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「「私は恐れている、全てを知ってしまったから」」(2012/03/08 (木) 05:03:17) の最新版変更点
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1
青い空、白い雲。上を見上げれば広がるのは大自然の贈り物。
人がどんなに芸術を、科学を追究したとしても、決して打ち勝つ物は作りえない美。
そんな空に黒い星が1つ。他の星々のように優しい光を放つことのない、禍々しく黒い星。
黒い星は、1つ、また1つと増えていく。
――空が、黒い星で埋まっていく――・・・
2
バサッ
「――ッ!!ハァッ!!ハァッ!!……ゆ、め……か……」
――また、あの夢だ。
まだ私が駆け出しのひよっこだった頃に見た、黒い星の悪夢。
成層圏近くを飛ぶクレイドルをAI兵器が襲うと言う情報を得た企業は、
対応策としてひよっことベテランの2人のリンクスの派遣を決めた。
AI兵器が何体来ようと、新米が下手をやらかそうと、例え相手にもネクストが来ようと、充分に対応出来る組み合わせだった。
「今日は簡単な仕事だな」と呟く。
『そうだな、だが油断するな』ベテランがそれに応える。
だが、実際簡単な仕事だった。私はヘマをすることもなく、相手方にネクストが来ることもなかった。
ベテランが戦場から撤退しようとする最後の一機を落とせばそれで終わるはずだった。
3
『こいつ、チョコマカとッ!』
他のAIと違い、最後の一機は良く動いた。もしかしたら人が乗ってるのかも知れない。
高度を上げ、さらに上げながら追撃を避ける。その機動に莫大なエネルギーを消費するネクストと違い
デカイジェネレータを積むだけで休むことなく飛べるノーマルは飛行戦ではネクストよりも有利な事がある。
二機はそのまま作戦領域高度を越えながら機動戦を続ける。
【AC1!作戦領域を守れ!】クレイドルの中にいる管制官の怒号がヘッドセットに響き渡る。
『やかましい!この小五月蝿い蠅を落とすためだ!!』
負けじとベテランも言い返す。
二機はさらに高度を上げ、雲を突き抜けんばかりの高度まで上がっていく。
【下がれ!下がるんだ!!】どこか焦りを感じさせる管制官の声。
その時に私は見たのだ、雲の切れ間の遥か上空に無数の黒い星が二機を狙っている姿を
そして黒い星から放たれた光が二機を貫く瞬間を―――
4
あの時の黒い星はなんだったのだろうか、答えは至極あっさりと得ることが出来た。
あの日の事を企業側に尋ねた時の回答は【そんなものは知らないし、君はその日は待機日だった】というもの。
つまり、私はその日、揺り篭を守る事などなく、待機していて、そしてベテランというリンクスは最初から存在していなかった、と言うものだ。
――これでは、私達はその答えを、正体を知っていますと答えてるような物だ。
知り得た答えは確かに、企業としては隠匿しておかねばならないものだろう。
「……シャワーでも、浴びるか……」
悪夢にうなされて汗まみれになった身体を流せば、この覚めやらぬ悪夢を頭の片隅へ追いやり、少しはスッキリできるだろう。
5
シャアアアアァァァ……
「ふぅ……」
冷水を頭から浴び、悪夢を少しだけ、頭の片隅へ……
洗面台に向かい顔を洗う。顔を上げたとき映ったのは、やつれた顔。
黒い星の正体を知ってから、あの悪夢に毎日うなされ不足する睡眠時間。
段々過激になっていく悪夢、時には黒い星の閃光に己が貫かれる時もある
そこへ重なるようなランク1の激務、「やつれない訳がない」と自嘲気味に笑う。
『おいおい、酷い顔だな……折角の二枚目が台無しじゃないか?』
突然響く声、一体どこから、一体誰が?この部屋には誰もいないはずだ、私が企業側にそうさせている。
「誰だッ!どこにいる!」
何処を見渡しても姿は無い、響く声は己のもの1つのみ
『何処を見ている?ランク1?』からかうように謎の声は謳う。
その声は、初めて聞くようで、その実ずっと昔から聞いている声のようで――
『俺は此処だよ。――お前の目の前だ』
――声は、目の前の鑑から響いていた。
6
ケラケラケラ、と鏡に映る顔が凶悪そうな顔で笑う
「貴様は誰だ」
『貴様は誰だ、なんて陳腐な質問投げ掛けてくれるなよ?俺はお前だよ』
わざとらしく同じ口調で言葉を重ね、そのまま奴は言葉を続ける
『俺はお前の別たれた心の1つだよ。分かっていたんだろ?自分が一人じゃないってことは』
――確かに、そんな様子は昔から多々あった。受けた覚えのない任務。買った覚えのないパーツ、そして自らのIDで組まれた、見たこともない機体
その任務は完璧に遂行されていた。
そのパーツは、今まで自分を支えていた理論を打ち砕くほど高次元にチューンされていた。
その機体は、自らの腕を、特性を、長所を限界まで引き出せるアセンブルだった。
『医者は疲れから来る一時的な記憶の混濁だなんだと偉そうに言ってたな、落ち着けば記憶も整理され思い出せるハズだ。なんてな、
だが、いつまでたっても思い出せなかった。そりゃあそうだ、思い出せる訳がない。て俺がやってあげてたんだからな』
7
クカカ、と奴は笑う。
『お前の中から高見の見物と洒落こませて貰ってたぜ?俺の組んだ機体を駆って、メキメキと頭角を表すお前を』
確かにそうだった、あの機体に乗り換えてから私は劇的に変わった。
任務は完璧に、そして早くこなせるようになり
上位のランカーを下し、己の存在を老人たちへアピールし続けた。――無論、幾ら高性能な機体を扱おうが、乗り手が成長しないのであれば宝の持ち腐れ。
機体の性能を全て出しきれるように己を磨き続けた。
『今じゃ俺が組んだ機体とは全然違くなっちまったけどな』
なにがそんなに面白いのか、鏡の自分は良く笑う。
「それで、突然何のようだ。」――下らん幻想に長く付き合ってはいられない。ランク1は、私は忙しいのだ。
『黒い星、その正体を知った今、お前が成そうとしている事を手伝ってやるんだよ』
自分が自分を手伝う?――おかしな話だ
「生憎だが身体は1つしかない、貴様が手伝えることなどなにもない」
この身体を渡す訳にはいかない、私の目的は雲の上の貴族、老人たちの秘密を全て解き放つことだ。こんな粗野な性格の――
8
『なにも身体を貸せとは言わないさ、最初に言ったろう?俺はお前の【別たれた心だ】ってさ?』
――だからなんだと言うのだ?
『別たれたってのがミソさ、つまり俺とお前は元々ひとつの人格だったんだよ。だから、元に戻ろうっていってんだ』
「下らん、私は私だ。私は元より1つであり、貴様のような粗野な性格が私の中にあるなんて事は認めんし、あり得ない事だ」
――もし、こいつが本当にわたしなのだとしたら、こんな否定などなんの意味もないのだが……
『いやはや、我ながら強情で参ってしまうよ?たまには人の言うことに耳を貸さないといつか痛い目をみるぜ?』
9
ひとつの人格?元に戻る?そんな事をしたら結局私が消えて、何もかも台無しになってしまう。
「悪いが、その話は飲めないな」
『安心しな、人格の優先度はお前が強いんだ、俺はただ、お前に吸収されて知識と技術を継承するだけさ』
「そんな保障はない、もうこの話は終わりだ。」
我ながらとりつく島もない答え方だと思うが、私には時間がないのだ。
『――何をそんなに恐れているんだ?ランク1』
恐れている?――私が?何に?誰に?いや――
「そう、私は恐れているんだ。全てを知ってしまったから」
企業が隠している、世界の真実を、閉塞していく世界の真実を知ってしまったから
『だから、今、恐れている、か。――自惚れるな、小僧。貴様一人で何が出来る』
鏡の己はそう切り捨てた。
『例え、全てを知っていようが、貴様一人ではなにも出来ないぞ』
「――黙れ、私には私なりの考えがあるのだ」
10
――口ではそう言うものの本当は、何もない。企業の代表たる老人達を出し抜く術など、何もない。
『自分に向かって嘘をついて何になるんだ?俺はお前だ、お前の事は全てを知っている』
諭すように、私に呟く。
『老人達がひた隠しにしている世界の真実を、何も知らない市民たちの安息とその未来が向かう滅亡を知ってしまった
なのに何も出来ない自分への憤り、真実へ目を向けようとしない市民への嘆き、そして自らのみが幸せなら未来が、子孫がどうなっても構わないという老人達への憤怒』
俺はお前だ、お前の事なら全部分かってるさ――そう鏡は呟き、そしてこう続けた
『それに、貴様は勘違いしている。貴様は全てを知ってなどいない。』
な、に――?
『あの黒い星、本当に貴様しか知らないと思っているのか?』
言われて見ればその通りだ、私以外にも何らかの切っ掛けであの黒い星を知ってしまった人間は他にいるはずだ
11
『そこの戸棚のノートに、俺が調べた限りの黒い星を知る人間が4名綴ってある』
言われたとおり戸棚を調べると確かにノートがあり、そこには4人のリンクスの名があった
「銀翁……真改……」
何れも名だたるリンクス達、こんな者達が協力してくれたら……老人達の、この世界の目を覚めさせる事が出来る――
『気に入ってくれたかな、相棒』
鏡の奴は私をそう呼んだ、相棒?――ふふっ、ひとつの身体にいるハズなのに相棒。これは、傑作だ
「――貴様は信用に足る人物のようだな」
『当たり前だ、俺を誰だと思っているんだ?』
先程までは胡散臭かった鏡の奴もいまなら解る、あぁ、確かにこいつは私自身なのだと……
「貴様を受け入れよう、さぁ、元に戻ろう相棒。」
『あぁ、マクシミリアン・テルミドールの帰還だ――』
私達の、いや、私の一世一代の大舞台が、幕を開ける――
――To Nobles welcome to the earth――
「『空の高貴なる皆様方へ、ようこそ地球へ、歓迎しよう、盛大にな―――』」
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