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自宅地下より通じる雫のACガレージ。
重厚な金属の扉を開き、その冷たく暗い空間に身を躍らせる。
扉の近くにある、照明のスイッチに手をかける。
いくつかのスイッチをオンにすると、ゆっくりと周辺が明るくなって行った。
ガレージの中心にたたずむ、蒼いAC。
「……シルフ」
返事をするわけでもないのに、つい名前を呼んでしまう。
その冷たい脚に手の平を合わせ、愛機の命の鼓動を感じ取る。
苦楽を共にし、数多の敵を倒し、傷ついては修理し、一緒に同じ道を歩んだ。
言わば親友。
言わば家族。
同じ時を過ごした、最愛の仲間。
兄の命を受け継いだ、最愛の兄弟。
「……今までありがとう。……そして……お疲れ様」
愛する者に別れと感謝を告げ、雫はその場を去った。

次の日
ピンポーン……。
優雅に紅茶を楽しんでいた雫の耳に、チャイムの音が届く。
「来たわね……」
ティーカップをソーサーへ戻し、立ち上がる。
エレンは、一瞬雫が呟いた言葉に首を傾げていた。
玄関から戻った雫の後ろには、エレンが想像していなかった人物が立っていた。
「ようお嬢さん。同居してたんだなあんたら」
ハンニバルである。
意外な人物の登場に、エレンは目を丸くして固まっていた。
「昔からの親友なのよ……あの事件以来同居してる」
律儀に説明する雫。
あまりに普通の対応だったのでエレンは一人除け者の気分だった。
「ところでお前さん日系だったんだな」
「何を今更」
「いや、表札にSUMERAGIって書いてあったからよ」
極々普通の会話をしながら二人はガレージの方向へ歩んで行った。
一人取り残されたエレンは二人を追うことも忘れていた。

二人がガレージに入ると、既に数十名の作業服を着た整備士が待機していた。
「ご苦労さん」
ハンニバルが適当に手を挙げ挨拶をする。
雫は無言でAC付近の端末へ歩いていく。
「おいおい……お前も挨拶ぐらいしとけよ」
しかめっ面で挨拶を促す。
煙草の煙が雫にかかり、若干鬱陶しそうに歩調を速めた。
「さっきしたわよ」
至って平坦かつ冷淡な返答だった。
「そうかいそうかい……」
ハンニバルも半ば諦めつつ返す。
結局会話はそれだけで終わった。
端末を起動させ、ACの構築データを読み込む。
やや間があって、画面には今後ろにあるACの姿が映し出された。
「これが今日搬入したパーツのデータだ」
ハンニバルがポケットから何かを取り出す。
所謂メモリースティックの類で、今雫が操作している端末に対応しているタイプのものだった。
雫はそれを無言で受け取り、端子へと挿入する。
データの読み込みのためしばらく待つ。
「搬入したのはどんなパーツ?」
読み込みの間、雫はハンニバルに出来るだけ質問することにした。
主に、今日行う作業についてだ。
「読み込まれるリストを見ればわかると思うが……まぁ主に脚部やコアなどの外部パーツだな。
この間の戦闘から判断し、主に中量2脚や軽量2脚、それに見合うコアを用意した。
武装パーツは軽めの物をいくつかって程度だな。主力はあのブレードだろうし、そんなに用意しなくてもよかっただろう?」
そこまで言うと、読み込みが完了される。
出てきたパーツリストは、ハンニバルが雫に合わせて選んだパーツ。
どれも雫の戦闘スタイルに合ったものばかりだった。
(この男……あれだけの戦闘でよくここまで……)
素直に感心した。
性格はとてもじゃないがいいとは言えない。
だが、確かにハンニバルの腕は一流なのだ。
「だてに色んなパーツ使いまくってるわけじゃない。
そこらのレイヴンよりアセンブリの腕はいいつもりだぜ」
現に、彼のアセンブリの腕は定評がある。
彼のACを模倣するものも現れるほどだ。
「上出来ね……信頼に値するわ」
恐らく、雫の口からハンニバルに対して褒め言葉に値するものが出るのは初めてだろう。
(よっし!!この調子でフラグまで持ち込んでやる!!)
……やはりこんな男だった。

