アーキテクト、それは無人のACに魂を吹き込む、AIチューニングのスペシャリストの事である。
アーキテクトによってチューニングされ、AI制御で動くAC=u-AC同士が戦うメカニカルバトルの最高峰、これがフォーミュラF、「フォーミュラフロント」だ。
レイヴンが大手をふるって活躍していた時代は既に過去の物となった今、各企業の微妙な均衡のなかにかりそめの平和が生まれた。
平和となると、同時に脱力感に似た「堕落と退屈」が人々を支配し始める。そこに登場したのが、「フォーミュラF」。
新たな時代の刺激を求めた人々への新たな興行として始まったこの「フォーミュラF」は、世界中の人々を熱狂させ、その広告効果から各企業は巨額を投じて参戦することとなった。
今や「フォーミュラF」は最大のエンターテイメントである。

アーキテクト達は己の知性全てを使い、名誉を勝ち取るために世界中を転戦し厳しいリーグを勝ち抜いていく。
そうしてリーグの頂点へと立ったアーキテクトのチームは、最高の栄誉を得ることとなる。人類の英知、その象徴として羨望を集め、時には新たな英雄像へとなる。
僕も子供の頃からアーキテクトに憧れ、リーグの制覇、頂点を夢見てきた。

・・・その夢までは呆れるほど果てしなく遠いが。今ではリーグ制覇どころかアーキテクト人生が危うい。


僕は“フォーミュラB12”のランキング9位。“フォーミュラB”とは通称“ボトムリーグ”と呼ばれ、僕のようなB級ライセンスを持つ者が参加可能な下位リーグの名称だ。
B12の“12”は12番目の事。つまりボトムリーグは他にもB03とかB24とか無数に存在する。
ちなみにこのB12に参加しているチームは僕を含めて10チーム。

僕はランキングとしても崖っぷちというわけだ。

僕の運命が決まる次の対戦相手は“ヌガルムポート”というチームで、タンク型ACにエネルギーEO、左右にスナイパーライフル、両肩グレネードと、かなりの重武装を積んでいる。
ちなみに前回の対戦では正面から突っ込んでしまって瞬殺された。

「近づいて回り込むか、遠距離から削るか、だな。」

情報端末から前回の戦闘結果と敵ACの装備を確認する。分析と研究はアーキテクトの基本であり、勝利するためには不可欠である。戦略のパズルをひとつひとつ当てはめて

いき、初めてAIチューニングは完成する。

「出来れば近づくのはもうゴメンだな・・・」
前回の記憶が甦る。僕のACはOBでバカ正直に前へ突進して行き、ライフル弾の牽制とグレネード弾の弾幕に突っ込み、EOのエネルギー弾に止めを刺された。
ACの上半身が爆散、APが一瞬で0をカウントした。
試合開始わずか23秒、屈辱的な敗北だ。
二度もさすがにこの屈辱感を味会うほどマゾではないので、前回とは違う機体構成にする必要がある。
AIも、ACの武装自体もだ。
AIは調整をすれば遠距離を保つような動きにチューニングできるだろう。
遠距離を維持するように設定してやって、FCSを遠距離タイプに変更、近づかれる前に敵ACのレンジ外から攻撃して撃破してしまえば良い。

ただし、ひとつ問題がある。

「ACパーツ、調達できるかなぁ・・・」

僕のチームが所属しているスポンサーはフォーミュラFに対して消極的で、援助支援をほとんどしてくれない。
AIは自分でチューニングできるからいいが、武器などのパーツはそうは行かない。ACのパーツは非常に高価で、スポンサー側が資金を提供してくれないと用意などとてもできない。
今までも、オーダーに満たないACや調達できなかったパーツを別の物で代用したり、中でも最悪だったのは前戦のダメージをほとんど引きずった状態で出場したこともあった。
何度も直訴したが、大抵は無駄に終わる。こういうことがチームの敗北へと繋がっている一番の要因となっているのをスポンサーは解っていない。
次の対戦まであと3日。何とか調達させるように説得するしかないが・・・



「WB18M-CENTAUR・・・が1200000c、クレスト製のCR-LH89Fが・・・」
「・・・本当にこんな巨額を使うのか・・・?・・・」
「・・・・・・これは・・・すぐに判断は・・・・・・」

次の日、僕はスポンサーの上層部に直訴しに行ったのだが・・・
本当ならばスポンサーのフォーミュラF担当者に直訴して上層部へ通じてもらうのが普通なのだが、担当者が「アーキテクトである君が直接説明に行ったほうが効果があるのではないかな?」と言われてしまい、僕が直接直談判するハメになってしまった。
ちなみに、担当に直訴したことはあっても、上層部に直訴するのは初めてだ。

「JIKOH・・・?ああ、キサラギのパーツなのか。キサラギ社の製品は変わったものが多いねぇ、キミ?」
「それにしても、AC用パーツというのは高額な物が多いんだねぇ・・・」

僕の目の前にいるのは、スポンサーの上層部のお偉いさん方である。
左から少々ケバイ化粧の濃いマダム、髪の毛と豊かなヒゲが白い、いかにもって感じの重役、それとまだ色あせてない髪の毛が沢山生えそろえてはいるが、どう見ても頭が不自然な眼鏡をかけた男。

それぞれ左からマダム、サンタ、シケイダと(心の中で)呼ぼう。

本当の名前は忘れた。とにかく、スポンサーの上役達である。
彼らは上役らしく、上役らしい豪華な椅子に腰掛け、上役らしく豪華な木のテーブルに情報端末を繋げ、僕が提示した条件を拝見していた。
ちなみに僕はさっきから立ちっぱなしだ。椅子くらい用意してほしい。

まず、僕の用意した資料を見て、驚きと驚愕のの声を上げた後、ネチネチと小言のような質疑問答が始まった。


頭が不自然な男、シケイダが口を開いた。
シ「キミの提出した・・・そのy-ACの」
僕「u-ACです。」
シ「そう!そ、そのu-AC用パーツなのだが・・そのもう少しなんとかならないのかね?」
僕「もう少し、と言いますと?」
シ「その・・・費用がかかりすぎるのだよ。」

そこに白ヒゲサンタが加勢する。
サ「フォーミュラFの広告による収入効果と、君の請求書とは、どう考えても吊り合っていない。」

今はチームが低迷しているからしょうがないではないか。
Bリーグの下位を低迷しているチームなんか、ほとんどの人たちが認知していないだろうし。
スポンサーについてもらってる僕が言うのもなんだけど、宣伝効果があるとはとてもじゃないが思えない。

シ「この額・・・君の提示間違っているのでは・・・ないのか?」
僕「僕の提出した内容に間違いはありません。私が掲示した数値に疑問があるならば、各ACパーツメーカー側へ確認を取ってみてください。」
サ「それにしても、この額は・・・」
僕「まがりなりにも、ACパーツは兵器です。兵器が高額なのはしかたがないのでは?」

そこに顔が白塗りされ顔がテカるマダムが入り込む。

マ「そもそも、アーキテクトである貴方が努力すれば、このような高額な買い物をしなくても済むんじゃありませんの?」
僕「アーキテクトがどんなに優秀であっても、アセンブルされたACの限界以上の能力は発揮することが出来ません。」
マ「それをどうにかするのが、貴方達アーキテクトじゃなくって?」
僕「ですから・・・どんなにAIを戦闘に最適化をしようとも、そのAIチューンを生かすにはそれ相応の装備が必要なのです。」

そこまでいうと、ミズマダムは「ふーん、あらそう。」と判ってるのか判ってないのか無表情で端末へと顔を戻した。
たぶん、僕の話の内容の半分も理解していないだろう。

なぜ担当が僕に直訴させたか、この状況を見て理解した。
彼らは・・・ACについてもフォーミュラFについても、知識が非常に乏しい。こんな状態では、支援を渋るのも無理はない。
そんな上役方に今まで説明してきた担当が、今回の請求を見たら結果を予想すると確かに嫌になるだろう。要するに「厄介事の押し付け」でだった。

大方、フォーミュラFへ参戦したのもミーハー女子が「周りもやってるからアタシも参戦しちゃおっと☆」って具合なノリで参戦したに違いない。
なるほど、イメージダウンを懸念して、ではなくフォーミュラF自体を重要視してなかったわけか。
Bリーグをさ迷い歩いているチームの半分は、そんな行き当たりばったりな参戦をして、宣伝効果の業績で資金を回収できない企業なのだ。
世界最大の興行、フォーミュラF。勝利を手に業績を挙げる企業やアーキテクトもいれば、その陰で「ゴミクズ」に分類されて脱落していく。


どうも僕はスポンサーに恵まれてなかったようだ。前々からわかってた事だけど。
これではただの時間の無駄かもしれない・・・

そもそもフォーミュラFに対して消極的なお偉いさん方にフォーミュラFに対しての支援が行われるとも到底思えない。

結局今日一杯時間を浪費して、話は終わった。
結果として、散々長々と説得させられたが僕の要望はほとんど受け入れられなかった。

あまりしつこく騒いで「今すぐ解雇」とかいわれるとさすがにまずいので、途中で早々切り上げ、暗雲たる気分のままガレージへと帰ってきた。


「ガレージに帰ってきたのはいいけど・・・このままだと勝つ見込みがあまりにも低すぎるよ・・・」

そうつぶやいた僕の目の前に、今このガレージにあるだけのパーツで組まれたACが上がってきた。
ACが上がってくると同時に、僕は現実を直視して・・・頭を抱え、弱音を吐いた。

組まれたAC。四脚は前回の戦闘で一次破壊を起こした際に冷却関係に問題が起こっているので修理中。
なのでかわりに安価な中量逆間接に第一世代コアにクレスト製の腕に頭部と、足以外が新人レイヴンに宛がわれる機体と同じフレームになってしまっている。
ちなみに他のパーツも四脚と同じく修理に出ていたりスクラップになってしまったり、その「末路」はさまざまだ。

ラジェータもそれほど性能の良いとは言えず、冷却機能をフルチューンしてあるにも関わらず、ブースト熱で機体温度が蓄積されてしまう。
そのブースターだが、唯一恵まれてるのがこのブースターだ。フレームパーツが比較的安価なのに、ブースターはTP2だ。おかげでそれなりの機動性能が期待できる。

・・・ブースト熱をどうにかできればの話だが。

ラジェータの性能がさっきも言った通り、あまりよろしくないので熱効率が非常に悪い。
いっその事ブースターなんか無いほうがいいんじゃないかとも思うけど、無いとACは動かないし、そもそも基準違反なので出場もできない。
なお、他にブースターは無い。渋るスポンサーが資金を出さないので、他のパーツを購入するために売却してしまった。

試しにACテストをする時、知り合いのレイヴンにマニュアル操作で動かしてもらったことがあるのだが、彼女には「こんなACに乗っていたらゾッとするわ。」と言われてしまった。
「もし、こんな熱効率の悪いACを無人ではなく有人で動かそうと思ったら、耐火スーツが必要ね。」とも付け加えられた。それほど熱効率が悪い。

このパーツを購入させたのは僕ではなく、前任のアーキテクトが用意させた曰く付きなものだった。


どう曰く付きかというと、その前任アーキテクトは、整備主任の話によると解雇された後日、生活苦からナイアー産業区の裏路地で首を吊って全身から色々と垂れ流していた所を発見されたらしい。
なんだかTPに怨念みたいなものが憑いていそうで少し怖い。

解雇されたら最後、二度とアーキテクトの道へは戻れない。
いくらスポンサーの支援状況が怠慢だろうと、表面上では「アーキテクトの腕が悪い」と見られるわけだし。
そんなアーキテクトを雇ってくれる企業体があるはずもない。
次は自分の番かもしれない・・・やめよう、考えるとキリが無くなる。

武装もこれまた愉快極まりない。右にミラージュのスナイパーライフルに、左にロングブレード。インサイドに接着地雷。肩に初期型レーダー。
これだけである。わずかこれだけの武装でここ最近までやってこれたのは自分で言うのもなんだが奇跡だと思う。
タンクや重装ACが相手になると、火力が足りなくて最終的に武器がブレードのみになってしまうなんてこともザラである。


・・・僕はいつから節約上手なアーキテクトになったのだろうか?
この状態で勝ち星を「稀に」にあげてこれただけでも奇跡だ。

さて、このままでは本当に勝ち目が薄い、薄すぎる。
先述のレイヴンにパーツだけ借りてくるという手もあるが、彼女には色々と面倒をかけすぎている。
これ以上はさすがに手を借りるのは気が進まないし、それに・・・色々と後で怖そうだ。


他の人の手を借りず、なんとかする方法がひとつだけあった。あまり選びたくない選択しだが・・・正直スポンサーはもう当てにできない。
僕はとある大企業へ就職し、色々と黒い噂の絶えないところで活躍している古い友人に連絡することにする。





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