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「第三話 桃白々一号・陽気な男ハンス」(2006/05/28 (日) 10:46:33) の最新版変更点
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彼女は夢を見る。見続ける。
夢の中の夢、彼女は夢の中で目を覚ました。
景色が全てぼやける。途切れ途切れに声が聞こえる。
懐かしく、安らぐ皆の声。
何かを隔てたような、随分遠くから聞こえるような、そんな声。
「今日、俺たちの所にまた新しい奴が来るってよ」
「今頃?そいつはまた変だねぇ、どんな奴なの?」
「悪魔とかなんとか言われてる奴だった気がする。姉さん知らなかったの?」
「…悪魔…大丈夫なのか…」
————瞬き————
「君が…悪魔?なんだー、どこが悪魔なんだよ」
「あら、随分と可愛らしい女の子ねぇ」
「ちょっとガッカリ。あんた何やらかしたのさ」
————瞬き————
「グー、良いもん見つけたぞ!これだ!」
「…なるほどな。これなら大丈夫か」
「良し、グー。早速、俺と一緒にやろうぜ。1人じゃつまんねぇだろ」
「頑張ってねー、あたしそんな面倒なの嫌よ。まぁ、1人通じれば良いか」
————瞬き————
「あら、リウェッタ。起きたの?」
「おはよう、リウェッタさん。良く寝てたわねぇ」
————目を、閉じる————
バタバタと足音が聞こえる。多い。何人もこちらへ向かって来る。
「マグナッ!大丈夫か!」
「お静かに!此処をどこだと思ってるんですか」
看護士が注意した。それもそのはず此処は、病院。
目の前にあるベッドに横たわっているのはマグナ。
どうやら病室へ入って来たのは8人。随分と多い。
「…喚くな、傷に響く。っと、勢揃いか」
一番最初に病室へ駆け込んで来た男がマグナの横に立つ。
「そうか、ならいいんだ。しかしまぁ、随分と酷くやられたな。我が友よ」
「ああ、こっぴどくやられたよ。身も心もな」
マグナが随分と気の沈んだ声を出す。
(あの状況で、生きてただけ凄いとは思うけどな)
今やベッドを10人もの人間がぐるりと囲んでいる。
ほとんどが知らない顔だ。マグナと鈴以外は。
「ああ…突然で悪いんだが。こいつと二人にしてくれないか?」
本当に突然なマグナの提案だった。
病室から閉め出された後、ディオはすぐに声をかけられた。
駆け込んで来た中の一人、顔に少々疲れが出ている男だった。
「君がディオか?」
「え?ああ、そうですけど、貴方は?」
「偽・ワイズ。リサーチャーをやってる」
ワイズは椅子に腰掛けながら、ディオにも座るよう促した。
「俺に、何か用ですか?」
「いや、君の噂を聞いただけだ。奴と戦った、唯一の生き残り」
彼の言葉にディオは少し戸惑った。まさか自分の名がここまで知れ渡っているとは。
「ああ、貴方がディオ?」
突然、一人の女性が口を挟んだ。
そしてまたディオが思う。なんでこんなに名前が知れているのか、と。
「私は桃白色Ⅳ号、よろしくね」
と、女性が自己紹介をした。ディオは空しく、はぁ。と答えるだけ。
(桃白々…Ⅳ号?なんだ、号って?)