二人で話し合いしつつ、ACの構成を決めること既に2時間。
その間、クレストより派遣された整備士は仕事の準備をする者もいれば談笑する者もいた。
エレンが途中お茶を運んで来ることもあった。
そして……。
「こんなものかな……」
データの入力を終え、イメージの出力をする。
ハンニバルがそれを後ろから覗き見た。
「ほぅ……結構いいんじゃねーか?」
あくまでブレードを主体に、補助火力としてイクシードオービットとライフルを積んだタイプの軽量2脚AC。
今までのACよりエネルギー効率が良く、積極的にブレードを狙っていける。
雫なりに導き出した最良の構成だろう。
「で……名前はどうすんだ?前のままでいいのか?」
ある者は語る。
名前はACにとって命のようなものである、と。
ACは自分の子供のようなもの、とそいつは言った。
『自分の子供には、愛を込めて名を付けるべきだ』と。
「……ブラッドファング」
……果たしてその名に愛は存在するのだろうか。
雫にとって、こいつは戦友。
復讐のために、共に戦う大事な仲間。
だからこそ、この名を捧げる。
「血塗られた牙……ね。まったく……お前らしい名前だ」
「まだ知り合って間もないのに『お前らしい』とは、ひどい言い草ね」
データを整備士達が持つ小型端末に転送する。
データを受け取った整備士達が各々の作業のために動き出す。
ここからは彼らの仕事のため、二人はガレージの端で見守ることにした。
「………………」
じっと、作業の様子を見つめる雫。
ハンニバルはその横顔を見て、呆けていた。
その視線に気づいたのか、雫は険しい顔をしてハンニバルに迫る。
「……何?」
ハンニバルはあわてて取り繕った。
「あぁ……いや。お前さん……年はいくつなのかなぁって……」
「17よ」
その答えに、ハンニバルは動揺する。
「何よその顔」
どうやら表情に出ていたようだ。
あわてて真顔に戻し、話を続けた。
「いや……ずいぶんと若いんだな」
レイヴンの世界は、そう簡単に入れるものではない。
強者の領域になると、並大抵の努力ではなれない。
そのため、上位にはある程度年を重ねたものがなるものだった。
ハンニバルも、彼是10年はレイヴンをやっている。
それでもやっと、アリーナランク10位以内に食い込むのが関の山だ。
それと同等……いや、それ以上の力を持つ少女。
(本当にいやがるんだな……天才って奴が)
ふと、昔を思い出す。
真の天才に出会ったあの時を……。

5年前
「ひぃふぅみぃ……っと。これで全額だな」
男の手には札束が握られていた。
「まったく……たかが200万コーム返すのに5年もかけやがって」
一瞬、ぶん殴ってやろうかと思ったがさすがにまずいので手は上げない。
良家の人間を相手にすると自分の金銭感覚がおかしくなりそうだった。
だから、彼は金を渡した後すぐその場を去った。
「悪かったな。じゃあ、俺はこれで」
背中越しに手を振り、出来るだけ早く自宅へ戻ろうと考えた。
寄り道もせず、余計な買い物も避けようと、そんなことを考えていた。
「あ、ガルシア」
ふと、呼び止められる。
「何だよ……俺は急いでるんだ」
溜め息混じりに吐き捨て、振り向いた。
「お前、レイヴンやってるって本当か?」
この男は、学生時代のダチだった。
昔から金銭面で世話になることが多々あり、今返済した金もその頃から溜まっていたものだった。
卒業して離れてからは、極たまにメールのやり取りをする程度だった。
その度に『早く金返せ。』などと言われるので、いつも頭に来ていた。
卒業してからの進路は、誰にも告げることは無かった。
両親を亡くした15の時から天涯孤独、ずっと一人で生きてきた。
だから、高校で出来た友人とはいつも馬鹿やって騒いでた。
そうしているのが一番楽しかった。
家に戻ってもいつも一人。
一人で過ごすより、複数で遊んでいるほうが楽しかった。
だが金遣いが荒く、バイトだけではとても足りなかった。
だから友人たちからお金をよく借りていた。
一番大きかったのが目の前にいる男から借りた200万だ。
卒業と同時に借り、そのお金でレイヴンになった。
誰にも告げず、地道に任務をこなし、少しずつアリーナの順位を上げて稼いだ。
「……どこで聞いた」
不思議でしょうがなかった。
レイヴン名は本名ではない。
顔だって、レイヴン同士でなければほとんどわからない。
そんな世界の人間の話を、どこで知ったのか。
「最近……お前が借りていた金を全部まとめて返してきたと聞いてな。
金回りのいい仕事でもやってんのかと思って。そんでお前がレイヴンなんじゃないかってダチの間で噂に」
確かに、すぐ返せるような金額ではなかった。
それをまとめて返済しているとなれば、相当金回りのいい仕事をしているとしか思えない。
そしてこの世界で、最も金回りのいい仕事はレイヴンだった。
「まったく……大した想像力だぜ」
吸っていた煙草を携帯用灰皿に押し付け、新しい煙草を取り出す。
「あぁそうだよ……俺はレイヴンだ。これでもアリーナで最近話題になってるんだぜ」
今更隠し通そうとは思わなかった。
別に学生時代の友人にバレたところでどうって事はないだろう。
「やっぱりそうか……まぁお前のことだから大丈夫だとは思うんだが……」
「あぁ?大丈夫って……何がだ?」
こんな時でも挑戦的な口調なのは彼の性格だった。
「いや……なんでもない。とにかく、絶対死ぬんじゃないぞ」
それだけ言って、別れた。
(死ぬんじゃないぞ……ってか)
相変わらず煙草を咥え、帰路をゆっくりと歩く。
(レイヴンなんて……いつ死んでもおかしくはねぇ)
それは彼自身がよくわかっていた。
何度も死線を掻い潜っている彼が、わからないはずがなかった。
(ま、しばらくはアリーナで遊んでるか……)

