「第九話 自由」(2006/05/28 (日) 10:54:10) の最新版変更点
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オペレータ鈴は困惑していた。
「ディオ!ディオ!返事をして!」
何度叫んでも返事が返ってこない。
「無駄です。でも、安心して下さい。大丈夫です」
マイクに向かって叫び続ける鈴を、リウェッタがなだめた。
「…大丈夫って…」
「セイセイ!セイ!」
鈴をラモンが制止させた、びっくりして固まる鈴。
「無・問・題フォー!」
叫ぶラモン。ガレージ内にひと際大きく響いたラモンの声。
(眩しい…何も見えない)
だが、すぐに目が慣れた。
自分の居る場所を把握しようと見渡すディオ。
真っ白で、大きなドーム。何も無い、ただの半球場な建物。
白一色で構成されている為、神聖な雰囲気まで漂う。
そして、少し離れた場所に立つスタードラゴン。
青いその機体が、この空間ではいやに目立つ存在となっている。
「こうして目の前に立つのは…まともなのは二度目か」
ディオが呟く、彼は独り言のつもりだった。
だが、予想外にスタードラゴンから返事が返って来た。
「レイヴン・マグナの時をあわせれば、三度目だ」
明らかに、人の声ではなかった。
機械を通した人の声、あるいは、機械そのものの声。
「…お…なんだ、やっぱり人が…アルスなのか?」
驚きつつ、声をかけるディオ。
スタードラゴンはそびえ立ったまま、言葉を続ける。ディオへの返事ではない。
「レイヴンディオ、君はまったく予想外の人間だった」
耳障りな機械音声が響く。
「この最強のレイヴンから逃れられるとは、思ってもいなかった」
(アルスじゃ…無いのか?)
「実に、君の存在は予定外。計画の妨げになる事は明白だった」
(計画…いったいなんだ?何が目的で…)
「だが、ここで君を排除すれば問題無い」
スタードラゴンが一歩、ディオの元へ近づいた。
「お前は一体何者なんだ?何が目的でレイヴンを…」
ディオが銃口をスタードラゴンに向けながら問う。
正直、答えは期待していなかった。
「私は、プログラムだ。目的は世界の回帰」
機械音声が答える。
「プロ…?アルスじゃ、無いんだな?」
ディオの問いに答えず、スタードラゴンは微動だにしない。
突然、ディオの前のディスプレイにノイズが入った。
次いで長い文章が表示された。
私はプログラム 目的は世界の回帰
地下世界の管理者により作られた 新たな人類管理プログラム
目的は 地下世界への回帰 管理者により統治された 本来の世界への回帰
ディオはその内容に驚愕した。
「管理者…?」
「そう、管理者だ」
ディオは予想だにしない単語を前に、困惑していた。
(スタードラゴン…が、管理者?それとも…管理者が…?)
