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兄は誰よりも優しかった。
口が悪いせいで周囲からの評判は決して良いとは言えなかったが、自分から見れば世界で一番優しい人だった。
兄はレイヴンだった。
両親に事故で死なれ、学校にいくどころか食べていくことにも困った自分たち二人は必死に働いた。
昼間はずっと働きっぱなしでとても疲れているはずなのに、兄は夜寝る間も惜しんで何かしていたようだった。
まだ幼かった自分には、兄が何をしているのか分からなかったが。
そしてある日、兄はレイヴンになった。
兄はまだ幼いというのに必死に働く自分に楽をさせてやるため、寝る間も惜しんで勉強し、体を鍛え、レイヴンになったのだった。
そうして兄は、一攫千金を夢見てアリーナへと参戦した。
もともと才能があったのだろう。
兄はアリーナへ参戦するや否やあっという間にEランクを飛び越え、Dランクを踏み越し、Cランクへと登り詰めた。
一躍、兄は時の人となったが、そのことに特別関心はなかったようだ。
兄の活躍のおかげで自分は働かずともよくなり、学校へも行かせてもらえた。
学校ではいつか兄に恩返しするためにと、必死で勉強した。

兄は依頼を受けることはほとんどなかった。
アリーナだけならば家にいる時間が長く取れるし、死ぬ心配もほとんどない。
自分が兄を失い、天涯孤独の身となることを案じてのことだった。
周囲には、ただ強さを求めているだけ、と言っていたようだが。
自分が学校の試験で毎回トップを勝ち取っている頃、兄はBランクへと登り詰めていた。
そしてこの頃から、自分の中に一つの思いがくすぶり始める。
理由も分からず体を鍛え始めたのもこのころだった。
おそらく、自分の中のくすぶりに急きたてられてのことだったのだろう。
自分が学校を卒業するころ、兄はとうとう、Aランクへと到達した。
全てのレイヴンの憧れ、三強に名を連ねることとなった。
帰宅した兄に涙でぐしゃぐしゃになった顔でなんとか一言、おめでとうと言うと、兄は照れ臭そうにありがとう、とだけ答えた。
あの時の兄の顔は、一生忘れることはないと思う。
そしてこの時、自分の中のくすぶりは、確実な炎となって、めらめらと燃え盛っていた。
兄に追いつきたいという思いとなって。

学校を卒業すると同時に、兄に一言、レイヴンになりたいと言った。
自分のためにレイヴンになり、学校を卒業までさせてくれた兄には悪いと思ったが、
それ以上に自分は、はるか高みにいる兄の背中に触れたいと思っていた。
「お前のやりたいように、やればいい。」
驚くそぶりすら見せず、笑顔で兄はそう言った。
おそらく、ずっと前から兄には分かっていたのかもしれない。
自分が兄に、レイヴンとしての兄に、憧れの眼差しを向けていたことを。
それからは血のにじむような毎日が続いた。
兄は働き疲れた体で毎晩、こんな努力をしていたのかと思うと、改めて兄のすごさを感じずにはいられなかった。
ボロボロになりながらも、弱音は吐かなかった。
吐いてしまえば、兄がもっと、遠のいてしまう気がしたから。
そしてとうとう、自分もレイヴンとなる日が来た。
早く兄に報告したくて家に帰ると、兄の姿はなかった。
テーブルの上に手紙が一枚置いてあって、おめでとうと一言、書き綴ってあった。
自分が雛から立派な烏へと成長した日。兄は雛を守る役目を終えて、巣立ちをした。

それからは当てもなく霧の中を走り回るように、がむしゃらに戦い続けた。
兄までとはいかなかったが、自分がランキングを登り詰める勢いは、大いに騒がれた。
それでも、進む先に兄の姿は見えず、ただ霧が視界を埋め尽くすばかりだった。
自分がレイヴンとなった日から、数年が経った。
兄の噂は、たまに耳にする。
今だ実力は衰えず、地下ではロイヤルミストの名を知らないものはいないらしい。
あれから兄には一度も会っていないが、それでいいのだ。
自分はもう、雛ではないのだから。
そして今日。自分は、兄のいる高みに手を伸ばそうとしている。
自分の中で、大きな意味を持つこの一戦。
この試合に勝てば、晴れて自分は、地上アリーナAランクの称号を得ることができる。
兄と同じ場所に、立つことができる。
モニターに表示される、試合開始の合図と同時に、愛機シルエットを疾駆させる。
兄はこの戦いを見てくれているだろうか。広いレイヤードのどこかで、応援してくれているだろうか。
深い深い霧の中、走り続けた先にようやく、兄の影を見た気がした。




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