「第一章 出会い」(2006/05/28 (日) 10:59:48) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
—最強の兵器・アーマードコアとそれを駆る存在・レイヴン
彼らは如何なるものにも属さない、唯一の存在である
企業間における権力闘争において重要な力であり、また民衆に娯楽を提供する
歓声を背に受け、一人のレイヴンが扉を開く。
先ほどレイヴン同士の闘技・アリーナにおいて栄光の勝利をおさめた男。
民衆はこの兵器同士の文字通り大迫力の戦闘を娯楽とし、観戦する。
—終わりの見えない権力争い。
ACパーツ、及びMT生産のシェア1位を誇る大企業・クレスト
独自の技術を持ち、クレストに次ぐ勢力を持つ企業・ミラージュ
AC以外の特殊生産能力を持ち、派閥までも持つ企業・キサラギ
この3大企業による争いは、絶えぬ事は無い。
あるいは、レイヴンという存在が。企業という存在が。在り続ける限り。
椅子に座り込み、おもむろに煙草を取り出し火を付ける。
一息吸い、そして吐く。白い煙が一瞬にして視界を満たす。
彼は先ほどの試合を振り返る。
迫るブレード 容赦なく装甲を削る銃弾 崩れ落ちる対戦相手
思い返し、思わず拳を握る。そして自分の手が汗まみれだという事に気づく。
彼の居る控え室に、一人の男が訪ねる。
黒く、長いコートを身にまといサングラスをかけた背が高く細身の男
フードまでかぶり、顔は殆ど見えない。コートの男がドアに手をかける。
突然の来室者に一瞬驚くレイヴン。が、直ぐに彼は一つの想像にいきつく。
「…ん、おお。俺もサインを欲しがられるくらいになったかぁ!」
豪快な声を上げ男は振り向き、そして見た。
コートに隠れ、見えない顔。かろうじて見えたサングラス。そして眼前にある筒状の[何か]
彼はそれが何であるか理解する前に、彼の頭はもう考える事が出来ない状態になった。
パスッ—
気の抜けた、しかし人が聞けば恐れる銃声が控え室に響く。
レイヴンの頭を射抜いたコートの男は彼の絶命を確認すると、直ぐに控え室を後にした。
手元で拳銃をもてあそびながら、小さくクックと笑う。
コートの中に拳銃を隠し、コートの男はその場を後にする。
最中、一言だけフードの中から呟いた。
「排除、完了」
—民衆は麻痺している。
この世界が、今の状態が平和なのか平和でないのか。誰もそれを理解していない。
渦中に身を置く企業も、またレイヴンも正しい答えを持っていない。
彼らは勝つ為に、力を手に入れる為に動く。レイヴンは力を貸し与えるだけ。
平和などという言葉は、それこそが意味の無い戯れ言なのか。
「アリア!アリア!聞こえてるのか?」
ダミ声が耳に響く、何時聞いても耳障りだと彼女は思う。
「はいはい、1回でわかりますよ」
口元にあるマイクに向けて、その美声をおしげもなく披露する。
濃紺のスーツを身にまとった20過ぎの女性。
後ろで纏めた栗色の髪、顔立ちは端正で凛々しくも在る。
そしてなによりの特徴は、彼女が拳銃を片手に構えているということ。
廊下の曲がり角に身を隠し、進行方向を確認してからゆっくりと進んで行く。
一見して普通の民間人ではない動きと外見。勿論、周りの人間は彼女のそれを指摘したりはしない。
この場にいる全員が彼女と同じだからである。
「でさぁ…そろそろ着いちゃうけど、なんもないんじゃないの?ここー」
最後の方で明らかに気力を落としつつ、マイクに声を放つ。
だが、決して体の緊張は解かない。拳銃は小綺麗な右手にしっかりと握られている。
「何も無いのが一番に決まってるだろう、アリア」
耳元のスピーカーから聞こえた声にああ、とだけ返し先へ進む。後ろに数人引き連れて。
二度程廊下の突き当たりを曲がると、扉へ行き着いた。
特別なロックはかかっておらず、普通に中へ入る事が出来る。
が、あくまで彼女は慎重にその扉を開ける。
室内へ入るや否や、拳銃を前に突き出し回りを確認する。
何も無い事を確認すると、彼女は拳銃をしまう。ついでといわんばかりに気の抜けた声を出す。
「ハズレー…いや、うーん…アタリ?」
彼女は一つの機械を見つけた。かなり大きく、台座に筒状の何かが設置されている。
明らかに怪しげなスイッチがあるが、彼女は躊躇わずにそれを押す。
後ろに居た同僚が「あっ!」と、声を出したが。彼女は気にしない。
音も無く、筒状のそれはカバーを開くように反面を開いた。
どれどれ、とアリアはその中を覗き込む。遅れてスピーカーからダミ声がうなる。
「アタリ?なんだ、何があった?」
彼女は答えを用意できなかった、右手人差し指を口元にそえ、考える。彼女の思案時の癖だ。
暫くの間沈黙が続いた。同僚達が数人覗き込んだが、彼らもまた絶句した。
そしてついに、アリアは気落ちした声でマイクの向こう側へと言葉を送った。
「変な…あー…女の子」
後ろで同僚が困った顔を浮かべながらも静かに頷いていた。
「アリア=リーフオルト捜査官」
事務所の、ひと際大きな机に座る女性。アリアの上司にあたる人物。
もの静かに、しかし鋭く彼女へとメガネの内から視線を送る。
相変わらず、自分が悪い事をしたような気にさせる目だ。とアリアは思う。
輝く金髪を少しだけなびかせて上司は再度、彼女に言葉をかける。
「悪いけど…始末は貴方にまかせます」
その始末の対象・アリアの隣に立ち、事務所を興味深げに眺める少女を見て、彼女はため息をついた。
酷すぎる告知を後に、アリアは休憩室へと赴いた。少女を連れて。
自分のコーヒーと少女のオレンジジュースを長テーブルの上に挟み、向かい合う形で座る。
少女は装置から出て暫くして自ら目を開け、そして立ち上がった。
その場に居た全員が驚愕する中、少女は何をするでもなく立ち続けた。
とりあえずは保護という形で連れ帰ったが、結局アリアは少女の始末をさせられる羽目になったばかり。
もう一度深くため息を付き、栗色の髪をカリカリ掻きむしる。
少女はそんなアリアを澄んだ海のような青い瞳で見据える。表情に変化はない。
アリアは何を話せば良いか悩んでいた。
解らずに困っていたわけではなく、聞きたい事がありすぎて何から聞こうか迷っていた。
結局、場つなぎの自己紹介という結論に達して彼女は口を開く。
「私はアリア、アリア=リーフオルト。なりゆき上、貴方を一時的に預かる事に…ってなわけで宜しく」
少女はただ無表情のまま頷いた。長く艶のある黒髪が一緒に揺れる。
構わず、アリアは続ける。あるいは彼女が何らかの反応をする事を期待して。
「歳は…いいや。解ってると思うけど、私はここで働いてるただの民間人よ。」
言い終えた彼女は、終わりといわんばかりにコーヒーを口に運ぶ。
そして少女が、初めて反応を示した。表情はかえずに、口だけを動かした。
「解ってる。でも何の仕事?」
瞳と同じくらい澄んだ、良く通る声。
アリアはその声に、何故か若さを感じなかった。みかけはせいぜい11、2歳という少女の声なのに。
とりあえず律儀に、素直にアリアは応えた。
「レイヴン統括機関の中にある、主にレイヴンを専門に扱う警察、みたいなもの」
少女は何を聞いても表情をかえない、目の前のオレンジジュースもことごとく無視する。
「犯罪を犯したレイヴンを捕まえたりするのが仕事?」
「うーん、まぁ…本当はそうなんだけど…」
レイヴンの犯罪を立証するのは難しい上に、戦争に身を置いているようなものだから殆どその仕事は無い。
という本音を危うく声に出しかけて、アリアはやめた。
実際、彼女の仕事は殆ど事務。過去に数人、きっちりレイヴンを逮捕したりはしたが、ほんの数件だ。
ふと目の前の少女を見ると、先ほどとは少し違和感が感じられた。表情は相変わらず固まっているが。
その違和感を逃さず、アリアは少女に聞く。
「どしたの?」
「レイヴン、か」
それだけ言うと彼女はオレンジジュースに今やっと気づいた、というように手をかけた。
オレンジジュースを飲む少女を前に、アリアは少女の言葉を思い返した。
(レイヴン、か?)
追求しようと思ったが、それより先に彼女はとりあえず彼女に聞き返した。一番、聞きたかった事を。
「で、貴方はだぁれ?」
少女のコップを握る手が一瞬だけ震えた。…ような気がした。
「クレリス・ワス・カリム」
少女の言葉に、アリアは首を傾げる。
「それ、名前?」
「多分」
多分?と思わず突っ込みたくなったが、また追求を止めた。
彼女は面倒な事が好きではない、もとより面倒が好きな人間など希少も良いところだが。
面倒で出来ているような少女に、これ以上引っ掻き回されても困る。
とにかく、目先聞きたい事を聞いておこうと再度問いかける。
「なんであんな所に居たの?っていうかあれ何?」
「解らない」
「家は?親は?」
「解らない」
「…私はどうすれば良いと思う?」
「解らない」
思わずアリアは、目を閉じ普段信じてもいない神に祈った。どうにかして下さい、と。
突然目を閉じ、眉をひそめ、あげく胸の前で十字を切ったアリアを見ても、少女は無反応。
うっすらと目を開け、少女を確認するアリア。
(夢じゃない、やっぱり居る…)
もう一度十字を切ろうと思ったが、無駄だと悟り諦めた。
彼女はただ調査をしていただけ。勿論、確かな理由があってのことだ。
少女を見つけた場所はとある集団を追って、突き止めたアジトのはずだった。
実際はもぬけの空であり、収穫は無い…かのように思われた。
そこで彼女が隠し通路なるものを見つけ、その先に居るのではと進んで行ったら居たのは謎の少女一人。
おそらくアジトとして使ってはいたが、隠し通路に気づいたのはアリアだけだったのだろう。
おかげで変な少女を見つけてしまったあげく、そのおもりを上司に言いつけられる始末。
夢だと思いたかった、神にもちゃんと祈った。でも、これは現実。
「あの…さ」
言葉を切るが、やはり少女は無反応。おかまいなくアリアは続ける。
「もしかして…記憶喪失…とか…じゃ…ない…よね?違うよね?」
恐る恐る少女に聞く、まるで爆発物を取り扱うかのような物腰。
少女はといえば、やはり表情を固まらせたままである。
しかし、それでもゆっくりと確かに言葉をその唇から紡ぎだした。とても残酷な響きを。
「うん」
アリアは思わず嫌な予想が当たったショックで椅子の背もたれへと力無くへたれこんだ。
—ガシャン、ビチャ…
勢いがつきすぎてしまい、椅子ごと倒れた上に手に持ってたコーヒーが制服に飛び散る。
「はは…はは…ははははははは…」
仰向けに倒れ、コーヒーまでその身に浴びた状態でアリアは枯れた笑い声を発し続けた。
少女は無表情のまま、オレンジジュースを飲み干した。
—アリアは悩んだ。
悩み、悩んだ末に一時少女を預かる事にした。というよりそれしか選択肢が無かった。
記憶が無いのなら仕方が無い、記憶に詳しい医者にでも連れて行ってそれから親元へ返そう、という魂胆。
身よりもなく、また自分が見つけてしまった所為もある。
都合が良い事に彼女は現在一人暮らしでさえあった。
少し前まで恋人と同棲していたが、浮気された末こっぴどく振られ、1人身である。
そんな彼女の部屋に、無表情な少女が1人。
年齢は恐らく12歳前後(年齢までも少女は記憶に無いという)長い黒髪の美しい少女。
居間を一通り眺め回した後は特に何をするでも無く突っ立っている。
拉致があかないので、少女をソファに座らせる。
向かいに自分も座る。記憶のない少女と更なる問答等と言う不毛な事をするつもりは無い。
ただ一時とはいえ共同生活をするのだから、いくつか話しておいた方が良い。
「ベッドは使って良い。トイレはそっちの廊下の右側のドア。それと、食事は期待しないで」
見慣れた表情(といっても常と変わらない無表情だが)で聞く少女クラリス。
「何か聞きたい事は?」
「特に無い」
それだけ聞くと、良しと立ち上がるアリア。
「買い出し行って来る。いきなりだけど留守番宜しくね」
今日であったばかりの謎の少女に不用心にも留守番を頼み、彼女は自室を後にした。
適当に必要な物を買う、ついでに少女に必要と思しきものをいくつか買う。
痛い出費だな、と思いつつもアリアは2人分の買い物を楽しく感じていた。
買い物袋を下げ、帰路につく。何度目かの角を曲がる。
見覚えのある人物が、そこにいた。
嫌でも目立つ・修道女の格好をした女性。あくまで格好であり、修道女ではない。
宗教にのめり込むあまり、自ら修道女の格好をしている物好き。名をプリマという。
「あら…どうしたの?プリマ」
買い物袋を両手に、といういかにも所帯じみた格好のアリア
対するプリマは修道女、しかもそれは格好だけ。まったく奇妙な友人だった。
アリアが祈りの方法や、宗教に詳しいのはひとえにこの奇妙な修道女(の姿をした友人)の所為だった。
