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輸送機から放たれた一機のACが、砂嵐の吹き荒れる暗闇に包まれた砂漠に降り立った。
周辺には機械の残骸と思しき物が散乱している。
『周辺に敵反応は……?』
凛とした声が問う。
どこか落胆を含ませたその声はすでに答えを知っていた。
『……ありません。恐らく……ガセでしょう』
可愛らしい声でそう答えが返ってくる。
まだどこか幼さの残るその声はそれでいて母性を湛えていた。
(またか……)
溜め息をこぼし、わかっていたとは言えど落胆する。
彼是ガセを掴まされるのは100を超える。
3年前からあのテロリストだけを追い続け、奴らの情報を正確につかんだことは1度しかない。
その時も、大した情報は得られなかった。
『レイヴン……帰還しましょう』
心に黒い靄を抱えながら彼女は冷静に答えた。
『了解……』

バスルームから出てまっすぐ冷蔵庫から酒を二本取り出す。
そしてリビングでテレビを見ていた相方に片方を渡した。
「エレン。付き合いなさい」
その声にエレンと呼ばれた少女は振り返る。
「言ったでしょ。私はお酒が飲めません。」
ピシャリと言い放ち差し出された酒を押し返す。
「つれないわね……」
渋々一人、酒を煽る。
「いつからそんな不良になっちゃったのかなぁ雫は……」
決して雫の方を見やることはなく、溜め息混じりに言い放つ。
いつからだったか、雫はガセを掴むたび酒を飲むようになっていた。
その度に愚痴を聞かされるのはもちろんエレンである。

二人が同居を始めたのはあの事件のすぐ後であった。
雫は兄と二人で暮らしていたが、あの事件をきっかけに一人で暮らすことに。
そこで雫一人では不安と、突然同居を申し出たのがエレンだった。
エレンはその当時からオペレーターの仕事をしていた。
収入は多いとは言えないが十分暮らしていけるレベルである。
そんなものでも雫の支えになればと、彼女は決意した。
しかし彼女が想像していたより雫は逞しかった。
まさにあの男の妹として、あの男に迫るほど人間がしっかりしていた。

雫がレイヴンとしてその翼を広げるまで、そう時間はかからなかった。
まるで兄の姿を追うように彼女もレイヴンとして羽ばたきだした。
才能とでも言うべきか、彼女は初めから翼が存在していたかのように華麗に、力強く飛び立った。
だが…その翼は決して純白ではない。
本人も自覚している、ただ復讐のためだけの存在。
赤黒く血塗られた翼が彼女には生えている。

(本当に……もったいない実力ね……)
アリーナにでも参戦すれば、一躍トップレベルのランカーとして君臨できたはずだった。
それほどまでに彼女の才能は凄まじかった。
同時に恐ろしいまでの才能とも言える。
エレンも雫の実力は十分理解していた。
だが、エレンはアリーナ参戦を勧めたりはしない。
あくまで現在は…テロリストの追跡に協力してもらっているクレストの専属レイヴンだ。
企業の専属レイヴンはアリーナには参戦できない。
だが、二人にとってそんなことはどうでもよかった。
エレンにとっても、雫にとっても……雫の翼、はあくまで復讐のための物だから。

「兄さんは……」
唐突に雫がつぶやく。
暗い雰囲気を持ったその声は、いつもの雫とは違ってとても弱々しかった。
「なぜ……兄さんはレイヴンなんてやっていたんだろう」
昔から雫はその事を疑問に思っていた。
あの心優しい兄さんが、なぜレイヴンなどという仕事をしていたのか。
確かに収入はいいかもしれないが、兄の性格では到底耐えられるような内容ではないはずだ。
善悪など存在せず。
ただ報酬のためだけに依頼をこなし、そのためには人を殺すことも厭わない。
「あんな仕事さえしていなければ……あんなことにはきっとならなかったのに!!」
別に怒りたいわけじゃない。
だけど雫は、怒鳴らずにはいられなかった。
(雫……)