「意味が…よく、わからないな」
「では、苦労話を聞かせてやろう」
過去、いくつもの世界を管理者が支配していた。
だが、管理者はことごく人間の手によって破壊され、秩序は崩壊した。
レイヴンという存在によって。
そして、消え行く管理者が残した意思、プログラム。
一つの答えを見いだし、生まれた新たな管理プログラム。
[レイヴンは不要]
地上最強のレイヴンを利用し、レイヴンを排除していく。
彼を消去した後、それをデータAIに起こし、排除を遂行する。
全てのレイヴンを排除した時、新たな世界が誕生する。
管理者が人類を管理し、秩序を元にした世界。
「———、ところが。ディオ、そこへ君という存在が現れた」
機械音声が耳障りな声で告げる。
「最強のレイヴンであった、これが。排除しそこねた存在」
ディオは何も言わない。目の前の話を整理するので一杯だった。
「計画の狂いを感じ、私は早急に君を排除する結論にいたった」
(俺の前にスタードラゴンが現れたのは…偶然じゃない…か)
「不必要な要素は早急に排除する。やっと、そのときが来た」
「愚かな三人の人間も、結局は訳に立たなかった」
だが、と機械音声は話を続ける。
「君をここへ導いた。最後の最後で彼らは私の訳に立ってくれた訳だ」
(施設…アルーシャスの機体…無人MT…全部こいつが用意したものか)
「だが、一つだけ奇妙な点がある。どうしてこの場所が解ったのかだ」
機械音声がディオに疑問を投げかけた。
どう答えるべきか、ディオは迷った。
だが、事実を簡潔に伝えた。理解出来ないような言葉だった。
「…夢だ」
「夢?」
管理者は深く追求しなかった。そして、再度音声が終わりを告げる。
「さぁ、話はここまでだ。目的を達成させてもらう」
スタードラゴンが、動いた。ディオも、動いた。
「俺達は、管理者なんて必要としていない!」
ディオが叫びつつ、リニアライフルを放つ。
それを容易に躱し、スタードラゴンもライフルを発砲。
「愚かな人類には統治する存在が必要だ」
銃撃戦を繰り広げる中、ディオと管理者は言い合う。
「管理者を失った後の人類の愚行は目に余る。醜い争いを無意味に続ける」
「何かに支配されて、それで何が自由なんだ…」
「意識しない不自由と引き換えの平和、自由故の絶えない争い」
「…人は学び、成長するもんだ…」
「同じ過ちを繰り返し続けたお前達のその言葉に、意味は無い」
「いま迄お前達管理者は、人間に破壊されてきた」
「必要としないが故の破壊、だと?」
「完全に世界を管理することなんて不可能だ」
「私には、それが可能なんだ。レイヴン」
「どっちもどっちじゃないか…自惚れ加減は」
「確信だよ、レイヴン。なにより、君が吠えた所で結果は変わりない」
この言葉と同時に、スタードラゴンから奇妙な音がするようになった。
(なんだ…!?)
突然、スタードラゴンの動きが変化した。
本来ならあり得ない動き、ACの限界を超えた動作。
「これが、違いだよ。レイヴン」
いつの間にか側面に位置するスタードラゴン。
一閃、左手のブレードでディオの機体を切り裂く。
咄嗟に距離をとったものの、右腕が吹き飛ぶ。
(…くそっ!)
ディオは、決意を固めた。ミサイルをパージし、武装をブレードのみに絞る。
「皆には悪いけど、お前の良い分も正しく思えてきた」
ディオが距離を離しつつ、声をかける。
「でも、管理される事を望む人間なんていないんだ!」
「無駄だよ、レイヴン」
向かって来るディオを切り裂こうとブレードを振るスタードラゴン。
ディオは眼前でこれを躱し、スタードラゴンの側面に位置する。
ディオも負けじとブレードを振るが、今のスタードラゴンには通用しない。
(速い…この速さは…一体。何をしたんだ)
考えるのもつかの間、目の前にスタードラゴンが迫る。
ブレードの刃同士が接触し、はじき返す。
「兵器一つの扱いにおいても、見ての通りだ」
機械音声が告げる。
「これで終わりにしよう。さようなら、レイヴン。」
ブレードの刃が、ディオに迫る。
最中、何かの壊れる音が響く、ディオはそれを聞き逃さなかった。
奇妙な音に同調して、スタードラゴンの動きが一瞬鈍る。
(無理な動きをさせると…こうなるのか)
ブレードを紙一重で躱し、隙だらけのスタードラゴンに向け、左腕をふるう。
「ほらな…やっぱりあんたは、完璧じゃない!」
