下に潜り込もうかという位置にまで接近しているが、ピースフルウィッシュがOBを切る様子はない。
「何を――」
するつもりだ、そう言いかけた刹那。
ピースフルウィッシュから三本の白煙が噴出する。
白煙が発生したのはハートクイーンのほぼ真下ともいえる位置で、三本の白煙の先には三本のミサイルがあった。
「垂直……っ!」
爆音。
空中において、通常のミサイルならば自由落下でまだ回避できただろうが、真下から迫る垂直ミサイルを避けるには前後左右の動きが必要だ。
しかし機動力の低下する空中においてその注文は無理に等しかった。
三本のミサイルは逃げ遅れたハートクイーンの両足に食らいつき、信管を作動させて爆薬を起爆、その役目を全うする。
爆発はハートクイーンの脚部を巻き込み、脚部に内蔵された補助ブースターを破壊する。
それによって推力を失ったハートクイーンは――
「くっ、落ちる……」
懸命にブーストを吹かせるが、空中にとどまるだけの推力はなく、地上に落下する。
「まずい……!」
ピースフルウィッシュはハートクイーンの真下を通過した後OBを解除、機体を旋回させ反転、右腕に装備したハンドガンを落下してくるハートクイーンに向ける。
そして一点の淀みもなく構えられたハンドガンから発せられる、規則的な銃声とそれに伴う銃口からのマズルフラッシュ。
空中での自由を奪われたハートクイーンはろくな回避行動も取れず、放たれた弾丸をその華奢な身体を歪ませながら全て受け止める。
ピースフルウィッシュによる断続的な銃撃はハートクイーンが着地するまで行われ、着地と同時に銃声は止んだがそれは決して安堵の瞬間などではなかった。
「この……!」
ローズハンターが凝視するメインモニターには、左腕に紫の刀身を携えたピースフルウィッシュが迫ってきていた。
ローズハンターもブレードで応戦しようとするが、彼女のハートクイーンが装備するブレードは斬撃用ではなくエネルギー波を射出することによる射撃用の特殊ブレードだ。
至近距離で放たれた光波はピースフルウィッシュのコアに命中、エネルギー兵器特有の金属融解痕を残し消えた。致命傷には遠く至らない。
ピースフルウィッシュは至近距離での被撃による多少の反動はあったものの、相変わらず左腕の刀身は健在だ。振りかぶり、大きく前に踏み込む。
「くそぉっ!」
スナイパーライフルで応戦しようにも、彼女の最大の武器であるはずのそれはこの至近距離では取り回しが効かず、逆に大きなハンデ足り得た。
長い銃身をかいくぐるようにしてピースフルウィッシュがハートクイーンの懐に入り込む。
メインモニターにエメラルドグリーンのACが大きく映し出されたと思った時には、既にピースフルウィッシュの左腕は振り切られていた。
ハートクイーンのコアに袈裟に刻み込まれたばかりの大きな裂傷。間違いなくレーザーブレードによるものだ。
ガクン、と何の前触れもなくハートクイーンが膝を折る。勿論、ローズハンターの操縦によるものではない。
つまり――
「はっ、負けたか……」
ACの機能停止。戦場ではなく、アリーナであるためその基準はミッション時よりもかなり安全性を考慮して設けられているが、機体が一定量以上のダメージを受けたことに変わりはない。
静かに膝をついたままのハートクイーンと、それを見下ろすように佇むピースフルウィッシュ。
観客が見守るモニターに映し出された二体のACの姿は、見る者全てをモニターに釘づけにした。
まるで一枚の絵画であるかのように美しい光景。見入った誰もが一言も言葉を発しない。
「勝者、ピースフルウィッシュ!」
沈黙を破る審判の声。同時に、観客の歓声が爆発する。
アリーナの二大アイドルの対戦。この名勝負は、近年一番の興行収入を得ることとなった。

「いい勝負だったわ。なかなか思い切った戦い方するのね」
目の前にいるエネに清々しい表情で握手を求めるローズハンター。
今二人がいるのは選手控室だ。通常控え室は選手それぞれに個室が与えられ、二人は今エネの控え室にいる。
試合終了後間もなくローズハンターがエネを訪ねてきたのだ。
シャワーでも浴びてくればいいのに、ローズクイーンは汗だくのパイロットスーツのまま訪ねてきた。
「こちらこそ。実に充実した戦いでした」
差し出された手を笑顔で握り返すエネ。
「あそこまで弾が当たらなかったのは久しぶりよ。いい動きするわね」
握手を終えた後、ローズハンターが肩をすくめて言う。
「私も、ここまで精神削ったのは初めてかもしれません。必死でしたよ、弾を避けるの」
「あら、じゃあ今度は精神が衰弱するまで撃ってみようかしら、両手に銃装備して」
「意地悪ですね」
一緒に声を上げて笑う。ひがみ合うことが日常茶飯事のアリーナにおいて、こういう関係は稀といえるだろう。
「また勝負しましょう。今度は負けないからね」
「私こそ、そう簡単に勝ちは譲りませんよ」
再び笑顔で握手を交わす二人。
その後仲良さそうに話している二人の姿を目撃したという情報が度々入り、二人のアイドル性はファンをアリーナとはまた違う方向に加速させていくのであるが、
それに関してはこの場では割愛する。




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