次いで、その奇妙な名前の違和感を覚える。ロボットなのかと一瞬疑いまでした。
「えーっと、何がなんだか解らないと思うからちょっと紹介するね」
言いながら彼女は奥で固まって立ち話をしている三人の男を指差した。
「左から桃白々2号、3号、FIVE号ね。」
ディオはもう何がなんだか解らなくなった。
青年が2号、2号より少し歳が上のように見えるのが3号、少年がFIVE号。
なんで名前が皆同じで、番号なんて付けているのか。
軽い頭痛を覚えたところでディオはなんだかよくわからないけどそういうものだ。
と、自分の中で結論付け、これ以上の混乱を回避した。
「そして、今マグナさんと一緒にいるのがリーダーの一号ね」
リーダー、という言葉を聞いてディオは少し安心した。
(リーダー…そうか、"そういう人達"なんだ。)
「何の話してんだろ。」
と首を傾げる桃白々Ⅳ号。
「おそらく…調査隊の事だろうな」
答えたのは新たな声。こちら側へと歩いて来る男のものだった。
「やあ、俺は王虎天。解ってると思うけどレイヴンだ。」
続いて、傍らに立つ少女も口を開く。
「王猫天、私もレイヴン。」
言い終えると彼女は王虎天を指差し、妹。と付け加えた。
レイヴンになったばかりなので詳しい事を知らないディオ。
どういう人なのか鈴に助けを求めようと思ったその時、病室の戸が開いた。
中から桃白々一号が顔を出し、言った。
「入って良いってさ」
マグナはベッドの上で上半身だけを起こし、皆を見渡す。
そしてディオの方へ顔を向けると静かに口を開いた。
「ディオ、俺は見ての通りの状態だから隊長なんてやってられない」
ディオは少しだけ頷いた。解ってはいたことだ。
「そこで、だ。彼に…一号に臨時に隊長を任せる事にした」
この言葉に驚いたのは王虎天と偽・ワイズ以外の全員。
この二人はどうやら察していたらしく、驚いたそぶりはない。
「リーダー」とだけFIVE号が一号にささやく。
「友の願いだ。それに、俺も黙っているわけにはいかない」
言い終わるや否や、病室に新たな闖入者が登場した。
突然、戸を開き。一人の男が現れた。
作業服を着て、サングラスをかけたガタイの良い男。
「入・院フゥーー!」
男は突然大きな声を出し、マグナの元へと駆け寄った。
「マグナの旦那ぁ、アクシズはもう新しく出来上がったぜー」
「ああ、そのことなんだが…」
言いかけたマグナを男が手を向けて制す。
「セイセイセイ…解ってるぜ旦那。その体じゃ操縦は無理って話だ」
「俺が伝えたかったのは機体がちゃんとあるってことですよーぅ」
マグナ以外の人間はこの男のあまりに異質すぎる存在にただ呆然とするだけ。
「オッケェーイ。いつでも復帰してくれていいですよーぅ」
男はそれだけ言い終えると踵を返し、戸へと向かって言った。
その場でまた一回転し、病室の中の人を見渡したあとまた大きな声を上げた。
「即・退・院フォー!」
嵐は通り過ぎた。
暫くの間続いた沈黙を破ったのはマグナだった。
「さっきの奴は…まぁ見て解ったとおもうが。メカニックだ。名前はラモン。」
「クーゲルシュライバーお抱えの、実に優秀な男だよ。言動に問題はあるが…」
あからさまに可笑しい雰囲気を作り出した男の所為で、皆は口を閉ざしたまま。
「とにかくだ」
マグナが少し強めに言い放った。この言葉で皆がやっと正気に戻った。
「新隊長、頼んだぞ」
「お…おう。」
翌日、いつものように自室で目覚め朝日に嫌というほど照らされたディオ。
彼はその後すぐに愛機へと乗り込み、ガレージを後にした。
新隊長・桃白々一号はさっそく隊員に調査を命じたのだ。
昨日スタードラゴンが現れたあの巨大な施設の調査。
奴の手がかりを得る為には今の所此処を調べる他ないのが現状だった。
(何か…本当に見つかるのかな)
不安を胸に、ディオはF-9のゲートをくぐる。
彼が二度目のスタードラゴンを目撃し、マグナと交戦していた場所だ。
(なんか、嫌な感じしか残ってないな)
黒く焦げたミサイルの爆発の後、地面に残る無数の銃跡。
目の前で切り裂かれたアクシズバレットの姿が脳裏をよぎる。
「…くそっ!」
思わず操縦桿を叩くディオ。何も出来なかった自分への苛立からだった。
そしてその時、奥のゲートがゆっくりと開いた。
(ゲートが!奴か!)
すかさず開いたゲートに向かってリニアライフルを発砲、奥に居た何者かに直撃。
すかさず鈴が声を張り上げる。当然だろう、突然の発砲は危険だ。
「待って!」
「おぉ…うわ!なんだなんだ!」
通信が入った、人の声だ。
奴ではない。ディオはそう直感した。
「いきなり撃ってくるってどういうことだぁ?よく見ろ、非武装だろ!」
ディオが誤射したAC。見ると本当に武装を施していない白黒カラーの二脚型AC。
「レイヴンってのは戦意の無い奴まで襲うのかよ…」
「すまない…少し…」
「あー、いいよいいよ。解ってくれりゃあそれでいいんだ」
しかしディオの頭の中に何かが浮かんだ。
隊員ではない、所属不明のACが何故こんなところにいるのか。という疑問。
「お前は…何者だ?」
