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 突如として現れた空気ブレイカーを前に、フリーダムトルーパーズの二人はもちろん味方のはずのジオ社軍まで凍りついた。両者共に戦意を喪失しかけており、隙だらけにも関わらず攻撃の意欲を見せない。

 

「れ、レイヴン、敵は目前だ。撃破を・・・」

 

「喝!」

 

 何とか平静を保ち指示を出そうとしたオペレータを、モンドと名乗るレイヴンは一声で黙らせた。

 

「先生と呼べ! 親子すら金勘定で憎しみ合うこの世情、義理まで欠いたらもう人間とは見なせねぇぜ?」

 

 美しき浪花節を語る自称義理無用の男。

 

「で、では先生、あとはお願いします!」

 

 付き合いが良いのか諦めの境地なのか、オペレータは彼に合わせて寸劇がかった口調に切り替え依頼を送った。モンドはそれに満足したのか「うむ」などと気取った返事をすると、ACを起動させ、アニーとサムの方向へ向き直る。

 

 二人が気を取り直して敵意を新たにし、モンドのACと睨み合う。およそ1kmの距離を置いて三機のACが向きあう構図が出来上がり、ジオ社の部隊は巻き添えを恐れて遠巻きにそれを観察していた。

 

「よう、強盗団」

 

 彼はジオ社がコンコードに送付した依頼用のメッセージに書かれた名称で彼らを呼んだ。その扱いを知らない二人は反発、特にアニーは怒りを覚え、声を荒げて反発しようとするが、

 

「ああ、まあオタク等も色々あるんだろうがな。そいつぁ俺には関係ないことだ」

 

 と、あっさりといなされてしまう。もしこのままAC同士の戦闘になれば、二対一という圧倒的に不利な状況に立たされるにも関わらず、余裕綽々なモンドの態度にアニーは奥歯を噛んだ。不敵な態度から相手は一般的なレイヴン二人など問題にしない腕前であることが窺える。そうなると一般以下の技しか持たないアニーとサムでは十中八九勝ち目はない。

 

(冷静になれ)

 

 アニーは自分に呼びかける。まともにやりあって勝ち目がないなら策を弄するしかない。そのためには緊張や興奮など愚の骨頂、冷酷にただ目標を達成する機械の心を持つことが肝心だ。

 

幸いなことに、こちらの力量を知らないせいか敵は距離を保って動かずにいる。膠着状態のうちに、付け入る隙を見出されば勝機は転がってくるはず。

 

そう言い聞かせて、彼女は改めてモンドのACを観察する。

 

原色のライトが交わるスポットは明るく、その中央に立つ機体は肉眼でも十分に視認できた。区分するならば軽量二足型。搭乗者の性格に似合わず全身が飾り気のない黒一色に染められており、背中には二人の知らない翼状のパーツを負っていた。そして最も特徴的なのは通常何らかの重火器が握られているはずの両腕が空手であることだ。AC同士の戦いも基本的には銃撃戦になるので、補助的にせよ何らかの銃器を持つのが普通であり、両空手という極端な構えを見せるレイヴンは珍しい。

 

自然とアニーの目もそこを向いた。

 

「私が囮になって近づくから、その場所から撃ちまくって。一発くらい当たるでしょ」

 

 彼女の取った策は射撃戦に持ち込む一手だった。相手に銃器がないのだから妥当な戦術と言える。

 

「うん。でも、無理はしないでよ」

 

 サムもそれが最良とわかっているので、躊躇いながらも賛同する。問題があるとすれば、囮となるにはそれなりに近づかねばならないので、アニーが敵の射程に入ってしまうことだ。

 

「平気平気。まともにやり合うつもりはないし、逃げ回るくらい私にだって出来るよ。心配するなら、その分きっちりぶち込んでやってよ!」

 

 アニーはサムに、そして自分に対して鼓舞の言葉を送る。現実の話として、AC戦では反撃の意図を持たず回避に徹するならば大方の攻撃は避けきれる。ただしそれは余程の腕の差がなければ、の話になるが。

 

 しかしこの時、二人は気付くべきだったのである。一流のレイヴンならば予測される不利には対策を組んでおり、例え弱点を突こうとも奇を衒わぬ戦略などその範疇に過ぎないことに。

 

 初心者は往々にして敵を軽視する。苦労して練り上げた策が、丸々相手の策略の中にあるなど考えが及ばないのである。臆病な素人など稀で、大概が自らの必勝法に溺れて沈んでいくのだ。

 

 二人もまた射程外からの砲撃という敵の弱点をつくことで満足してしまい、モンドがそれを織り込んだ戦術を披露するなど想像もつかなかった。大方の例に漏れず彼らは敵を見下し、そして自身を過大評価した。そう、何よりも大きな間違いは、確実に自らより強大な敵を前に自力で解決を図ろうとしたその姿勢にあったのである。

 

 結論から言えば彼らは退きアイラを待つべきだった。そうすれば、このような突然の悲劇には見舞われなかっただろう。

 

 

