アイレットシティの繁華街…総合娯楽施設「O/T」。
様々なゲームの筐体が並ぶゲームセンターの隅で、男が二人、会話をしている。
「…紙資料、ですか。余程『事』が動いたようですね」
丸眼鏡の男が中指で眼鏡を押し上げながら話す。
「その通りだ…厄介な事に、殆どのサンプルセルは、奴等の手に渡った。
どういう訳か、ディソーダーまで持ち出してきたらしい」
「火星の…ですか?」
相手の男は黙って首を縦に振った。
「…時間だ。あとは資料を参考にしてくれ」
そう言い残し、片方の男が足早に立ち去った。

キィーン!ジャキャーン!
『時間だよ~?起きてよう』
『う~ん…あと五分…』
『ふざけるなぁッ!!!』
チュドーン!ゴガガガガァァ…
『ファイナルブレイク!』
『ビクトリーッ!』

「あ~!私のワイズがぁ~!くやし~ッ!また負けたぁ…」
対戦台の片方に座っていた白いカチューシャをした若い女性が喚く。

「…単純な奴だ。勝つつもりが有るなら、まともに機体ぐらい選べ。」
向かい側からやや小柄の青年が吐き捨てる様に言った。

「うるさぁい!好きな機体で勝ってこそ、意味があるんだからッ!」
ダァン!と目の前の筐体へ平手を叩きつけつつ叫ぶ。
揉めている…という訳では無さそうだが、騒がしい事に変わりは無い。
他に客のいないゲームセンターには彼女達しかいない為、周りは静かな物だ。
「ワイズダックであれだけ粘れりゃ大したモンだ。
パイルもいいが、やっぱドリルだろ?次、俺。ツインザムな。」

「…また、それですか?今やるならVRアリーナあたりにしてほしいんですが…
まぁ、いいでしょう。用事は終わりました。帰りましょう」
大男が交代しようとした時、丸眼鏡の男性が後ろから声をかけた。

ジャンク屋「GLLANG」裏ガレージ   *営業時間08:30~21:00*
「ほ~う。こいつは男前だ。注文通りに仕上がってるみたいだな」
生まれ変わった愛機を見上げつつ、呟く。
中量二脚から重量二脚への換装、そして装甲の強化。
武装自体は余り変化しておらず、機動性は余り変化していない。
「全く、悪運の強い奴じゃ。ACを丸ごと熔かされても生きとるってのは、そうそう無いぞ」
コアの搭乗口から店主が顔を出す。

ギエンクレーターでの作戦から一週間が過ぎた。
商売道具のACを失ったままでは、傭兵家業は続けられない。
新たな愛機を購入する際、思い切って機体構成を一新した。
「んで、用意してくれた左腕銃ってのは?」
先の作戦での追加報酬として、依頼主からAC用武装を受け取った。
なにせ全買い替えである。あるものは有効に使わねばならない。
「3番ハンガーの左じゃ」

店主と談笑しつつ、機体の最終チェックを行なっていると、ガレージの隅に人影が見えた。
ヒールだ。機体を丸ごと失ってなお、奇跡の生還を果たしたレイヴンに労いの一言もかけない冷血野郎だ。
「…ACは用意出来た様だな。仕事を持ってきたぞ。モニター」
久々のモニター呼ばわりに少々腹を立てつつ、ACから降りる。

「これが詳細だ。後でちゃんと依頼文を読めよ。端末に通すんだぞ」
データディスクを手渡すと、さっさと帰ってしまった。
なーにが「端末に通すんだぞ」だ。保護者かテメーは。
せっかくの愛機の新生式が汚された様な感覚を覚えながら、踵を返しACへと乗り込む。

「…そうじゃ。名前は、どうするんじゃ?」
頭部の調整をしながら、店主が口を開く。
「もう決めてある」
手元の端末を弄りながら即答する。
「ほう。で?名はなんと?ベタにプロウセイル2か?」
店主がやや期待しつつ、回答を待つ。
「…アルフライラ、さ」

「…なんじゃそりゃ?男前の面構えの割に、女々しい名じゃな」
拍子抜けした様子で店主が返す。
「女々しい…ね。上等さ。やらしい女神様が見てんだからよ。こいつは」
中空を見上げながら、そう呟くプロジェクター。
(…ワシより若い筈だが、もうボケよったのか?妙な武装ばかり注文してくるから、変だとは思ったが)
新生した彼の愛機、アルフライラの肩には、オービットメーカーや高機動超小型ミサイル等の難物ばかりだった。
なんでも、機体から脱出した際にあの世の夢を見、その中にべっぴんさんの女神が出て来ただのうわ言を言っていたが…

アイレットシティ 某ホテル一室
四人の男女が、端末に映し出された一つの画面を注視している。
端末にはとある作戦の映像記録が映し出されている。
「『フリー』まで出してくるとは…どうやら本当にサンプルセルが残っていた様ですね」
レミントンが小さく呟く。
画面には黒く巨大な虫の様な生物と、同型だが小さく、茶色の生物が映っている。…共に、『生体兵器』である。
「…ちょっと映像を戻してくれ。…そこだ。止めてくれ」
スウィフトの指示でレミントンが端末を操作し、映像を一時停止させる。
「ヘクト、この緑…見覚えが無いか?」
指差されたACを巡り、記憶の糸を手繰り寄せる。

「…あぁーっ!このAC、空港にいた奴じゃない!」
パァンッ!と両手を胸の前で合わせ、叫ぶ。
忘れる筈も無い、バルガス空港での忌まわしき作戦。
あの空港の防衛に加わっていたACだった。
「やはりか」 「説明…お願いできますか?」「同じく」
次々と口を開く三人の男達。あのACと接触したのは、実質ヘクトのみだった。
あの時の状況を思い出せるだけ、詳しく話す。

「…妙ですね」
ポツリとレミントンがもらす。
「空港の防衛に加わっていたレイヴンが、何故『奴等』に敵対するような真似を…?」
「それがレイヴンって奴だろ?俺達みたいに仕事を選んでる様な奴等のほうが珍しいんじゃねぇの?」
ジョーがさらっと言い放つ。対価さえ用意されれば、なんだってやるのがレイヴンの本質だ。

砂中から現れる黒いAC、クレーター内部へと飛ばされ、熱線を受け蒸発する緑のAC。
背後から味方機に切り裂かれる黄色いAC、ACの限界を超えた動きを見せる黒いAC。
通常では考えられない様な、奇抜な連携技で黒いACを破壊する三機のAC。
そして、突如現れた旧型のACに導かれ、あっさりと敵母体を破壊し、帰還を遂げる四機のAC。
――それが映像記録の全てだった。

「…つまり、私達以外にも『KYK』に対抗する人達がいるって事?
あの大きな虫、蒸発したよね?倒した…って事でしょ?」
「ちょっと待て、『KYK』って何だ?」
突如ヘクトの口から出た『KYK』と言う単語の意味をスウィフトが問う。
「あいつらの事だよ。何時までも『奴等』とか『あいつ等』じゃ不便だし。
『キサラギってやっぱりキチガイ』か『キサラギってよっぽど空気読めない』のどっちにするか悩んでるんだけど」
敵対組織の略称に悩んでいるらしい。大物なのか単に抜けているのか…
「前者に一票。後者は語呂が悪い」
ジョーが票を投じる。悪ノリする仲間も仲間だが…
「んな事決めてる場合かぁッ!」

「…話が、進みませんねぇ…」
呆れた様子でレミントンが呟く。

『5日後にオールド・アヴァロンにて、全傭兵管理機関共催のスペシャルアリーナが開催される。
今回の大会の主旨は、『チーム戦』だ。そこで貴方に、我がチームの一人として参加して貰いたい。
報酬を十分に用意する事は出来ないが、アリーナでの賞金は破格の値だ。是非、請け負って欲しい』

自宅へと戻ったプロジェクターはヒールの指示通り、依頼文を確認した。
優勝した際の報酬は一人頭300000C。受ける価値は有りそうだが、急造のチームで連携が取れるのだろうか?
その事が最後まで頭から離れなかった…そう、最後までは。
最後に記されていた依頼主を確認した途端、その心配が無用だという事が判明した。

――依頼主は、アーマードガンナーズ。





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