それから数日後
この日はアリーナで挑戦を受けることになり、彼はアリーナに来ていた。
数々のACが立ち並ぶガレージ、その中をただ何も考えず歩いていた。
いつも通り煙草を咥えながら。
(…………そういや今日の相手誰だったかな)
ここで今更対戦相手のことを思い出す。
マイペースな男だ。
(確か……エンペラーとか言う奴だったか)
エンペラー……皇帝の名を冠するそのレイヴンは最近アリーナに参戦した言わば新参。
それでもここまで破竹の勢いで駆け上がって来た。
(相手にとって不足は無し……)
ドンッ!!
「あっ!!申し訳ございません!!」
突然衝撃を受け、突然謝られる。
声の主のほうを向けば、そこにはいかにも新人っぽい青年がいた。
「あぁ……いや。こっちこそぼーっとしてた。悪い」
それだけ言って、その場を去ろうとする。
面倒なことに関わりたくは無かった。
これが美女なら話は別だが……。
男、しかもここにいるって事はほぼ確実にレイヴンだろう。
そんな奴にはなるべく関わらないほうがいい。
「あの」
……そううまくはいかないらしい。
渋々、彼は相手をすることにした。
「……なんだ」
声が明らかに不機嫌なのは仕様である。
「今日の試合、よろしくお願いします。」
青年は、深くお辞儀した。
(今日の試合……)
少し考えてしまったが、すぐに答えを導き出した。
「まさか……お前が……エンペラー?」
こんな若いとは思わなかった。
明らかに15かそこらの青年。
そんな奴が、自分の対戦相手とは……。
「はい。……あの、何か顔についてますか?」
気が付けば、相手の顔をずっと伺っていた。
すぐに視線を戻し、歩き出す。
「いや……なんでもねぇよ」
少しだけ、後の対戦が楽しみだった。
(とてもじゃないが……レイヴンには見えねーな……)

後のインタビューで彼はこう答えている。
『あいつはまさに、ACに乗るべくして生まれた人間だ。
天才とはあいつのような奴を指すんだろう。
強いとか、上手いとかのレベルじゃない。
初めて、天才の二文字が似合う奴に出会えたよ。
彼から学んだ事も少なくない……今後に生かして、いつか追い抜いてみせるさ』

「ハンニバル!!」
前方からの怒鳴り声に意識を戻す。
少し、ぼーっとしていたようだ。
「すまん……考え事をしていた」
ハンニバルが戦った、『天才』レイヴン。
戦うために生まれてきたような存在。
何度も再戦を望んだが、ある日突然彼は姿を消した。
「あんたも考え事なんてするのね。まぁいいわ。
私シャワー浴びてくるから。作業終わるまでよろしく」
そう言って答えを待たず、いそいそとガレージから出て行く雫。
「………」
一人取り残されるハンニバル。
作業はまだ終わる気配が無く、どうしようも無く暇な時間が彼を襲う。
「……そうだ」
何を思ったのか、彼は歩き出した。
先ほどACの構成を決めるため使用した端末の電源をオンにする。
画面には先ほど構築したACが映し出されていた。
「構築済みACデータはっと……。」
彼がしようとしているのは、雫が過去に構築したACのデータの読み込み。
あの時戦ったACを詳しく調べてみようと思ったのだ。
「お……あったあった……ってあのACの名前わかんねーや」
そこにはいくつかのAC名が書かれていて、どれがあの時戦ったACなのか名前だけでは判断できなかった。
仕方が無いので上から調べていく。
「これかな……」
いきなり当たりだった。
内装から武装まで、全てのデータが映し出される。
「ほぅ……こんな構成だったのか……」
チューンまで詳しく調査しておく。
こうやって他人のACを調べるのも知識を溜め込むには丁度良い。
(……腕はいいのに……アセンブリのセンスがあまり無いな……。勿体無いと言うか……なんというか)
ついでに他に保存されていたデータを調べることにした。
(ほぅ……よく見るといい構成のACも見られるな……)
中には、とても雫が構成したとは思えないACも見られた。
ダブルトリガーだったりフロートだったり。
あの時見た雫の戦闘スタイルとは想像が付かない物もある。
(これが……最後か)
ハンニバルは、最後のデータを開き、ショックを受けた。
「……まさか……これは……!!」
そこに映し出されたのは、赤い高火力の4脚AC。
5年前ハンニバルが戦った、エンペラーのACそのものだった。




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