※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ガレージに設置されている端末の画面を見つめる。
画面には、高火力の実弾兵器で構成された4脚ACが映っていた。
兄が使用していたAC『ブレイズウォール』
炎のような赤を身に纏い、炎のような激しい攻撃をお見舞いする。
まるで兄には似つかわしくない戦術。
だが、兄はこのACを最も使用していた。
「……兄さん。ごめん」
それだけ言って、雫はそのデータを消去した。

クレストより、新たな任務が舞い込んだ。
内容は『ミラージュ専属AC撃破』
ここ最近クレストとミラージュの対立がひどく、こういった任務が多々やってくる。
いつか戦争でも起こるのではないかと予感させていた。
それでも、やらなければいけない。
奴らを追う協力をしてもらっている分、しっかりと働かねばならないのだ。
「……私たちにもっと組織としての力があればなぁ……」
一応、あの時の同胞達が集って独立して活動してはいる。
だが一介の一般人では限界があるのが現実だ。
中にはあの事件を機にレイヴンになったものも少なくない。

雫もその一人である。
だが、それだけでどうにかなる問題ではない。
それにクレストの企業としてのメンツもある。
だからこそ、クレストの専属として動くのだ。
中にはクレストには所属せず、単独で活動しているレイヴンもいる。
向こうがちゃんと気をつけているのか、戦場で会うことはない。
もっとも、同胞の命を奪うようなことは考えていないが。
例えそれが、クレストの指令だとしても。
「さて……行きましょうか」
隣でコーヒーカップを片付けるエレンに声をかけ、立ち上がる。
クレストの本社ビルを出て、戦場へ向かう前の風を堪能する。
少し澱んだ、火薬と油の匂いを含む風。
ここ最近のミラージュの動向で、クレストの防衛機能は一層の向上を迫られた。
常に数機のACが徘徊し、敵襲に備えている。
「本当に……戦争と変わらないわね……」
現状を嘆きつつ、戦場へ向かった。

輸送機の中で資料をチェックする。
今回のターゲットに関する資料である。
「タンク型か……余裕ね」
大した自信である。
「あまり調子に乗ると、痛い目見るわよ」
すかさずエレンが釘を刺す。
本当に調子に乗るようなことはまずないと思うが、念のためだ。
「それに、新しい構成での初出撃なんだから。油断しないでね」
そう、これは構成を変更してからでは始めての出撃。
普段使い慣れていた物とは異なる物、それだけで世界は変わる。
「わかってるわよ」
本当にわかっているんだろうか……と内心思っていたりする。
「そろそろよ。準備して」
エレンがそう促すと、雫は資料を置き、立ち上がる。
AC搭乗口へ向かって歩き出すが、ふと足が止まる。
(……何も不安がることはない。きっと……勝てる……)
何事もなかったように、再び歩き出した。

コックピットに映し出される映像を、注意深く観察する。
『まもなく、作戦領域に到着します』
エレンがそう告げ、雫の集中力を向上させる。
映像の中央には、一機のACが映っていた。
(……あいつが……ターゲットね)
細かい武装は把握できないが、間違いなくタンク型のACである。
『敵AC、ハヌマーンを確認。撃破します』
単調なセリフと共に、雫のACは輸送機から放たれた。
そのままタンク型ACの前に降り立つ。
『何だ貴様!!まさか……騙して!!』
敵AC『ハヌマーン』のパイロット、白猿帝が明らかに動揺した様子で雫へ問う。
男の言い分など無視し、雫はそのブレードを振りかざした。
『残念だけど、死んでもらうわ』
それだけ告げ、一閃。
そして反撃を許す前に、素早く離脱する。
さながら剣の舞。
月光に映えるソードダンス。
完成された交響曲のように完璧な動きで、切り刻む。
『くそっ……!!まさかそんな!!』
白猿帝が必死に反撃するも、次々回避する。
完全に相手を翻弄し、優位に立つ。
しかし、そう上手くはいかないのが現実である。