 アニーが接近しようとブーストを点火させようとしたその時、煌々と夜を照らしていたサーチライトが突然落ち、舞台は闇に包まれた。漆黒の烏は夜に溶け、不可視の存在へと変貌を遂げる。彼女はレーダーに目をやり相手を確認しようとするが、グリッド状の画面に敵を意味する赤い表示は見られなかった。

 

そして次の瞬間、ネクストの腹はパイロットの首ごと両断された。

 

 

 事が闇の中で行われたことはサムにとって幸運だったのかもしれない。爆発音とネクストの反応がレーダーから消えたことで、何が起こったのかは明白だが、それでもブレードの熱に全身を焼かれ、焦げくさい肉片と化した彼女の死に様を直視せずに済んだのだから。

 

「アニー?」

 

 サムは信じられないとばかりにその名を呼んでみた。返事は無言。それが返って明確な返答として受け止められた。沈黙は彼の脳に理解を促し、その胸に衝撃を走らせた。ダメージは大きく、彼は一時的な過呼吸に陥り叫ぶことすらままならなかった。

 

 その隙をついてモンドはイザーワンに接近する。追い詰められた者が取る行動は自棄になるか塞ぎこむかの二択。後者ならそのまま近づき切り落とせば良く、前者を引き当てても彼の攻撃を防ぐなど並の人間には不可能な話だ。その仕事は堅実且つ効率的、相方の死が与える心理的動揺すら手口として利用する抜け目のなさは、まさしく暗殺者と呼ぶにふさわしい。

 

黒一色の機体を闇に染まった舞台に溶かし、さらには背中のレーダー妨害装置、俗に言うステルス機能を発動させて視認を困難なものと化して近づき、両腕に仕込んだブレードを一閃させる。ネクストを落とした時と同じ一撃を見舞おうとするが、ここで百戦錬磨のモンドにも不測の展開が待っていた。

 

闇に包まれた舞台、ステルス、精神的撹乱と幾重ものトリックを張り巡らせ、その攻撃は不可視と呼んで差し支えのない芸当であったが、ブレードの射程圏に入る直前、イザーワンは彼の方向に向きなおり左肩のレーザーキャノンを構えたのだ。

 

「やられて、たまるか!」

 

モンドの全身に戦慄が走る。ACを全速で展開させて回避を図るが完全には間に合わず、高いエネルギーを秘めた弾丸はその右肩を貫いていった。

 

彼は慌てて距離を取り、右のブレードを振って動作に問題が起きていないことを確認する。外装が剝がれて、内部構造が剥き出しになっているが致命傷ではなさそうだ。

 

「ブースターの火を狙われたか?」

 

 この状況で自機を捉える方法と言えば他にないが、それほど冷静な判断の出来る相手には見えなかった。

 

 彼は再びステルスを展開させて接近を試みる。ただし今回は攻撃でなく相手の素性を確かめるための行動だ。回避に重点を置いた操作と心構えを取っているので、余裕を持って敵の砲撃を観察する。弾道は出鱈目に近く相手の拙い技量を示していたが、全てが彼の方向を狙って放たれたもので、暗闇の中でも確実にこちらの位置を捉えていることが理解できた。

 

「こいつ…!」

 

 不可解な点がもう一つ。先のレーザーキャノンといい、このパルスライフルといい、相当なエネルギーを食うため通常このように連射の効く武器ではない。戦車型の特典を活かして最大のジェネレータを積んでいたとしても、十を超えるエネルギー兵器の使用を強行されればオーバーヒートが必至である。

 

 不可視を視認する『目』、通常の数倍に相当する容量を持つ心臓、ジオ社に追われる無所属のレイヴン、技量にそぐわない武装、敵に関するあらゆる情報を並べ、弾き出された結論は一つだった。

 

 それは、レイヴンにとって禁句とも言える単語だった。

 

「強化人間」

 

 

 今を遡ること数十年、当時最大の権力を保有していた大企業ことムラクモ・ミレニアムでは狂気の実験が行われていた。それが強化人間、人体に直接手を加えて戦闘に特化した形に作り変える、改造手術である。

 

 被験者には巨額の債務を抱えたレイヴンが多く用いられ、文字通り「売られた」彼らには、実験的手段が命の保証もなく投じられた。中でも有名なのが、単体での索敵を可能とする、神経と高性能レーダーの接合手術で、世に出た数少ない成功例のほぼ全員にこの能力が備わっていた。故に、戦闘にかかせないレーダーを装備していないACはそのまま強化人間の搭乗を示唆するものであった。

 

 もちろん本来人間に備わっていない能力を付加したり、脳に異物を混入するという荒々しい手術の成功率は極めて低く、犠牲者の数は明らかにされている者の数百倍に上ると言われている。また死を免れた者の中でも心身に致命的な後遺症を残したケースが少なくなく、特に精神的損害を被った者に至っては、その後死ぬまで戦いを強いられる奴隷として扱われた例が報告されている。

 

 こうした強化人間の存在は一人のレイヴンによって公のものとなり、非人道性ゆえに世間より非難され衰退したが、極秘裏に研究が続けられているという噂は後を絶たない。そして、その筆頭に上げられるのが他でもない、ムラクモ・ミレニアムの後継者たるジオ・マトリクスなのである。

 

「なるほど、ジオほどの企業がたかだか一人か二人の離反者にどうしてこうも目くじらを立てるのか疑問だったが、合点がいった」

 

 自機を左右に振り、サムの懸命な抵抗を最小限の操作でかわしながら、モンドは呟いた。彼の推測が正しければ、いや実戦の中でそれは確信に近かったが、サムはジオ・マトリクスが強化人間の研究を行っている生きた証拠である。然るべき後ろ盾を持たない故に公表されないが、この一件が済めば保護されたエムロードの手によって間違いなく衆目の下に晒され、ジオ社は手痛い打撃を食うことになるだろう。もちろん研究は頓挫する。

 

 企業からの解放をうたう、フリーダムトルーパーズ。なるほど、真意を知れば有意義極まる命名に相違ない。しかし悲しいかな、いかに大義があろうとも、彼らにはそれを実現させるだけの力が足りなかった。

 

「何で! 何で当たらないんだよ!?」

 

 サムの悲痛な叫びがこだまする。それでも彼は砲撃を止めず、無数の光条がモンドをかすめてはるか後方の森を焼いていった。おそらくは何らかの危険と引き換えに強化されたジェネレータを搭載しているのだろう、敵の攻撃は止むことを知らないが、単調なリズムに放たれるそれをかい潜って接近するなどモンドには容易いことだった。

 

「お前さんの境遇には同情するがな」

 

 ひたむきに抵抗を続ける敵を不憫に思いながらも、モンドは止めを差しに入る。

 

「情けで躊躇するほど甘い姿勢で成り立つ稼業じゃねぇのさ」

 

 両腕のブレードが展開し、青白い輝きが平野に機影を伸ばす。迫りくる死の予感に対し、恐怖で胸が押し潰されそうになっても、サムは歯を食いしばって砲撃を続けた。それはひとえにここまで自分を守ってくれたアニーへの想いが成した業だった。このまま術もなく殺されてしまえば、彼女もまた犬死にとなってしまう。

 

怯えと興奮と、そして無力への悔しさから、目尻には涙が満ちていた。弱き者が必死で己を奮い立たせて抵抗する、その勇気も即物的な力の前には無力なのか。気高き志を秘めていたアニーが、言葉の一つも残す間もなくこの世から消え去ったように、彼もまた無機質な機体の錆と変えられてしまうのか。そこまで世界は無情なのか。

 

それは半分が正解で半分が外れ、いや的外れだ。世界は無情に違いない。強い物が弱い物を喰らって更なる力を蓄える、純粋なまでに力を優遇する節理の前に、人の情など不純物に違いない。しかし、それでも想いは、絶対的とも言える力、世界の定理にすら綻びを作り出す。

 

 サムの抵抗は数分程度のものだっただろう。それは作戦全体の中でも、ましてや人の命と比べては、瞬きするほど短い瞬間に過ぎない。だが、運命を分かつのはいつだってそんな刹那に等しい奮闘である。

 

 

「下がれ!!」

 

 

 サムの、そしてモンドの回線を通して、その声は朗々と響き渡った。硬い金属を打ったように透き通った彼女の一喝は、その腕を振り下ろせばイザーワンを両断できる位置まで距離を詰めていたモンドをして退かせた。

 

 そのわずかな隙をついて、両者の間に割り込む蒼い影が一人。純白の炎を輝かせて西方より飛来する機械仕掛けの妖精、ブルーバード・シルフィだ。アリスの報告を受け、サムたちを保護するべく西の戦地より駆け付けたアイラは、たった数秒ではあるが彼を助けるには間に合わない距離にあった。それをただの一声で間に合わせたのは、彼女の持ち合わせた才能を、諦めることなく活かしきった強い意志の賜物である。

 

 突然の乱入者に面食らったのはモンドだ。そして例え数秒とはいえひるんだ敵を見逃すほど彼女は甘くない。

 

 ムーンライトが展開し、モンドの持つブレードを上回る光を放つ。モンドもまた攻撃に転じようと切りかかるが、彼の刃を押し込んでシルフィはその腕を破壊した。

 

 剣圧と腕の爆発に押されてたたらを踏んだモンドは、慌ててブーストをふかし相手から間合いを取った。アイラのスタイルからして追撃をかけるのが常套であるが、彼女は護るべき対象であるサムの姿を確認してそれを思いとどまった。

 

「機体名ブルーバード・シルフィ、お前がアイラ・ルークスカイか…!」

 

 数歩の距離を置いて両者は睨み合う。モンドは、おそらく現在地球上で最も有名なACを前にその名を口にした。苦々しい口調には、先ほどアニーと対峙した際には見られなかった焦りの色が見え隠れする。

 

「揃いも揃って勝手なことしてくれちゃって、予定ぶち壊しじゃん」

 

 一方、アイラの声には迷いがない。凛とした力強い声で、彼女はモンドを圧倒する。

 

「それでも何とかするのがプロってやつ? さ、始めよっか」




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