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「どんなのっすかね?」

作戦領域であるローダス兵器工場へ向かう輸送機。
その格納庫内で、本作戦参加レイヴンの一人、グルマンディーズが自機コクピット内の通信設備を使用して問う。
相手は、隣に立つ、と言うより鎮座する四脚型ACの搭乗者。
「どんなの、って何だよ。あんた、依頼内容聞いてないわけじゃないんだろ?」
「陽働作戦だってのはわかるんですけど……100000cの報酬って、物凄い額じゃないですか」
「は?物凄い額?」
グルマンディーズの言葉に、相手は驚愕を露わにした素っ頓狂な声を上げる。
「え、凄い額…ですよね」
「サイレントライン近辺の依頼なら珍しい額でも無いだろ。あんた普段、どんな高額の依頼請け負ってるんだ?」
相手の返答に暫し黙った後、グルマンディーズがやや怖じ気づいた様に返す。
「いや、あの、低いとかじゃなくて。100000cって物凄い高額ですよねっていう。そういうニュアンスなんですけど」
「……なあ、名前聞いていいか」
「グルマンディーズです」
「あんた、レイヴンズアークか?」
「いや、コーテックスの方なんですけど」
「……ラ…ランクは?」
「五本の指に入りますよ。下から数えて」

「ど…どしん…」

「え?聞こえないんでもっかい言ってもらえます?」

「ド新人じゃねーか!お前死ぬ気か!?何考えてサイレントライン近くの依頼なんか請けてんだよ!」

「いやいやいや。死ぬ気は1ペタたりとも無いっすよ、そんなにヤバイ場所なんですか?」
グルマンディーズの言葉に、四脚の搭乗者は大きく溜め息を吐く。
「あのな。その口振りからして知らないんだろうけどな、サイレントラインって何か知ってるのか?」
「全然。それ食えるんですか?魚介?肉類?意表を突いて青果系統とか」
「駄目だこいつ」
「呆れないで教えて下さいよ!」

「サイレントラインってのはな。要するに誰も越えられない領域の事だよ」
「越えちゃえばいいじゃないですか。Bダッシュでぴょんって」
「やっぱこいつ駄目だ」
「ちょっw教えて下さいよ」

「まぁ……コレ見ながらの方が早いだろうな。データ送るぞ」
四脚の搭乗者が言うなり、グルマンディーズのコックピットのモニターへ、動画が添付されたメールが送信されて来た。
「ここら辺の大体の地図だ」
グルマンディーズが開くと、モニターに作戦領域となるローダス兵器工場周辺の地図が表示された。
「なんか地図の大部分が赤いんですけど、なんですかコレ?滅茶苦茶デカいし広いし」
地図には、ローダス兵器工場から東に、地図面積の大部分を塗りつぶす程の、血の河の様な赤い帯が掛かっていた。
「それがサイレントラインだ。地下世界を抜けて地上に生活圏を広げ始めた人類、その人類が行き詰まった壁みたいなもんだな」

「これが…サイレントライン……」

「もう少し見たら別の画像が出る。それが誰も越えられない理由だ」
十数秒ほど件の地図が映し出された後、急に画像が切り替わった。
モニターに映るのは、小型の飛行型と思われるMT、重量級二脚ACと思われる人型兵器。
そして、肩に9のエンブレムを付け、赤と黒で塗装された中量級二脚ACと見える機体。

「えと、こいつらがどうかしたんですか?」
「まぁ、どれもヤバいっちゃあヤバいんだけどな、真ん中の方が一番ましな奴だ。右の小さい奴、わかるか?」
グルマンディーズが、右に表示された小型兵器に目をやる。
「サイレントラインの中はな、たまにそのチビがバンバン飛んでくるんだってよ」
「飛んで来たって撃ち落とせば…」

「撃ち落とせる様な数と速さじゃねーんだよ。俺も直に見たわけじゃなく資料映像だけだけどな、雨みたいにドバァーッと突っ込んで来て、わけわかんねー内にドカンだよ」
自然災害、天災に近いレベルだな。と言って四脚の搭乗者は苦笑する。
「何処の誰が作ったのかも、何処で作られてるのかもわかんねえって代物だ。企業やコーテックス、アークのお偉いさんは便査上【特攻兵器】って呼んでるらしいけどな」
「怖っ。じゃ、じゃあ残りの二つは…」
「この流れなら想像付いたと思うけどな」
「襲って来る、とか」
「ビンゴ。しかも白い重二の方は倒しても倒しても新品がまたやってくるオマケ付きだ」
グルマンディーズの見ているモニターに、今度は白い重二の映像が映る。
件の機体は、見た目通りの重武装を駆使して企業の施設やMTを破壊し尽くしていた。
「……赤いのはどうなんですか」
「赤いヤツに関しちゃ資料なんて殆ど無い」
「珍しいんですか?」
「いや、襲われた奴と施設がな、皆殺しで皆壊しにされてんだよ。その画像も、奴に大破させられたACから僅かに回収出来た1シーンだ」

「皆…殺し……」
「そう、皆殺しだ。何せ倒した奴が居ないから再出現するかどうかもわからない。
もしこの怪物も倒しても出てくるってパターンなら、人類にゃ本当に越えられないラインなのかもな」
と、そこで四脚の搭乗者が一息つき、思い出した様に言う。

「まさかとは思うが、今回の作戦に参加するレイヴンの事、全員把握してるよな?」
「…………」
「俺は説明係かよ。まぁ、仕方ねえか。全員で五人。
ドロール、AC:ブラッククロス。
武装はマシンガンにブレード、肩はロケットとレーダー。地雷も積んでるらしい。腕は並みだな。
二人目はプルガトリオ。重二脚AC:ミクトランテクトリ。
両肩両手ロケット尽くし。施設破壊にゃ向いてるな、腕は…並みってとこか。
三人目はお前、グルマンディーズ。言うまでも無いがタンクにリニアキャノン、火炎放射器に投擲銃…ってオーーーーイ!!!」
スピーカーを通して四脚搭乗者の声がグルマンディーズの耳をつんざく。
「な、なんですか?」
「なんですかじゃNEEEEEEYO!!なんだこの武装!お前マジで死ぬ気で来たのか!?」
「大丈夫ですよ。多分」
「多分かよ!」
「機体名はエルドラドです」
「聞いてねえよ!……引き続き四人目、カゼス。中量二脚AC:雷覇。
マシンガンとブレード、肩はレーダーと五発発射のマイクロミサイル。
腕は五人中トップ。レイヴン全体でも上位に入る実力者だ。
で、最後に俺。カオスアトラクター、四脚AC:トリックスター。
武器は見ての通り武器腕のレーザーキャノンのみだ。腕は、まあ、その、なんて言うか、うん。あれだよ。な?」
「な?じゃわかんないっすよ」

「うるせえな!並みだよ並み!悪いかよ!ほら、もうそろそろ作戦領域に着くから準備しろ!」

「作戦領域に到達。AC投下と同時に離脱します」
最早お馴染みとなった輸送機からの通信。
くすんだ金色のエルドラドと、やや赤みがかったトリックスターの二機が轟音と共にアスファルトを飛散させて着地する。
平行して飛んでいた残り二つの輸送機からも、数秒遅れで残りの三機、黒とピンクのブラッククロス・暗い赤と灰色の雷覇・奇抜なパステルカラーのプルガトリオが着地。
「緊急放送!敵ACが工場に出現!直ちに迎撃しろ!繰り返す、直ちに迎撃しろ!」
工場の何処からか響く緊急放送。
カオスアトラクターが全員に通信を送る。
「依頼内容は敵兵力の足止め、出来るだけ多く敵兵力を排除し施設を破壊、ってとこだな」
「役割分担はどうする?」
それに割って入ったのはプルガトリオ。
「AC五機もいれば適当にやっても大丈夫じゃないっすか?」
グルマンディーズが気楽な調子で言う。
「俺も同意見だな」
「同じく俺もその考えだ。異論は?」
グルマンディーズに賛成するのはカオスアトラクターとドロール。
「…どうだかな」
口を挟むのはカゼス。
「どうだかな、ってどういう意味だよ」
「レイヴンを五人も雇うって事は、逆に言うならレイヴンを五人も雇わなければいけない何かが有ると考えるべきだ」
「今さら言っても始まらんだろう。俺は好きにさせてもらうぞ」
ドロールが通信を打ち切り、ブーストダッシュで施設に接近、手当たり次第にマシンガンをバラ撒き始める。
「アレじゃこの先生き残れねえな。ま、いいか。俺も始めるぞ」
「……全く。仕方ない、俺も任務を開始するか」
プルガトリオのAC:ミクトランテクトリが、その全身に針鼠の如く装備したロケットを乱射。
工場の外壁を突き破ったロケット弾頭に追従する様に、雷覇のブレードが施設の壁面を真一文字に切り裂いていく。

施設破壊を始めた三機を見つつ、グルマンディーズが隣のカオスアトラクターへ問う。
「どうするんすか?」
「どうするもこうするもやるしかないだろ。でも俺は休憩な、お前はリニアと投擲でもぶっ放しとけ」

「休憩?サボリじゃないすかそれ」
グルマンディーズの突っ込みに、カオスアトラクターは自機の武器腕を向けて見せる。
「お前は馬鹿か阿呆か間抜けか?俺の武装はさっき説明しただろ。両腕のレーザーキャノンしか無いんだぞ。施設破壊に使う無駄弾なんかねーんだよ」
「…はいはい了解了解。んじゃ行って来ます」
「わかればぉkだ!がんば!」
遅れてのろのろと進行していくエルドラドを眺めつつ、手を振る様にトリックスターがその両腕を上下に動かす。

「で、どうしたら良いんだろう」
がんば!と言われて送り出されたは良いけど、何をすべきか迷ってしまう。
適当に目に付いた建造物や車両へ、リニアガンと投擲銃を数発。当然あっと言う間に破壊。
こんなので100000c+追加報酬とか良いのか?と思ってしまう。
まあ、とりあえず工場とかにぽちぽち撃ち込んでおこう。
「敵MT及び航空部隊が出現、迎撃して下さい」
オペレーターからの通信、旋回して背後を、それとレーダーを見てみる。
次の瞬間、モニターが爆炎に塗り潰された。
「えっ!?な、ちょっ!何だ何だ!」
正面には茶色い四脚MT。今のはグレネードなのか?
レーダーには三十を軽く超える赤青の光点。ヤヴァイよこれ!
パニクっている内に次々とグレネードやらプラズマキヤノンを被弾。
《コア損傷》
全く何をどうすれば良いのかわからない。こんな大量のMTがドカドカ撃ってくる状況なんて初めてだ。
軽く目眩がした瞬間。
目前のMTの横っ腹を、ピンクの閃光が貫いた。
そして爆発。背後に居た光点が立て続けに一つ二つと消えていく。
「おーい!ボサっとしてんな!」
僅か10秒足らずの出来事に呆然としていると、通信が入ってきた。
カオスアトラクターさんからだった。

「MT程度に使わすなっつーの、おい、右見ろ右」
言われるがままに見る。さっきのMTと同型のそれが、こちらに砲身を向けている所だった。
「撃て!」
やはり指示されるままに、リニアガンと投擲銃を撃ち続ける。
MTへ螺旋を描きながら超高速の弾丸が直撃し、次いで放物線を描いて投擲弾が命中。
3セット程で茶色の装甲板を撒き散らしながら、MTが爆発。
「混乱したら壁を背にしてサイティングに集中しろ」
「危なくなったら俺らがフォローしてやるから」
カゼスさん、プルガトリオさんから通信が入ってくる。
「……はい!」
その後は、壁を背にして戦闘機やヘリをリニアガンで掃討。
接近したMTはカゼスさんとドロールさんがブレードとマシンガンで。
中距離のMTはプルガトリオさんのロケットのサポートにあやかりつつ、リニアを撃ち込んで撃破。

「掃討完了、だな。残弾と損傷度合いはどーよ?」
敵を全滅させた後、俺達は工場敷地内の中心に集まっていた。
「弾が残り半分だな。損傷は四割弱だ」
「で、そこの百式はどうよ?」
ドロールさんに百式呼ばわりされた。そもそも百式はタンクじゃないだろ。
「俺は損傷一割、残弾十割だな」
「百式じゃないっすよ。……損傷六割、残弾七割弱っすね」
……ん?今何か聞こえたような。
「みんな聞こえてるか?損傷一割、残弾十割。以上」
声の主の方へ、全員が視線を移す。
カゼスさんのAC:雷覇が、工場の天井部に悠然と立っていた。
黒と灰色でカラーリングされた期待には、敵弾が掠った際に付いたと思われる僅かな焦げ跡しか付いていない。
「残弾十割って事は…あんた、全部ブレードかよ。半端ねーなオイ」
カオスアトラクターさんが笑っている。苦笑いだ。俺だって苦笑いをせざるを得ない。レベルの違いとはこれ程の物、という事なんだろうか。

「終わりか」
「こんなもんだろう。こっちはAC五機だぞ」
「の割には手間取ってる様に見えたけどな、プルガトリオ」
「何言ってんだよ。俺のロケットの命中率見てたかおい?」
「悪い、全然見てない」
カオスアトラクターさん達は呑気に笑い合っている。
「ともかく、後は施設を破壊するだけっすね」

「待て、レーダーにまだ反応がある…」

カゼスさんが言うと同時に、プルガトリオさんの機体の背後から、巨大な火球と青い光球が飛んでくるのが見えた。
「プルガトリオ!後ろだっ!!」
ドロールさんが言うが、その時にはもう遅かった。
「後ろ!?…ぐおおっ!!」
プルガトリオさんは二発の直撃を喰らいつつも、弾が飛んで来た背後へ機体を旋回させる。
しかし、俺のタンクほど酷くは無いとは言え重量二脚、その旋回性は低く―――――振り向き終えたのも、やはり遅かった。
「くそっ…」
再び同タイミングで発射された二発を正面から浴び、ミクトランテクトリの右腕が吹き飛び、機体の全身から火花が散った。
「すまん!撤退する!」
ミクトランテクトリが建造物を盾に追撃を逃れつつ、ブーストを全開に噴かして敷地外へ消えていく。

それを見届けた後、俺を含め残る全員が弾の飛んできた方向を見る。
俺達から距離にして600程離れた工場の敷地内ギリギリの地点。
そこには、二機のACがキャノンを構えていた。
片方は灰色、もう片方はブラッククロスに似た、黒とピンクの二脚ACだった。

「楽な任務だと聞いていたんだがな。AC五機が相手とは聞いて無いぞ、サトゥルヌス」
「いいじゃないかアンファング。今ので四機に減ったんだ。残りも手負いだ、どうって事は無い」

《敵ACを確認、ランカーACイシュタムです》
「あの黒いもう一機は…サトゥルヌスのAC:ディストラストか」
俺の横で、カオスアトラクターさんが言う。
「どんな奴なんすか?」
「腕は並みだがな、この状況じゃ武装がヤバいな。なんせプラズマキャ……来たぞっ!!」
再び青い光球と赤い火球が飛来。
俺は建造物の陰に避難し、カオスアトラクターさんは浮遊して回避する。
カゼスさんとドロールさんも同様に、建造物の陰へ待避。
《敵増援を確認》
「まだ来るってのか…」
苦々しげにドロールさんが言う。それを言いたいのはこっちだ。
もう帰りたい。本気で撤退したい。
一応レーダーを見ると、範囲ギリギリに青い光点が一つ。
戦闘機かヘリだろうか。しかし一機だけの増援なんて…。
「輸送機だな」
こちらの心中を察した様にカゼスさんが呟く。
視点をやや上げて見ると……あれは、毎度お世話になっている一般的なACの輸送機っておいおいおいっ!!
まだAC来るの!?ねえどーなってんのコレ!?

と、パニクりつつも一応輸送機へ向けてリニアガン発射。
駄目です全く届いてません。
そうこうしてる内に、輸送機から真っ黒い軽量らしい二脚ACが降下してきた。
あれ?なんか細い感じだしひょっとして紙装甲なんじゃないのか。
ひょっとしてひょっとしたら簡単に撃破出来るんじゃ

「…赤い星だと……」
カオスアトラクターさんが何やら驚いている。
「奴が出て来るとは。これで質の優位は無くなったか」
カゼスさんもなにかヤバい物を見てしまった様な口振りだ。
「あの。世間知らずな事聞いていいですか」
「クレストの【赤い星】を知らない、とか言わないよな」
先手を取られた。カオスアトラクターさんは、もう俺のパターンに慣れたらしい。

「クレスト専属のAC乗り、通称【赤い星】腕は全レイヴン中トップクラスだ」
強敵キタコレ。
「今すぐ撤退したいんすけど」
「お前の機動力じゃ確実に追いつかれるぞ」
だよな、タンクだしな。
「撤退したけりゃ【赤い星】だけでも撃退しなきゃ帰れんだろうな」
無理っすよ。
「……【赤い星】は俺が押さえる!みんなはあの二機を頼む!」
言うなり、カゼスさんが建造物の陰から飛び出して行く。
そこへ、あの二機のキャノンが待ち構えていた様に二発。
カゼスさんは空中で揺らめく様に機体を左右に振り、一発二発と回避。
【赤い星】に挑み掛かって行った。
「あいつの相手はカゼスに任せるぞ、俺達はあの二機を叩く」
ドロールさんからの通信。
「でもどうするんすか?あれじゃ近づけませんよ」
「正面から行ってどうする、横から叩けばいいだろう。左右から迂回して行くぞ」

「奴ら、陰から回り込んで来るつもりか」
サトゥルヌスのモニターに映るロックオンマーカーは緑。
標的を遮蔽物越しにロックオンしている証だ。
時折赤に変わるもののそれは僅かコンマ数秒。とてもでは無いが命中を期待できる様な物では無い。
「防衛に雇われた俺達が工場を壊すわけにもいかないしな」
同じくアンファングもモニターの緑マーカーを見ながら言う。
そうこうしている間にも、左右から三機が徐々に接近していた。

「(そろそろか)」
ドロールのブラッククロスが、建造物の外周に沿う形で滑る様にダッシュ。
レーダーを見れば、目標の二機を視界に捉えるまで残り数秒。
恐らくは、反対側から回り込むトリックスターも同程度の距離だろう。
エルドラドは機動力の関係で同時攻撃は出来ないだろうが、それは返って好都合。
タイミングにズレが生じれば図らずも波状攻撃が成立する。


「(あと二秒ってところだなし)」
二、
一、
零。
ディストラストの黒い機体色が視界に入った瞬間、光球が飛んできた。
直撃を喰らい、自機損傷率が五割を超える。
恐らくは読まれていたのだろうが、それぐらいはドロールも読んでいる。
「真人間の二脚でキャノンは命取りだなっ!!」
発射体勢を取るため膝を着いているディストラストに、ブラッククロスがマシンガンを発砲。
当然ながら全弾が直撃。
膝を着いたままゆっくり旋回するディストラストに対し、更に回避と命中率の引き上げを狙う為に、マシンガンを撃ちながらブラッククロスが横へ回り込む。
ドロールの操縦の腕自体は決して高くは無い。せいぜい下の中か上といった所だろう。
しかし足を止めて砲台と化した敵の横を取る事など、多少なりともACを操れる者にとっては造作もない。
「到着っと、喰らえっ!」
反対側の建造物から飛び出したトリックスターが腕部プラズマキャノンを発射、やはり命中。
と、50~60発ほどマシンガンを撃ち込んだ所でドロールが気づく。
「(あのイシュタムってのは何処に消えた?)」
サトゥルヌスの横を取りながらレーダーを見れば、自分と重なる様に青い光点が一つ。
「上だドロールっ!」
カオスアトラクターが叫ぶ。
ドロールが視点を上空に上げれば、浮遊するイシュタム。
そして、炎の尾を曳きながら飛来するミサイル弾が六つ。
半数が軌道を分かち、二人へ三発ずつ飛んで来る。
「複数ロックか!」
「ちぃっ!」

トリックスターが、イシュタムの真下を交い潜る様にダッシュで回避。
カオスアトラクターが真上に居るイシュタムへロックサイトを合わせるが、イシュタムは二人の背後を取る様に着地。
二人が視点を下げながら振り向くと、今度はイシュタムしか居ない。
再びイシュタムが上昇しつつマシンガンを発射、トリックスターは被弾しながらも両腕のレーザーキャノンを叩き込む。
「…当たるかな?」
ドロールと、遅れて到着したグルマンディーズがそれぞれの主武装を放つが、イシュタムは空中で急に後退して回避、建造物の上に着地。
イシュタムが小ジャンプ移動でふらふらと天井部を移動しながら、マシンガンをバラ撒く。
その様子を見ながら、カオスアトラクターは奇妙な事に気付く。
「(なんだ?妙に消極的だな)」
近距離で真価を発揮するマシンガンを持ち、大した損傷も無いにも関わらず、適度な距離を保ち回避を重視したイシュタムの動き。
「(まさかこいつ…)」


トリックスターがイシュタムに背を向けて振り向けば、500程の遠い建造物の隙間からキャノンを構えているサトゥルヌスの姿。
すかさずロックして両腕のレーザーキャノンを放ちつつ接近。
「…気付かれたか」
一発喰らいながらも発射体勢を解除し、ディストラストが建造物の裏へ消える。
「こいつが囮でサトゥルヌスの奴が移動砲台ってわけか。ドロール、グルマンディーズ!俺はサトゥルヌスを狙う、後は任せた!」
「させるか」
イシュタムの肩部ミサイルハッチが開き、背を向けたトリックスターをロック。
「させないのはこっちっすよ」
「余所見とは余裕だな」
五発までロックした所で、ブラッククロスのマシンガンとエルドラドのリニアガンがイシュタムへ同時に炸裂。
「…やってくれるな」
舌打ちをしながら、アンファングが二機の正面に自機を着地させる。
「これで二対一、とは言え、油断するなよグルマンディーズ」
「了解っ!」

「なる程、アークにまだこんな奴が居たとはな」
「そりゃどうも。俺も【赤い星】がこれ程とは思わなかったよ」

赤い星の駆る二脚ACとカゼスの雷覇は、高速戦闘による消耗戦を繰り広げていた。
どちらも高い機動力と操縦技術を持ち、互いの銃撃がロクに当たらない。
それに加えて、両雄共に建造物を上手く盾に使用しているのも相まって、ただ弾薬だけが消費されていく。
この展開は射撃武器をマシンガン一丁とマイクロミサイル一基しか持たないカゼスには致命的だった。
では赤い星に圧倒的有利なのか、と言えばそうでも無い。
赤い星が積んだ武装は高威力ショットガンにハンドグレネード、加えて肩にはミサイルとロケット。
一見十分には見えるが、前述の通り遮蔽物を使いながらの戦闘の為、まずミサイルの命中は期待出来ない。
加えて互いに高機動が故に、ロケットも予備の武装と考えるしか無い。
なれば頼れるのは両腕の武装だけ、その弾薬も、雷覇の装甲を恐らくは三割程削ったであろう時点で残り半分。
更に赤い星にとって都合が悪いのは……。
「(これ以上、施設を盾にするのも問題だな)」
先のアンファングのセリフでは無いが、防衛役として雇われたレイヴンが施設の破壊を助長しては本末転倒。

どちらからともなく、射撃と回避を繰り返しながら、互いにとって都合の良い敷地外へ移動していく。
両者が開けた地点へ出た瞬間、カゼスが自機を突進させつつブレードを発動。
赤い星は刃先が機体を掠めるか否かという最低限の後退をし、ショットガンを発砲。
全弾が命中し、雷覇の黒と灰色に彩られた装甲が散る。
赤い星はそれを確認すると、追い討ちにロケットの照準を合わせる。
が、カゼスがそれを予測していた様に横へ移動。
ロケットは空を切り地面へ突っ込む。
赤い星の機体が小ジャンプをしつつ雷覇に軸を合わせた瞬間、カゼスが急に後退。
やや照準を下げて発射されたロケットはまたも空を切る。

後退しながらカゼスが武器をマイクロミサイルに切り替え――――。
「行けっ!」
五つの弾頭が寄り集まる様に群れ、赤い星の機体へ向かって行く。
赤い星の機体は、それをエクステンションに装備された迎撃ミサイルで三発撃墜。
が、残りの二発が命中。
この時点で雷覇の損傷は四割。赤い星の機体は三割強。

一方。
「(流石に二対一はキツい物があるな……)」
グルマンディーズとドロールの波状攻撃を受けつつ、アンファングは自機を後退させて視界を広げる。
赤い星とカゼスは未だに戦闘中。
構えが必要なサトゥルヌスは、反撃も出来ずにカオスアトラクターに追い回されている。
これではどちらからも援護は期待出来そうに無い。
「(どうしたものか)」
ドロールは距離を詰めながらひっきりなしにマシンガンを撃ってくる。
その上、背後に詰めるグルマンディーズが次々に援護のリニアガンと投擲銃を撃ってくるせいで回避するだけで手一杯だ。
ドロールはともかく、グルマンディーズが撃つリニアガンの装弾数は100発。
恐らくは、現時点で残弾は半数を切ったか切らないかという所だろうが、弾切れを狙うにはその約50発が多すぎる。
「(片方だけでも潰すか!!)」
ここでアンファングが賭けに出た。

使えないと判断した肩部大型グレネードを捨て、最高速を引き上げる。
回り込もうとするドロールを無視し、ブーストを全開してエルドラドに接近。
「えっ!?何!?俺狙いかよ!」
グルマンディーズが慌てふためいてのろのろと後退するが、所詮タンクの通常移動。
武装を捨てて大幅に軽量化した中量二脚からは逃れられない。
アンファングがブレードを発動。
イシュタムの左腕部から光が発せられ、エネルギーの刃が形成される。
「う、うわぁぁぁぁっ!」
グルマンディーズが必死に後退するが、イシュタムがほぼ密着状態まで距離を詰め。
斬撃。

《頭部損傷》
「誰かっ、助けてくれよ!」
今の一撃で俺の機体、損傷が七割を突破。大破まであと三割。死ぬ、俺、絶対死ぬ。
いかん、いかんぞ……

「逃げろ!」
逃げろってドロールさん、あんたタンクの遅さ知ってて言ってるのか。
「運命だ。諦めろ」
イシュタムからの通信。ここで、俺は死ぬのだろうか。
「諦めるな!後退を続けろ!」
ドロールさんがイシュタムにマシンガンを撃ちながら言う。
もう地形を確認する余裕なんか無く、ひたすらにブーストを小刻みに噴かして少しでも後退速度を上げる。
でも、余裕で追いつかれた。
妙に風景がゆっくりに見えた。
目の前のACのブレードから、赤い光が見える。
ゆっくりと光は刃を形作り、やはりゆっくりと腕が自分の機体へ迫ってくる。
高さから見て、狙いはコックピット。
「(あぁ、俺を殺す気なんだな)」
ゆっくりとゆっくりとゆっくりと、コマ送りで剣先が迫る。
そして、視界が光に包まれた。

「…あれ?俺、死んでない?」
光が消えた後、視界に映るのは先と変わらない風景。
「(いや、違う)」
自分の機体の両腕が無い。斬られた、のだろうか。
「くそっ!!お前、何をした!?」
目の前ACの乗り手が、苛立ちを露わにして言う。
見れば目の前のACの両腕も無い。
何が、起きたのだろうか。

時間は十秒ほど遡る。
「諦めるな!後退を続けろ!」
と言ったものの、ドロールはグルマンディーズが死ぬ、と直感していた。
マシンガンではイシュタムを止められない。
ロケットを積んでは居るが、自分の腕ではグルマンディーズに当たる可能性も有る。
それ以前にどちらにも当たらない可能性が最も高い。
では、どうする?
考えている間にも時は動き続ける。
解決策が浮かばないまま、イシュタムが突進しながらエルドラドのコックピットへ向けてブレードを振るう。
その瞬間、ドロールは見た。
イシュタムとエルドラドの間に巨大な光柱が出現し、両機の両腕を吹き飛ばしたのを。

光柱を目撃したのは、三人だけでは無かった。
赤い星のグレネードを回避し、カゼスが反撃のマシンガンを放とうとした瞬間、視界の隅に蒼白い光が映った。
次いで、爆発音。
突然動きを止めた雷覇を不審に思い、赤い星も爆発音の方向に視線を移す。
今度は建造物の真上に光が現れた。
光に包まれた建造物は、一瞬で瓦礫の山と化した。
まるでそれが合図だったかの様に、敷地内へ無差別に光が降り注ぐ。
端から見れば幻想的で神秘的な、オーロラや虹の様な光景。
しかし、その光に飲み込まれたものは瞬時に破壊される、余りにも終末的で悪夢じみた光景。
「おい!あれは何だ!?」
光を回避しつつ、赤い星が自らの専属オペレーターを呼び出す。
「わかりません!とてつもない高度からの砲撃の様ですが、私達の知る限り、どの企業もあんな物は……」
「もういい!」
赤い星はそこで通信を打ち切った。


「何だ!?爆撃か!?」
サトゥルヌスを追撃し続けるカオスアトラクターと、彼から逃げ続けるサトゥルヌスも、やはり同じ光景を見た。

「(あれは……)」
この中で、唯一光の正体を知っていたのはカオスアトラクター。
実力はともかく、民間人への攻撃や破壊工作等の、一般的なレイヴンが嫌がる汚い仕事も厭わず請け負って来た彼は、自然とコネを持ち裏情報に精通する様になっていた。
グルマンディーズには見せていない、と言うより見せる必要も教える必要も無いと判断した情報。
それは、ある企業の幹部クラスから得た情報だった。
曰わく
『サイレントラインの中に降るのは特攻兵器だけでは無い』
『我々も把握しては居ないが、桁外れの破壊力を持ったレーザーが降り注ぐ事が有る。どの企業も越えられない最大の理由が、それだ』
その情報の信頼性はどうあれ、今現在の目の前に広がる光景は、正にその言葉そのものだ。
しかし。
「(あれが降るのは サイレントラインの中じゃなかったのか!?)」
そして、この二人は他のレイヴン達とはまた別の物を見る事となる。

《敵増援を確認》
両陣営の全員が、頭部コンピュータから流れる音声を聞いた瞬間。
カオスアトラクターとサトゥルヌスの眼前を、二つの影が横切った。

「いいか、動く奴は敵だから殺せ。動かねぇ奴はとろい敵だから殺せ。たった今から此処は【暴君】の支配下だ」
「……仰せのままに」

「(増援だと!?)」

赤い星が敷地内中央部へ視線を移した直後、瓦礫となった建造物をふわりと飛び越え、正面に一機のACが現れた。
赤をベースにカラーリングされた、線の細い四脚型。両腕はマシンガンタイプの武器腕、両肩にはレーザーキャノンを計二門。
そのACは着地寸前にブーストを僅かに噴かし、音も無く、何処か優雅さを感じさせる動作で赤い星の眼前へ着地。
《敵ACを確認 ランカーAC アルルカンです》
アルルカンの搭乗者、コルレットはレーザーキャノンを向け、赤い星へ通信を送る。

「御機嫌よう赤い星のお嬢さん、この私めの操り人形と踊って頂けますか?」

「断る」

「それは残念。しかし嫌でも踊って頂こう。芸術的にね」


「(あのACは…第三勢力と言うわけか。この隙に撤退するべきだな)」
そう考えて、カゼスがグルマンディーズ達と合流すべくダッシュした瞬間。

「逃げられると思ってんのか?糞が」

その通信と同時に、凄まじい爆風が雷覇を襲い、機体が施設の外壁へ叩きつけられた。
《敵ACを確認 ランカーAC タイラントです》
レーダーには自機が吹き飛ばされる直前の位置に、青い光点。つまり先の自分のほぼ真上だ。
見上げると、深緑・赤・黒に塗られた重逆間接機体が、上空から肩部グレネードの砲門をこちらに向けていた。

そのACは、アークに所属する自分でさえ見慣れた機体。
コーテックス旧アリーナ2位の機体。それに乗る者は。

「…BB、か」

「他の誰に見えるってんだ?あぁ?カゼス君よ。てめぇの相手はわた…じゃねえな、俺だ。この【暴君】が直々に殺してやる」

「BBとコルレットか……サトゥルヌス、聞こえてるか!?」
ドロールのロケットを回避しながら、アンファングが通信を送る。
「あぁ聞こえてる!どうする!?」
「こっちは両腕を吹っ飛ばされてる。お前もこの状況じゃ立ち止まってキャノンなんざ撃てんだろう」
「撤退という事か!?しかし、赤い星一人に任せておくわけには…」
「さっき増援要請の通信を送った!どの道この状況じゃ弾避けにもならん、退くぞ」
「了解…撤退する」
カオスアトラクターと光の柱の両方から逃げ回っていたサトゥルヌスが、急に機体を翻して敷地外へ消えていく。
「逃がしたか。グルマンディーズ、ドロール!そっちはどうだ!?」
「敵には逃げられました!でもなんとか生きてるっす!」

「アグラーヤさん、聞こえるか」
コルレットが放つレーザーと、上空から降り注ぐ砲撃を回避し続ける【赤い星】アグラーヤの元へ、アンファングから通信が届く。
「どうした」
「すまないが俺達は戦闘を継続出来そうに無い、撤退させてもらう。その代わりと言っては何だが増援要請を送っておいた。何とか持ちこたえてくれ」
「了解」

「そっちは無事らしいな。どうするよ」
細かく移動を繰り返して光柱を回避しながら、グルマンディーズ達にカオスアトラクターが合流。
「カゼスが戦闘中だ、援護に行くぞ」
「了解…ってグルマンディーズ、お前ボロボロじゃねーか」
「斬られるわ両腕ふっ飛ばされるわでこの様っすよ!…うわわわわわ、また来たぁっ!?」
カオスアトラクターの指摘に、必死で砲撃を避けながら慌てた様子でグルマンディーズが答える。
「そうだな、お前はなるべく屋根のある場所を通って行け。気休めレベルのもんだろーけどな」

「りょ、了か…うおわぁぁぁっ!当たる当たる!」

「私のレーザーに一発も被弾しないとは。流石は赤い星、と言うべきですか」
コルレットがアグラーヤのAC:ジオハーツへレーザー砲を連射しながら言う。
アグラーヤは答える事無く、返事の代わりにショットガンとグレネードの連撃。
アルルカンは散弾を僅かに喰らいつつも、避け様再びレーザーキャノンを連射する。
端から見ればアグラーヤがコルレットを押しているように見える、が。
ジオハーツの全武装の残弾は残り僅か。ミサイルはとうにアルルカンに全て避けられ、ロケットも残り10発。
ショットガンとグレネードに至っては、合わせて18発。
ここまで残弾を減らされた理由としては、コルレットの回避が上手いという事もある。
アグラーヤの放つミサイルやロケットに加え、やはりこちらと同じく上空から降る光柱までも、踊る様に軽やかに避ける。
が、最大の理由は別に有る。距離の問題だ。
アグラーヤと違い途中から戦闘に乱入したアルルカンは、装甲も弾薬も万全の状態。
二門装備したレーザーキャノンを休む事無く連射してくる事で、まるでコルレットが結界でも張っているかの様に、アグラーヤの接近を阻む。
元々、ジオハーツはミサイルを除けば近距離向きの武装で統一された機体だ。
中距離ではショットガンの散弾は散りすぎて僅かなダメージしか与えられず、ロケットとグレネードは機動力に富む四脚であるアルルカンに容易に避けられる。
「回避は見事と言う他有りませんが…、片方が逃げ回るだけの戦いをアートとは呼べませんね。これでは単なる狩りだ」
攻撃の手を休める事無く、コルレットが笑いながら言う。
「ほう、どちらが狩られる側だ?」
「それは勿論、貴女以外に思い当たりませんが」
その言葉が、彼女の逆鱗に触れた。

「ちょろちょろちょろちょろ逃げ回ってんじゃねぇぞ!!大人しく木っ端微塵に吹き飛べ蠅が!!」
BBの怒号と共に、タイラントの肩部大型グレネードが吼える。
巨大な火球が、雷覇の右肩を掠めて膨大な熱で装甲を溶かし、地に着弾して小規模なクレーターを作る。
アグラーヤと同じく、雷覇も圧倒的な弾数に接近を阻まれていた。
BBの攻撃はアルルカンの連射に比べれば幾らか精度は落ちるが、その頻度たるや半端では無い。
実はカゼスを狙っているのでは無く、この一帯を更地にするのが目的かと思える程だ。
神話の巨龍が吐き出す炎の様に、その攻撃は苛烈かつ凄絶で絶える事が無い。
「(このまま逃げ続けるのにも限界があるな)」
最早無事な施設がどれ一つとして無くなった敷地内の中、雷覇が上空を舞う【暴君】の降らせる弾雨をかいくぐっていく。
アグラーヤとBBの連戦で消耗した機体と武装では、短期決戦以外他は無い。
損傷率は凡そ六割。
残り弾数は五発発射のマイクロミサイルが二十発、つまり計四回。
マシンガンは残り三百発強。これらを使い切ってしまえば残りはブレードのみ。
「あぁぁぁうざってえなテメェ!大人しくぶっ潰れてくたばっときゃ良いんだよ!」
BBが、徐々に距離を詰めて来る雷覇に対し上空から拡散バズーカを放つ。
三つに分裂して飛来する弾頭を、瓦礫や施設外壁の出っ張りを利用しながら三つ、六つ、九つ、と回避。
「離れろ小蠅が!」
ほぼ真下まで迫った雷覇へ、ふたたひ拡散バズーカが放たれる。
しかし、接近する雷覇を一度ロックから外してしまった後に撃ったその一発は、二次ロックが為されていない射撃。
つまり未来予測では無く、その時点で目標が居る位置へただ着弾するだけ。
真上に視点を上げたカゼスは、機体を僅かに横へダッシュさせるだけで難なく回避。
「(この距離なら、やれる)」

上昇しつつ、雷覇が真上のタイラントへマシンガンのトリガーを引く。
銃口から一本の線で連なる様に飛び出した弾丸は、タイラントの脚、腰、コア、頭へ縦一列へ弾痕を刻み付けた。
更にブーストを噴かして両機体が衝突する寸前までタイラントとの距離を縮め、タイラントの腰部までがカゼスの視界に入る。
「(その足、もらった!!)」
カゼスがタイラントを両断せんとブレードを起動させようとした瞬間、奇妙な事態が起きた。

「…………っ!?」
視界が、暗闇に包まれた。
僅かコンマ数秒では有るが、その異常事態が、カゼスの機体操作の手を止めさせる。
「ぐぅっ!!」
次いで、凄まじい衝撃と振動が機体全体を走り抜け、宵の黒から獄炎の朱へと視界が塗りつぶされた。


炎が視界から霧散すると、確かに眼前へ捉えていた筈のタイラントの姿も消え失せている。
と、下方からロケットらしき攻撃を受ける。
「(機体が…持たない!!)」
振動と衝撃。どうやら二発命中したらしい。今の一撃で、モニターに映る自機の予想耐久力は二割。
下に視点を移すと、地上の400程離れた位置からこちらにロケットを向けるタイラント。
そして、ほぼ真下の地に落ちている拡散バズーカ。
「(…そういう事か!)」
「さっさと死ね」
BBが放つロケット弾頭を更に上昇して回避し、ブーストを止めて自由落下。
手頃な遮蔽物の陰に着地して避難。

「(あれが暴君のやり口か)」
一瞬ブラックアウトした視界、地に落ちた拡散バズーカ。
恐らくは、先の雷覇の様に真下へ逃れた敵、或いは真下に捉えた敵の視界を塞ぐ為に、軽量化も兼ねてバズーカを捨てたのだろう。
しかし、狙って出来る事では無い。ほぼ神業と言えるレベルだ。
「(ただの卑劣漢と思っていたが…舐めすぎていたな)」

「どうした?踊っているのはお前一人の様だが」
明らかな怒気を込めて言いながら、アグラーヤがアルルカンの右腕部へロケットを叩き込む。
コルレットが右に回り込んだジオハーツを捉えるべく右へ旋回すると、それに合わせる様にジオハーツは左へスライド。
今度は左から攻撃を受け、左へ旋回すれば右。後退すれば上空から。上空へ視点を上げれば地上から。
猛烈な勢いと機械的な精密さを秘めた射撃が、確実にアルルカンの装甲を削っていく。
「(怒らせてしまいました、か)」
先の挑発で完全に切れたと見えるアグラーヤは、ミサイルを捨てて軽量化すると、アルルカンのレーザーを喰らいながらも突進。
武器腕のマシンガンを易々と回避してアルルカンの右へ回り込み、それから先は現在の状況へ至る。
「(引き離せませんね)」
コルレットが距離を取ろうとするも、片やレーザーキャノン二門を装備したアルルカンと、只でさえ機動力に重きを置いた仕様、更に武装解除で俊敏性を高めたジオハーツでは速度に差が有りすぎる。

「大口を叩く割にはこの程度か」
「これは失礼。曲が無いのも寂しいでしょう。夜想曲で良ければ奏者ならぬ繰者も来たようですよ」
コルレットの言葉にアグラーヤがレーダーを見ると、背後から高速で接近して来る敵影が一つ。
耳慣れた発射音と同時に、ジオハーツの背へ散弾が撃ち込まれる。
「……くっ…」
アグラーヤが自機を浮遊させ、挟まれる形となった位置から脱出、瓦礫へ着陸。
《敵増援を確認 ランカーAC ノクターンです》

アルルカンの隣に、また微妙に色合いが異なる赤に塗られた軽量二脚が一機。
ジオハーツと同じショットガンを右手に、【月光】と呼ばれる最強クラスのブレードを左手に。
両肩にはタイラントと同じロケットを一基づつ。
「ザイン、遅刻は頂けませんよ」
「見物させてもらっていた。楽しそうだったからつい、な」
「もう少しで殺される所だったんですがねぇ」
「(…不味いな。格下とは言えBランカー二人が相手か)」

「バケモノかよ、あいつら」
BBと雷覇、コルレット・ザインとアグラーヤの戦いを見て、カオスアトラクターが言う。
戦闘技術の高さも有るが、驚くべきは五人が五人、一発たりとも光柱に触れてはいない事だ。
自分達は敵が居ない状態でさえ、あの光柱の回避で手一杯だと言うのに、彼らは互いに戦いつつも、上空からの砲撃などまるで何の影響も無い様子で戦闘を続けている。
砲撃を回避しながら戦闘していると言うより、あたかも光柱が彼ら五人を避けて降り注いでいるかの様な。
「見とれてる場合じゃないぞ、カゼスが危ない」
ドロールの言葉にグルマンディーズとカオスアトラクターが、カゼスとBBを見やる。
空中でグレネードの直撃を受けた雷覇が、BBの追撃をかわしながら地上の遮蔽物へ身を隠す。
そこへ、バズーカを捨てて大幅な軽量化をしたタイラントが見違える様な速さでダッシュ。
瓦礫の向こうの雷覇へ空中からグレネードの鉄槌を下すべく、上昇していく所だった。
ドロールとカオスアトラクターがロケットとレーザーを撃つ。が、距離が有りすぎてタイラントには当たらない。
「グルマンディーズ、リニアだ」
「あ、当たんないっすよ!」
「いいから撃て早く!」
ドロールに急かされるまま、光柱を間一髪で回避しつつ、グルマンディーズがリニアガンのロックサイトをタイラントに合わせる。
上空のタイラントの肩部グレネードの砲身が、畳まれていた状態からパタン、と伸びる。
「撃つ気だ…早くしろ!」
ロックサイトが黄から赤に変わる。
「頼む、当たってくれっ!」
暴君へ向け、圧倒的な弾速を秘めた弾丸が飛んだ。



「糞が糞が糞が。この俺にマシンガンなんざブチ込んでくれやがって」
遮蔽物の向こうに居るカゼスを捉えつつ、BBが自機を上昇させ、使用武器をグレネードに切り替える。
ようやくこちらに気付いて見上げる雷覇が視界に入り、サイトが赤に変わった。
「挽き肉になりやがれ……」
BBがグレネードを発射させようとした瞬間、背から衝撃と振動。
「…あぁ?」
機体を180度旋回させると、そこには三機のAC。
赤い四脚、黒とピンクの二脚、その背後に屋根を利用して砲撃から逃げ惑う金色のタンク。


《敵ACを確認 トリックスター ブラッククロス エルドラド です》
三機とも聞かない名だった。
そう言えば、ブラッククロスはアリーナの名簿で見た気がする。
確かDランクかそこら辺に居た奴だ。
隣の赤い四脚も、アークかそこらに居たような気がしないでも無いような覚えが有ると言えば有る様な無いと言えば無いような。
くすんだ金色のタンクは、確か同じコーテックスに居たような居ないような。
そんな事より重要なのは、この中に俺のタイラントに向けてぶっ放した奴が居る事だ。

それも、どいつもこいつも聞いた事が無いような小物ばかり。
あの思い出すだけでも胸糞悪い【不敗神話】の小僧や【影】、最低でも【銀狐】や鳥大老のジイさんならともかく、こんな名も無い様な低ランカーが。

こんな小物共が俺に?
この俺に一発を?
この俺に?

こんな小虫の様な奴らがこの私に?
この私に一発を?
この私に?

虫虫虫虫、忌々しい虫は穴だらけにして千切りにして叩き潰して焼き尽くして消滅させるんだ。

この虫共を放っておけばアリーナで俺がしてきた様に、何時の日か俺を叩き潰して再び敗北を味わわせる程の脅威に………

この小物どもを生かして置けば戦場で私がしてきた様に、いずれ私を死に追いやる程の存在に……

嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い怖いっ!!
俺は負けるのが嫌だ私は死ぬのが怖い俺は負けるのが怖い私は死ぬのが嫌だ
私は負けるのが嫌だ俺は死ぬのが怖い私は負けるのが怖い俺は死ぬのが嫌だ

俺は私は俺は私は俺は私は俺は私は……っ!!



「…なんだ?」
最初にBBの異変に気付いたのは、カオスアトラクターだった。
先程までカゼスに仕掛けていた猛攻とは打って変わって、攻撃してくる事も無くふわふわと宙を漂っている。

「下から上へ底辺から頂点へ外周から中心へ末端から中枢へ三番から二番へ二番から一番へ俺から私へ私からオレへ移る映る写る移る映る写る…………」

三人の機体へ、BBかららしき意味不明な通信が届く。
音程から声色まで完全に狂った、呪詛の様な呟きだった。
「気でも違ったってのか?…喰らえっ!」
トリックスターがレーザーキャノンを撃つと、宙に浮いたままのタイラントが、ふわりと幽霊の様な動作でそれを避ける。

「蛆、だな」

「はぁ?」
またも意味不明な通信が届き、ドロールが素っ頓狂な声を上げる。

「蛆だよ蛆。人間じゃなくてな。てめえらは蛆だ、放って置けば際限無く増え成長していずれ私の邪魔になる。だから―――――」
突然、OBを噴かしてタイラントが飛び回り始めた。
時折着地して小ジャンプを繰り返しながら、エネルギーが貯まるとグルマンディーズ達の周囲を飛び回るという動作を繰り返す。

トリックスターの方を向いて、急に空中でOBを解除し、距離500程で肩部ロケットが発射状態を取る。
「…ヒヒッ…人型を模して人語を語り人を騙り人に集る蛆虫は神経一本細胞の一片に至るまで壊し尽くして殺虫する他ねぇ!!」
タイラントがロケットを三発同時発射。
「当たるかよ」
自身へ飛んできたロケット弾を、カオスアトラクターは左に自機をダッシュさせて回避……出来なかった。
「喰らった!?」
直撃を受けて僅かに硬直したトリックスターへ、浮遊するタイラントから二度目のロケット。
辛うじて着弾前にブーストが間に合い、機体を横に滑らせ二度目は回避に成功。
一発が頭部パーツを掠めて、薄く装甲を剥ぎ取っていく。
「(なんだってんだ今のは!?ロケットはロックオンできねー武器じゃなかったのか!?)」
カオスアトラクターの背を怖気が走る。
ロックオンが不可能な武器であるにも関わらず、今の射撃はまるでそれの未来予測射撃に匹敵する精度だった。

「くそっ!BBの奴、完全にブッ壊れてやがる!」
「そんなの見りゃわかりますよ!」
「で、どうするんだこの状況!?」
壊れた暴君の攻撃と天から降る光を死に物狂いで回避しつつ、グルマンディーズ達が通信を交わし合う。
時折視界に入るタイラントへ各々が発砲するが、掠りもしない。
「カゼス、生きてんのか!?生きてんなら返事しろ!つーかあいつを何とかしてくれ!」
悲鳴に近い声でカオスアトラクターが言う。
「…生きてる。しかしあんな動きをするACを俺にどうしろと?」
「何とかしろ!あーもう取りあえずこっちに来い!」
「了解」
全身から火花を散らす雷覇が、三機へ合流。
飛び回り射撃を繰り返すBBに対し、四機は絶えず細かく動きながら、誰からともなく東西南北の四方を向く。
「止まった時がチャンスだな」
「そもそも止まんのかよ?」
「それは俺達の運次第じゃないっすか?」
「止まったら、何とかして足止めしてくれ。俺がブレードとマシンガンで仕留める」

地獄、だった。
狂える暴君が繰り出す鉛色の弾と赤い火球。
それに、時折飛んでくる青いブレードの光波。
破砕されて飛散する灰・黒・白・錆色の瓦礫。
地上ならではの本物の太陽が白み掛かった橙色に輝き、碧い空から蒼白い閃光が天罰の如く降り続ける。
此処は、極彩色の地獄。

俺とカオスアトラクターさんにドロールさんは、ただただ当たらない様に必死だった。
カゼスさんも脚部に損傷が有るのか、流石に苦戦しているようだった。
わけもわからないままに回避を続けていた所で、飛び回る暴君と目が合った。
無論、単に俺の視線が相手の頭部パーツへいっただけなんだが、確かに目が合った気がした。

「さっきの反動…リニアガン…俺を撃ったのはお前か」
音程も発音も声色も完全に狂った喋りで、暴君から通信が届いた。
目の前のACが、こちらにグレネードの砲口を向けた。
必死でリニアガンを撃ち返すが、暴君はふらふらとそれを避ける。
カゼスさんのマシンガンとカオスアトラクターさんのレーザーが飛ぶ。
どちらも直撃した結果、奴の右腕部が吹き飛んだ。
が、奴は全く動じる様子を見せない。どうやらもう隻腕の暴君は俺しか見ていないらしい。
さっきのブレードで斬られた時助かったのは、只の幸運だ。
二度とは無いと言い切れる幸運。
期待はしたが、どうやら暴君に天罰は直撃しないらしい。
向けられたグレネードランチャーの砲口に炎が灯る。
炎は砲の奥からこちらに膨れながら接近し、砲口から滲み出す。
空気を入れられた風船の様に、炎は球体へと変化を遂げて―――――。

「殺虫だ」

砲身から解放された火球が迫る。
損傷率は九割。この一撃を喰らえば助かりはしないだろう。今更脱出も間に合わない。
視界を黒とピンクが覆った。
「(って赤じゃなくて黒とピンクって何だ?)」

その色は、ドロールさんのブラッククロスの色だった。

数瞬後、爆炎が俺の盾となったブラッククロスを包み込む。
炎がかき消えた後、俺の眼前には煙を吹き上げるドロールさんの機体が有った。
「な…何やってんすか」
「お前にBBを撃てと言ったのは俺だ。俺が責任を取るのが筋だろう」
責任?責任なんか要らないだろうこんな状況で。
自分が生き残るだけで精一杯の状況で、何を言ってるんだこの人は。

そして二度目の爆炎がブラッククロスを包み、その両腕が破砕されて散る。
「ドロールさんこれ以上喰らったらまずいっすよ!俺はいいから早く逃げないと!」
「無理だな、脚とブースターが完全にやられた。歩けもせんよ」
移動が出来ない。
それは、この戦場での死刑宣告に等しい。
「先に逝ってる、お前はなるべく遅れて来いよ。じゃあな」

眼前で、あの蒼い光がブラッククロスを丸ごと呑み込んだ。
残ったのは、搭乗者ごと上半身を失ったブラッククロスの脚部のみ。
数秒ほど立ち尽くしていた両脚は、膝を曲げて前のめりに傾き、がしゃりと音を立てて地に倒れた。
「…ぷっ!下らねぇ、なんだこの臭ぇ三文芝居は。糞同然の低ランカーは盾ぐらいにしかなれねぇんだな。おい何黙ってんだよお前ら。笑う所だろココ!ぷはははははっ!」

