「第八章 激動」(2006/05/28 (日) 11:05:00) の最新版変更点
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レイヴン殺しの犯人。だがそれもおそらくは一員だろう男、レオン。
彼は死んだ。
自分が死ぬ為に、自分を殺させる為に、彼は光り輝く太陽を受けた。
或いは、その太陽こそが闇に生きる彼を殺したのだろうか。
そしてアリアは走り出した。窓の向こうに見えたビル。
良く知っているが、実のところ良く知らないビル。
付き合いのない隣人。
職場に行く前に必ず目に入る。隣に立つビル。コスモス・カンパニー。
名前と、外観だけは知っているがどんな会社なのかは良くしらない。
彼女はそこ目指して走る。脇腹の傷は、じわじわと出血を続けている。
(着いた!)
そう、遠くはなかった。
フロントロビーを駆け抜け、受付の言葉にも耳を貸さない。
目指すのは、屋上。彼女には狙撃といえば屋上、程度しか知識が無かった。
悲しいのか、悔しいのか、何がしたいのか。
レオンを死なせてしまったのが悔しいのか、彼が死んだ事そのものが悲しいのか。
彼が最後に見せた笑顔。それだけが彼女の心に戸惑いを生んだ。
(くそっ…!)
心中叫びを上げながら、彼女はエレベーターに向かって走る。
「…最終段階に入っている、完成迄もう少しだ。いや、これも君の協力あってこそ、だ」
「はっはー、そう言ってもらえるとありがたいね。俺も技術を提供した甲斐があるってもんだー!」
「ふむ、まったくー…すばらしい」
「いやぁ…うぉ!?」
エレベーターで降りて来た二人の男の間を強引に突き通り、中に入る。
一番高い所へボタンを押し、それからやっとぶつかった二人に頭を下げる。
今ぶつかった二人こそ、この会社の社長と技術提供として助力した自称天才クリフである。
彼女の気がかりな事のもう一つ、少女クレリスについて詳しく知る男が此処に居た。
彼の言う、仕事である。が勿論彼女はそんな事を知る由もない。
ただただ屋上を目指す。そこに誰かが、レオンを撃った人間が居る保証などないのだが。
エレベーターの中で、アリアは今迄の事を思い返していた。
なんでこんな事になったのか、何故こんな、自分は傷を負ってまで必死に誰かを追いかけているのか。
そんな人物、本当に居るんだろうか。
第一、ここに来る迄の時間は結構かかった。居たとしてもとうの昔に逃げているだろう。
それに加え、自分は目指している場所は屋上。
屋上からの狙撃、そんな証拠は何処にも無い。いや、狙撃だったのかどうかさえ…
(考えるのは止そう…)
彼女は戻した拳銃を再び握り直す、ついでに脇腹が痛むという事に再度気づいた。
「どうすれば良いんですかね、これ」
燦々と照らす太陽に当てられるレオンの死体。
次々と捜査員がやってくるが、事は全て終わっている。
「アリアちゃんが走ってったぜ?あ、あのビルじゃねぇか?」
新しく来た数人が、レオンの死体を運び込む。
傍らで、彼の銃を袋に詰める者も居る。
「あー…なんだかカンパニーだろ?でも、ここからじゃ結構時間かかりそうだな」
血痕だけが床に広がっている。点々と、アリアの血も一緒に。
「彼女足は速いッスよ。でもまぁ、この距離じゃ流石にね」
「追いかけたって無駄って事が、わかんなかったのかねぇ?」
そして一人の捜査官が、あるものを見つけた。
「理屈じゃないんでしょ…と、なんだこれ?」
「あぁ?どうした、なんか見つけたか?」
一つの目印、白いテープが×印に貼られていた。
「立ち位置、って事か?おいおい、ここあいつが最後立ってた場所じゃねぇのか?」
露骨に貼られた印は、既にその役目を終えていた。
非常階段を上り、やたらと錆び付いているドアを蹴破る。
銃など構えても、やはりそこは無人。
「…はぁ…」
今度こそ、アリアはその場にへたり込んだ。
ぶつけようのない怒りか、或いは悲しみが溢れ出そうだった。
怒りのままに吠えれば良いのか?
悲しみのままに泣けば良いのか?
