時刻…19:00 バルガス空港
ARCの輸送ヘリの中で眠るレイヴンを、ヘリパイロットが起こす。
「おい、レイヴン。そろそろ時間だぞ」
大きなあくびをしながら目を覚ます。
「ああ、ガムやるよ」
ヘリパイロットから差し出されたガムを受け取り、口へ運ぶ。
「…ッ!効くな、コレ。一発で目が覚めちまった。何処で売ってんだ?」
「くだらねえ事聞くのな、アンタ。ARCの支給品さ。職員用のな」
少し体をほぐし、ACへと乗り込み、待機状態へ移行する。
「―レイヴン、我々はここで帰還する。
ACに帰還用のヘリが向かう座標データを入力してある
作戦終了後に生きていたら、そこへ向かえばいい」
「了解した」

「ヘリ、リダツ」
コクピットに無機質な電子音が響く。

時刻…19:00 バルガス空港より南西に87KM地点
四機のACが佇む。
軽量二脚、逆関節、タンク、重量二脚の四機。
それぞれが身を屈めた状態で待機している。
その中心に、大き目のテントが張られている。
「WR15S-WYVERN…ね。試し撃ちは…」
残りのメンバーからの冷たい視線がジョーに降り注ぐ。
「駄目、か。VRシミュレーターにもデータが無ぇし、ぶっつけ本番か」
プレッシャーを受けているようには見えないが、それなりに緊張しているようだ。
「あと一時間ね。…作戦内容の最終確認は終了。
あとは、やるだけか」
一人テントから出て、手を広げ、深呼吸を行う。
そして、空を見上げながら呟く。
「引き際をしっかり、深追いしない、無駄撃ちしない…」
念仏の様に空を見上げたまま何度も繰り返し呟く。
精神統一の一種だろうか。仲間もいつもの事として認識しているようだ。

時刻…19:30 バルガス空港より南西に87KM地点
四人それぞれが自分のACへと搭乗する。
「スナイプサーキット、起動完了。異常ありません」
「シュライク、問題無い」
「クイックトリガー、オールグリーン」
「エース&ジョーカー、ALL、OKだ」
全ての機体の起動が完了。
異常無し。各々がその旨を報告する。
―――作戦、開始。

時刻…19:45 バルガス空港より南西に15KM地点
高台の上に一機、その側の残骸の陰に一機
二機の先行ACが、広域レーダーと望遠スコープでの索敵を行う。
「こんなに接近していいのかな?」
ACの望遠スコープには、空港施設の広域レーダーがしっかりと見えるが、
敵守備隊は哨戒を続けるだけで、こちらに気付く様子は無い。
「…施設自体には誰も残ってないらしい。レミントンから聞いている」
高台から広域レーダーで索敵を行うスウィフトが言う。
「…ただ、MTはかなりの数だ。どら焼き野郎は目視で捉えるしかないな」
『どら焼き野郎』「CR-MT83RS」アルファ小隊の攻撃目標だ。
「…どら焼き、ねぇ…どっちかって言うと木枯らし紋」「ACの反応だ」
隊長が茶々を入れようとするが、スウィフトに制止される。
「…何機?」
望遠スコープを注意深く覗き込みながら問う。
「今の所一機のみ。一機なら何とでもなるだろう」

時刻…19:48 ブラボー小隊待機地点
見晴らしの良い高台にタンク型ACが右肩の大口径キャノンを構えたまま、待機している。
その側で、重量二脚ACがシールドを構えつつ、様々なポーズをとる。
「…何かしっくりこねえなぁ、やっぱ二丁ありゃな…」
ACのポージングで悩んでいるらしい。気楽な男だ。
「輸送機の到着まであまり余裕は無いのですけどねぇ」
眼鏡の壮年レイヴン、レミントンが呆れている。
「キサラギの反対派とやらが確保に成功すりゃブラボー小隊はいらねえんだろ?」
間違ってはいない。キサラギ反対派が情報操作により、
輸送機の着陸地点を変更させる事が出来れば、
アルファ小隊がECM搭載MTを排除して作戦終了となる。
その後の事についてはレイヴンには関係の無い事だ。
「そうだ、このデンチの使い所、教えてくれよ」
臨時で己のACへ搭載された補助電源装置、ジョーは使用したことが無い。
「良く聴いて下さい。ジョー、あなたのACは今、両肩装備を外している為
機動力が上昇しています。そして、全武装がE兵器です。EOも。
つまり、E管理が大事と言う事なのです。
Eゲージのアラートが聞こえた場合、迷わず使用してください。
チャージングに陥ってからでは遅いですよ」
説明をするレミントン。最後に一つ付け加える。
「機動力が上昇したからと言って、
EOを展開したままブーストで動き回ったり、
調子に乗ってワイバーンを使い過ぎないように。
あくまでも、スナイプサーキットの狙撃態勢の確保が最優先です」
「あいよ。よ~く覚えときます。センセ」