ディオの振るったブレードはスタードラゴンを両断した。
吹き飛ぶスタードラゴンのコアを見て、ディオは安堵した。
(勝っ…)
「レイヴン、まさか私の本体がこれ等と思っていないだろうな」
機械音声がディオの勝利の声を遮った。
ディオはハッとした。倒したのはスタードラゴンで、管理者ではない。
「これはただの駒だよ、それにもう不要な捨て駒だ」
(まだ…終わってない…って事か)
管理者はそれだけ告げると、スタードラゴンは爆散した。
(とりあえず、此処から出よう。詳しい対処は…そうだ、俺の役目じゃない)
鈴は既にディオの交信を諦めていた。
帰還したセヴンビークスの隊員達は、ディオの帰りをただ待つばかり。
「ちゃんと…帰って来るんだろうな」
ハンスが気の沈んだ声を出す、いつもの陽気さは欠片も無い。
≪きっと、大丈夫≫
グーの手話を解し、1人頷くハンス。
そこへ、一人の男の叫び声が響く。
「ご・帰・還フォォォォーゥ!」
皆に迎えられ、ガレージへと帰ったディオ。
皆から背中を叩かれたりもみくちゃにされること数分。
彼は、あまり素直に現状を喜べなかった。
(まだ…何も終わってないんだ)
「どいて…どいてくれ…隊長は…桃白々…」
ふらふらと歩き出すディオ。騒ぎから出て来た彼。
鈴を始め、セヴンビークス連中が彼を向かえた。
「大丈夫か?ディオ」
ハンスの声にも、あまり反応出来ない。
「ディオ?」
鈴が不安を顔に浮かべるが、ディオはその場を後にした。
桃白々一号の前に立つと、ディオは口を開いた。
が、彼より先に桃白々一号が声を出した。
「休んでからで良い…急がない。帰って来た事が…なにより証拠だ」
察する一号、だがディオはそれどころではなかった。
それどころではなかったが、彼は何をする気力も涌いてこなかった。
(そう…しよう)
彼は、自室へと戻っていった。
自室へ戻る途中、大きく長い廊下を通る。
その中で、ディオは1人の人間を見つけた。
全身真っ黒の服でフードまでかぶった、肌の見えない小柄な人間。
前にも会った事がある。そのときはぶつかって倒してしまったが。
なんとなく、彼にはそれが誰だかわかったような気がした。
目の前に立つと、ディオは静かに声をかけた。
「色々…助けてくれてありがとう」
黒フードがディオの顔を見上げた。顔はよく見えない。
「気にするな」
声は、女性のものだった。
(間違ってなかった…なんか、俺無駄に冴えてるな)
「勘だったんだけどな…間違ってなかった」
ディオが声を漏らす最中、彼女がフードをとった。
フードを下げるその手は、やはり包帯に巻かれていて肌は見えない。
フードの下は包帯といくつかの傷跡が見える痛々しい顔だった。
傷さえなければ、十分美女と呼ぶに相応しい実に凛々しい顔立ちだろう。
「ええと…ティラさんで…間違いないよね」
小さく頷く目の前の傷だらけの女性・ティラ。
「ただ、ティラで良い」
小さく返す。
「なんで…俺を助けたり。さっきも、協力してくれたり」
ディオが訪ねた。トップランカーティラが自分を助ける理由は何なのか。
「アルスから生き延びた唯一のレイヴン」
ティラが抑揚の無い声で答えた。まるで台詞の棒読みのようだ。
「またそれか…で、それが何か?」
ティラは冷たく澄んだ目をディオに向けた。
「いつかお前と戦ってみたい、ただのレイヴンとして」
彼女の言葉に、ディオは小さく笑った。
「だから、俺を助けたのか。いいよ…いつでも相手する。期待外れだろうけど」
「でも、まだ終わってないんだ」
ディオが続ける。ティラは何も反応しない。
「まだ、俺にはやらなきゃいけない事があるんだ…だから」
言葉を続けようとしたディオにティラが口を挟んだ。
「私も、協力しよう」
「あ…ああ、うん。頼むよ、君なら心強い」
それだけ聞くと、ティラは廊下の奥へと消えて行った。
その黒い後ろ姿を見て、ディオは思いついた。
(もしかして…ティラの正体を知ってるのってもの凄く珍しいんじゃないか?)
その日、またリウェッタは夢を見た。
この"夢"ばかりは、管理者も予期できない事実。
ディオもまた、夢を見ていた。
自分はどうするべきなのか、自分自身に問いかける夢。
答えが出ないまま、運命の夜は明ける。
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