『遠方より、高速で接近する敵反応を確認!!』
その声に、雫は素早く周辺を見やる。
確かに、砂埃を上げ接近する機体が確認できた。
『おぉ……アヌビス!!援護を頼む!!』
エレンが素早くデータの照合を開始する。
クレストのデータベースにアクセスし、ミラージュ専属ACの情報を引き出す。
『データが古すぎる……名前しか出てないわね』
それとも、最近ミラージュ専属となったレイヴンなのか。
どちらにせよ、情報があまりにも少なすぎた。
『敵AC、ジャッジメントを確認。撃破してください』
ここで退くわけには行かない。
雫も十分理解しているようで、二機のAC相手に果敢に挑みかかっていた。
(くっ……やはり二機相手にするのは厳しいか……)
ブレードを決めようと一気に接近すると、もう一機が妨害する。
洗練されたチームワークで、逆に翻弄されることになった。
ライフルと実弾型EOを使用し、牽制する。
しかし、ブレードを狙いに行くことができなかった。
(まずい……このままじゃ……)
一瞬だけ、敗北を予想してしまう。
その考えをすぐに拭い去り、目の前の敵に集中する。
ジャッジメントに照準を合わせ、ライフルの銃口を向ける。
その途端、爆音と共にジャッジメントが視界から消え去った。

『なにっ……!!』
一瞬だったが、リニアキャノンが飛来したのがわかった。
すぐにその攻撃の主を探すため、周囲を見回す。
が、何も見当たらなかった。
『高速で接近する反応あり!!注意してください!!』
瞬間、レーダーに高速接近する機影が映る。
雫はすぐさま、その所属不明機を見据えた。
漆黒のボディ。
決して輝いてはいないが、とても存在感のあるAC。
(あいつは……一体……?)
そう考えている間に、そのACはライフルを構えた。
『レイヴン、援護する。』
それだけ告げ、攻撃を開始した。
ジャッジメントへ向かって数発の弾丸を放ち、接近。
ブレードで斬り付け、OBで距離を離す。
その間に、雫はハヌマーンへと襲い掛かる。
『くそっ……増援なんて聞いてねぇぞ!!』
そりゃ当たり前の話である。
喚き散らしながら、白猿帝はひたすらに射撃する。
『こっちのセリフよ』
それだけ言い捨て、牽制しつつ接近。
そのまま補助ブースタを利用し一撃。
反撃の隙を与えることなく、的確に斬り付ける。
『残念だったわね』
最後の一撃を放ち、ハヌマーンは爆散した。
そこでジャッジメントの方を見ると、すでにあの謎のACが撃破していた。
(あの早さで……只者じゃないわね)

素性もわからないが、この場は本当に助かった。
雫は安易にクレストが寄越した増援だろうと考えていた。
(おかしい……クレストに連絡しても増援の話は出てないし……あのACは一体……)
戦闘に集中して雫には声が聞こえないとわかっていたので、エレンはずっと謎のACの調査に徹していた。
クレストのデータベースにアクセスしても見つからない。
本当に見たことがないAC。
(一体……何者……?)
もう少しだけ調査を続けることにした。
『援護感謝するわ、レイヴン』
雫は謎の救援に感謝を告げ、その場を離れようと動き出す。
この時はただの増援だと信じて疑わなかった。
(まさか……あの噂……!?)
エレンが真実に気が付く。
急いで雫に呼びかけた。
『避けて!!』
その声に、反射的に機体をスライドさせる。
ブレードの閃光が、一瞬視界の端をよぎった。
『……何を……!!』
ここで雫はあの噂を思い出す。
ここしばらくの活動こそほとんど耳に入らなかったが、つい数ヶ月前まで話題になっていた。
『貴様……レイヴン殺しか!!』

突然の増援として現れ、その場にいる全てのレイヴンを消し去る悪魔。
『ふん……おとなしく斬られていればいいものを……』
素早く後退し、リニアキャノンの銃口を向ける。
『ちっ!!』
ロックを外すために、素早く回避運動を開始。
まだ体勢が整っていないため、回避に専念するしか選択はなった。
(ほとんど弾薬も残ってない……このままじゃ……!!)
選択肢はブレードしか残っていなかった。
とにかく早急に体勢を立て直す。
回避と旋回を使い分け、上手く相手の横を取りながら回る。
しかし、まるで動きを読まれているかのようにそれを許さない敵AC。
(くそ……こいつ実力は本物だ……!!)
追いかけっこのように、お互いの位置を把握して動き回る。
一向に体勢の整わない雫と、一向に決め手を打ち込めない敵。
『足掻くな!!』
ミサイルに切り替え、数発射出。
回避運動をする雫に、さらにライフルで追撃を加え接近。
ブレードを構え、一閃。
数発の被弾を許すものの、ブレードを上手く回避し背後を取る。
『もらった!!』
ライフルを全て撃ちつくしブレードで追撃。
しかし、ブレードは掠るだけにとどまった。
『なかなか……!!』
OBで距離を離される。
その間に、打ちつくしたライフルをパージする。
(残るはブレードのみ……骨が折れそうね……)

今まで戦ってきたどんな相手よりも強い。
それだけはわかっていた。
(でも……やるしかない!!)
気合を入れ、相手に襲い掛かる。
猛獣の如き勢いで喰らい付いた。
全力の一閃。
難なく回避されるが、想定の範囲内。
素早く旋回、補助ブースターを使用しての急速離脱。
エネルギー残量に気を配りつつ、相手のロックオンサイトに入らないよう移動する。
『ふん……なかなかやるようだな』
OBを巧みに操り、距離と体勢を整える。
正確に距離を見極め、ライフルとミサイルを織り交ぜて攻撃。
時々ブレードを狙いに接近するなど、動きに隙はほとんどなかった。
しかし雫も劣らず、攻撃のほとんどを回避していく。
(……只者では……ないな)
実力を認めるしかなかった。
ことごとく避けられ、弾丸は空を斬って飛んでいく。
(だが……ここで負けるわけには行かない。……奴らを……レイヴンを根絶やしにするまでは!!)
動きが変化する。
とても正気の沙汰とは思えない、攻撃を受けることを前提とし、攻撃を当てるための動き。
簡単に言えば、突撃。
ライフルを撃ちながら急速に接近し、左腕のブレードを振りかざす。
『……!!』
標的をしっかりと見据え、左腕の動きを見る。
振りかざした瞬間に回避運動。
ブレードは、先ほどまで雫がいた空間を切り裂く。

『ちょこまかと……!!』
OBを利用し素早く離れ、向き直る。
雫が旋回し、奴をその目で捉えた時には、すでにリニアの銃口が向けられていた。
『落ちろ!!』
二、三発リニアを放つ。
それぞれの軌道を描き、着弾。
最後の一発が、雫のACを吹き飛ばす。
『くっ……!!』
安定性の悪さがこんなところで枷になる。
回避に自信があっただけに、自身も理解していた弱点だった。
よろめいた所に、追撃。
いつの間にか接近していた黒い機体が、オレンジの閃光でACを切り裂く。
『くぁっ……!!』
冷静に状況を判断し、一気に距離を離す。
しかし、それも許さずにOBで接近。
瞬間的に、恐怖が襲う。
(……このままじゃ!!)
視界の中で大きくなる黒いACに、絶望を見た。
あぁ……復讐も果たせぬまま、終わるのか。
瞬間、何かが途切れた。
突撃するACに対して、突撃。
『なにっ!!』
すると、一瞬だけ怯む。
その隙を突き、回り込み。
そのまま一閃。

(まるで人が変わったような……こいつ……やはり只者ではない)
体勢を立て直すため、うまく離脱。
しかし、それを飢えた野獣のように追いかける雫。
今までとは打って変わった動きに、エレンも戸惑っていた。
(私はあの時誓った……)
テロ事件のことを思い出す。
ハンニバルに言われたことを思い出す。
色んな思いが、雫の中で交錯する。
『あいつを殺すまでは……私は死なない!!』
青い閃光が、黒いACを切り裂く。
その一撃には、確かな思いが乗せられていた。
右腕を切り落とし、さらに左腕を狙う。
相手も火が点いたのか、真っ向からブレードを狙う。
『貴様になど……負けるものかぁぁぁぁぁあああああ!!』
青とオレンジの閃光が入り混じる。
お互いがお互いを切り裂き、双方力なく大地に降り立った。
少しだけ距離を置いて、そのまま数秒。

『フッ……』
嘲笑うかのような、一息。
自分に対するものなのか、雫に対するものなのか。
そのまま少しだけ間があって、ゆっくりと尋ねた。
『貴様……名はなんと言う』
どこか上から見下ろすような言い草。
少しだけ気に食わなかったのが、なんとなく嫌ではなかった。
『……インペリアル』
内心まだ警戒はしていたが、大人しく名乗る。
今では、殺気をほとんど感じない。
『インペリアルか……覚えておこう』
それだけ言って、振り返る。
OBを発動させ、その場から去ろうとする。
『あんたの名前は?』
その声に、OBを止めた。
少しだけ逡巡し、こう答えた。
『ファントム……いつからかそう呼ばれている。……もっとも、ごく一部の人間ではあるが』
そう言い残し、OBでどこかへと去って行った。
流れる静寂。
雫はその場から動くことが出来なかった。
安心か、それとも他の何かか。
いずれにせよ、雫は何も考えられなかった。
絶望から逃げ切った、ある種の安堵。
絶望を打ち破った、ある種の喜び。
そして、言いようのない不完全燃焼の感覚。

『……ずく……。……応答して、雫』
ふと、通信が入る。
エレンが、先程からずっと呼びかけていたようだ。
『ごめん……今になってどっと疲れが……』
ACを動かす力も沸かなかった。
とてつもない負荷が脳を襲い、物事を考えることもままならない。
『……ACを回収するわ。……雫?』
返事はなかった。
その代わり、通信機越しに寝息が聞こえる。
(相当疲れてるみたいね……早く帰還しなきゃ)
輸送機のパイロットにACの回収を指示し、オペレーターとしての仕事を一旦終える。
通信機のヘッドセットを外し、一息つく。
(あのレイヴン……確かファントムって言ってた……。何者なのかしら……)
どれだけ調べても詳細不明で、本当に謎に包まれた『幻』
今は考えることをやめ、クレストへの報告を始めた。
雫は、ACの中で夢を見ていた。

クレスト本社に着くと、雫は医務室へ運ばれていった。
別段重傷なわけではないが、ゆっくりと休ませる必要があったからだ。
ACの方は消耗が激しく、修理してからガレージへ送られることになった。
エレンは、ロビーの隅で待っていた。
「よう、お嬢ちゃん。何してんだい?」
聞き覚えのある声が、耳に届く。
どこか馴れ馴れしいその声は、間違いなくあの男だった。
「……ハンニバルさん。そっちこそ、何してるんですか?」
ここはクレスト本社だ、普通は専属レイヴンか社員しか来ることはない。
それに、格好があまりにも場違いすぎる。
グラサンに煙草を咥えて、ジャケットを羽織っている。
明らかに、浮いていた。
「新規パーツのテスト。俺ってば色んなパーツ使ってるから、企業からそんな依頼がよく来るんだよな」
パーツの開発援助にレイヴンが関わることは極普通のことである。
が、まさかそれがハンニバルも行っていることだとは思っていなかった。
おかしくないと言えばおかしくないのだが……如何せん。
(すごく……この人だけ空気がおかしい)
何度も言うが、明らかに浮いていた。

「じゃ、俺は仕事行ってくるわ。インペリアルによろしく伝えておいてくれ」
そういい残し、ハンニバルは仕事へ向かう。
諸々の事情を話し、いくつかの情報を頂いた。
話の最中に頂いたコーヒーを啜り、ほっと一息。
正直な話、エレンはハンニバルが苦手だった。
彼のテンションと言うのか、空気と言うのか。
とにかく、なんとなく苦手な部類に入る男だった。
(……いい人なのは、わかってるんだけどね……)
それは、彼が女に甘い性格だからとも言える。
一つ溜め息をこぼし、雫の眠る医務室の方角を見た。
(……お疲れ様)
帰りには、雫の好きなケーキを買って帰ろう。




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー