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前回と同じ、暗く……そして硝煙で空気が澱む砂漠。
雲は少なく、月光が淡く周囲を照らす。――それでも視界が悪いことに変わりは無いが。
風は強い。砂埃が、ただでさえ暗くて悪い視界を、更にひどくする。
夜の砂漠独特の寒さを感じる必要がないだけ、マシとも思えて来る風の強さが、見るだけでわかる。
そんな中に轟音を響かせて、紅が舞い降りる。
レイヴン、インペリアルの……その前に、一人の少女である、雫の聖戦だ。
『……ちょっと待たせちゃった?』
いつも通りの、冷やかで澄んだ声は告げる。しばしの間を置いて反応するのは、白い4脚を駆る男。
こちらも変わらず、冷やかで特徴的な声。橙に身を包んだACは、対峙する二機を少し離れた高台で眺めている。
『こちらが呼び出しておいて、待たせるわけにも行くまい』
特徴的なヘッドパーツが、奇妙な存在感を漂わせる。声も合わせて、襲ってくるは威圧感。
『……黒い方はいないのか?』
ここでそれに気付く。彼の言う通り、ファントムの姿は影も形も無い。
『……私は彼と特別な繋がりはないわ。時々、戦場で出会うだけ。だから、彼はここに現れない』
特別な繋がり。それが何を指すのかはわからないが、彼女はそう考える。
連絡先も知らないような、顔も見たことの無いような男。互いに信頼などは無いが、戦場で会えば瞬間的に仲間になる。
両手の指に収まるほどだが、彼とはある程度の戦闘を重ねている。その度に、奇妙なまでに息が合うことは少し気にしたことはある。
かと言って、互いに連絡を取ってまで任務を共にするような間柄ではない。だから、彼はここには現れない。向こうから出現しない限り。
ただ、彼女はなぜ彼が的確に自分の所へと現れるのか考えたことが無い。だから、これから起こることの予測など出来なかった。
『チッ……面白くねぇなぁ。俺は見てるだけかよ』
割り込むように、ガサツな声が届く。やはりと言うべきか、彼はファントムとの対戦を望んでいたようだ。
しかし、それを彼女は望まない。だから、こう言った。
『だったら……私と戦いなさい』
彼女は、鋭い眼光と、ライフルの銃口を向けて言い放った。眼光は届いていなくとも、彼女の闘志は伝わっているだろう。
しばらくの間を置いて、男は一つ溜め息をこぼした。
『残念だが……お前の相手は俺じゃない。俺はお前になんか興味は無く、あの黒い方に興味があるんでな』
『お前がそうでも……私は違う!!』
全てを掻き消す勢いで、彼女は叫ぶ。ある種の紛らわしでもあり、闘志の片鱗でもある。
突然の叫びに、相手は一瞬怯んだ。本当に、一瞬だが。
『お前が私などに興味がなくても……私はお前だけを追って今まで生きてきた!!忘れたとは言わせない……3年前のあの日!!』
語気は更に荒く、言ってしまえば『威勢だけはいい』状態。それでも、彼女は一つの思いの基に叫ぶ。
『三年前……はぁ、そういうことか』
『……何の話だ?』
一人取り残された男が、問う。彼は、三年前の事件については、ニュースで見聞きした程度の知識しかない。
一人のレイヴンが関わった、凄惨なテロ事件として取り上げられたが、情報もほとんど入らず、特に気にしてもいなかった。
『まぁ、これは俺とそいつの問題だ。お前が口を出すことじゃあない』
『なんだとっ……!!』
言葉が途中で詰まる。彼は少しずつ思い出しつつあった。あの時の状況……彼の知らない事件のお話。
彼の憶測は、9割が的を射ている。あの事件に関わったのは、オレンジのACと報道されていた。
そして彼の相方の駆るACは、オレンジに身を染める。オレンジのACなど、世界にはいくつも溢れているが。
だが、当時の彼の行動を思い出す。突然の専属降板……莫大な違約金と共にミラージュを去った記録。
その後一年で、何事も無かったように専属へと復帰。その間に、何があったのか。
『テロリストに加担して……街を襲撃……?』
それは声に出ていた。震えを抑えきれず、自らの相方が行った所業を口にする。
認めたくないようで、何となく認めることが出来てしまう……その事実。今の彼には、事実かどうか知る由もないのだが。
いや、そもそも襲われたのはクレストの都市だ。ミラージュの専属である自分には、何の関係も無い。
『だから生き残りを出すのは嫌だったんだ……絶対こういう形になるだろうと思ってたぜ。
何を考えているのか、上の連中はレイヴン以外極力殺すなと言いやがる……。お前も、家族がレイヴンだとかそういうクチだろ?』
適当で、過ぎたこととは言え、なんとも思っていないような態度。確かに、彼にとってはどうでもいいことであるが、彼女にとってはこれ以上なく腹が立つことだ。
『私の兄はお前に殺された!!だから……私がお前を殺す!!』
すかさずオーバードブーストを起動。猛スピードで突撃を仕掛ける。軌道は一直線で、戦術だとかそんなものはそこに存在しない。
黒く光る銃口はしっかりとその橙を捉え、左のブレードは月光を浴びて振り抜かれる時を待つ。
障害は無かった……その一瞬まで。
『……ッ!!』
視界に割り込む白色。闘争本能を剥きだしにした獣の駆るAC『メイズジャンクション』が佇む。
鈍く光る無数の銃口。一度に大量の弾丸が射出されるそれは、まだ火を噴かない。
衝突を避け、雫が後退する。男は、ゆっくりと口を開いて言った。
『貴様らの事情など、こっちは知ったことではない。だが……お前の相手はこの俺だ!!』
飢えた野獣が、咆哮する。雫はその望まぬ試合に、舌打ちと共に赤い炎を吐き出した。