自分が何をしたいのか解らない。結局彼女は、まるで死人のように空をただ眺め続けていた。
それこそ、彼女を連れ戻した同僚が死んでるんじゃないかと思う程に。
少女クレリスは二度、戸惑った。
最初はアリアの元へ戻るかどうか、という選択の時。
ルークを止めようと思い立ち、自分の愛機迄もを手にした。
この状況で帰っても一体どう説明すれば良いのか、まったく解らなかった。
実はレイヴンでした、記憶もバッチリあります。
こんな事を言って、第一信じてもらえるのかどうか。プリマは間近にレイヴンとしての彼女を見たが。
「1人でそのルークって人を止めるつもりなの?」
プリマの言葉だ。勿論彼女は大真面目にその気で居た。
「アリアは一応警官だよ?それになんだか捜査本部もあるみたいだし」
これもそう。彼女はここら辺で少し悩んだ。自分はどうするべきか。
「1人で追える自信があるなら構わないけど、私は反対」
結局、彼女の意思の強さと客観的事実から得た答えが、今。
そう、二度目の戸惑いである。
プリマと共にアリアの居る本社を訪れた、その後。
アリアは心身共にボロボロだったのである。
顔は疲れをこれでもかというぐらい表しているし、第一怪我も出血もあった。
そんな彼女に出会った途端、抱きしめられたのだから、驚きの後の戸惑いである。
クレリスは自分の所為ではないが、それでも彼女に謝意を示せずにはいられなかった。
「…ごめんなさい」
叱られた子供みたいだ、と(不本意だが)感じた。
「なんで謝るのさ」
笑顔で答えたアリア、しかし、元気の欠片もその顔には感じられなかった。
それからすぐ、本部は一層慌ただしくなった。
犯人の一人が発覚、しかしそれを捕らえる事ができず、死なせてしまった。
混乱である、しかし、今後の対策・方針は今すぐに決めねばならない。
そんな中当事者とも言えるアリアは、とりあえず医務室へ向かった。
「私はどうすれば良いのかな…」
思わず言った言葉に、プリマと(出る幕の無い)ローレンは言葉に詰まった。
先ほどまでローレンの手品を時間つぶし程度の軽い気持ちで、だが大いに楽しんだ。
今、奥の大会議室では今後の話し合いが為されているのだろう。
或いは、もう次の対策を決めているのかもしれない。
だがどちらにせよ、クレリスは状況を一変させる力を持っていた。
主犯格を知っているのだ。会っている、どんな人物か、良く知っている。
その意味を感じ取ったプリマだけが、彼女に答えた。彼女もまた真実を知っている。
「私にも、解らないなぁ…どうすれば良いんだろう?」
「?」
ローレンだけが、二人の会話の真意を知らない。
三人はその後、医務室へ向かった。
アリアにまず話をしようと決めた二人、単純に見舞いで訪れたローレン。
「あれ…何で貴方が今此処に?」
アリアはベッドの上で横になっていた。重傷ではないが、疲労がまず強い。
いろいろなものを追いかけ回して走ったあげく、短いとはいえ殴り合いをしたのだ。
「俺は…レイヴンだし、今やってる会議にレイヴンの意見なんて必要ないしな」
言葉を向けられたローレンはそれだけ言い、具合を聞いた。
「…なんかもう色々疲れた」
「大丈夫なの?」
プリマが心配そうに聞いたが、アリアは笑って大丈夫、と答えた。
そうでもしないと本当に泣きそうだと、彼女は思った。
「ローレン、悪いけどアリアに話があるから出て行って」
つい先ほど知り合ったばかりの少女に、部屋を出て行けと言われるローレン。
「え?何、俺がいちゃ駄目なのか?」
「女だけのお話です」
含み笑いを浮かべながらもしっかりローレンを追い出すプリマ。
結局追い出されたローレンは、おとなしく休憩室で過ごそうと歩を進めた。
足跡が遠のくのを確認して、クレリスは話を切り出す。
その真剣な顔を見て、アリアが思わず困ったような笑みを浮かべた。
「…え?何、そんな大切な話…を今?ここで?」
「うん」
ベッドに寝たまま、アリアは信じられない話を二人から聞いた。
暗闇から声がする。
「フェイとレオンが死んだらしいね、どうするんだ?ルーク」
随分暢気に仲間の死を告げる。
「フェイが…いや、それよりカリムが裏切った。そうなると、邪魔なんだ。」
裏切った、とは随分な物言いである。
「始末は、僕がするのかい?」
「そうだ、お前なら簡単に出来る。ただ…注意しろ」
「…こういう仕事は僕に…ん?なんだい、注意って?」
「奴は簡単に死なない。深く取るな、文字通りだ」
少々の沈黙。
「確実に殺せと?」
「まぁ、それで良い」
激動の一日を過ぎて、夜は更ける。
アリアは数時間で元の元気を取り戻した。なにより、クレリスの話の方がショックだった。
クレリスはアリアに付いて歩く。自分の話をアリアはしっかり受け止めたかどうか不安だった。
プリマは仕事があるから、と二人と別れた。機会があれば、またクレリスのオペレーターをすると言った。
二人は帰路の途中、その話題には触れなかった。
ただ、それに近くも遠い、クレリスのレイヴンとしての話を聞いていた。
アリアは彼女がレイヴンであるとまだ信じられなかった。しかし、話を聞けば聞く程、真実味が涌く。
明日クレリスの知っている事、ルークの事を話すと決めた。
重要参考人としての立場で、彼女は真実を世に告げる。
これによって何か大きく変わるのか、それは解らない。
ただ、少なくとも一歩、真実に近づく。その確信だけが、心にあった。
アリアはやっぱり二人が心地よいと感じた。
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