リニアライフルを突きつけたまま、ディオが厳しく問う。
「ん?ああ、俺?」
男が答える。やたらと緊張感の無い陽気な声なのでディオは少し苛立つ。
「ハンス。で、そっちこそどこのどいつだい?」
ディオは一瞬躊躇したが、微かな礼儀を胸に、答えた。
「クーゲルシュライバー所属のレイヴン、ディオだ。」
「クーゲル…ああ、なるほど。って、ディオだって?」
(またか…なんだってこんなに有名になったんだ俺は)
人知れず自分の名が知れ渡っている、あまり気持ちの良い事ではなかった。
レイヴンとなったのがつい最近で、大した戦果も上げていない自分。
悪い噂が広がるような感覚だった。
「そうだよ、ディオストラーダだ。」
「へぇ、お前さんが。ちょいと予想外だな」
「…どういうことだ?」
「もっと見るからに強そうな奴だと思ってた。事実が事実だけにな」
「悪かったな、強そうじゃ無くて」
通信機から小さく笑う声がした、笑うと陽気さが一層増す。
「いや…いや、でもなんか雰囲気が他の奴らと違うな。」
実のところディオはハンスの話にあまり興味を持たなかった。
話題が自分の事とはいえ、何よりも目の前の謎の男に興味が集中していた。
奴の手がかりを探る最中に出会った謎の男、ディオは一種使命感に支配されていた。
「で、ハンス。お前はここで何をしてるんだ?」
相変わらずリニアライフルを突きつけたまま高圧的に問う。
「何って、お前さんと同じだよ。"彼"について調べてる所だ」
今迄黙っていた鈴の声が通信機から聞こえて来た。
「怪しさ抜群ね」
ああ、と短く返し。またハンスに質問を投げかける。
「"彼"ってスタードラゴン、いや、アルスか?」
「他に誰がいるってんだ?まぁ、"彼"がアルスなのかどうかは別なんだけどなー」
銃口を向けられているのにもかかわらず、ハンスの声は揺れない。陽気なままだ。
隊員ではない何者かがスタードラゴンについて調べている。
ならば、とディオは大胆にも核となる質問を投げかけた。
「あんたの目的はなんだ?」
「待て待て、質問攻めかよ。交代だ、俺にも聞かせてくれや」
調子が狂う、とディオは感じ始めていた。
だが、順番さえ守れば彼は質問には答える。そんな気もしていた。
「…なんだ?」
「その、クーゲルなんたらってのはどれくらいの規模なんだ?」
(これは…答えて良い質問か?)
心中、彼は考えた。だが、同時に自分が調査隊について良く知らない事を悟った。
「俺も良くわかってない。入隊したのも昨日のことだ」
「あ?お前がリーダーなんじゃねぇのか?」
「"彼"と対峙して生き残った唯一のレイヴンなんだろ?違うのか?」
「それは本当だ、でもリーダーは俺じゃない」
「えー…?どうなってんだ。普通お前がリーダーだろ?」
「俺はその事実を元に入隊を誘われただけだ。」
「なるほどね、リーダーじゃない。か」
大した事は話していない、なによりこの事実は相手にとって有益ではないだろう。
ディオはそう自己確認すると、またハンスに質問する。
「もう一回だ、あんたの目的はなんだ?」
「…」
初めてハンスが沈黙した。
今迄の言動を考えると本気で悩んでいるか、考えているのだろう。
「…"彼"と接触し、力を得る。それが俺達の目的だ」
(俺達?複数なのか)
「力を得る…?何をしようとしてるんだ?」
「そいつは答えられない。力を得るってのも正確な言葉じゃないしな。」
「なんだ…?お前達は一体」
言いかけた言葉をハンスが遮る。
「悪いな、これ以上は教えられない。そして、時間切れだ」
ハンスのACが後方へ小さくジャンプ。同時にゲートが降りる。
咄嗟にリニアライフルを放つが、容易に躱してみせるハンス。
「じゃあなー、ディオ。少しの間だが、お前と話せて楽しかったぜ」
「最後に良い事を教えてやるよー、ここに"彼"の手がかりは残ってねぇ」
「えっ?」
また小さくハンスが笑う。
「俺けっこう前から此処に居たんだぜ?お互い無駄足だったな!」
ゲートが完全に閉じた。
今から再度ゲートを開く迄に逃げ切られるだろう。ディオは諦めた。
「何者かしら、口ぶりからして仲間が居そうだったけど」
鈴が重い声を出した。
「ハンス…ね、名前は解ったから調査は出来るわ」
「手がかりは無いって言ってたな。どうしようか?」
「…貴方次第ね」
ディオは暫く考えた後、施設を跡にした。
ハンスは嘘をついていない、どこかにそういう確信に似たものがあった。
後にクーゲルシュライバーの情報操作班によって調査が進められる。
結果は微妙なものだった。
ハンスとその仲間の所属する組織の名前セヴンビークス。
後はせいぜい彼の機体の名前が神楽だという事実程度。
組織の全容、組する人間の数。全てが解らないままだった。
そう、彼はまだ何も知らない。
ただ、自分を中心とした何かが動きつつある事だけを感じる。
彼が何を知らずとも、世界はただ回り続ける。
そして今日、七つの嘴の一つが彼を啄む。仲間に与える為に啄む。
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