(時間を掛けるわけにはいかない)
激しい弾幕を前に、冷静にそんなことを考えていた。
オーバードブーストを利用しつつ、上手く距離を取って深刻なダメージを避ける。
大して攻撃力の高くないマシンガンと言っても、流石に至近距離での被弾は避けたい。
後にはもう一機の対AC戦が待ち受けているからだ。……ここでこいつを撃破すればの話だが。
(ファントムが来ないとも限らないしね……!!)
一つの不安を浮かべつつ、オーバードブーストによる急速接近。発射準備に入っていたミサイルが待機状態へと戻り、両腕のマシンガンを向ける。
被弾を避け、効果の大きくなる射程へ入る前に素早く横へと回る。反応した敵ACは反対へとスライドしていく。
恐ろしい反応速度だ。前回と段違いの動きは、恐らく何らかの強化か、前回が本気ではなかったということだろう。
だが、そんなことで今更驚いたりはしない。慣性を利用して開く距離を一気に詰める。
旋回し、その目に捉えた瞬間にはもう彼女の思考は未来を見ていた。
(決まれッ!!)
そう心の中で叫ぶが、彼女は絶対の自信があった。そしてそのACの左腕から伸びる閃光は、彼女の思う通りに傷を走らせる。
特徴的な切断音と共に振り抜かれたブレードは夜を照らす。前回と同じように、右腕から脚部にかけて大きなダメージを与える。
『おぉッ!!』
唸りとも叫びともつかない、半端な声が響く。それに紛れて左腕のマシンガンが火を噴くが、素早く上昇して被弾を避ける。
それでも、やはり脚部へといくらかダメージが届く。だがこの程度ならばまだ問題はない。
相手の背後へと降り、そのままオーバードブーストでマシンガンの有効射程を離脱。
レーダーにはミサイル表示機能が無いが、発射音でその気配を察知する。
誘導性高いのマイクロミサイルと連動魚雷。正直本当に勘弁して欲しい組み合わせだ。
旋回し、相手の姿をそのサイトに収めると共に、左右から、後方から、上空から、容赦なくミサイルは襲い掛かる。
当たりにくいとか、威力が低いとかそういった問題ではなく、ただ単純に対処がしづらい組み合わせ。
『ハァッ!!』
自分へ向けた叱咤。鞭打つように駿馬を動かす。
回避と、攻撃と。周辺を飛び交うミサイルを横目に、ライフルの凶弾を敵ACへと叩き込む。
コアにも、エクステンションにも迎撃装置がついていない。だから、この場合のミサイル回避など半分運が絡んでいる。
だからこそ回避は捨て、攻撃へ向けた。ライフルでの射撃を中断し、ミサイルを数発叩き込む。
回避へ移る敵ACを見つつ、後方からの衝撃。ミサイルの一発が被弾したようだ。
(この程度……まだ慌てるようなダメージじゃない!!)
瞳の色が変わり、真紅のACが疾走する。チェインガンの弾丸を左右に振って回避しつつ、その左に構えた光の刃を構える。
瞬間、全てを凍りつかせる一撃が飛来した。
『なっ……!!』
音も無く、紫の閃光が疾空。白と、紅の両者を割って突撃するそれは射撃音すら存在しなかった。
そしてそれが貫いたのは、傍観者を決め込んでいた橙のAC。
『なっ……んだとぉ!!』
その声に、雫は我に返る。今はそんなことに意識を奪われている場合じゃない。
幸いにも相棒に襲い掛かる突然の攻撃に呆けている敵は、全くの無防備だ。
『貰った!!』
叫びと共に、一閃。先程から集中的にダメージを与えていた右腕へと、更なるダメージを与える。
破損には一歩及ばない。だが、確実に損傷程度のダメージは与えることが出来ただろう。
だから、ほんの少し彼女は油断した。
『うおおおおおおっ!!』
激しい叫び。いや、雄叫びと言った方が適切か。耳を劈く様なそれと共に、強烈な弾幕が視界を埋め尽くした。
瞬く間に装甲を削っていく。至近距離のマズルフラッシュが視神経にもダメージを与える。それに伴ってほぼ無意識で後退した。
だが凶獣はどこまでも喰らいついてくる。執念深さは折り紙つきのようだ。時として、それは仇となるが。
(来るっ!!)
二発目が飛来した。それはまたしても沈黙の一撃だ。
狙っての攻撃か、先程と同じ弾道で直撃する。今度は、その射線上にいた白いACが。
『ぐおおおおっ!!』
吹き飛ぶ右腕。マシンガンがそれと一緒に宙を舞う。怯んだ隙に、雫は一気に距離を離す。
そして、一寸先の無い闇へと叫ぶ。
『ファントム!!』
こんな手口で仕掛けてくるのは、一人しか思い当たらない。果たして聞こえているのかわからない叫びが、闇に響き渡る。
『奴が来るのか……?ヒュー……面白くなりそうじゃねぇの!!』
先程の砲撃など露知らず、その戦いを待ち望む男が調子付く。
最早時間は無い。ファントムが奴に止めを刺してしまう前に、目の前の敵を退けなければ。
『チィッ!!』
気を取られている隙に、一気に接近。だが、気配に気付いた敵がチェインガンとマシンガンで応戦する。
仕方なしにライフルを連射。右腕が吹っ飛んだおかげで軽くなった重量が、相手の回避を幾分楽にさせていた。
オーバードブーストを絡めて素早く相手の周囲を飛び回る。追いつかない旋回はこの際無視を決め込んだ。
自らの構想するこの後の動きを信じて、彼女は舞った。

