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「幕間劇―インテルメディオ」(2011/11/01 (火) 03:47:04) の最新版変更点
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To Nobles Welcome to the Earth.
企業のトップたちを怯えさせるには、その一文と実際に示した
行動だけで十分だったろう。
ORCA旅団、マクシミリアン・テルミドール、レイレナードの亡霊。
様々な単語の断片が議場を飛び交う。
企業の首脳たちの緊急会談の場。
そこに、BFFのトップである王小龍の姿はなかった。
もちろん、そんな些細なことを図太い彼らは気に留めるはずもなく、ただ自らの保身について
思案を巡らせるばかりであった。
ある意見が出たとき、それに一も二もなく全員が賛同した。
形骸化した「企業連」が、初めて意味を持った瞬間である。
///
GAのリンクスライセンス。
初めて見たが、改めて見たところで大した感慨は湧かないものである。
ただし、ようやく俺にもカラードランクが与えられたことには少し思うところがある。
メルツェルとの繋がりを危ぶんだのか、企業連は俺にランクを今までくれなかった。
今になってランクを与える気になったのは、「ランクを与えたんだから企業連の為に働け」という
ことなのだろう。いくら鈍くてもそのくらいの意思は読み取れる。
トーマ「そんなん、別にどうでもいいっつーのになあ」
どうせもともと企業連の為に戦っているわけではない。
まあ、これで晴れて俺も「首輪付き」ということになるのか。
正直面倒だが、拒んでいる暇も喜んでいる余裕も今はありはしない。
メイより上だったことも、あいつの癇癪を避けるために言わないでおかなければ。
///
リリウム「……ミッション、ですか」
王小龍「ORCA旅団が所有する衛星破壊砲『エーレンベルク』。それを破壊しろとのことだ。
カラードも尻に火が点いたということか、私も出なくてはならなくなった。
今回は貴様と私、2機での出撃となる」
リリウム「承知致しました、王大人」
BFFに依頼されるミッションとしては、だいぶ間が空いてのものである。
前回はラインアークで――スペキュラーが落ちた、あのミッションだったか。
この「ミッションの少なさ」はある種異常だ。トーマがいなくなって、GA本社に舞い込む
ミッションが増えたから? ……いや、それにしてもこの量はおかしい。
今回だって、「人手が足りないからBFFに白羽の矢が立った」というよりむしろ、
「このミッションのためにBFFは羽を休めていた」ような――?
王小龍「何を呆けた顔をしている」
メガロ「……へ? や、別に何も変なことはないっスよ?」
急に話を振られたことに驚きつつも、真意は表に出さず、飄々と受け流す。
……もっとも、この狸爺に対してどれほど効果があったかは分からないが。
王小龍「なら、しっかりとロケーションに合わせた整備をしろ。そのためにブリーフィングに
貴様を同席させているのだ。でなければ出て行って構わん」
メガロ「はい、勿論整備は完璧に……っス」
王小龍。
そもそも、彼が戦場に出向くことそのものがありえない話だ。
彼なら、こんな状況でも依頼を選り好みできるだけの権力を持っているはず。
――このミッション、何か裏がある。
嫌な予感ほどよく当たるという自分のジンクスを思い出しながら、メガロは横目でリリウムを見た。
そこには、魂の抜けかかった人形のような姿があった。
王小龍に聞こえないように小さく舌打ちをした後、袖の下でメガロは携帯端末を操作する。
……冗談じゃない。
やっと新しい剣を得たというのに。こんな時に一体何をしている、トーマ・ラグラッツ。
やっとBFFが、リリウム様が明るくなりかけてたんだ。
邪魔をするな、クソジジイ。
///
メルツェル「――エーレンベルクが目を付けられたようだぞ」
テルミドール「心配をすることでもないだろう。お前も、裏で色々と手を回していたようだしな」
メルツェル「何だ、気付いていたのか」
テルミドール「当たり前だ。お前のやりそうなことくらい、大体の見当はつく。
そして、お前が手を回した以上は問題ない――だろう?」
メルツェル「くくっ――いやそれが、実のところ分からんのだよ。万全は期したつもりだが、
私の『作品』が、どうやら出向く可能性がある」
テルミドール「お前が引き抜きに失敗した……確か、BFFのリンクスか」
メルツェル「今はGAだそうだ。まあ、どちらでも構わんさ」
テルミドール「いやに楽しそうじゃないか、メルツェル?」
メルツェル「そう見えるか。……くくくっ、実際、楽しんでいるのかもしれんな、私は。
自分の作った『作品』がどの程度のものに育ったか、見てみたいのさ」
テルミドール「……まあ、エーレンベルクにいるのは銀翁だ、万に一つの狂いもあるまい。
エーレンベルク、あれは破城槌だ。奪われるわけにはいかん」
メルツェル「門さえ開けば人々は好奇心からその向こうを覗かざるを得ない。
万全の上に、更に万全を……だな?」
///
戦うことを運命付けられ、そして自ら戦う意味を見つけた男、トーマ・ラグラッツ。
BFFという鳥篭に囲われた才媛、リリウム・ウォルコット。
計略と策謀の人形繰り、王小龍。
情熱的な、そして熱狂的な革命家、マクシミリアン・テルミドール。
狂言を作り、自ら回す男、メルツェル。
首輪を引き千切る名無しの猛獣、ナナシ。
そして、自らの中に譲れないものを持つ者たち。
ある者はずっと前からそこにいて。
ある者はようやくそこへ上がり。
ある者はまさに今そこへ足を踏み入れようとして。
舞台の上は役者で埋まり、舞台の袖は骸で埋まる。
敵も味方も入り乱れ、この演劇もクライマックスを迎えようとしていた。
果たして誰が最後まで立ち続けるのか。
終幕に、果たして声援はあるのか。
誰にも分からないまま、役者たちは踊り続ける。
そして今、最後の役者が舞台に上がる。
///
鏡の中の自分が言う。
「お前のせいで私はこちらへ閉じ込められた」
私と同じ顔をして、それは言う。
「私は『貴様』だとずっと言い聞かせられ、ずっと私は私ではない、『貴様』だった」
だがその表情は怒りと憎しみに満ち、言葉は呪詛のそれだった。
「ならば私は貴様になろう。貴様を消し去り、私は初めて『私』になろう」
にい、と、それが笑った。
「貴様は『私』になれ。鏡の向こうから夢物語を見ているだけの、哀れで惨めな『私』となるがいい」
///
――目が覚めて最初に、自分の腕は自分のものかどうかを確認した。
「……ふん、見慣れたこの手が、随分と懐かしく感じられる」
自分の体には何本もの管が刺さり、自分が治療を受けていたということに気付く。
少しばかりの痛みを気にせずに刺さった管を引き抜くと、機器がエラーを出した。
さてこれは、どういう状況だ?
扉の方へ目を向けると、口を開けた女がそこに立っていた。
「……こんなに早く、驚きました。意識が戻ったということは、やはりあなたは
無理にでも壇上に上がらなくてはならないようですね」
「……貴様……」
戸惑いと同時に意識を失う直後の光景がフラッシュバックし、状況を鮮明なものにさせる。
それにより、今の自分がどういった経緯でここにいるかが理解できた。
「……答えろ。『私』は、いったいどうなった?」
その問いに女はゆるく首を振り、あらかじめ用意していたのだろう答えを返す。
「あなたの思い描く、最悪のシナリオです。事態は急速に収束しつつあります」
舌打ちをすんでのところで飲み込む。
最悪……とは、そう言うのならば最悪なのだろう。
だがしかし、今ここで目を覚ました自分の悪運の強さは最悪とは言えない。
平穏を望むなら確かに最悪だがな――と、心の内で密かに笑う。
「この分ならフィナーレには間に合うでしょう。あなたには少しでも早く前線に戻って
いただくために、さっそく今からリハビリを――」
「ふん、そんなもの必要ない」
少しばかりの立ちくらみを覚えながら立ち上がると、壁に掛けてあった自分の上着を羽織る。
自分の腕の像が懐かしいなら、両の足で立つ感触にはむしろ感動すら覚えた。
入り口を塞ぐ女をどかしながら、しっかりと思い出すように足を動かす。
「……ちょっ……! あなた、自分の今の体の状態を理解していますか!?」
「当たり前だ、誰よりも理解している。……だが同時に、この状況に何もせずにはいられない
私自身の性分を、それよりも深く理解してしまっている」
これ以上、あれの好きにさせてたまるか。
それに、あいつにも馬鹿にされたままでは終われない。
「……悪いが、譲れないな……!」
不思議なことに、口元には笑みが浮かんでいた。
To Nobles Welcome to the Earth.
企業のトップたちを怯えさせるには、その一文と実際に示した
行動だけで十分だったろう。
ORCA旅団、マクシミリアン・テルミドール、レイレナードの亡霊。
様々な単語の断片が議場を飛び交う。
企業の首脳たちの緊急会談の場。
そこに、BFFのトップである王小龍の姿はなかった。
もちろん、そんな些細なことを図太い彼らは気に留めるはずもなく、ただ自らの保身について
思案を巡らせるばかりであった。
ある意見が出たとき、それに一も二もなく全員が賛同した。
形骸化した「企業連」が、初めて意味を持った瞬間である。
///
GAのリンクスライセンス。
初めて見たが、改めて見たところで大した感慨は湧かないものである。
ただし、ようやく俺にもカラードランクが与えられたことには少し思うところがある。
メルツェルとの繋がりを危ぶんだのか、企業連は俺にランクを今までくれなかった。
今になってランクを与える気になったのは、「ランクを与えたんだから企業連の為に働け」という
ことなのだろう。いくら鈍くてもそのくらいの意思は読み取れる。
トーマ「そんなん、別にどうでもいいっつーのになあ」
どうせもともと企業連の為に戦っているわけではない。
まあ、これで晴れて俺も「首輪付き」ということになるのか。
正直面倒だが、拒んでいる暇も喜んでいる余裕も今はありはしない。
メイより上だったことも、あいつの癇癪を避けるために言わないでおかなければ。
///
リリウム「……ミッション、ですか」
王小龍「ORCA旅団が所有する衛星破壊砲『エーレンベルク』。それを破壊しろとのことだ。
カラードも尻に火が点いたということか、私も出なくてはならなくなった。
今回は貴様と私、2機での出撃となる」
リリウム「承知致しました、王大人」
BFFに依頼されるミッションとしては、だいぶ間が空いてのものである。
前回はラインアークで――スペキュラーが落ちた、あのミッションだったか。
この「ミッションの少なさ」はある種異常だ。トーマがいなくなって、GA本社に舞い込む
ミッションが増えたから? ……いや、それにしてもこの量はおかしい。
今回だって、「人手が足りないからBFFに白羽の矢が立った」というよりむしろ、
「このミッションのためにBFFは羽を休めていた」ような――?
王小龍「何を呆けた顔をしている」
メガロ「……へ? や、別に何も変なことはないっスよ?」
急に話を振られたことに驚きつつも、真意は表に出さず、飄々と受け流す。
……もっとも、この狸爺に対してどれほど効果があったかは分からないが。
王小龍「なら、しっかりとロケーションに合わせた整備をしろ。そのためにブリーフィングに
貴様を同席させているのだ。でなければ出て行って構わん」
メガロ「はい、勿論整備は完璧に……っス」
王小龍。
そもそも、彼が戦場に出向くことそのものがありえない話だ。
彼なら、こんな状況でも依頼を選り好みできるだけの権力を持っているはず。
――このミッション、何か裏がある。
嫌な予感ほどよく当たるという自分のジンクスを思い出しながら、メガロは横目でリリウムを見た。
そこには、魂の抜けかかった人形のような姿があった。
王小龍に聞こえないように小さく舌打ちをした後、袖の下でメガロは携帯端末を操作する。
……冗談じゃない。
やっと新しい剣を得たというのに。こんな時に一体何をしている、トーマ・ラグラッツ。
やっとBFFが、リリウム様が明るくなりかけてたんだ。
邪魔をするな、クソジジイ。
///
メルツェル「――エーレンベルクが目を付けられたようだぞ」
テルミドール「心配をすることでもないだろう。お前も、裏で色々と手を回していたようだしな」
メルツェル「何だ、気付いていたのか」
テルミドール「当たり前だ。お前のやりそうなことくらい、大体の見当はつく。
そして、お前が手を回した以上は問題ない――だろう?」
メルツェル「くくっ――いやそれが、実のところ分からんのだよ。万全は期したつもりだが、
私の『作品』が、どうやら出向く可能性がある」
テルミドール「お前が引き抜きに失敗した……確か、BFFのリンクスか」
メルツェル「今はGAだそうだ。まあ、どちらでも構わんさ」
テルミドール「いやに楽しそうじゃないか、メルツェル?」
メルツェル「そう見えるか。……くくくっ、実際、楽しんでいるのかもしれんな、私は。
自分の作った『作品』がどの程度のものに育ったか、見てみたいのさ」
テルミドール「……まあ、エーレンベルクにいるのは銀翁だ、万に一つの狂いもあるまい。
エーレンベルク、あれは破城槌だ。奪われるわけにはいかん」
メルツェル「門さえ開けば人々は好奇心からその向こうを覗かざるを得ない。
万全の上に、更に万全を……だな?」
///
戦うことを運命付けられ、そして自ら戦う意味を見つけた男、トーマ・ラグラッツ。
BFFという鳥篭に囲われた才媛、リリウム・ウォルコット。
計略と策謀の人形繰り、王小龍。
情熱的な、そして熱狂的な革命家、マクシミリアン・テルミドール。
狂言を作り、自ら回す男、メルツェル。
首輪を引き千切る名無しの猛獣、ナナシ。
そして、自らの中に譲れないものを持つ者たち。
ある者はずっと前からそこにいて。
ある者はようやくそこへ上がり。
ある者はまさに今そこへ足を踏み入れようとして。
舞台の上は役者で埋まり、舞台の袖は骸で埋まる。
敵も味方も入り乱れ、この演劇もクライマックスを迎えようとしていた。
果たして誰が最後まで立ち続けるのか。
終幕に、果たして声援はあるのか。
誰にも分からないまま、役者たちは踊り続ける。
そして今、最後の役者が舞台に上がる。
///
鏡の中の自分が言う。
「お前のせいで私はこちらへ閉じ込められた」
私と同じ顔をして、それは言う。
「私は『貴様』だとずっと言い聞かせられ、ずっと私は私ではない、『貴様』だった」
だがその表情は怒りと憎しみに満ち、言葉は呪詛のそれだった。
「ならば私は貴様になろう。貴様を消し去り、私は初めて『私』になろう」
にい、と、それが笑った。
「貴様は『私』になれ。鏡の向こうから夢物語を見ているだけの、哀れで惨めな『私』となるがいい」
///
――目が覚めて最初に、自分の腕は自分のものかどうかを確認した。
「……ふん、見慣れたこの手が、随分と懐かしく感じられる」
自分の体には何本もの管が刺さり、自分が治療を受けていたということに気付く。
少しばかりの痛みを気にせずに刺さった管を引き抜くと、機器がエラーを出した。
さてこれは、どういう状況だ?
扉の方へ目を向けると、口を開けた女がそこに立っていた。
「……こんなに早く、驚きました。意識が戻ったということは、やはりあなたは
無理にでも壇上に上がらなくてはならないようですね」
「……貴様……」
戸惑いと同時に意識を失う直前の光景がフラッシュバックし、現状を鮮明なものにさせる。
それにより、今の自分がどういった経緯でここにいるかが理解できた。
「……答えろ。『私』は、いったいどうなった?」
その問いに女はゆるく首を振り、あらかじめ用意していたのだろう答えを返す。
「あなたの思い描く、最悪のシナリオです。事態は急速に収束しつつあります」
舌打ちをすんでのところで飲み込む。
最悪……とは、そう言うのならば最悪なのだろう。
だがしかし、今ここで目を覚ました自分の悪運の強さは最悪とは言えない。
平穏を望むなら確かに最悪だがな――と、心の内で密かに笑う。
「この分ならフィナーレには間に合うでしょう。あなたには少しでも早く前線に戻って
いただくために、さっそく今からリハビリを――」
「ふん、そんなもの必要ない」
少しばかりの立ちくらみを覚えながら立ち上がると、壁に掛けてあった自分の上着を羽織る。
自分の腕の像が懐かしいなら、両の足で立つ感触にはむしろ感動すら覚えた。
入り口を塞ぐ女をどかしながら、しっかりと思い出すように足を動かす。
「……ちょっ……! あなた、自分の今の体の状態を理解していますか!?」
「当たり前だ、誰よりも理解している。……だが同時に、この状況に何もせずにはいられない
私自身の性分を、それよりも深く理解してしまっている」
これ以上、あれの好きにさせてたまるか。
それに、あいつにも馬鹿にされたままでは終われない。
「……悪いが、譲れないな……!」
不思議なことに、口元には笑みが浮かんでいた。
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