時刻…20:00 バルガス空港
哨戒を終え、着陸予定時刻。
「レイヴン、今回の作戦は、あくまでも輸送機の着陸支援だ」
「空港設備に関しては、既に職員は退避済みな為、防衛する必要は無い」
輸送機が着陸すると言うのに、空港設備が必要無い。
不自然極まり無い話だ。誘導等を無しで着陸させるというのだろうか?
余程腕の良いパイロットなのだろうか?それとも…
(レイヴンには、関係ないか)
無駄な詮索をする必要は無い。
レイヴンは作戦目標に集中すればそれで良い。
そうとも取れるMT部隊指揮官の言葉に対して頭を使う必要は無い。

輸送機の着陸予定地を取り囲むように、大量のMTが配備されている。
(凄い数だな。ナースホルンが20機以上…
ACの火力でも突破は困難だ。そんなに重要な積荷なのか?)
(哨戒任務に投入されているのも、大半がカイノスタイプだった。
安い物でも無いだろうに…企業のやる事は良く解らんな)
あまりに厳重な警備と、施設の非使用。
そのギャップが違和感を増幅させる。
「レイヴン、輸送機の到着が少し遅れるそうだ」

時刻…19:55 アルファ小隊待機地点
「…?レミントンか?どうした?」
シュライクのコクピットにレミントンからの通信が入る。
「…たった今、キサラギ反対派から連絡がありました。
輸送機の到着が遅れるそうです。
アルファ小隊は、襲撃を五分、遅らせて下さい」
「了解」
隊長機へと通信回線を開き、その事を伝える。
襲撃までの長い10分が始まる。
二機のACの間には、長い沈黙が訪れる。
「…せんだ」「みつお」「…」「…」
…わずか0、3秒で返すスウィフト。只者ではないようだ。

時刻…時刻20:05 バルガス空港
哨戒中のMTから通信が全守備隊に向けて発信される。
「敵襲だ!敵はACと思われる!直ちに迎撃態勢を取れ!」
空港全体に緊張が走る。
「レイヴン、敵ACの迎撃を頼む!」
「敵は一機のACを確認!もう一つ反応があるが、高度から戦闘機の可能性が高い」
戦闘機が一機?たった一機で襲ってくる戦闘機などそうそういない。
大体は、数機で編隊飛行を組む筈だ…MTからの通信を聞きながらそう思った。
「…来たな。速いな…こいつで対応できるだろうか?」
接近してくるACは自機よりかなり速い。
先手を取ってデュアルミサイルを放つが、容易く回避される。
アサルトライフルを構え、照準を合わせる。
トリガーを引いたその瞬間、サイト内から敵ACが消える。
「上、か?」
機体を後退させ、レーダーで敵機の位置を確認する。
「後ろ、だとッ!?」
背後を取られ、焦る。しかし、敵機はそのまま離れていく。
「どういうことだ?何が狙いだ?」
敵ACは自分を目標としていない。
管制室に誰も居ない事を知らずに、管制塔を破壊するつもりだ。
―そう考えたプロジェクターは、敵ACを背後から追跡する。

時刻…20:06 ブラボー小隊待機地点
「…まずいですね」
厳しい表情でレミントンが呟く。
「キサラギ反対派からの通信が途絶えました」
「…そりゃ、どういう事だ?」
厳しい表情でジョーが尋ねる。
…しかし、返答は無い。
通信が途絶えた。ただ、それだけ。
「…嫌な予感がしやがる」
輸送機はまだ、狙撃用スコープには映らない。