決して悪い奴じゃない、ただちょっと可笑しいだけ。とアリアは思う。
対するプリマは質問に答えず、下げていた目線をアリアに向けただけ。
その顔は美しく、修道女姿が似合ってさえいた。しかし、泣きそうな顔をしている。
今から泣きます、と言われれば誰もが信じるだろう。人によっては見ただけで慰めに入るかもしれない。
だが、この顔は別段彼女にとって可笑しくはなかった。
要するに、常に泣きそうな顔をしている女性なのである。
まさに薄幸の美女という形容が相応しい。別段幸が薄い訳でもないのだが。
潤んだ瞳に美しい容姿、これで修道女の格好さえしていなければ男には困らないだろう。
「アリアこそ…何やってるの、ってお買い物か」
両手の買い物袋を見て、プリマが言った。外見・表情とは裏腹に非常に艶やかな声である。
「あー…うん、ちょっと…色々ね」
仕事中に女の子拾っちゃってさ、などとは流石に言えないアリア。
その「色々」に突っ込みをいれられる前に話題を変える。
「これから…お祈りでも捧げに行くの?」
「うん、暇だから」
変な奴、とアリアは思う。
宗教が好きで、こんな格好までしているのに(少々…いやかなり的外れではあるが)この言いよう。
実は暇つぶしの為のお祈りが楽しくなってしまった、というだけなのである。
神もこんな訳の分からない信者など欲するのだろうか、と失礼な考えにいきつく買い物袋の女。
「一緒に、は行かないよね」
「流石にね」
これだけを最後に、二人は分かれた。
そしてまた、曲がり角を曲がる買い物袋をひっさげた女性。
彼女が去った路地、街灯の明かりだけが暫く残っていた。がどこからともなく人が現れた。
路地の隅に居座り、なにやら様々なものを取り出し、そして組み立てて行く。
それを完成させると、満足げに人影は去って行った。
丁度その頃、アリアは奇妙な同居人の元へと帰り着いた。
—少女はおもむろにTVをつけた。
情報を得る手段、もっとも確実かつ早くおこなえるのがそれだと知っているからだ。
『…この多目的人工衛星は、社長自らが設計・開発に当たるという大変珍しいケースで…』
何かのニュースを、アナウンサーが読み上げる。ついでに映像も映し出される。
暫く見ていると、あたりまえだが別のニュースに話題は切り替わる。
『…容疑者は未だ特定できて居ません。早急な対応を、との声が多く…』
そして、彼女は一つの言葉を耳にする。彼女にとっての、キーワード。
『…レイヴン連続殺害事件の新たな犠牲者が現れました』
無表情だった少女は少しだけ眉根を寄せ、ニュースに集中する。聞き流した先ほどの2件とはまるで違う。
『殺害されたのはクリフ・アルバス氏。アリーナでの試合を終えた後に控え室で遺体が発見され…』
ここで、玄関のドアが開いた。アリアが買い物袋両手に帰宅。
『…犠牲者はこれで4人目となりました。機関では既に特別捜査団を…』
少女は聞いた、なるべくの無表情を装って。
「レイヴン関係の仕事だって言ってたよね、これも何だか知ってる?」
買い物袋をテーブルの上に置き、冷蔵庫に物を突っ込んでいく。傍らで少女の質問に答える。
「あー…それ?なんか無差別にレイヴンが殺されてるらしいのよ」
「らしい?」
「ん、殺されてるのは事実だけど無差別かどうかが解ってないの」
少女は考える。それでも表情は崩さない。
アリアは話を続ける。少女との軽いコミュニケーションのつもりである。話題は良いとは言えないが。
「任務遂行中のACでやられたり、さっきみたいに直接やられたりで…」
「任務中だったら死んでも可笑しくない、それがレイヴン」
事実のみを、少女は口にする。疑問でもあった。
「やり方がね、可笑しいのよ。[何か]でコクピットを一撃、狙撃っぽいかな」
「…」
少女はまた疑問を胸中に抱いた。
ACのコクピットを一撃で、それも[狙撃]という遠距離からの攻撃で行える武器は存在しない。
近距離からならいくらか方法はあるが、彼女は今、狙撃と言った。
狙撃、狙って行った行動。レイヴンの命を狙って行われた行動。
思案する彼女をアリアが止めた。
「…やけにレイヴン関連だけ覚えてる、というか食いつくね?親がレイヴンだったのかな…」
的外れな言葉を口にするアリア。少女は動じない。
会話を終え、とりあえずという夕食を二人で食べた。
少女は本当に期待していなかったが、それでも予想以上ではあった。
アリアは、久々の「二人」という夕食に少なからず嬉しさを抱いていた。
勿論、彼女は気づいていない。パンドラの箱を開けてしまった事を。
だが、彼女は箱の最後にあるという希望のみを偶然にも得る事になった。
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: