がんばれトルーパパー

アリーナC-17、トルーパーには娘がいた。男手ひとつで大事に育ててきたつもりだったが、何分彼はレイヴン。
娘と一緒にいる時間は不定期で、そしてその時間は決して長いとは言えなかった。
娘が成長してお年頃になり、世の娘たちが父親の服と一緒に自分の服を選択されるのを嫌がる頃、娘は家を飛び出した。
娘の部屋からは衣類一式、そして家からはトルーパーのクレジットカードが消えていた。
代わりに家に増えていたものは一枚の置手紙である。
手紙と言ってもA4サイズのコピー用紙に、極太のマジックで
『バカ親父!!』
と一言書いてあっただけだったが。
それからしばらくは仕事が全く手につかなくなった。娘が心配で心配で、家庭を顧みなかった自分が情けなくて情けなくて。
アリーナでは何連敗したか分からない。ミッション中に泣きながらオペレーターに愚痴った。
ゲドに慰められた。ファナティックに白い目で見られた。
噂を聞きつけたワルキューレに酒をおごってもらい空が白けるまで愚痴を聞いてもらったこともあった。
しばらくしてなんとか立ち直ったが、娘の安否が気にならない日はなかった。

ある日アリーナの新人一覧を眺めていると一人のレイヴンが目についた。
『E-19 レジーナ』
娘の名前である。んな馬鹿な。きっとレイヴンネームが偶然一致しただけだ。
しかし実名でレイヴンをやっているものも少なくないのも事実である。
そしてあることに気づき彼は目を真円に迫るほど丸くする。
エンブレムが自分のものに酷似している。
たしか自分のエンブレムは絵にして家の壁に飾り、娘もそれを幾度となく見ていたはずである。
ならばそのエンブレムをどうにか思い出しながらアレンジしたという可能性は十分にある。
彼はこのレイヴンに、否、娘に会いたくなった。
会いたくて会いたくてたまらなくなった。
もう彼の中ではこのレイヴンは娘だと確定していた。
アリーナで試合後のレイヴンに会いに行った。
「レジーナを頼む」
バーでテキーラでも頼むかのように(母音一緒だしね)控室の前にいる人間にそう告げると、彼は控室の中に入っていき、すぐにでてきた。一人の女性を従えて。
娘だった。レジーナだった。
彼女は自分の顔を見るなり面喰っていたが、すぐに傍まで駆け寄ってきて、にこりと笑った。数年ぶりに見た娘の笑顔だった。
次の瞬間彼は床にあおむけに倒れていた。左頬が尋常じゃなく痛む。何だと思い首を上げると、右拳を振りきった愛娘がいた。
普通俺が黙って出て行った娘を殴るべきじゃないかと思ったが、すぐにどうでもよくなり、涙腺が崩壊した。
一日も心配しなかった日はなかった娘が今目の前で立派にレイヴンとして立っている。娘が無事に成長している。
もうそれだけで彼の相貌からは塩水がとめどなくあふれ出し、口から嗚咽まで出てきて、
最終的には控室の前、廊下のど真ん中でわんわん泣いていた。
「良かった……良かった……」
ずっとその言葉を繰り返しながら泣いていた。

娘は父親がレイヴンだったことは知らなかったらしい。まあ言ったことなかったし。
エンブレムもただの絵だとおもって真似ただけらしい。父親への尊敬の証だと思ったのに、パパちょっとショック。
さらにショックなことがあった。アリーナのロビーをぶらぶらしていたら、娘が知らない男と話していた。しかも楽しそうに笑いながら。
あとで訊いてみると友人だと言われた。アップルボーイというらしい。何がアップルだ。チェリーボーイに改名しろ若造が。
なんとなくムカついたので模擬戦を申し込んで叩きのめした。
その後娘に思いっきり尻を蹴り上げられて掘られたゲイのように絶叫したが後悔はしていない。
またある日アリーナのロビーをぶらついているとまたしても娘が違う男と話をしていた。楽しそうに。さも楽しそうに。
訊くと友人だと言う。×××××というらしい。よしパパ覚えた。
考えていることがばれたのか娘に言われた。
「どうせまた模擬戦挑むつもりなんだろうけど、親父多分負けるよ?」
ハハハ、何を言うんだマイドーター。君のお父さんはあんな青二才に負けるような男じゃないよ。
挑んだ。負けた。信じられないほどの差をつけられて負けた。中にロイヤルミストとかエースが入ってんじゃねえかってぐらい強かった。
しょげているといつの間にか目の前に娘がいた。廊下の真ん中で腕を組んで仁王立ちしている。目が合った。
――ふっ。
鼻で笑われた。愛するマイドーターに鼻で笑われた。パパ立ち直れないかもしれない。
後ろから足音が聞こえた。振り返るとあの青二才だった。×××××だっけか。パパこいつ嫌い。
「レイヴン試験のとき、この人に助けられたんだよ。彼がいなかったらあたし今頃死んでたんだから。ほら、親父からもお礼言って!」
なんと娘の命の恩人だったか。それは失礼なことをした。私トルーパーという者でこのレジーナの父親なんです以後よろしくお願いします。
ほほ笑む青二才改め娘の命の恩人。手を差し出してきた。
「ああ、こちらこそよろしく。いい娘さんをお持ちですね。」
娘のこと褒められた!パパこいつ好き!丁寧に握手!
「……嫌味か?」
こらなんてこと言うんだマイドーター失礼だろう。
「いやぁ、本心だよレジーナ?」
ほら彼も本心だって言ってあれなんか今すげえ嫌味ったらしい顔してた気がするけどよく見えなかったまあきっと気のせいだパパの気のせいだ。

ある日娘がアリーナで負けた。娘は悔しそうだった。
チェリーボーイと命の恩人さんが慰めてた。その撫でる手をどけろ童貞林檎。
相手を模擬戦に呼び出して叩きのめした。いやあスカッとした。娘も喜んでいるだろう。
次の日娘に模擬戦を申し込まれた。尊敬する父親の技術を盗もうと言うんだねパパ喜んで協力するよマイドーター!
なんかびっくりするほど叩きのめされた。爆風で視界が埋まって気がついたら負けてた。マイドーターつええ。
機体を降りると娘が近寄ってきた。おお握手かい抱擁かいマイドーター。
気がつくと天井を眺めていた。左頬いてえ。振りぬいた右拳から人差し指を出して娘が叫ぶ。
「余計なことすんなバカ親父!」
娘よ私は何を間違ったんだい。

アリーナのロビーにもどると娘が昨日自分が鉄拳制裁した相手に何やら謝っていた。
何をそんなに頭下げているんだ娘よ相手ももういいといった風じゃないかもうやめておけ戦士はそんなに頭を下げるもんじゃない。
娘がこっちに気づいた。ずかずかと歩み寄ってくる。目が逆三角。黒っぽい赤っぽいオーラが見える。わが娘ながら正直怖い。
ぐいと腕をつかまれ連れて行かれる。
「一緒に謝って!ほら!」
後頭部をつかまれ無理やり頭を下げさせられる。なんだ一体私が何をしたというのだ娘よ。





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