時刻…20:07 バルガス空港
ACクイックトリガー、軽量二脚にEXマルチブースタを搭載した高起動AC。
起動戦仕様レーダーとアサルトロケットを搭載。
「…何処だ?何処に…ッ!見つけた。一機目頂きッ!」
目標を捉えたクイックトリガーから、ロケットが3発『どら焼き野郎』へ発射される。
「ひとつッ!」
両手のアサルトハンドガンが吼える。
凄まじい連射速度で、ロケットでよろめくMTを12発の弾丸が襲う。
「…ECM搭載機を?、…ッ!まさか、奴ら輸送機の狙撃をッ!?」
ECM搭載機を排除し、万全な狙撃準備を整える為に、あのACはここに来た。
「これ以上はやらせんッ!」
予めロックしておいたデュアルミサイルを発射し、
距離を詰めようとしたその刹那、自機の目の前に大量の弾丸が降り注ぐ。
「上ッ?」「あ、あれは…AC?何でACがあんな高度で浮遊しているんだ?」
MTパイロットが叫ぶ。しかし、実際に遥か上空に浮遊しているACが発砲している。
「あれだけ遠ければ、そうそう当たりは…」
上空のACを無視し、軽量二脚ACを追撃しようとしたプロウセイルに、衝撃が走る。
「くッ!この衝撃は、狙撃用ライフルかッ!」
軽量二脚ACを追えば、背後から狙い撃ちにされる。
MT部隊に、ECM搭載機を守るよう指示した後、上空のACに対応する。

時刻…20:08 ブラボー小隊待機地点
「…どうやら私達の狙いがばれてしまったようですね」
空港からではなく、全く別の方角からMTが数機、接近してくる。
「キサラギの増援ですね。
…ジョー。Vip待遇、期待しています」
「応ッ!任せろ!」
迎撃用高出力EOを展開し、敵MTの迎撃へと向かう。
「…どうやら、撃墜の方向になりそうですね」
眼鏡を中指で直しつつ、そう呟く。
「さあ来いッ!俺様はそんなに優しくないぜッ!」
エース&ジョーカーのEOとワイバーンが吼える。

時刻…20:09 バルガス空港 
ACシュライク、逆間接にEXホバーブースタを搭載したAC。
フレームのE効率と冷却性能を極限まで高め、
ホバーブースタによる無限飛行を可能とするAC。
長距離FCS、高性能CPU、広域レーダーを搭載し、狙撃、電子戦すら可能。
「…巻き込まれたら、全力で笑ってやる」
自機の下方に集まったMT部隊の中心にロック。
爆雷投下型ミサイルを射出する。
「全機!散開しろッ!」「駄目だ!うあぁッ!!」
爆雷に巻き込まれ、爆発するMT。
連鎖反応を起こしたように、次々と誘爆する。
「あいつか」
スナイパーライフルを『どら焼き野郎』に向け、発砲。
応戦する事も出来ず、破壊される。
「駄目だ、高過ぎる。こいつの武装では…」
プロウセイルの武装では射程範囲に捉える事も出来ない。
上空のACがMTに対応している隙に、二脚ACを追う。

「一機撃墜」
スウィフトから短い通信が入る。
『どら焼き野郎』残り一機。
最後の一機を探しつつ、高速で戦場を駆け抜けるクイックトリガー。
後方からロックアラート。先程無視した緑の迷彩ACだ。
機体を不規則に揺らし、照準を狂わせる。
クイックトリガーを追撃するのが精一杯らしい。
後方のACとの距離は離れていく。
「何て速さだ。こないだのAG-1と同クラスの速度か、くそッ!」
目の前のACからロケットが発射される。
「捉えたッ!」
『どら焼き野郎』にロケットが全弾直撃、そして、機体が炎上する。
「しまったッ!今ので全機かッ!」
焦りを抑えつつ、敵ACに狙いを定める。

時刻…20:10 ブラボー小隊待機地点
ACスナイプサーキット、タンク型重AC。
長距離FCSによる狙撃特化機体。
E兵器を含む二丁の狙撃用ライフル、
レールガン、大口径レーザーキャノン搭載。
広域レーダー搭載の高性能頭部、高速移動用OBも併せ持つ。
狙撃用FCSのサイトが輸送機を捉える。
「撃墜…ですね」
『YWB35L-GERYON3』
両肩用大口径レーザーキャノンに対抗して製作された試作型。
弾数に欠点を持つが、射程距離、威力は申し分無い。
目標への距離は遠い。
たった0,01度でも射角に狂いがあれば、目標から大きく外れてしまう。
射角を微調整し、銃口を絞り込む。
砲身へエネルギーが送られ、光り輝く。
「………発射」
GERYON3の砲身から光が溢れ、巨大な光の矢が発射される。


