とあるACガレージに、たった一人涙を流しながら茫然としている男が居る。
そのガレージにはACが二体、完全に破壊し尽くされた機体が一つと、半壊の状態
でかろうじて形状を保っている機体が一つ。
どこか遠くで医療班の怒号が飛び交っているようだが、男はそれに少しも気を向
けようとしない。

しばらくすると、医療班の責任者らしき一人の白衣がガレージに戻ってきた。
白衣は苦しそうな表情で茫然としている男に耳打ちをする。
全く反応が無い男を見て白衣は再度耳打ちを試みようとするが、突如怒りはじめ
た男に殴り飛ばされてしまう。
白衣は悲しそうな表情をして男の前に一枚の茶封筒を置くと、ガレージの電気を
消してそそくさと出て行った。


しばらくの後、唐突に目が覚めた男は煙たい表情をしながら茶封筒を開ける。
中には古臭そうな紙に書かれた手紙の様な物が入っていた。


バスカー
差出人の所にそう書いてあるのが確認出来る。
男はその手紙を読み始めた。

「ベタだけど、これをお前が読んでる時、俺は死んでいる筈だ。
もし俺が生きていれば、絶対こんな物をお前に見せたりしないからな。

今お前は俺のことを惜しみ、悲しんでいるか?
もし悲しくなければ、もっと悲しめ。
悲しんでいるなら、さらに悲しめ。
お前が辛い思いをすればする程、死人としては鼻が高いよ。

さて、小策士の域を出ない俺だったが、お前は俺に満足だったか?
なんのかんの今まで成功して生き残ってきてるが、自分でもこれはかなり運が良
かったと思っている。
最も、お前の戦力を過大評価し無かったのが大きな勝因かもしれないな。

今回の敗因は多分俺の作戦ミスというより、どう足掻いても覆せない実力の差だ
ろうと思う。
俺達は所詮群れる事でしか生きていけない弱小レイヴン。
いつか、いくら小細工してもどうにもならない奴が出て来る事は、今でも容易く
想像出来る。

だから、俺はこの死を受け入れる事にする。
俺はこれでも結局楽しかったんだ、どんなに小さくても、どんなに愚かしくても
、俺はここの一国一城の主だったから。
自分の体と能力だけが資本の一匹狼レイヴンなんかより、ずっと充実した日々を
送れていると思う。

実は、お前とも会えて本当に良かったと思っているんだ。
お前は、俺が度々見せる傲慢さを責める事無く、いつも黙って俺に従ってくれた

そんなお前が居なかったら、俺はこんな風に自信を持って武装勢力を指揮する事
なんて出来なかっただろう。
本当に感謝しているんだ、お前には。

ここでお前と暮らした日々の事は死んでもきっと忘れないさ。
絶対に、絶対に忘れない。
だからお前も、俺の事を忘れないで居てくれるよな?

ところで、そんなお前にプレゼントがあるんだ。
もし気に入ったら、お前に使って欲しい。
俺の部屋の、鍵の掛かった机の引き出しに、この手紙の続きとお前へのプレゼン
トが入っている。
鍵はこの封筒に入れておいたから、頼んだぞ。」

男は茶封筒を逆さまにして鍵を取り出すと、バスカーの部屋に向かった。

彼の顔は心持ち穏やかになっているようだった。
まるでバスカーが今も生きていて、目の前で小洒落た手品を披露しているような
感覚。
子供じみた無邪気な好奇心が、悲しみの感情や死の事実の理解を押し流し、その
まま隠してしまう。

バスカーの部屋に入り、辺りを見回し感銘を受ける男。
意外と清潔で片付いた部屋。
偶然手に付いた机の上の小物を、乱雑に横に倒して置いてみる。
そうすれば、すぐにそれを直す為にバスカーが部屋に戻ってくるような気がした


少し深呼吸をする、耳を澄ますが、何処からも物音一つしない。
少し不気味だな、と思い彼は何の気なしに呟く。

目的である鍵付きの引き出しを見つけ、鍵穴に鍵を合わせる。
中からまた古臭そうな紙に書かれた手紙の様な物が出てきた。

「お前には本当の事を話そうと思う。
実は俺はお前の事が好きだったんだ。
パートナーとしてでもないし、レイヴンとしてでもない。
一人の人間として、お前の事が好きだった。

でも俺は怖かった。
もしそれを言ってしまえば、今まで通りお前とチームで活動する事すら出来なく
なってしまうかもかもしれない。
お前に化け物を見るような目で見られるかもしれない。
仮に俺の気持ちを理解してくれても、お前は俺から距離を置いてしまうかもしれ
ない。
それを思うと、俺はどうしようもなかった。

俺が何も言わず自然にしていれば、お前ともずっと一緒に居られる。
そう思って、今まで自分の心の奥の願望を、自分の中に押さえつけていた。
お前には判らないかもしれないが、これは結構辛い。

例えお前が思わせぶりな言動をしたとしても、俺がそこで一抹の希望に全てを賭
けてしまったら、きっとお前は俺の全てを取り上げてしまう。
俺はとにかく怖かった、今の全てを失いたくは無かった。

だが俺はもう死んだ。
今更失うものなんて、何もない。
そのくらいの状況にならないと、俺の告白は成果よりリスクの方が大きい物だと
思っている。

ああ、これを書いてる今も目に浮かぶよ。
きっとお前はこれを読んで、死んだ俺に向かって「正直に言ってくれれば良かっ
たのに」と思っているに違いない。

だがそれは、死んだ俺が限りなく抽象的で無害なせいだ。
もし俺が今生き返ったら、きっとお前は本当に些細な事で俺を嫌い始めるだろう



さて、プレゼントって何の事だと思う?
引き出しの中に、中くらいの箱が入ってるだろう。
あれを開けてみてくれ、その中身をお前に見てもらえれば、俺は安心して成仏出
来る。

これで本当にさようならだ、相棒。

お前のスナイパーライフルの腕、結構良い線行ってたぞ。」

男は苦虫を噛み潰したような顔で手紙を机の上に置いた。
しばらく茫然とした後、男は引き出しの中から箱の様な物を探り出す。

男は箱をゆっくりと開けようとするが、手が震えてうまく開けられない。

ようやくの思いで箱を開くと、何やらオルゴールの様な、時計の様な、奇妙な装
置が入っていた。

蓋の裏を覗くと、深く、とても深く彫りつけた文字で、「俺は一人で逝きはしな
い」と書いてあった。
装置の下に目をやると爆弾の様な物が確認出来る。

男は笑いが抑えきれない様に頬を引き釣らせ、満足げにため息をつく。
男には、何かとても滑稽な物が見えているようだった。
その数秒後、男は意識を失った。




「見えるか、あれが俺達の城だ。」

気がつくと、バスカーが少し遠くに立ってこちらを見ていた。
辺りを見回すと山がちで人気のない場所。
バスカーの指差す方向を見ると、やや大きめのACガレージらしき建物が見える。

思わず懐かしさが込み上げてくるが、それが何なのか、男には判らなかった。
ただぼんやりとした記憶に導かれて、男は思わず息を飲んだ。

「バスカー、これが…」
言葉が続かなかった。

「ああ、ここが俺達の城であり、俺達の墓場だ。」
「ここで俺達はレイヴン稼業に専念する事になる。」
そう言うとバスカーは早足で建物の中に入ろうとする。

入り口の所で振り返り、バスカーはまだ遠くに居る男に呼びかけた。
「どうだ、空気も良いし、俺達が独立するには絶好の条件だろう?」

男は笑顔で応えながら、思わず小声で愚痴を零す。
「この、小策士が。」
その声は、バスカーには聞こえていない様だった。





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