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吹き荒れる砂嵐。巻き上がる砂塵。断続的に鳴り響く、銃声とQBの噴射音。
高速で三次元戦闘を繰り広げるアナトリアのネクストに、バガモールは危機的状況に追い込まれながらも、善戦を繰り広げていた。
全ては、未来の為に。
距離を離した敵ネクストが、機体背部に取り付けられたレーザーキャノンを構える。
距離を詰めるべく突進してくるバガモールに、放たれる光弾。
エネルギーの塊はPAでその威力を減衰させながらも、バガモールのコアを大きくえぐる。
「オオオオオオッ!!」
しかしそれでも、バガモールの突進が止まることはない。
かつて軍で鬼神とまで恐れられた男は、今再び覇気をむき出しにして、鬼神のごとく押し迫る。
「吾輩には祖国が、帰るべき場所がある!負けられんよ!」
一直線に向かってくる敵に対して、アナトリアのネクストはブレードで応戦する。
紫の刀身がブレードから出現し、左腕を振るうと同時にバガモールの装甲を切り裂く、ことはなかった。
振るわれた刀身は、バガモールに触れる寸前で止まっていた。
見ると、武器を無くしたバガモールの右腕が、ブレードを装備した左腕を受け止めている。
「捕えたぞ」
敵ネクストの左腕を掴んだまま、ロケットの引き金を引く。
敵ネクストのPA内部で撃ちだされた弾頭は、その威力を減衰させることもなく、コアに着弾、爆発した。
爆発をもろに食らったことで、敵ネクストが大きく怯む。
至近距離にいたバガモールも爆風を食らったが、被害は少ない。
武装を両背部に装備した大型ロケットに変更、敵が回避行動に移らないうちに、距離をとりつつ二発撃ちこむ。
目の前で起こる大爆発。距離をとっていても、爆風がバガモールを包み込む。

立ち昇る爆煙を砂嵐が瞬く間に消し去ると、爆煙の中から現れたのは、左腕を完全に脱落させながらも、なおもカメラアイを真紅に輝かせるネクストの姿だった。
「まだ動くか、化け物め……」
悪態をついた直後、敵ネクストが信じられない速度でライフルをこちらへ構え、発射してきた。
次の瞬間には、視界が色彩を失っていた。モノクロの視界。どうやら頭部のカメラをやられたらしい。
しかもモノクロなだけならまだしも、鮮明さがまるでなく、敵ネクストの姿もろくにわからない。
完全に視界を奪われなかっただけましということか。
「なんと……狙ったのか……?」
あの距離から一瞬で正確にカメラを打ち抜くとは、まるで銃撃漫画のファストドロウだ。
が、感心している場合ではない。立ち止まっていれば追撃を食らうことは必至だ。
ブーストを吹かし、追撃を食らう前に移動する。
が、またしても銃声と、機体への衝撃。そして前のめりに倒れるバガモール。
「な……!?」
視界に映されたのは、両足の関節が破損したことを告げるメッセージ。
どうやら両膝の関節を撃ち抜かれたらしい。
「……動けんか」
関節が破損しては、ブースト移動どころか歩くこともできない。
――終わったな。
なんとか機体を仰向けにし、敵ネクストがいると思われる方向を見る。
輪郭がぼやけてはっきりと分からないが、そこにアナトリアのネクストが立っていることは確かだった。
「すまんな、ナジェージダ。どうやら帰れそうにない」
頭の中に浮かんだナジェージダの笑顔。もう二度と見ることは叶わないだろう。そして、生まれてくるであろう我が子の顔も。
「……聞こえるか、アナトリアのネクスト」
返事はない。が、攻撃してこないところを見ると、一応聞いてはいるのだろう。
「ハラショー。素晴らしい腕前だった。お前と戦えたことを誇りに思うよ。そして……さらばだ」
次の瞬間、視界が真っ白に染まり、ボリスビッチの意識は途切れた。

――夢を見ていた。昔の夢だ。
銃声と咆哮、爆発音だけが鳴り響く戦場に自分はいた。
だが自分は、ACに乗ってもいなければ、一丁の銃さえも持っていなかった。
ただずっと、このテントの中で横たわっているだけだ。
そう、自分は負傷したのだ。
爆撃機からの攻撃をもろに受けた自分が駆るACは大破、コクピットにいた自分も重傷を負った。
ここは軍のキャンプだろう。テントから外に出れば、おそらく視界の向こうに、戦場が見えるはずだ。
起き上がろうとすると、体中に激痛が走った。どうやらまだ動ける体ではないらしい。
――あー!だめですよ少佐殿!まだ寝てなくては!
大声で叫ばれて驚きながら声がした方向を見ると、よく知った顔があった。
――……ナジェージダ……伍長……
――はい。ナジェージダ伍長です、同志少佐殿。包帯を交換しに参ったのですが……その様子では包帯をはがすのも一苦労ですね……
――お前は戦場に出ないのか?
痛くないようにゆっくりと体を横たえながら尋ねる。
――自分の仕事は少佐殿の看病ですから。
――そんなもの、救護班にやらせればいい。
――あの人たちは信用できません。いつもいつも、少佐殿の悪口ばかり……
そこまで言ってナジェージダははっとして両手で口を塞ぐ。
――……すいません。
――いや、いい。気にするな。周りからよく思われていないことは吾輩が一番よく知っている。
そういうとナジェージダは頬をふくらませて悪態をつく。
――だいたい納得できません!どうして少佐殿が悪くいわれる必要があるんですか!誰よりも一番祖国のことを思って戦っているのは、他ならぬ少佐殿だというのに!
その様子がどうにもおかしく、笑いをこらえながらナジェージダを諌める。
――そう言うな、同志伍長。彼らも祖国のために命を捧げるつもりでいる。程度の問題じゃない。
――……失礼しました。以後自重します。
しゅんとなったナジェージダを見て、ころころと表情の変わるやつだと、我慢しきれずに少し笑いが漏れてしまった。
――何か自分は変なことを言いましたか?
――いや、なんでもない。気にするな。

――同志少佐殿。
――なんだ?
――自分は、ずっと少佐殿の傍におります。たとえ全ての人間が少佐殿の敵に回ったとしても、自分は少佐殿を支え続けます。
身を乗り出し、真剣な眼差しで言うナジェージダ。
――よせ……吾輩はそんな価値のある人間ではない。
――そんなことありません!
一際大きな声。重症の身には響くが、黙って聞くことにした。
――少佐殿は素晴らしい方です!今の自分があるのも、少佐殿のおかげです!
――……そう言ってくれるのは嬉しいが、そんなことをしても何も得はないぞ?
――損得の問題ではありません、これは自分の使命です。そう確信しております。
さらに身を乗り出すナジェージダ。その瞳には自信が満ち溢れていた。
――……ふん、変な奴だ。
――よく言われます。
そういってナジェージダは舌を出して照れるように笑う。
――……同志少佐殿。
――今度は何だ。
――少佐殿は、自分一人で少々無茶をしすぎだと思います。少しは、我々部下を頼ってください。でなければ……
今回みたいに、いつも重傷で済むとは限りません、消え入りそうな声でナジェージダが言う。
――上官の吾輩が率先して戦わずしてどうする。それにもし吾輩が死にかけていたら、お前が地獄まで呼び戻しに来い。吾輩を支えるつもりなら、それぐらいしてもらわんと困る。
そう言うと、ナジェージダはしばらくぽかんとしていたが、急に噴き出した。
――何がおかしい。
――い、いえ、失礼しました……。お任せください、同志少佐殿。このナジェージダ・ドロワ、何があろうとも少佐殿を死なせるようなことはいたしません!
そういって敬礼を取るナジェージダ。
この女なら本当に地獄まで来るかもしれないな、そう思うとまた笑いがこみあげてきた。

目を開ける。一点の汚れもない真っ白な壁が目に入った。
いや、天井か?自分が体を横たえていることは感覚で分かった。
体をごそごそと動かす。体に伝わる柔らかい生地の感触。
どうやら自分は今ベッドに横たわっているらしい。
「……生きている、のか?」
そう呟くと、視界の端からさっきまで夢の中で見ていた顔が覗き込んできた。
やたらと驚いた顔をしている。
「ナジェージダ……」
「ボリスビッチ殿……気がついたんですね!?」
「……ああ、どうやら、生きているらしいな」
「よかった……本当によかった……」
目にいっぱい涙を溜めて喜ぶナジェージダ。
やがてすぐに限界を超えて溜まった涙は、ぼろぼろと彼女の頬を伝って落下し始めた。
「……吾輩は、どうなったのだ?」
ナジェージダの肩を抱きつつ尋ねるが、とてもじゃないが彼女は喋れる状態ではなかった。
今では大粒の涙を流しながらわんわんと大声で泣いている。
「アナトリアの傭兵に、感謝するんだな」
低く、落ち着いた声。声のした方を見ると、部屋のドアの傍に、初老の男が立っていた。
「……将軍……」
「よせ。私はもう将軍などではない」
かつてのボリスビッチの上官であり、現在はテクノクラートの特別顧問を務めている男は、両腕を組んで二人を眺めていた。
「一週間も目を覚まさなかったのだぞ」
「……自分は一体……?」
「アナトリアのネクストがお前に放った最後の一撃。急所を外し、ネクストの機能だけを停止させた。お前を殺さないようにな」
「なんですって……?」
「撃破されたお前の機体を見たが、あの射撃精度はまさに神業だな。まぐれでできることじゃない」

「つまり、自分は……生かされたのですか?」
「そういうことになるな。……敵に生かされるなど、軍人として最低の屈辱だと思わんかね」
その言葉を聞き、ボリスビッチは顔を伏せる。しかしすぐに顔をあげ、こう答えた。
「確かに以前の自分ならば死んだほうがましだったと思ったでしょう。しかし今は……あの傭兵に感謝の言葉を述べたいと思います」
それを聞いた男は目を丸くし、声を上げて豪快に笑った。
「変わったな、同志ボリスビッチ。お前の口からそんな言葉が聞ける日が来るとは、思ってもみなかったぞ」
「……彼女の、おかげです」
そう言ってボリスビッチは、自分の腕の中でまだ泣いているナジェージダを優しく撫でた。
「そうか。私もそう答えただろうさ。家庭を持った今ならば、な」
そう言って男は組んでいた腕をほどき、ボリスビッチに向き直る。
「同志ボリスビッチ。怪我が回復し次第、同志ナジェージダとともにイクバール、テクノクラート両社の教官となれ。右も左も分からんひよっこどもが待っている」
「将軍……」
「まぁ、しばらくはゆっくり休め。致命傷ではないとはいえ、全治二ヶ月らしいからな」
「はっ、そうさせていだだきます」
部屋を出て行こうとした男が、ドアノブに伸ばした手を止める。
「ああ、そうだ、言い忘れていた」
「なんでしょうか?」
「結婚おめでとう、幸せにな」
「は?」
なんのことか分からずにナジェージダを見る。
いつの間にか顔を上げてこちらを見つめる彼女がボリスビッチの左腕をつかみ、見える位置まで持ってくる。
左手の薬指には、いつ着けたのか全く覚えのない金色の指輪が、キラキラと輝きながらはまっていた。

「まさか本当に地獄まで連れ戻しに来るとは思わなかったな」
「何の話ですか?」
「いや、気にするな」
日光が差し込む病室で、ナジェージダはベッドの隣に座って林檎を剥いていた。
ボリスビッチはというとろくに動くこともできないので半身を起したまま、彼女が器用に林檎の皮を剥いていく様子を見つめていた。
「私ね、分かったんです。たとえ軍人でも、血を流さずとも誰かを守ることができるって」
「ふうん?」
ボリスビッチの口に切り分けた林檎を運びながらナジェージダは続ける。
「私たちは、別に何かせずとも、ただ傍にいるだけで、愛する人を守ることができる。祖国全体を守ることはできないかもしれないけど、自分の愛する人を守るくらいはできるって、分かったんです」
しみじみと言うナジェージダに林檎を飲み込み終えたボリスビッチが尋ねる。
「それも、一人の軍人としての答えか?」
その問いに、ナジェージダは首を振る。
「いいえ。一人の、母としての答えです」




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