時刻…狙撃30秒前 バルガス空港
「…そろそろ、か」
相変わらず手の出せないMT達を無視し、視線を輸送機に向ける。
輸送機はA地点に向かっている。
内部反対派とやらの作戦は失敗の様だ。
あとは、レミントンが輸送機を狙撃するのみ。
彼の狙撃能力は信頼している。外しはしないだろう。
後は撃墜を確認した後、撤退するだけ。
少しだけ表情を緩ませる。しかし、すぐに険しい表情へと戻る。
「…なッ!やつら、積荷を降ろすつもりか?」
輸送機のハッチが開き、パラシュートを装着したコンテナが投下される。
「おいッ!やつら、積荷を…ッ!」
隊長機へ通信を慌てて入れる。
「なんですってッ?」
…次の瞬間、彼女の上空、スウィフトにとっては前方を、光の矢が通る。

時刻…20:11 バルガス空港
上空で爆散する輸送機を見上げるプロジェクター。
「…失敗、か」
報酬は全額前払いだ。これ以上留まる必要は無い。
帰還用ヘリのいる座標へ向かうことにする。
…追撃は、無い。

「…レミントン!聞こえるか!?」
狙撃を終え、結果を待ちわびていたスナイプサーキットに通信が入る。
「聞こえています。どうでした?積荷は…」
「奴ら、積荷を降ろしやがった。積荷は無傷だ」
積荷に被害は無いようだ。
中途半端な成果に納得する事が出来ず、黙ったままのレミントン。
「レミントン、聞こえる?積荷は『アレ』じゃ無い!
何なのか良く解らないの。映像を送るから、確認して」

送られてきた映像に凍り付くレミントン。
「こ、これは…そんな、なぜ現代にこれが存在するんですか…?
この映像は本物ですか?」
「何言ってるんだ!そんな事で嘘吐く訳ねえだろ!」
「間違いなく本物よ。どうしたの…?」
頭を抱え、ぶつぶつと独り言を言い出すレミントン。
「そんな…何故…ケミ…ダイ…リオ…」
増援部隊を排除し、ブラボー小隊待機地点に戻ってきたジョー。
「…何だ?さっきから騒がしいじゃねえか。外した様には見えなかったぜ?」
眼鏡を直し、弱々しい声でレミントンがチーム全機に通信を入れる。
「皆、良く聴いて下さい。アルファ小隊は全力でその場から離脱して下さい。
…あれは、あの白い虫の様な生き物は危険です。
『アレ』の原型のような物です。ここは一度撤退してください」

隊長が動揺した声をあげる。
「『アレ』の原型…じゃ、じゃあここで何とかしなくちゃ!
今は殆ど動けないみたいだし、今の内なら…!」
レミントンが激しい口調で否定する。
「駄目です!手を出してはいけません!
AC4機で何とかなる相手ではありません!
『マザー』タイプには…」
落ち着いた口調でジョーが口を開く。
「ヤバイんだろ?だったら速いとこ引き上げようぜ
俺達がやることは全部やったさ。」
興奮した様子で隊長が食い下がる。
「『アレ』以上の奴なんでしょ?こいつは!
ここで、ここで倒さないと、私一人でも…ッ!」

「ヘクト!いいかげんにしろッ!!」

スウィフトが怒鳴りつける。一瞬、場が凍り付く。
「いいか?俺達の役目は終わったんだ!
おまえ一人が無茶して何になる?いつもの突撃根性か?
そんな下らん物に振り回されるこっちの身にもなりやがれッ!
今回は大人しく引くんだよッ!わかったかこのロケット女ッ!
大体、ラージロケットがHECTOだったのは昔の話だぞ…ッ」

押し黙る隊長。
「隊長。お願いします。ここは引いて下さい。
貴女の気持ちは良く分かります。
ただ、今我々に出来る事は引く事だけです」

重い空気の中、撤退していく四機のAC。
機体の損傷は少ない。しかし、レイヴン達の疲労はとても大きい。


時刻…20:32 帰還用ヘリ到着地点
「よう。生きてたか」
往路と同じパイロットだった。
「生きてるだけさ。作戦は失敗だ」
「…?クライアントからは成功って聞いてるぞ?
ARCに『優秀なレイヴンを派遣してくれた事を感謝する』って感謝状まで来たぐらいだ。
特別報酬まで用意されてるぞ?何言ってんだ?」
失敗では無く、成功らしい。
あの体たらくでだろうか。まあ、報酬が増えるのは良い事だ。
深く考えるのを止め、帰路のヘリに乗り込む。



今回の報酬…前払いを除く32000C+蚊帳の外の主人公。あと、ガム。





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