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ボフッと音を立て、ハンニバルが力なくベッドに倒れ込む。
食事をとることも忘れ、ただ目の前にある現実に対し絶望する。
何も考える気力が起きない。
それほどまでに、彼が見た現実は彼の心を打ち砕いた。
(まさか……あいつが死んじまってるなんてな……)
今更変わることの無い現実。
どうしようもない虚無感が彼を包む。
(一体俺は……誰を目標にレイヴンを続ければいいんだ……?)
彼の目標としていたレイヴン……エンペラーは、既に死んでいた。

ACの構築作業が終わり、残ったパーツはハンニバルのガレージへと送り返す。
その手続きも終了し、作業員が全員帰路に着く。
ハンニバルは、心の中に靄を抱えながらガレージを出た。
(確かに……あいつは少し奴に似ている……。だが……本当にあいつなのか?)
ハンニバルは、エンペラーが雫であることを疑っていた。
しかし、肉親である可能性ももちろん否定は出来ない。
「こりゃあ……本人に直接聞いてみるしかねぇな」
「何の話?」
と、ガレージからリビングへ続く階段の途中で鉢合わせ。
ハンニバルは、雫の若干上気した肌に見とれていた。
「あぁ……いや、その……なんだ。作業終わったみたいだぞ」
一瞬の沈黙で間が悪くなってしまった。
変に焦ってしまうところが情けない。
「あらそう。ちょっと見に行ってみるわ」
雫は何も気にした様子は無く、そのままガレージへと向かって階段を下りていく。
ハンニバルは、なぜだか知らないけれどほっと胸を撫で下ろした。
(って何を安心してるんだ俺は……)
一瞬でも見とれていたことか、それとも勝手に端末を覗いたことの罪悪感か。
どちらにせよ、褒められたようなことではなかった。
(考えてるだけじゃ仕方ない……やっぱここは本人に聞いてみるしかねぇな)
一つの決意をし、階段を下りる。
しかし振り向いた、時雫はハンニバルの目の前に立っていた。
「うおっ。何だよ……ガレージ行ったんじゃなかったのか?」

少し仰け反り、素直に疑問をぶつける。
一瞬間があって、ゆっくりと返事が返ってきた。
「……端末に何かいい情報でも書いてあった?」
バレバレだった。
「あー……えっと……」
こういうときに上手くごまかせないのがハンニバルの弱点だ。
「ちょっとドライブ行かないか」
……内心『俺は何を言ってるんだろう』と思っていた。
本当にこういった状況が苦手、それは本人も重々理解していた。
(うまい誤魔化し方ってないもんかね……)
「……少しならいいわよ」
ハンニバルは目を丸くして硬直した。
まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったからだ。
「詳しい話はその時しましょう。あなたが何を探ってるのかも、教えてもらうわ」
それだけ言って、ハンニバルの横を抜け階段を上がっていく。
(……なんか疑われてる気がする)
それも当然の話なのだが。

「で、何を調べていたの?」
出発するや否や、いきなり本題から食って掛かる雫。
ハンニバルも今回ばかりは勢いに押されていた。
「まぁなんというか……所謂知的好奇心って奴だ」
などと適当に返してしまうのはハンニバルの悪い癖だった。
「ずいぶん適当言ってくれるじゃない……」
やはりその辺りも雫は理解しているのだろう。
もちろん雫の性格上、疑わしきはとことん疑うのだが。
「あー……まぁあれだ。一応どんなAC使うかとか見ておきたかったんだよ……今後共に行動することもあるだろうし」
その言葉に、虚偽は含まれていないよう聞き取れた。
出会って間もないというのに雫はほとんどハンニバルの性格を理解していた。
それほど単純な男なのだ。
「そう………残っていたデータを見て何を思った?」
立て続けに問いを投げかける。
徹底的に絞るつもりなのだろうか。
「……あれは本当にお前が構築したACか?」
ハンニバルの顔から急速に焦りが消えた。
彼にとっても、どうしても聞き出したいことがあったから。
事の真偽を知りたい。
それは一つの知的好奇心で、一つの信念でもあった。

「……シルフ以外は……全て兄が構築したACよ」
兄。
予期せぬその言葉にハンニバルは動揺を隠せなかった。
「……つまり……エンペラーは、君の……兄なのか……?」
核心を突く。
それはハンニバルの最も知りたいことで、雫の思い出したくない過去であった。
「そうよ……エンペラーは私の兄。若くしてレイヴンになり、3年前のテロ事件で亡くなった……私の大切な兄よ」
雫は決してハンニバルの方を見なかった。
涙を見られたくなかったから。
「…………一つ、聞かせてくれ」
それでもハンニバルは、どうしても確認したいことがあった。
「……何?」
雫は、涙を流しているのを気取られないよう、出来るだけ少ない言葉で話した。
「……彼がアリーナから消えたのは四年前。彼が亡くなったテロ事件は3年前……。その間の1年、彼はどうしていた?」
ハンニバルの知らない、空白の1年。
ミッションでも見かけることはほとんど無く、引退したのではないかと噂されていた。
その時、何があったのか。
どうしても知りたかった。
「兄は……フリーで活動していた。ほとんど慈善事業みたいなものだったけどね」
ほとんど報酬を受け取らず、救命などのミッションを独自で行っていた。
とてもレイヴンとは思えない、レイヴンにしておくのがもったいないほどの性格。
(あいつは……本当にもったいない奴だな……)
確実にトップへ登りつめる才能を持ちながら、忽然と姿を消した天才。
誰よりも優しく、自分より他人を優先する。
いつかのハンニバルは、彼を目標とし、彼をライバルとしていた。
だがその男は……もういない。

気が付けば夜だった。
ベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまったのだろう。
起き上がると腹が鳴ったので、夜食をとることにする。
適当に冷蔵庫の中の物を物色する。
適当に腹が膨れそうなものを取り出し、頬張る。
うまくはない。
その程度の感想しか出てこなかった。




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