男はぼやく。
『二発目は邪魔が入ったか……クソッ垂れ……』
肩に背負ったレーザーキャノンをパージし、移動を始める。外見はGERYON3そのものだが、ちょっとした改造がそれには施されていた。
今更違法改造など気にも留めるようなことじゃない。弾丸ごと改造しているせいで、今後二度と使えないものになっているが。
いや、もう一度改造すれば恐らく使えないことは無い。だがそのための手間を考えると、二度とやりたくはなかった。
『まぁいい……それなりのダメージは与えられたはずだ……』
ゆっくりと動き出すAC。その目は、しっかりと目標を捉えていた。
『仇は取る……絶対に……』

レーダーに影が映る。そう、誰かにとっては待ちに待ったモノ。誰かにとっては、永遠に現れて欲しくなかったモノ。
舌打ちと、歓喜の声が入り混じる。いよいよ時間は無くなって来た。
『俺はこっちだぜぇ!!ファントムさんよぉー!!』
叫びと共に、オーバードブーストが始動する。爆音と共に駆け出す4脚ACと、それを追いかけるように疾空する漆黒の2脚AC。
打ち切ったマシンガンをパージしてブレードを取り出している敵。そんな二人の交わす刃には目もくれず、ただただ目標へ向かって空を走る。
『もう時間はかけていられないみたいね』
それでも、彼女は冷静に言った。心の中では、焦りが占拠しているが。
『知ったことか。俺はお前をここで殺す……それだけだ』
『本当にそれしか考えてないのね……まぁ、本当にそうなるように精々頑張りなさい!!』
一気に捲くし立てて、突撃。もう形振り構っていられなかったから、そうした。
世界がスロー再生されているように、全ての事象がゆっくりと流れる。オーバードブーストの中にいて、彼女はそんな感覚に囚われる。
至極冷静に、敵の動きと自分の動きを比較する。次にどう動けばいいか、どこでどう切り返せばいいか、そんなことを考えて動く。
未だかつてこんなことがあっただろうか。だが、彼女は極自然なこととしてこれを受け入れた。
(あの人の血……って奴かもね……)
脳裏に後姿が浮かぶ。大きく、優しい背中が。
(仇は取る……絶対に!!)
オレンジの閃光と、緑の閃光が交差する。
方やコアを貫き、方や脇腹を抉る。
意外にもあっけない、決着。
『生まれ変わったら、もうちょっとマシな生き方をすることね』
火花の音に紛れ、凛とした声が告げる。
『生まれ変わる前に、地獄で待ってるよ。決着はそれからだ』
互いにブレードを引き抜き、距離を取る。少しの間の後、雫の方が飛び立った。
本当の決着をつけるために。

『……フッ……地獄で待たせてもくれないか……』
明滅する計器。そこに映るのは、たった一桁を残すAP。
死にたくても死に切れない、そんな気分だ。
『……どうしたものか……』
深く掛けていた腰を浅く座り直し、見えない天を仰ぐ。
こぼれるのは溜め息だけだった。
(負けてなお生きる……か……生き恥を晒すよりは……)
少し大振りなナイフは、静かに脈動する心臓を貫いた。

『さっきのレーザーは、お前さんなんだろう?』
嘲る様な男の声が、響く。対峙する2機は、互いの意図を知ってか知らずか、動き出すのを待っていた。
『だったらなんだと言う』
あくまで冷静に、とは言っても元よりそんな性格の男だ。
次の言葉は待たない、ただ自分の思うままに行動する。
まずはその剣を抜いた。
『ハッ……不意打ちに加えて、人の話は聞かないと来たか』
『これから死ぬ男の話など、聞く必要は無いだろう』
いたって普通に、正面から襲い掛かる。ブレードの補助に構えたライフルは、的確に相手の動きを制限するような弾道を描く。
逃がしはしない。ここで確実に殺す。そう決めた彼の仮面越しの目は、レイヴン殺しとしての光を持っていた。
『そうは行くかってんだ!!』
高速で接近するACを前に、両腕の火炎放射が吼える。
炎を浴びないよう、素早くスライド。肩のリニアガンに切り替えて牽制しつつ距離を取る。
(腕に接近戦用武器を持ち、本命は肩か)
互いの肩には同じリニアガンが乗っている。
反動も威力も高く、非常に高性能な兵器だ。
火炎放射をチラつかせ、相手に接近させずにリニアガンを狙う。
(どちらかの腕を落とすのが先か……)
ファントムはそう決めて、オーバードブーストを利用して側面を奪いに行く。
幸か不幸か、障害物は無い。これが戦闘にどう影響するか、少し気にかかるところでもある。
(まぁいい……とにかく、奴を殺すだけだ)

視界にうっすらとブースターの炎が明滅する。どうやらまだ戦闘の最中のようだった。
(よし……間に合った)
ファントムが邪魔だが、この際仕方が無い。自らの手で奴を葬ることが出来れば、それで良い。
細かい作戦など立てている暇はない。今もファントムは着々と奴の装甲を削っているだろう。
とりあえず、ファントムに習って急襲するのが一番と読んだ。
(そのための機能がちゃんと備わってるんだから……有効に使わないとね)
独特のチャージ音。青い炎を吐き出すと共に、爆音を響かせて飛翔した。