「さて、些か長く踊り過ぎましたね。そろそろ…」
「だな、さっさと仕留めるとするか」

後方に控えるアルルカンの放つレーザーキャノンがジオハーツの移動先を悉く潰す様に追い込む。
それに合わせ、前衛のノクターンがショットガンを連射しながら確実に着実に追い詰めていく。
とうに全弾を使い果たしたアグラーヤは、ただ二機が繰り出す連携攻撃を逃れるのみ。
「逃げる姿も美しい。が、見方を変えれば生に妄執し続ける無様な醜態に見えなくも無い」
コルレットが陶酔する様に言い、弾を使い切った右肩レーザーキャノンを捨て、ノクターンの後方から一気にジオハーツとの距離を詰める。
後退を続けるジオハーツの背から、コックピット内のアグラーヤへ振動が走る。
《HIT》の文字がモニターに表示されていない辺り、攻撃を受けたわけでは無いようだ。
「(壁か!)」
回避と後退に集中する余り地形把握が疎かになり、建造物の外壁に当たってしまったらしい。
「(二機の間を抜けるか?しかしエネルギーの残量からして二機が振り向いた所で尽きる可能性が高い。しかし飛ぶのも無理そうだな)」

「赤い星を討ち取れるとは僥倖と言うべきでしょうかね」
ジオハーツの眼前まで接近した二機が、左右に別れる。
「では、これにて終焉ならぬ終演と」
「止めだっ!!」
至近距離まで接近したザインが自機の使用武装をブレードに切り替え、アルルカンがレーザーキャノンを向ける。
「(私が此処で死ぬとはな)」

二機がジオハーツへ襲いかかった瞬間、コルレットとザインのコクピット内に音声が流れ出す。

《敵増援を確認》

その声に、二機がアグラーヤへの攻撃を止める。
数瞬遅れて、アグラーヤと二機の間へ弾幕の壁が出現。
「ちっ!」
「私達の他にも!?」
とっさに二機が飛び退く様に距離を取り、弾の飛んできた方向を見る。
一機の赤いフロート脚AC。右手にはハンドガン、左手にはブレード。
何より特徴的なのは、弾幕の発生源であろう両肩に装備されたの二門のチェインガン。
《敵ACを確認 ランカーAC テン・コマンドメンツです》
「どうする、コルレット?」
「Cランカーが一機来た所で戦況は揺るぎませんよ。まとめて叩きましょう」

「サイプレスか。助かった、礼を言う」
弾幕を張りながら、高速でサイプレスがAC:テン・コマンドメンツをジオハーツの盾になる様に移動させ、ノクターンとアルルカンへ銃口を向ける。
「アグラーヤさん、礼なら旦那に言ってくれ」
「旦那……誰だそれは?」
「上、見てみ」

「ザイン、上にもう一機居ます!」
「上だと?」

四機が同時に視点を上げると、上空の輸送機から降下する中量級と思しきACが一機。
その様は先刻のジオハーツに似ていた。
似ていたのは動作だけでは無い、アグラーヤの機体と同じ漆黒のカラーリング、そして赤い単眼の頭部パーツ。
明らかに似ていないのは、その武装。
右にライフル左にブレード、そして、圧倒的な威圧感を醸し出す両肩二門の大型グレネード。
空中で僅かに位置を調節し、やはりそのACもサイプレスと同じく、アグラーヤを護る様にジオハーツの前へ降り立つ。
《敵ACを確認 ランカーAC デュアルフェイスです》
「遅くなった、アグラーヤ」
「私とした事がこの様だ。ジノーヴィー、すまない」

「気にするな。それより……」
ジノーヴィーの駆る漆黒のAC:デュアルフェイスが、その主武装にして最大の武器、グレネードを眼前のアルルカン達へ向ける。

「コルレット君にザイン君、だったか。随分やってくれた物だ。無事に帰れるとは……思っていないだろう?」

暴君の嘲笑が響き渡る。
暴君は笑う。ゲラゲラとクスクスと笑う。笑い続ける。
「…てめぇぇっ!!」
闇雲にリニアガンを撃ちまくる。二次ロックが完了してはいない様だが、もうそんな物はどうでも良い。
ただ撃つ、撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃ち続ける。
「俺も悪党だがな…あんた救えねえよ!!」
カオスアトラクターさんも、レーザーキャノンを乱射する。残弾の温存なんか関係無くなったんだろう。
《敵 脚部破損》
流石に二機のACから集中射撃を受ければ、如何にAランカーと言えども数発は喰らう。
空中で俺のリニアガンの直撃を受けて、奴が一瞬止まる。
そこへ。
「報いを受けろ、外道」
カゼスさんが斬り掛かった。



何だこいつら。
たかが屑同然の低ランカーが一匹死んだ程度で何驚いてやがる。笑う所だろここ。
少なくとも俺いや私か?どっちでもいいな別に。私にとっては下手な喜劇より数倍笑えるんだが。
こんな連中のせいで取り乱したのは我ながら情けないな。

何やら叫びながら、あの金色のタンクがリニアガンを撃って来た。
赤い四脚のカオスなんたらとか言う奴も、「救えない」とか何とか馬鹿げた事を言いながら俺にレーザーを撃ちまくってくる。
救えない?誰が誰を救うって言うんだ?戦場じゃ誰も私を救ってくれはしなかった。だから俺は誰も救わない。
戦場にハリボテ同然の建て前はあっても、一皮剥けばモラルなんかねぇよ。
それは俺が私が身を持って良く知っている。

おっと、何発か喰らってしまった。

損傷率は五割、残弾は…三割か。屑一匹を仕留めるまでに随分使っちまったな。
《脚部 破損》
黙れこの糞ド低脳頭部コンピュータが。
無駄な報告する暇が有るなら、目からドバッとビームでも出して私に刃向かう屑共を焼き払うくらいの事はしてみせろ。

また被弾か、リニアガンだから威力は大した事は無いんだが…
今度はカゼスか、「外道」?俺が外道だと?戦場で殺しをやって何が悪い。むしろ正道と言うべきだ。
俺が弱者を屠って責められる言われなど無い。
私が敗者を嘲り笑って罵られる覚えなど無い。

ブレードで斬り掛かる気か、いいだろう。左腕部もまだ残っている事だ、久々にブッた斬る殺しも悪くはない。
ブレードは奴の方が得手らしいな。まぁ良い、一撃くらいは斬らせてやろう。
思ったより喰らったな。深く入ったか。さぁてこっちの番だ、覚悟は良いか虫けら。
その死にかけの機体では俺の一撃には耐えられまい。
首を切り落とした後にコックピットをぶち抜いて蒸発させてやろう。

左腕のブレードを起動、よし、この距離なら当たる。綺麗に跳ねて晒し首にしてやろう。
そう、行け。
首をスパッと綺麗に……

刀身が消えた!?
何だ!何だよこれは!
ブレードの基幹部に何か刺さって…弾丸?
口径からしてリニアガン――――――ちょっと待て!
何の冗談だ!?あの金タンク、低ランカーの分際で俺が斬り掛かる瞬間にブレードだけ狙ってブチ抜いたのか!?
まぐれでも有り得ねぇぞ!
あの【亡霊憑き】や【幻灯】の野郎だってこんな馬鹿げた難度の狙撃なんて出来やしねぇ!

糞が糞が糞が!カゼスがまた斬り掛かって来やがった。
ブレードがお釈迦って事はグレネードだな。
……あ?私のグレネードはいつからこんなに砲身が短くなったんだ?
つーか砲身グシャグシャじゃねぇか!

使えねぇっ!弾が出ねえ!あの金タンク、いつの間にかグレネードまでリニアガンで壊しやがったのか!?
まずいまずいまずい!!
もう目の前までブレードが来てやがる!

後退……出来ないだと!?
レーザーキャノンとリニアガン喰らった衝撃で硬直しちまってる!

い、嫌だ。負けたくない。負けるのは嫌だ。死にたくない。死ぬのは怖い。
俺は負けるのが嫌だ、嫌すぎる、嫌だっつってんだろ!
私は死ぬのが怖い。怖すぎる。怖いって言ってるじゃないか!
誰か!誰か誰か誰か誰か誰かっ……誰か、助けてくれ。



右腕を失ったタイラントが、更に左腕をカゼスのブレードに切断される。
片腕を切断して尚、その刃は止まらず――――その頭部を、綺麗に斬り飛ばした。
平たい頭部パーツが根元から切断され、フリスビーの様にくるくると回って、落ちた。

「(死にたくない死にたくない……俺はこんな所で死ぬべき人間じゃねぇんだ!)」
全武装を破壊され、断頭の刑に処されながらも暴君はしぶとく生きていた。
カゼスの繰り出した三撃目を後退して危うい所で回避。
「逃がすか!!」
三機が追撃を仕掛けようとした瞬間、それを阻む様にアルルカンが立ちふさがる。
レーザーキャノンを放ってグルマンディーズ達を牽制しつつ、アルルカンが暴君の盾になる様に接近。
「BB、撤退しましょう」
「……殺す…ぜってぇにその虫共を殺してやる!!」
「殺すも何も腕無し首無し武装無しでどうACを破壊するおつもりですか?」
「うるせぇ!!てめぇらがその蛆共を駆除すればいいだろうが!!」
「そうはいきませんよBB。アークのトップランカーがお怒りです」
アルルカンが言うが早いか、戦場全体に爆音と轟音が響き渡る。
先ほどタイラントがした様に、空中を飛びながらデュアルフェイスがグレネードを撃つ。
アルルカン達とは離れた敷地外ギリギリを逃走するノクターンへ向けて発射された一撃。
ザインは自機をジャンプさせて回避。
着弾時の爆風により土埃が舞い上がった。
そこへサイプレスが機動力を生かして接近し、チェインガンを叩き込む。
土煙でBB達からは良く見えないが、ノクターンの右腕は千切れ、脚部から煙が吹いている様だった。

「御覧の通り撤退だけで精一杯です。それとBB、通信が入りました。【皇帝】とセレスチャル卿がアレの奪取に失敗した様ですが」
「…あぁ!?どういう理由で失敗するんだよ」
「【皇帝】が振り切られた為にセレスチャル卿が単独で機関のレイヴン三人を追撃、返り討ちにあった様です。幸い生きてはいるようですが」
「返り討ちだと?機関って事はスティンガーの野郎か……糞が、どいつもこいつも使えねぇしうざってぇしどうなってんだ全く!!わざわざあの女に偽情報まで掴ませた結果がこれか!?」
グルマンディーズ達を釘付けにする為、レーザーキャノンを連射しながら、コルレットがBBを諫める。
「何にせよ、戦闘を継続するのは不可能でしょう。そもそも継続する理由が最早無い。BB、引き際です。キレるのは御自宅に着いてから好きなだけどうぞ」
「………わかった。撤退、だ。あの虫共が……どんな手使っても殺してやる…」

「おい!BBが逃げるぞ!」
敷地外へ消えていくタイラントとアルルカンを見ながら、カオスアトラクターが言う。
「わかってる。だが俺達も撤退の頃合いだ」
「撤退!?何言ってんすかカゼスさん!」
「俺達三機で補給も無しに追撃か?全員弾も損傷も限界だろう」
「でも!」
「言いたくは無いが俺はともかくとして、お前はBB、いやそれ以前にコルレットやザインと戦って勝てるのか?」
「そ…それは」
「カゼスの言う通りだな。今あいつらと三対三…BBを抜いて三対二で殺り合っても、俺達じゃ勝てねえよ」

「………了、解」

うなだれたグルマンディーズの機体を、トリックスターがどつく。
「おら落ち込んでも立ち止まるな!まだレーザー降ってんだぞ!」
「忘れてた……ってうぁおぉぉぉ!」
領域付近のACの数に降る勢いが比例しているのか、BB達三機が消えた事で止んだかに思えた砲撃。
若干頻度が弱まった物とは言え、恐らくは先と変わらぬ破壊力を持って忘れた頃に再び降る。
「あの黒いACが戻って来たら厄介だ。脱出するぞ!」


「兄ちゃん、がっぽり稼いで来てくれたんでしょ?」
「なんか食べに行こーよー!」
自宅件ガレージ。
グルマンディーズのシャツの裾を姉弟達がぐいぐいと引っ張っている。
「あのな、兄ちゃん依頼された場所に行ったんだけどな。依頼、ウソだったんだよ」
「えー!何それ!」
「行ってみたら空き地しか無くてさ、誰も居ないし何にも無くて、結局兄ちゃんウロウロしただけで帰ってきちゃったんだよ」
「なーんだ」

姉弟達が渋々引き下がった後、グルマンディーズは一人、自室で頭を抱える。
「(修理費と弾薬費払って、壊れたパーツ買い換えたら7cしか残らなかった、なんて言えないだろ………orz)」

そこに、個室の端末からメロディーが流れ出す。
メールが三通届いていた。
差出人はそれぞれ違う、が。
「………っ!!?」
三つ目のメールの差出人名を見た瞬間、グルマンディーズは息を呑んだ。

一通目。
from:【カオスアトラクター】
to:【グルマンディーズ】
sub:【先日の一件】
『俺達があの工場でドンパチやらかしてる間に、裏で色々有ったらしいな。
俺達が工場に着いた頃とほぼ同時刻に、バロウズヒルで同じ依頼主に雇われたレイヴン達と、ジオマトリクス社とミラージュ社が派遣した部隊の三勢力が衝突。
一応、勝ったのは俺達と同じ依頼主サイドのレイヴン達だそうだ。
その後に、BBが個人で雇った上位ランカー二人がそのレイヴン達を強襲。
が、その内一機は振り切られて、結局は一機でそのレイヴン達と戦う羽目になったそうだ。
結果はまたも件のレイヴン達の勝利。
あの状況から生きて帰った俺達もなかなかのもんだろうが、どうやらそんなレベルとは桁の違う腕利きが一人居たらしい。
ま、カゼスの奴は別として、なんだけどな。
あれから暫くして砲撃が止み、ローダス兵器工場は未だに復旧作業でてんやわんやだとよ。

『そうだ、あの光について。
お前には話してなかったが、あれは軌道上に浮かぶ衛星砲からの砲撃だ。
なんでも、地下都市・レイヤードが作られたのと同時期に建造された物らしい。えらく古い物なのは確かだ。
現在も稼動中で、サイレントラインに侵入した物をあの一発で吹き飛ばしてるらしいな。
ただ…俺達が行ったあの工場はサイレントラインの「近く」であって「中」じゃないよな。
最近、あの【特攻兵器】や【9のエンブレムのAC】が「近く」、つまりラインの外側での目撃例が急増してる。
俺には、人類にじわじわと侵攻を掛け始めている様にも思えるんだが。

忘れる所だった。BBの件について、だ。
上位ランカーを自費で四人も揃え、更に旧アリーナ二位の自分も出陣。俺達が遭遇した三人の目的は、皮肉だが同じ陽働だったらしい。
もしあいつを倒して仇を討ちたいなら、マジックランタンってレイヴンを探してみろ。
まぁ…あんな無茶苦茶してたら、俺達が何かしなくとも、BBはいずれコーテックスから追放されると思うがな。

……四勢力が絡み、二十を超えるACが戦闘したこの争い。
企業や機関、BBがこれだけのレイヴンを駆り出してまで手に入れたがったモノってのは、一体何だったんだろうな。
俺のコネをフル活用して調べたが、【ファンタズマ】って単語が出てきて終了だ。
いったい、ファンタズマってのは何なんだ?』


二通目。

From:【ブルガトリオ】
To【グルマンディーズ】
Sub【緊急募集】
『※このメールは顔見知りのレイヴン全員に送信してあります。

☆★(^o^)俺の相方募集のお知らせ(^o^)★☆

\(^o^)/プルガトリオです!
皆さんお元気ですか!
突然だけど俺の相方を募集中!
俺の機体で対処出来な状況に陥った時、俺をフォローしてくれる腕利きレイヴンを大募集!

(^_^;)あんまり弱い人は考えるけど。

可愛くて強くて同じロケット使いで、出来れば俺の代わりに依頼までやってくれる様な女の子レイヴンがベストだよ!(^_^)b

ツンデレも大歓迎!」




グルマンディーズは見なかった事にした。

そして……三つ目。

From:【BB】
To:【グルマンディーズ】
Sub:【無題】
『よう、生きてるか糞低ランカー。
てめぇに喰らったリニアガンの衝撃、思い出すだけで殺したくなって性がねぇよ。
正直な所、今すぐにでも殺しに行きたいくらいだ。
だが、Eランカー相手に仮にもAランカーにしてアリーナ2位の俺がそんな真似は出来ねぇ。
そこで、だ。アリーナの観客達の前で叩き潰してやる事にした。
その為には、てめぇにそれ相応のランクまで上がり、それ相応の装備をしてもらわなきゃ、てめぇを殺しても俺の面子が立たねえんだよ。
小金を送っておいた。要らないってんならゴミ箱にでも突っ込んどけ。
ただし、受け取ろうが受け取るまいが、俺が、いずれてめぇを殺す事に変わりはねえ。良く覚えておけ』

端末を操作して確認すると、電子マネーで100万cもの金が送られていた。
画面には、受け取るか否かの選択肢が浮かんでいる。

受け取るべきか、受け取らざるべきか。

「(戦友の仇に借りを作るのか?)」
「(背に腹は代えられないだろう。死んだ他人より生きている姉弟だ)」
「(貧乏でも誇りを捨てるよりマシだ)」
「(受け取れば装備を一新して、更に姉弟達を一生楽に暮らさせてやる事が出来るのに?)」
「(しかし、それはあの男から受け取った金だぞ?)」
「(それがどうした。誰から振り込まれようが金は金だ)」
「(ずるずると籠絡され、気が付けば言いなりにさせられているかも知れないぞ?)」


自室で数時間悩み抜いた末、グルマンディーズが下した判断は―――――――。




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