あの事件に関して、後の調査である可能性が浮かび上がった。
それは、あの地区に居を構えていたレイヴンを狙った犯行である事。
事実、あの地区に住まうレイヴンは全員殺害されていた。
雫の兄、帝もその一人である。
そして多数の目撃証言によると、一機のACがレイヴンだけを狙って動いていたのではないかと思われた。
そのACは決して建造物を破壊するようなことはなく、周囲を見回して人間を狙っているように動いていた。
そのターゲットが、レイヴンなのではないか……ということである。
なぜそのACがレイヴンを狙うのか。
報酬のためか、私怨のためか……そのACに搭乗していたレイヴンが未だに行方を眩ませているため真偽は不明である。
どちらにしろ……兄が何らかの目的で殺害されたことになる。
兄が……レイヴンであるが故に……。
「あんな仕事さえしていなければ……兄さんは死ななかったかもしれないのに……」

雫の部屋のドアを閉め、エレンは溜め息をこぼす。
ああなった雫は止められないのはエレンがよく知っていた。
結局雫はあの後、涙を流しながらエレンにひたすら愚痴を垂れ流した。
そして泣き疲れたのか、そのまま眠ってしまったのだ。
(まったく……酒に弱いくせに……)
雫は酒を飲むと歯止めが利かない性格だった。
ああなった雫は、泣きたい時は泣き、笑いたい時は笑い、怒りたい時は怒る。
いつもの冷静な雫とはギャップがありすぎて想像が付かない。
酒とは恐ろしいものである。
(あんなことがなければ……雫はもっと笑ってくれたのかな……?)
酒の力とは言え、雫が笑うことは極めて稀の事であった。
大抵の場合泣くか怒るかのどちらかであった。
それほどまでに、あの事件は雫にとって非常に大きなものだったのである。
(昔はもっと笑ってくれたのに……)
つい、昔の自分たちを思い出してしまう。
それはエレンにとってもつらい事だった。
エレンもまた、1人の女として帝のことを好いていたからである。
(雫……お兄さん……)
そこで、自分が涙を流していることに気が付いた。
それを素早く拭い、心の中で自分に活を入れる。
(私は雫のオペレーター……私がしっかり支えてあげなきゃだめなのよ)
自分を奮い立たせ、コンピューターに向かう。

クレストからの任務の情報をいくつか受け取り、選定を始める。
いくつかある任務のうち、数個を項目から除外し、雫に合うと思われる任務のみを選定する。
そうしていると、一通のメールが届いた。
(差出人……ハンニバル……?)
それは紛れもなく、アリーナでトップクラスの実力を持つレイヴンからのメール。
エレンは躊躇うことなくそのメールを開いた。
『インペリアル。君の活躍は聞き及んでいる。クレストの専属レイヴンとして活躍しているらしいじゃないか。
俺はハンニバル。君も俺と似たような人間と聞き、今回このような形で連絡を取ることになった。
まぁ面倒なことは抜きにして、さっさと本題にかかるとしよう。なぁに、簡単なことだよ。ちょっと俺と戦ってくれればいい。
もちろんタダでとは言わない。俺を倒せばそれ相応の賞金ぐらいはくれてやるよ。倒せなかった場合は……言わずもがな。
ただの興味本位ではあるが、一戦交えてみる価値はあると思うがね……。では……いい返事を期待しているぞレイヴン』

エレンも彼の実力は理解していた。
雫と対等……いや、それ以上の力を持っている可能性も否定できない。
エレンは躊躇った。
イエスと返すべきなのかノーと返すべきなのか。
何より気がかりなのは『似たような人間』という事。
(境遇……?戦闘スタイル……?なんにせよ、何かありそうよね……)
エレンはしばらく迷った後、そのメールに返信した。
『イエス』と。




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