レーダーが捉えた機影。真っ直ぐ突っ込んでくるその影は、本当に一直線に橙のACを目指していた。
『来たか……!!』
呟くのも束の間、その機影に男も気付くが、時既に遅し。
『はぁぁぁぁぁぁああああ!!』
ズバン、と一撃。宙を舞う機体の残骸と火炎放射器。
どうやら左腕を奪うことに成功したらしく、見れば既に右腕も無くなっていた。
恐らくはファントムが奪ったものなのだろう。大した射撃能力だ……。
『邪魔をするな。これは俺とあいつの戦いだ』
敵ACの状態など露知らず、ファントムは戦いに水を差す者を制止する。
が、そんな事を聞く耳を持っているわけでもない。雫は一切気にも留めず、自らの標的へと喰らい付く。
両の腕を失い、頼りは肩のリニアガンのみになったACが、ゆっくりと後退する。
『逃がすものか……!!』
素早くオーバードブーストで回り込む。兎にも角にも、退路を断てば逃げられることは無い。
完全に退路を断つことが出来なくとも、その場しのぎになればいい。それすらも破られれば、さすがに不安ではあるが。
『2対1か……それは流石に卑怯すぎやしないか?』
冷や汗を垂らしながらそう呟く。相方とは違い、こちらは流石に死ぬのが怖いらしい。
常に周囲に目を配らせ、逃走経路を探り続けた。
『知ったことか……俺はお前を殺したいだけだ』
『私も同じよ……ただあんたが憎いだけ』
挟む様な位置取りをし、二人は言い放つ。これが、男のして来たことなのだ。
人の恨みを買うのは、レイヴンの常なのかもしれない。だが、それを承知でこの仕事を続ける以上、それなりの覚悟は必要だ。
この男は、ある意味でレイヴンとして失格だろう。わかっていたはずなのに、自らこの状況下を招いた。
先程知ったときに、消しておけばよかったのだ。相方を過信していたとも言えるかもしれないが。
『ハハッ……面白いじゃねーか……』
口ではそう言うが、声は乾ききっている。奴の心を支配するのは、恐怖。
死を前にして現す人間の本性。この男の場合は、プライドも全て捨てた完璧な逃避。
『ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおッ!!』
叫びと共に、真紅のACへ向けて襲い掛かる。気が狂った……二人はそうとしか思えなかった。
が、応戦しないわけにも行かない。リニアガンの銃口をしっかりと見つつ、ライフルを構える。
『チッ!!』
舌打ちと共に吐き出す弾丸。まるで覚醒したかの如く敵ACは全て回避する。
回避した先には追う様に接近するファントム。一瞬そちらに気を取られた隙に、男はリニアガンを放った。
一発、二発と着弾。流石にこの反動は大きく、そう安定性能の高くない雫のACは大きくよろめいた。
『クッ!!』
リニアガン二本でどこまで戦えるか。それを考えて男が導き出した答えはこれだった。
爆音と炎と、高速で去るAC。オーバードブーストを使って逃亡を開始する。
『くそっ……逃がすわけにはっ!!』
動き出す前に前に出たのは、ファントムだった。雫よりも早く、奴を追撃し始めていた。
高速で離脱する二機。追いかけるには、自分も同じようにするしかない。
本日何度目か、雫のACが青い炎を巻き上げて疾走する。

少しの距離も、あっさりと詰めるほどの出力を持つコアを雫は使用している。
腕が吹っ飛んで軽くなった分の加速をしているが、それを差し引いてもまだ雫の方が早い。
後は内装勝負となるか、消費エネルギーやコンデンサ容量などの関連もあるだろう。それに、射程距離に入ればファントムも妨害をするはずだ。
雫はブレードによる一撃しか目に入っていない。だから追いつきさえすればそれでよかった。
余裕を持ってブーストを解除し、時々エネルギーを回復させる。エネルギー供給のためにミサイルもパージ済みだ。
ファントムも、あの男も、時々ブーストを止めて回復に入る。まるで鬼ごっこのような状況だ。
(機動力は十分のはずだ……すぐに追いつける!!)
それでも出遅れた分、ファントムよりは劣る。更に不安要素として、強化人間だってある。
だからと言って諦める筈がなかった。
(私はあの人の妹……出来ないわけがない!!)
再びオーバードブーストの起動。ファントムも、ターゲットも同じようにオーバードブーストを発動させる。
数発のライフルを放ち、左右に揺さぶりを掛けて減速させるファントム。
そうしていると、突然敵ACがオーバードブーストを止めた。
(ん……何?)
ゆっくりと旋回し、こちらを向くAC。そのリニアガンの銃口は、しっかりをこちらを向いている。
『なっ!!』
この期に及んで攻撃に移るようだ。
逃げ切れないと踏んだのか、それとも何かの作戦か。
『死ぬなら……どうせ死ぬならどちらか道連れだ!!』
もっと単純な話だったようだ。二機のACが共にブーストをやめ、回避行動へと移る。
『ファントム!!ここは私に譲りなさい!!』
『断る!!奴は俺が殺すと決めた!!』
この期に及んでどちらが殺すかで言い争う。まるで飢えた獣の餌の奪い合いだ。
ドシュゥと音がすれば、二機の間を割って通るリニアの弾丸。
死ぬか生きるか、そんな事は最早奴には関係なかった。ムシャクシャしながら撃つ弾丸は、どれも軌道が的外れだ。
『チャージングか……?ここに来てミスを犯すとは哀れだな!!』
叫ぶファントムがリニアを連射する。
図星を突かれた男は動揺するが、もう完全に言葉を失っていた。
エネルギー供給が低いのだろう。フルチャージまでかなりの時間を要しているようだ。
『残念だけど……あなたはここで終わりよ』
『残念だが……お前はここで終わりだ』

二人の声が重なった。

無情にもオーバードブーストの起動音が響く。

(これで……私の仇討ちは終わる……)

(これで……俺の仇討ちも終わりだ……)

疾走する二機の背後に、男は騎士の影を見た。

二本のオレンジの閃光は、全てを終わりへと導いた。




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