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第九話 牧場
アリーナでのメラとの出会いから、三週間。
カナミは着実にアリーナでの勝利を重ねレイヴンポイントを重ねるうち、、
自分のランキングを少しずつだが、高めていった。
『今何Cくらい貯まったかな?』
C(コーム:CORM)とは、世界に流通する通貨の代表的なものであり、
この時代のサラリーマンの平均月給はおよそ30Cであった。
『6万Cかぁ、、。まずまずだね。』
「お金が貯まったら、すぐACの部品を換えていくのよ!とくに、内装部品から!」
カナミはレンナからそう言われた事を忠実に守り、
ACのラジエーターをレイヴンズアークに注文していた。
『いつ来るんだろうな、、。』
カナミは自分の部屋の机から立ち上がると、家の掃除をはじめた。
『~~~~♪~~♪』
鼻歌を歌いながら、部屋に掃除機をかけていく。
『さてと、次は、、食器洗いと、、。」
カナミは、次々と家の家事を片付けていく。
『おなかすいたぁ。』
前日の夕食の残りが余っていたので、それを温め、
小物をササっと作ると、自分の昼食を開始する。
「カナミ、好き嫌いしちゃぁ、ダメだぞぉ!おとうさんからの、お願いだ!!」
父がいた日の思い出が映す残像が、一瞬テーブルの向かいの席に現れたが、
カナミは何事も無かったかのように食事を続ける。
『おとうさん、私ね、レバー食べられるようになったんだよ。すごいでしょ、、。』
そう空中に語りかけるが、返事は無い。
食事を終えると、牛達の様子を見に行く。
自動管理装置は正常に作動し、牛達もとくに不便な様子もなさそうだ。
『君達は、気楽だね、、。』
カナミが牛に語りかけると、カナミの目の前にいた牛がクシャミをした。
『わっ。』
牛のよだれまみれになるカナミ。
『もう、、、。シャワー浴びなくちゃならないじゃない。』
そういうと、カナミはシャワーを浴びに浴室へと向かった。
シャワーから戻ってくると、父の墓標へ向かう。
かつてテラワロースが、ACタラダムチェインと共に爆散した場所だ。
『ここ来るのも、もう慣れちゃった。』
父の墓標に一つ花を添えると、また家に戻る。
一日にすべき事の全てをやり終えたカナミ。
とつぜん彼女に、とてつもない静寂が襲いかかる。
耐えられなくなりそうになったカナミは、再び牛舎へ向かった。
『あそこなら、少し寂しさがまぎれるよね。』
牛舎にノートパソコンを持ち運び、そこでレイヴンズ・アークのランキングにアクセスする。
カナミはレイヴンになってから、レンナに言われ毎日見ているが、
レイヴンのランキングは常に変動している事に、最近気づいた。
日々数人の名前が除名され、ランキングから消えてゆく。
レイヴン達が今までに何人消えたのか、カナミは覚えていない。
『消えていった人たちは、レンナさんが言うにはほとんど死んだ人なんだよね、、。』
彼らがどういう事情でレイヴンになり、どういう想いで散っていったのか、カナミは考えると胸が痛くなった。
『おとうさんは、自分がそうなるかとか、考えなかったのかな、、。
考えたよね、絶対。
私だって、これを見てると自分がいつそうなるのかって、すごく怖いよ、、。』
カナミの肩は震えていたが、その震えを止めてくれる者は、そこにはいない。
『すごく怖い事なのに、私のために毎日立ち向かってたんだね。ありがとう、おとうさん、、。』
もういよいよする事が無くなり、カナミの目から涙が溢れてくる。
『あ、あれ、もう大丈夫だって、慣れたと思ったのに、、。どうして、、。
寂しいよ、おとうさん、、、。私、寂しい、、、!』
カナミは大声で泣いた。誰もいない、牧場で。
誰もその声に耳を傾ける事はなかったが、ただそこにいる牛達は、彼女の泣き声を静かに聞いていたのだった。
カナミはそのうち泣き疲れ、いつの間にかそこで寝てしまっていた。
朝目覚めると、牛達が妙に鳴いていた。
カナミはどうしたのかと、管理装置の状態を見る。
すると、餌や水等、牛達に食事を供給する装置がエラーを起こし、機能を停止していたのだ。
『た、大変、、!』
急いで装置を動かしにいくが、動作しない。
カナミは自力で餌や水を与えようとするが、人手が足りなすぎた。
カナミの中に、不安な気持ちが浮き上がってくる。
『ど、どうしよう!このままじゃ、お父さんが大事にしていた牛達が、、。』
カナミは、ある手段を思いついた。
急いでACガレージに移動すると、INNOCENTに搭乗する。
そして、ACの腕部マニピュレーター精密制御用の装置を腕に装着すると、
牛舎に移動する。
カナミは牛舎の屋根を引っぺがすと、牛舎の中にいる牛達に、ACの腕で食料を運んだ。
『こうやれば、大丈夫、、!全然追いつく、、、!』
牛達に食料を十分に行き渡らせる事ができると、カナミは一安心した。
ACから降り、カナミは牛舎に戻ると牛達に謝った。
『ごめんね、いつも機械任せにしてたから、そのせいであなた達を苦しめて、、。
おとうさんみたいにやってれば、すぐに気がついたよね、、。』
カナミは前日の悲しみが癒えていたわけではなく、再び目に涙が溢れてきそうになった。
その瞬間、警報装置がアラームを鳴らす。
『な、なにっ?』
さらにまた別の場所からアラームが鳴る。
『ま、またー?!』
「ビービービービー」
オートにしていた装置達が、どんどんとその機能を停止していく。
『ど、どうしよう、、!』
幸い、食料を与える以外の仕事は緊急を要さなかったがなんにせよ、
装置たちの代わりにカナミが働かなければならない事には変わりがなかった。
カナミはその日、牛達のためにガムシャラにがんばった。
牛達の世話をしている最中、カナミはある一つの事に気づいた。
『こうしていると、寂しくないんだ、、悲しくないんだね、おとうさん。』
カナミは、父がなぜ命を懸けて牧場を守ったのか、そのもう一つの理由がわかった気がした。
父は、母のヒロエが死んでから、自分を男手一人で守ってきていたが、父も母がいなくなってから実は寂しかったのだな、
牛達がいてくれたから、悲しみを紛らわす場所があったのだな、と気がついた。
寺杷はカナミはもちろん、牛達や牧場、自分の今まで生きてこれた理由全てを守りたくて、レイヴンになり、全てを守り散った。
父がレイヴンという仕事に対して命をかけた全ての想いを、カナミは今やっと、感じる事ができたのだった。
その日の夕方、多忙なカナミの元へ、技術師がやってきた。
警報を聞いて、装置の修理をしにやってきたのだ。
牧場のシステムは、エラーが起きるとその装置の製造元に、自動的に連絡をとるようになっていた。
彼はカナミに対して、どこを修理すればいいのか聞くと、カナミは、
『全ての機械を直したら、機械をいつでもオートかそうでないか、簡単に切り替えられるようにしてください。』
そう答え、技術師はソレを了解し、機械を修理、調整して帰っていった。
『お父さん、まだまだ機械任せにしなければならない未熟なところはあるけれど、
少しくらいこの子達の世話を、私もしてもいいよね、、。
私も、この子達の世話をしてないと寂しさにまだ、負けそうだから、、、。』
思い出の中の父の笑顔を、カナミはこの時、久しぶりに思い出した気がした。
この時カナミはまだ気がついていなかった。彼女の元へ、ある運命の依頼が来ていた事を。
続く
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